基本情報
[台帳番号] | 156 |
[作品名] | 羽ばたき |
[作 家] | 山内壮夫 |
[設置年] | 1971年 |
[設置場所] | 厚別小野幌53、 野幌森林公園、北海道開拓記念館正面前庭 |
[所有者] | 北海道野幌森林公園管理事務所 |
[材質・構造] | 本体材質 : ブロンズ 高250x横***x幅** (cm) 台座材質 : **** 高**x横**x幅** (cm) |
[写 真] | 1 仲野三郎(No587)、2 松原安男 |
[記 事] | 松原安男 |
以上、基本情報
[解 説] * 「羽ばたき」制作記 山内壮夫
開拓記念館の彫刻制作の依頼を受けた時,私は三っの形が浮んだ。隼・白鳥・鶴のみな北海道の鳥である。高き3m突の細い柱の上に付けるという条件から鳥が一番ふきわしいと考え,各々形体に特長のある3種の鳥のスケッチから仕事を始めた。このうち鶴は,ここ十数年来いろいろな形で制作しているので,思考の材料には困らなかったが,設置される「場所の役目を果せる形」が生れるまでは,いくつかの難関に出会い決して安産ではなかった。アイヌの民族舞踊に「鶴の舞」という素朴で美しい踊りがある。羽織の両裾を高くまくり上げ,翼を広げたような姿で,ホーホーと鳴声を相子に踊る単純なものだが,俗臭のない淡白な身振りと歌の清楚な美しさには,誰しも感銘しない者はない。私もその一人で,何んとかこの踊りの素朴な美しさを抽出して造型化したいと,色々追ってみたが,満足なものは未だ一つも出来ない始末である。そんなわけで鶴のデザインをデッサンする時は「鶴の舞」を制作した時の形の展開や構成がよい参考になりながら,どうもそれに引きづられて,鶴そのもの,姿との取組み合いが,素直にゆかず,仕切り直しばかり続いてしまった。鶴・白鳥・隼の3種のデザインをまとめて提出した結果、佐藤先生のご意見や町村知事のご希望で,鶴を制作することに決ったのが6月,すぐ現場の設置場所の条件て制作にとりかかった。記念館はご覧のように簡素で,量感にあふれながら,前面の柱の軽快なリズムが赤煉瓦の大きな壁面に清澄なニュアンスを与えている。正面玄関は,建物の中心から柱間一つ右寄りになっているので,玄関を挟む両側壁面は4対2の比率である。このアンバランスのバランスをもった建物を背景にした,左右均等の鶴の姿にも何か工夫を施きなければ,ムーヴマンのない固い置物になってしまう恐れを感じた。この微妙な感じは,模型では視野も視角も違うので,想像の視界でやらなければならない。
また作品それ自体の効果よりも,建築の全体的構想の効果に重心をおかれるもので,それだけ自由制作にはない苦しみもあるが別の妙味のあるもので,形は単純ながら意外に時間がかかってしまった。脚部も,もう少し細くなる筈だったが,ブロンズの肉厚と内部に支柱を入れるため,デザインよりは大分太めの脚にせぎるを得なくなった。表面の色は濃い暗緑色に仕上げ,彫刻の支柱や建築の柱と調和するように注意した。場所柄非常に目立つ位置である。もし派手な色で玄関前に立っているとしたら,この鶴だけが浮上って文字通り飛去ってしまうだろう。
門の柱のように立って,そこに在ることが気にならない存在,しかし無ければ何か不満を感ずるような存在,そんな役割の作品を制作の目標にした心算である。この鶴の付近で手を打つと,両壁にこだまして音の戯れに挨拶される仕組になっている。それは鶴の羽ばたきを思わせる音であり、北海道百年の開拓に羽ばたいた人たちの息吹きを偲ばせる設計者の密やかな贈物と思う。 佐藤先生はこの鶴の彫刻に「羽ばたき」という題名を付けて下さった。恐らく次の100年への羽ばたきを祈っての命題なのだろう。(新制作協会会員)
記念誌「北海道開拓記念館1971」から(株)建築画報社 発行