嫌い。
嫌い、大嫌い。
お前なんか、大嫌いだ。
ぱしん!
頬を張る掌の感触に眩暈がした。
目の前には幾つかの星が飛び、痺れるような痛みは頬を伝って全身を侵食していく。
嫌だ、と抗う事は、してはいけない。
何故なら、其れをすることは許されていないからだ。
「・・・・ぅ、あ・・・・・っ」
乱暴に仰向けにされ、圧し掛かる体重に息が詰まる。
繋がったままの後腔が捩れる様に刺激されて、声に為らない叫びが漏れるが
私に其れをさせる彼は気にも留めないのだろう。
恐ろしいくらい、低い無機質な声で私を嬲る。
「何か、言ったか?」
「な、なに…、も…」
目を細め、私の胸に乗るその男は、満足そうに頷くとおまけだ、と言って
もう片方の頬を叩いた。
「ひゃ、ぁ・・・・・、はっ・・・・」
浅ましい。
なんて、淫猥な、躰。
叩かれた頬は確かに痛みを感じているというのに。
其処から、全身を侵食していくのは、甘い痺れ。
否応無く、内奥を蠢かせては彼を締め付けてしまう。
「ふ、ん・・・。悦んでいるんだなぁ・・・?アリス」
「ああっ・・・・、ん・・・!」
腰を高く持ち上げられると限界まで拡げられた両足の間に
褐色の逞しい躰が割り込んで体重を掛ける。
「ヒぁ・・・っ!うぁ・・・・っ」
深い挿入に吐き気すら覚えるというのに、何で・・・。
有り得ない位に、奥を犯されて訳が分からない。
涙は勝手に流れるのだと、知った。
声までも、奪われるのだと、知った。
「お・・?なんだ、また、達ったのか?」
「ふ…、ぁ‥‥」
だらだらと先端からは白濁が流れ出てほとんど、逆さまにされた
自分の腹を伝って顔へ滴る。
其れを、無意識に舌で舐め取った。
青く、饐えた味と匂いにさえ‥。
「うぁっ…、ア、ぃ…あっ」
「ほらっ、もっと、感じろよ」
顔中を自らが放った粘着質の液体で汚して、尚
きっと私の表情はこの上なく恍惚としているのだろう。
見下ろす彼の表情は冷たくて、蔑んだ、それでいて興奮したものだから。
ふる、と震えて再び硬さを増した私を見て薄く笑う。
「…最低、だ、なぁ…?こんなにされて、ヨガリまくって?」
「ああぁ…、っ…」
彼の嘲笑に…。
勝手に私の掌は熱を持った自身を握り締めては扱いている。
なんて。
なんて、浅ましい。
「アリス……」
「あっ‥、あっ……、ヒぁ…、ん」
内臓を押し上げる位に押し込まれた肉塊を余す事無く飲み込んで啼く。
ずるり、と抜け出してしまう度にそうはさせまい、と締め付けて誘う。
脳まで、揺さぶられる様な彼の動きに、意識など、捨ててしまいたくなる。
「もっ、‥っとぉ……」
「っく…、この、‥淫乱、がっ…」
そうだ。
そうなんだ、きっと。
「ぉらっ…、残さ、ずに…、呑み込めっ‥、アリスっ」
「ふぁっ…、ヒぁ…、あっ‥」
一際、大きく抉られて穿たれて私は其の夜、何度目かわからない精を解き放った。
ぐちゃぐちゃに塗れた意識の中で、辛うじて眼の端に捉えた彼の瞳は…。
何でだか、とても、哀しく揺れていたように見えて、また、泣いた。
ああ、嫌い、だ。
愛おしかった筈の、彼に。
そんな辛い顔をさせてしまう、自分が。
何より、誰より。
大嫌いだ。
――black out
ぐったりと力なく四肢を投げ出したアリスの汚れた躰を
湿らせたタオルでそっと拭き取っていく。
冷たい感触に、起きてしまわないように、温めたもので。
張り付いた髪を拭い、浮き出た鎖骨を清める。
直に取り替えられるように、と予め引いて置いた厚手のタオルケットは
アリスの流した涙や精液でべとべとに濡れていた。
―――是は、二人分の涙、なのだ。
小さくため息を付くと、手にしたタオルケットを洗濯機へと放り込んでは忌々しげにスイッチを押した。
アリスは、病気だ。
其れを招いたのは、他でもない、火村自身だった。
だから、こそ。
火村はアリスを抱く。
精一杯の冷たさを以って、好まない、乱暴な手管を以って。
そうしなければ、アリスは満たされないから。
半年もの間、アリスは囚われていた。
火村が携わった事件の関係者の逆恨み、だった。
繰る日も繰る日も、其れこそ自我を失うほどの酷い性調教をされた地獄の様な生活に
其処から救い出された後も、アリスの心は回復することをしなかったのだ。
無意識のままで、其れを求める。
乱暴にされ、酷い扱いをされ、蹂躙される事を望むのだ。
きっと、火村で無くとも、いいのだろう。
躰に刻み込まれた感覚だけが、アリスを支配するから。
啼き叫んでは悦んで、腰を振って意識を飛ばす。
そうして、暫くは平穏な日々を過ごすのだ。
幾許かの、穏やかな日々の為に。
火村はアリスを抱く。
許しを請うように。
かつては友人だった、彼を抱くのだ。
恋心など、とうに、捨てた。
其処にあるのは唯、懺悔の念だけ。
先ほどまでの痴態を微塵も感じさせない、穏やかな顔。
全身を余す事無く清められたアリスはどこまでも、清らかだ。
―――堕としてしまった、守るべき存在を。
今はもう、あの夢を見ることは無い。
魘されて叫び起きてしまう夢より、現実の方が…。
ずっと、ずっと、怖しく哀しい。