12月ともなれば、街のあちらこちらに溢れるクリスマスのデコレートに街ゆく人達も心なしか華やいで見える。出版社主催のクリスマスパーティーに参加した帰り、珍しくスーツを着ているアリスとて子供の様に心が高鳴るからこの季節は不思議なものだと思う。
きっとキラキラしてるイルミネーションがいけないんやな…。
ふわふわとしたファーが飛び交う雑踏を抜けて一路夕陽丘を目指す。週末という事もあり駅前はいつもよりも人で溢れかえっていたが…傾いできた夕陽を眺めてアリスは心もち寂しさすら感じていた。
どうしてだろうか、…いつも一緒とは限らないのにたまにとてつもなく顔を見たくなる時があるのは。寂しいとか恋しいとか、そういった甘い感情でも無いが…ほんの少しだけ、傍に居ればいいのに、と。思えるときがある。慣れない東京へ出ていたからかもしれない、珍しくかちりとした服装を居ているからかもしれない。…いや、もしかしたら。
なんて事無い。…吹き付ける冬の風に、温もりを感じて居たいだけなのかもしれない。
でもなぁ…。
徐々に太陽が領域を明け渡し始めた空から視線を雑踏へと戻し、隙間を抜ける様にして歩を進めた。
ふう、と吐きだす息は…いつの間にか白く濁る様になっている。帰る家が無いわけではないのに、たまに其処にキミが居ない事が堪ら無く淋しいと感じる事があるんだ。
キミはどうか、知らないけれど。
人の気配が無い、家に。鍵を開けて入る、…帰る。
だからなんだ、というつまらない感傷では有るがほんの少しだけ、淋しい。勿論、師も走るくらいの忙しい時期だ。浮かれた雰囲気に犯罪だって多発するし大学においても仕事納めの駆け込みで忙しいのだろう。アリスがこうして出掛けている様に火村にだって付き合いは有る。だから、必然的に逢えない日が続く事が多いのだが…そうかといって逢いに行ける程、若くも無いと思う。…いや、きっと素直になるには一緒に居る期間が長すぎるのかもしれないが。
駅前を抜けると疎らになる人影に…より一層寒さが増した様で思わず腕を組んで自らの躰を抱え込むようにして縮こまってみる。
ひょう、と頬を切る風があまりに冷たくて。
やがて姿を現したマンションを無意識に見上げて部屋を探す…いや、探しているのは灯の光が点いている部屋か。部屋の住人がこうして下に居る以上、部屋に明りがともっている筈も無いのだが、何かに期待するように見上げてしまうのかもしれない。…いつだってそうだ。勝手に期待して…裏切られた様な気分にすらなるからやめよう、止めようと思っているのに、ここへ立つ度こうして見上げて仕舞う。無意識に、心が何かを求めているのかもしれない。
電気の消えた、部屋。
ソレを確認すると、1階で止まったままの昇降機へ滑り込み押し慣れたボタンを押す。そうして聞きなれたモーター音をBGMにしながら込み上げてきそうな寂寥感に打ちひしがれるのだ。
だって、仕方ない…やんか。
仕方ない、わかってはいるのだ。付き合い始めたばかりのティーンネージャーでもなければ、甘えが許される様な関係でも無い。ただの友達から寄り添える大切な人へとなった事すら奇跡に近いのだ。これ以上、…何を求めているのだろう。それは…。
欲張りってやつやしな…。
ポン、と軽い音と共に箱は7階へと到着し、深く息を吐いたアリスを吐きだす。ポケットにはいくつかの鍵が擦り切れる様な音を立て、それを指で探りながら長い廊下を歩く…その先に。
「…え?」
廊下に面した窓から洩れる、微かな光。もしかしたら電気を消し忘れて来たんだろうか、と思ってはみるがその考えはすぐに却下した。だって、出る前に何度も確認したじゃないか。確かに消えていた筈だ。…では、何故?
恐る恐る掌にキーを握り締めて差し込むと、スムーズに隙間を埋めた金属の先端がきっちりと埋め込まれ…慣れた動作で回したソレに…驚いた。
鍵、…開いとる!
「…アリス?」
え?
施錠されていない事に驚いて固まったままの私に、部屋の内側から声が掛けられて更に驚いた。その聴きなれた耳馴染みの良い声は…。
「…ひむら?」
鍵を抜き去った私の前でドアが開いて行くのが、まるでスローモーションのように感じるくらい、思考も言動も凝り固まったままでいた。だって、…ここに火村が居る訳も、その意味も、何故今日このタイミングなのも。全ての事があまりに用意された事の様で…信じ、られなかったんだ。
呆然と立ち尽くす私にドアを開いた火村が身をほんの少し、ずらして私を招き入れる。
「ああ、おかえり、アリス」
「…ただいま」
にやり、と笑うその表情は紛れも無く彼のモノで。色の濃いシャツにタイをしてジャケットも羽織ったまま。その向こう側に、温かいリビングからの光りが…漏れている。
「寒かっただろ?勝手に暖房入れといたから、そろそろあったまってる頃だろ」
掛けられた言葉に惰性で応えてから促されるままにリビングへと移動する。手に持っていた荷物はいつの間にか火村の手の中だ。明るい光に包まれたリビングは彼の言うとおり、温かい空気が満ちて居て開いていた筈のカーテンは凍える様な冬の夜空を隔離していた。
まだ、ぼうっとしているんだろう。荷物を置いてジャケットを脱ぐ火村をじっと眺めて当たり前の疑問が口から自然と零れ堕ちていた。
「なぁ…なんで、居るん?」
何で居る?は無かったかな、と言ってから思ったがすでに言葉にしてしまっていたので、当然の様に驚いた様に振りかえった火村を見て…胸の奥がほっこりとした。
笑っている、からだ。
決して満面の笑みでは無いけれど、片眉は上がってさえ居るけれど…でも、細めた瞳の奥から洩れる様な温かい笑顔に。なんだかむずむず…して取り繕う様にジャケットを脱いでソファへと下ろすが、その距離も、手を伸ばせば届きそうな位に近くて。自分の部屋だというのに所在無げにしている私を見てか呆れた様な火村の声が未だ実感の薄いところで聴こえる。
「なんでって…アリス。禿げたおっさんに囲まれて青く臭いガキのお守ばかりしてきた俺に休息を与えてくれてもイイだろ?」
「…は?って、なに…?」
タイに指を掛けてだらしなく緩めていた火村の腕が急に伸びて来て肩に回された…と思った時には目元に温かい火村の口唇を感じたと思えばあっという間に胸の中へと収まってしまう。
なに…?なんで?
突然の行動に、やっぱりついていけて無い私を置いてけぼりにした火村は、タイを緩めていた腕さえ腰に回して耳元へ囁いてくる。
「…逢いたくなったから、逢いに来た。アリスが足りない」
「なっ、なにいうてるん…」
ああ、何を言っているんだろう。まるで付き合い始めたティーンネージャーよりも甘くて蕩けそうな戯言を…どうして照れもせず言ってのけるんだろう。
私が…言いたくても言えなかった事を。
どうして…。
包まれた腕から徐々に体温が伝わってくる、それが堪らなく温かくて冷えていた躰にじんわりと甘い痺れが伝わっていくのを瞳を閉じて味わう。
どうして、キミはいつも私の欲しいモノを与えるのだろう。
それは、決して目に見えるモノでは無いし、祝福されるべきものでもない。
でも、こうして感じて居たいと思う気持ちを…知っているかのように当然に振舞う仕草にどれだけ救われているのか知っているのだろうか。
…キミは、私が居る事で救われるのだと言ってくれるけれど。
本当は、私だってキミが居るからこうして生きて居られる事を…いつか。
いつか伝えられるだろうか。
「…あったかいなぁ、火村」
「ん?ああ、温もりを分け合っているからな。俺も暖かいよ、アリス」
穏やかな微笑みをくれるキミに。
最高の有難うを―――。

himittoのゆうひ様に捧げた、5周年おめでとうございますssでした!甘いヒムアリに乾杯☆ってことで暴走の結果、どこまでもラぶなヒムアリをどうぞ…!若干いうには多分に痛い火村さんですがクリスマス間近ってことで勘弁してやって下さいまし(/дヽ)くっとタイに指を掛けている火村さんのセクシャルさにメロメロで改めて愛を実感した次第です…☆ Author by emi