積もった雪とキミの背中




積もった雪と…吹く風と。

ほんの僅かなアクシデントが奪った命の灯に…私たちがしてやれる事は、果たしてどのくらいあるのだろうか。そして、ソレを背負う者達へ、何をしてやれるのだろうか。

…いや、何も。出来ないのかもしれないけれど。


想い出に…囚われたままで。
夢にすら、…絡みとられたままで。

それでも…必死に抗っている、キミにすら…。




だから…私は、雪に―――。




「寒かったろうなぁ…、可哀想にな。きっと…母親を呼び続けていたんやろうな」

思わず、零れ堕ちた言葉にはっとした。無言のままただ、佇んでいる火村が…まるで仄暗い焔を灯した様な瞳を彼方へと向けていたから…。それは、まるで。見えない筈の何かまで、見つめているようで…風に晒されてた横顔が、何かに堪えている様に歪んでいる様に見えたから。

吹き付ける風に…消えていってしまう、そんな風に思えた。

「…火村?」

私の呼びかけに辛うじて瞳の色を戻した火村は、咥えたままの煙草に火を、灯す―ソレは…温かみのある、色をしていてほんの少しだけ瞳に温かさを灯す。その灯が風に消えて仕舞わぬように掌で覆う仕草が、他の何かを護っている様に見えて切なくなる。

キミは、何を…求めているんだろうか。
いつだって冷たい位の視線で以て、向こう側へ逝ってしまった者達を叩き落とす代わりに、いったい何を…護りたいのだろう。其処から逃げ出す事もせずに、ただ、こうして佇んだままで。

「…ふん、子供を、思わない親なんて居ないか?親を顧みない子供だって居るぜ?」

声は、風に掠れて表情まで写取らなかったが、それでも、哀しい位に冷えた声色がなにより彼の気持ちを写取っているようだった。言葉とは裏腹に、愁傷にさえ聴こえる声色で囁く火村に何も言えなかった。

何かを、言える筈も…なかった。


「…子供を、想わない親だって居るさ」

むき出しの掌が、そっとコートの端で拭われていく仕草に…見える背中が、泣いているようにさえ見えて益々哀しくなる。

キミが抱える闇が、何であるのか、私は知らない。ずっと其処に囚われたままで…キミは何と闘っているのだろう。目の前にある、犯罪という漠然としたモノを叩き落とすことで保っている自我は…何処へ向かっているのだろうか。

私は其処へ踏み込む事が…如何しても、出来ない。
出来ないけれど…何も出来ない自分が、歯痒くて居た堪れない哀しみを感じるんだ。


さくさく、と。

降り積もった雪の上では、歩く音さえ何と儚いのだろう。


その先にある、まるで溶け込んでしまいそうな…火村の背中に、深く抉った様な傷が浮かんでいる様に見えて唇を噛み締めた。

背負っているモノが、どんな傷かもわからないのに、ソレが深くて痛くて…辛いモノなのだと向けた背中が零していた。…酷く傷ついた哀しい背中。

私には、…何も出来ないかも知れない。けれど――――。

「…ひむら」

剥き出しになった背中の傷を、覆う様に…隠す様に、頬を寄せて腕を回す。

傷を癒す事は出来ないかもしれない…けれど、せめてこれ以上、辛くない様に痛みを感じて仕舞わない様に、…開いた隙間を埋める様に。寄り添って居よう。


冷えた背中を、包んで温めてあげるから…。

キミの哀しみも痛みも、全てを消してあげる事は出来ないけれど…少しでも和らぐようにその傷を覆ってしまうから。

「…雪に」

開いた足跡に降り積もって…痕を消してしまえればいい。

だから、どうか―――。



というわけで、強奪いたしました素晴らしい絵にとんでもない駄文を付けてしまうという暴挙に出て仕舞いました…ナナメ様!すいませんっ!シリアスな二人、何を思うのかという究極とも言えるテーマに添って切ないアリスの胸の内を描いてみましたが…最後にアリスの願いが心の耳へ届いておりましたら嬉しいです。どこまでも愛されている火村さんが羨ましいですね。 Author by emi