「あ・・・・・」
またしても。見つけたのは締め切り空けの気だるい午後。
少し、ずれた生活のリズムを戻すため、今日はまだ眠らない。
せめて、日が落ちるまでは、と意識を引き起こすためにシャワーを浴びた。
日が落ちれば、火村が来る。
それまで、なんとかがんばろう、と。
少し伸びた長い髪をタオルでがしがしと拭きながら覗き込んだ鏡の中に
紅いあるものを見つけた。
其れを見つけるたびに思う。・・・・本当に嫌になる、と。
今日は、此処ね・・・。そっと周囲を撫ぜて出来具合を確認する。
紅く存在をアピールする其れは、ともすると痛みさえ伴ってアリスの憂鬱を助長するのだ。
今回のものはたいしたヤツではないらしく、周りを撫ぜても恐る恐る上から触っても、痛くない。
よかった、まだ、ええほうや・・・・。
朝、顔を洗ったときには気がつかなかったのに、一旦気がついてしまうと気になって仕方がない。
・・・それに、きっと目ざとい火村はまっ先に気が付く。
気がついて、また、・・・・なんやかんやと言われるのだろう。
わかってるんやけどね・・・。
そうも行かないことって、あるでしょ。
思うだけ、言葉にしては言わないけれど。
すり、と再度撫ぜた。その膨らみを確認するように。
やっぱり、大きくなってるのかもしれない。
洗面台の引き出しを探っていつか買い置きしておいた薬を出すと上から塗布した。
顎の下、完全なる、――ニキビ。
鬱陶しい事、この上ない。
「おかえり〜、火村!」
「ああ、ただいま。・・・今日も暑かったな、アリス・・・?」
なに?
靴を脱いで上がった玄関、じっと人の顔、見つめて。
締め切りで会えなかった分、久しぶりの恋人の顔に見惚れちゃった?
・・・なんて、軽口は言いません。
「・・・ああ、アリス。また?」
「目ざとい、火村」
はぁ?と言いつつも苦笑してタイを抜き去る仕草は男らしくて大好きだ。
こう、ちょっと首を横へ向けて人差し指を結び目に突っ込んで、ぐっと一気に引き抜く。
なんで、こう決まっているのかな?
「・・・目ざといって、お前・・・、それ、目立ちすぎだろ。薬、塗ったか?」
「塗った・・・」
ふん、オレやってちゃんと学習するんや。
そうか、と言ってどかりと腰を下ろす火村がちょいちょいと手招きをするので
仕方なく、傍に寄ってやる。・・・仕方なく!オレは犬じゃないって。
まるで、いい子いい子するような掌の動きに文句を言ってやろうかと思ったけど・・・。
口をついて出るのは違う言葉ばかりだ。
おかしいな。
「そういえばさぁ・・・、想い想われ、振り振られ、っての、あったよな?」
「さぁ、知らない。なんだ、そりゃ、アリス・・・?」
いつの間にかオレってば火村の膝の上だし。
ほんと、おかしいよ。
どうかしてる。・・・嬉しいんだから。
「ほら、ニキビ。知らん?ニキビの出来た場所によって恋占いが出来るってヤツ」
「知らねぇな、そんな話は・・・。大阪限定か?」
そう言って火村はオレの髪に顔を埋めるようにしてくっついてくる。
よかった、さっきシャワー使っておいて。
暫く会えない日が続いた後の火村は決まってこの仕草をする。
・・・ほんと、犬じゃないってのに。
でも。それ、嫌いじゃない。
「なんじゃ、限定って。全国区やろ?・・・占いやからなぁ、知らんのも無理ないか・・・」
「まぁ、そうかもな。で?何処が何?」
満足そうに髪を弄った後は、そのまま首筋へ張り付いて掌が背中を撫ぜる。
向かい合って抱き合って、耳元で会話するんだぜ?
・・・おかしいよな?
えっと、どれくらい経つ?
オレと火村、いっしょに居るようになって・・・。
10年?超えたあたりから年数って関係ないんだってことがわかったよ。
少なくとも、二人の間にはあまり意味は無いのかもね。
「ん〜と、でこ、あご、右頬、左頬。で、想い、想われ、振り、振られ。やったと思う」
「へぇ・・・・、じゃ、コレ。想われってヤツか?」
ぐぐっと反らした顔を合わせるとそっと優しく火村の指が顎に出来た紅い印を撫ぜた。
そんな壊れ物扱うみたいに触らんでも、痛くないのに・・・。
まあ、いつだって火村の指は優しくオレに触れるから特別ってことはないんだろうけど。
あれ、これって限りなく・・・・、惚気?
「想われて幸せっすね、オレ」
「アリス、軽いな、それじゃ・・・・」
がくり、と大げさに肩を落としてみせる火村を慰める振りをしてみた。
よしよし、いい子。
いつも火村がしてくれるみたいに。頭を撫ぜて髪を梳いて・・・・って。
・・・何?その目・・・。
「・・・アリス、何故逃げる?」
「い、いやぁ・・・、それ、ねえ?なんか、あたってるんですケド」
引けた腰にあたるモノが怖いよ。ついでにその目が怖い。
だって、火村、キミはかなりマジだろう?
時々、それがほんとに怖いよ。
だって、それに慣れてしまったら?
オレ、どうすればいいのか、わからないもの。
でも、火村。
見つけた、俺も。
キミの隠された額に見える消えかけた痕。
それ、想い、にきび?
だったら。それもいいのかもしれないって思う。
想い、想われ。
その先は今のところ、見えないし?
この先も、きっと見えないから。
だから、その本気。
有難く頂戴いたします。
Author by emi