こんな事は、なんでも無い。
ただ、快楽に溺れているだけ。
欲に塗れ、身体を繋いでいるに過ぎない。
それなのに、何故?
受け入れているのはお前の方なのに。
何故?
痛みを与えているのは俺の方なのに。
何故。
こんなにも痛くて苦しいのだろう。
白く細い躰を抉じ開けて欲望の赴くままに乱暴に欲する。
そうしていないと彼方へと心が飛んでいってしまいそうだから。
箍が外れてしまいそうな俺を見て見ぬ振りをしたくせに
確かな意図を持ってお前の指は錠を外した。
与えられるのは痛みだけだと知っているのに、嬉しそうに笑って受け入れる。
何時だって、何処だっていい。
受け入れて悦んで、痛みさえ快感に変えて俺を包む。
組み敷いたお前が織り成す繭に囚われて逃げ出せない。
見つめる闇がオレを誘うたび、何時だって其処にはアリス、お前が居たんだ。
「っは・・・・・、あ、・・・・ひむ、ら・・・・・」
そんな、蕩けたような顔でオレを呼ぶな。
「・・・・すき、ぁ、す・・・き、ひむら・・・・・・」
ただ、欲に身を任せているに過ぎないのに。
「・・・アリス」
こんなにも、苦しいのは。
曇りない真っ直ぐな瞳に闇が写る。
それでも、オレはお前を離してやれない。
「あああ、っイ、・・・・・っく!」
指に力を入れる代わりに口付けをした。
細い首。
掴んだらきっと簡単に壊れてしまう位儚い。
攫んで壊してしまう代わりにしっとりと
柔らかい髪が汗を吸って張り付いているのを舐める。
舌に感じる確かな生を。
オレの闇を知らない筈は無い。
それでも、アリス。
何故、お前はこんなにも優しく微笑む?
「・・・・ひむら・・・・」
此の儘では、勘違いしてしまう。
アリス。
其れが確かに在るのだと。
アリス。
錯覚してしまうだろ?
お前を信じてもいいのか、と。
とっくに諦めていた、大切なものを。
お前は知っているのかと。
整った顔を疲れたように曇らせて、それでも穏やかな寝息をたて眠る。
そっと頬に触れ、白髪交じりの硬い髪に触れる。
いつからだろう、髪に白髪が混じり始めたのは。
出逢った頃はもっと黒黒としていたはずだ。
頬も扱けた。
あの頃とは何もかもが違う。
諦めたように何時だって哀しそうに見つめる。
君は気がついているだろうか。
なんて哀しい色を湛えてオレを見るんだ?
其の侭涙するのではないかと思うくらいに哀しそうに。
火村、諦めていると言っていた君は。
諦めるということは、期待しているということに他ならないことを。
知っているのだろうか。
その心に渦巻く暗い闇を持て余して私を抱く君が。
どんなに辛そうかを。
どんなに苦しそうかを。
知っている?
火村、君が何を思うのか知らない。
何を恐れ悲鳴を上げるのか知らない。
それでも、君の持つ確かな熱と哀しいくらいに向けられる声を
私は知っているよ。
だから、火村。
諦めて、信じて欲しい。
何時だって、何処でだって君を想うから。
決して失わない何かがあるのだと。
「・・・・・ひむら」
そんな事は、なんでも無い。
ただ、只管に君を求める。
ただ、只管に君が求める。
それだけの事なのだから。
Author by emi