声が私を弱くする


なんてこった。
ここまできたら、重症だ。

治る見込みなんて、到底無い。
有栖川有栖、一生の不覚。


こんなに苦しい夜を過ごす羽目になろうとは。
たかが、キミに逢えないくらいで・・・。


そもそも火村が煙草を忘れて行くのがいけない。
封の開いた煙草なんてあっという間に湿気てしまうだろう。仕方がないから、吸ってやったというのに。

キャメルの匂いに包まれたものだから、調子が狂ったんだ。

まるで、火村に抱きしめられた時の様に香るから。

なんてヤツだ。そんな時に限ってタイミングよく電話してくるなんて。

用もないのに電話なんてするな。

声が聞きたい?


どんな顔をしてのたまっとんねん。
ああ、しかもオレ!・・・オレも。なんて腐っとる。


おかげで、もんもんとして眠れない。


ハンガーに架かったままの白いシャツ。
夕陽丘に泊まった次の日、着替え用に置いてある彼のシャツ。

よせ、有栖。それは、ヤバイ。
ああ、手にとって匂いを嗅ぐなって。
洗濯をしてあるというのに、かすかに火村のにおいがしたような気になる。

不思議と、落ち着く。


どうやら、オレは重症らしい。

ほら、安心したのか眠気がやってくる。
コツコツと靴音を立てながら、カシャンと開錠音をさせて。




カシャン?


ゆっくりと寝室のドアが開かれ、そこには愛しい恋人の姿が見えた。


幻覚か?
いよいよ、まずい。

「・・・アリス?」

あ、幻聴まで。どうしよう。
「なんだ、そんなものを抱きしめて」
「・・・ひむら?」

「ああ、そんなに寂しかったのか?」

爽やか、とはいかないものの優しく目を細めて見つめてくるのは、紛れも無く火村で。
ジャケットを脱ぎつつベッドサイドに腰を掛け、抱きしめたシャツを抜き去っていくのも。

あ?シャツを・・・。



覚醒した。なんという場面を見られたのだろうか。

薄暗い寝室でも私の顔が真っ赤に染まっていくのは、わかってしまったのであろう。
たちの悪い微笑を浮かべながら、火村は耳元に顔を寄せて囁く。


「本物のほうがイイよな?アリス」




ああ、もちろん。
シャツなんかよりもキミのぬくもりがいいよ。

きっとオレは不治の病。
触れられるだけで、心が破裂してしまいそうなのだから。


きっと、ずっと。
キミに恋してる。

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Author by emi