偶々が多すぎる

「なぁ…、火村。一緒に居る様になって…どのくらいやったっけ?」
「なんだ、藪から棒に。どうした、アリス?」

何もする事がなく、かといって何かする気も起きない昼下がり。
寝転んで空を見上げていたオレとソファに埋まって雑誌を開いていた火村は 互いに構うでもなく気が向くままに過ごしていた。


空は蒼くて白い雲が風に戦いでいる。


「いや…なんとなく」
「ふん、………どのくらい、だったかな」


私が声を掛けた事で集中力が途切れたのだろう、手にしていた雑誌を閉じると 無造作に置かれたラクダへと長い指先が伸ばされていく。

「…声、掛けたんが始まりやったっけ」
「そうだな」

シパっという独特の音を響かせて先端を見つめる伏せた目元が堪らないのだそう だ。これはアリスの見解では無い、いつか見ていた朝の情報番組で流れていたも のだが…世の女性はなかなかに男性を見る目が有るのかもしれないと思った。


伏せた目元、通った鼻梁。

「キミが勝手に原稿を読んだんやろ?」
「…そうだったかな。まぁ、偶然だろ」

ふう、と深い吸い込みから紫煙が立ち上っていく様を見るともなしに追う。

「でも、俺、結構奥の席に座ってたはずやで?わざわざ人気の無いあたりを狙っ て座ったんやもん。…よく隣に座ってたよな?」


じっと窓の外へ視線を向ける火村の表情は寝転んだアリスの位置からは伺い見る 事が出来ない。見えるのは、ピアノでも弾いたらさぞかし美しいであろう指先が 鍵盤の代りに煙草をはさんでいる見慣れた光景だけだ。



「さぁ…、覚えてねぇな。偶然そこが空いてたからだろ、きっと」

声色はあくまでも平静。

「しかも…、違う学部の授業やったのに、何で居たん?」

下から見える、男らしく突き出た喉元が…ゆっくりと動く。ごくり、と音が聴こ えて来るかのような動きに、彼の動揺が見える気がしてアリスは手を付き寝てい た上半身を起こして視線を探した。

「…火村?」

やがて、諦めた様に振りむいた彼の瞳に。

確かに見た、気がしたんだ。

「偶々、だろ」

滲んでいた、ばつの悪そうな表情を確認して…アリスは心から温かい気持ちにな る。

だって…そうだろう?



『偶々が多すぎる』


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20年目になんとなく20のお題より

Author by emi