鏡の中の現実




あなたが、好きです。

ただ一言。
哀しそうに微笑む人に想いを告げた。

そうすることで、少しでもその人が救われればいいのに。
少なくとも、此処に独りは貴方を思っている人間が居るのだ、と伝えたくて。


それなのに。
貴方はただ、少し哀しそうに微笑んで言った。


有難う、ごめんな?


お願いだ、お願いだから。
どうか、そんなに儚い笑顔で哀しそうに笑わないで。


闇を孕んだ声に掴まれて貴方はいつだって僕の前から消えていく。

いつか、救われるのだろうか。

其れを、願って止まない。




人を殺す、夢を見た。

掌に滴る濃紅の液体が、まだ温かくて吐き気がする。

その体温が、拭っても拭っても拭いきれない。


とてつもなく、忌わしい感覚。

それなのに。

確かに命の灯を消したことに、ひどく安堵した。


ああ、これで解放される・・・。


いつの間にか、貴方の姿が見える。
動かなくなったソレに縋り、哀しそうに叫びながら泣いている。

泣いている・・・?

どうして?

貴方を捕らえていた闇は、この手で祓ったのに。
それなのに、どうして未だそんなに哀しそうな顔をしているんですか。

虚ろな瞳で僕を見ると、埋まったままの柄を掴み振り下ろす。



走る、衝撃が。辛い。

深く吸い込まれるようにして刺さったのは、綺麗な貴方の胸で。

驚くほどの力でもって其れを引き抜くと、カランと乾いた音がした。
鮮やかに迸る鮮血と共に無機質な、嫌な音が。


ゆっくりと折り重なるようにして二人は遂げる。
手を、握り締めたまま。


その手を、掴みたかったわけではない。
ただ、笑っていて欲しかっただけなのに。

僕の掌は闇に支配されている。

紅く染まって、温もりを奪っただけ。





あまりにリアルな感覚に悲鳴すらあげられなかった。



夢、夢、夢。

どうしたんや?


心配そうに覗き込んでくるのは先輩で、その向こう側に・・・。


柔らかく笑う貴方が居た。


その笑顔は、真っ直ぐに隣に立つ白い男へと向けられていて。
同じような穏やかな笑みを貴方へと向けていた。


ああ、夢だ。

好きだ、と貴方に告げたのも。
貴方から全てを奪ってしまったのも。

哀しそうに微笑むのは、自分。
貴方から、奪ってしまわなくてよかった。

ただ、貴方の幸せを願う。

森下くん→アリスという・・・。

Author by emi