Live!

「君は男、やんな?火村!」

俺のアリスがおかしい。
いや、おかしいのは、前からだが…、もとい。

オレノアリス…?


それは言いすぎだな、俺の友人、のアリスが。


―おかしいのは、俺の方か。



「今更、何の確認か知らんが、俺が男でないのならお前はなんだよ、アリス」


興奮した様な面持ちで、拳を握り締め瞳を輝かせる様は…まるで少年の様にも見え、同年代の男子学生には程遠い。頬は血色良く紅く染まり唇は熟れた果実のように紅く、握りしめた拳など、その手首の細さを強調するだけのアイテムに過ぎないのだから…。見つめる瞳は、ばさばさのまつ毛に縁取られた濡れた黒目がちの大きな瞳で、見透かすような茶。

これを男と言うなら、他の誰だって立派な男性だ。

「ええから、男やろ?」
「…まあ、男、だろうな」


うきうきとした声色で嬉しそうに話をする姿に、周りに居た学生たちが何事かと興味を含めた視線を送り始めたので、そっと背に手を回しアリスを先導しつつ場所を移動した。嬉々と話しをするはしゃいだ様子のアリスの爛漫さといったら半端ではない、心から引寄せられる不思議な魅力を持っているからだ。うっかり他人の目に触れさせて余計な心配をしたくは無い。出来るだけ他人眼に触れないようにさり気なく誘導して校舎の陰となったベンチへと腰を下ろすと、そんな火村の足労など気がつく様子もなく、アリスは瞳を輝かせて言葉を続ける。

「男なら、ロックや!」
「はぁ?」
「というわけで、ライブ。行こうや、火村!」


きらきら、と音さえ聞こえてきそうな満面の笑みに、思わず顔がにやけてしまいそうになりながらも聞き返すと、アリスは聞いているのか居ないのか、何やら手元をごそごそと動かしている。


「ちょ、ちょっと待て!アリス、端的すぎて意味がわからねぇ。ライブ?」
「ん、そうや〜!ちょぉ待ってな…。今…」

耳にイヤホンを挿して小さな機器を懸命に指で操作し、やがてお目当ての曲を見つけたらしいアリスが、自分の片耳に嵌めていたイヤホンをすっと差し出して、にこにこと笑っている。

…これを、挿せというのか?

小さな白い塊はコードに繋がれてアリスから続いている。未だ温もりの残るソレを指先で受け取ると耳に当てた。アリスの両耳の幅に合わせたイヤホンは隣に居るとはいえ、かなり顔を近づけないと届かない長さで、頬が触れる程近い距離に存外どきり、とした。
体温さえ感じる距離。

いつも酔ったアリスが抱きついてくるのとはまた、違った自ら距離を縮めていく接近に暫くは音楽どころでは無く、手元を操作しているアリスの白く細い指ばかりをじっと眺めていた。

『If today was your last day…』

そっと身を寄せ合う様にして同じ曲を聴く。アリスの言うようにロックな曲は、ややしゃがれた様な、それなのに不思議と艶のあるヴォーカルでアップテンポな曲だ。

もし、今日が貴方の最後の日であったなら…、歌詞すら今の状況を煽っているようで。

ふ、と触れる頬の柔らかさに目眩すらしそうだ。今日が俺の最後の日であるなら、迷わずに其の頬に触れ、華奢な肩を抱いてやるのに。その紅い口唇にさえ、迷わず触れるのに。思わず、ぐっと手を握り締めていたらしく、見咎めた細いアリスの指がとんとん、と握りこぶしを触っていた。邪な思惑を見透かされたようなタイミングの良さに驚いた。


驚いて、横を向こうとして―。

触れそうな、口唇に―。



「…っと」

反射的に身を引いて、その拍子にイヤホンが耳から抜け落ちた。

「…、なんやぁ火村。イイ曲過ぎてヤバかった?」
「あ、いや…。まぁ、そうだな」

やばかった、のは確かだ。

少しだけほほ笑んだアリスの表情に何だか得体のしれない感覚を覚えつつも、なんとか体裁を保とうと密かに深呼吸をする。握りしめていた拳は痺れて指の感覚が薄く、アリスから見えない様に握りなおすと掌の内側に感じる湿気が何よりの動揺を物語っていた。…バレていなければ、いい。

もっとも、アリスもまさか同性である俺に邪な想いで見られている事など思いつきもしないだろうから、ばれるもなにも、無いであろうが。


「ふ〜ん…。で、な。このバンドが今度初来日するから聴きにいかへん?」
「ああ…、わかった。行こうか」


正直、ついさっきまで聴いていた曲のほとんどが頭の中から抜け落ちていたが、構わなかった。アリスが行きたいというのであれば、それだけでいい。アリスの事だから、俺が行かないと言えば他の誰かを誘うだろう。そんな事は断じて許せそうにないからな。

「ほんま?ええの?来月の末、金曜なんやけど…。ちょっと遠いねん」
「どうせ始まるのは夜だろ?遠くても学校が終わってから向かって間に合うだろ。金曜は4限までだから、4時には終わるし…」

「…う〜ん。ちょい、間に合わんかも…。あのな、火村。始まんのが7時からで、スタンドなんねん、ライブ。そんで、スタジオには早めに入っときたいやろ?そうすると、4時に学校出るんじゃ間に合わん。スタジオコーストだから、東京なんや」
「は?大阪とかじゃなくて、東京?スタジオコーストって、新木場かっ?」


驚いた拍子に上がりっぱなしだった心拍数も幾らか冷静に近いところまで戻ってきた。その頭で時間の計算をする。新木場に7時、もしくは遅くても6時、ということは―。


「…昼にはこっちを出ないと間に合わねぇな」
「やろ?…あの、もし、無理やったらええねんで?火村、金曜は必須、はいっとるし」


先ほどまでのはしゃぎっぷりからは一転、叱られた子犬の様なアリスのしょげた様子にため息をつきたくなった。

それは、あれか。
意識してやってるのか、アリス。

…それなら、未だ救いようがあるが、喜怒哀楽をそれはもう、盛大に表すアリスの事だ。意識などしていないのだろう。無意識だからこそ。心から、の意思が見えて好ましいのだ。その意気消沈したアリスを喜ばせたい、あの、笑顔にしたい。そう思ってしまうから、ため息だって出る。

恋人に貢ぐとか、尽くすといった話を聞いてもバカバカしいとしか思えなかったが、おそらくはこういった気持に所以するのだろう、と思う。

もっとも、アリスは恋人でもないし、異性ですら無いのだが。


「…火村?」

黙ったままの俺に益々心配になったのだろうアリスが、瞳を覗きこむようにして首を傾げてくる。心もち、俺よりも低いアリスの視線はちょうど下からのぞきこむ姿勢によって上目使いになって、ぐらぐらと意思を揺さぶる。
p…わかったから、その目は止めてくれ。


―抑えている欲求が、暴走しちまう。

「わかった。アリス、東京まで付き合おう。その代わり、チケットはお前が手配してくれるんだろ?申し込みはネットで出来ても受取は自宅でサインしなきゃいけねぇからな、俺はバイトで部屋に居ない事が多い」
「…え?」


苦悩している間の表情が険しかったか?まさか、といった様子で瞠目するアリスに出来るだけ優しい微笑みを向けて再度、うなずいた。

「だから、一緒に行く、って言ったんだ。アリス、いいんだろ?」
「も、もちろんやっ!火村、ほんま?ええの?めっちゃ、嬉しい!!」


沈んでいたアリスの表情はあっという間に晴れやかに変わる。まるで、花が開いていくのを目の当たりにしている様な変化に、思わず目を細めた。眩しいくらいの、笑み。

ああ、その笑顔を見たかった。


「っ!」
「火村〜!ありがとな!」


細くなった視界にアリスが目いっぱい溢れて、溢れたかと思うと覆いかぶさる様な体温によろめきながらも倒れないように腕を伸ばして抱き留めた。
喜ぶあまり、アリスが抱きついてきたからだ。瞬く間に思考が停止をして、それでも無意識に背中に手をまわしてしっかりとアリスを抱きしめていた。


その、抱きつく癖はやめろ。
俺の、自制心が持たねぇから…。

お前の、貞操が、危ねぇから!


心の声など、届く筈もなく。
目のやり場に困り見上げた空は、茜色。
高く薄い秋の空に、火村の心まで湧き立つようだった―。




沸いているのは私の頭〜☆聊か遊び過ぎな最近、ライブは行きますよ!チャドの素敵な歌声に酔いしれてきます!スタンディングなんて久ブリ。つぶされない様にせいぜい気張ります。っつか、其の前の週はバレエなんですけど、天下のキエフ。チャイコフスキーですよん!バッハ祭以来の国際Fで。さすがにバレエに男二人で行かせるのはいかがなものかと思い、止めました。それに東京に出バリ過ぎね、ウチのヒムアリは。だって、関西方面わからんのですよ。仕方なし(涙)誰か大阪方面の情報下さい!というか、愛を下さい←きも。という私の祈りは優しい方へと届きました。大阪、冬のおはなし、無事完成。クリスマスver!

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Author by emi