言葉よりも、時に雄弁に




あ、また。

こんなことって本当にあるんや。

最近は…割とよくある。

なんだか不思議な、くすぐったい感じ。


こうゆうんも、ええなぁ。


素直にそう思えた。



いつもと変わらない風景。
ソファで寛いで本を読んでいる火村。

キリのいいところで息抜きに、とアリスはコーヒーをセットしにキッチンへ向かった。いつもは、だいたい火村が淹れてくれるが、たまにはこんなこともある。豆をセットしてスイッチをONにすると、自然と指先に目が行き普段気がつかない事にも気が付いたりするものだ。

あ、爪・・・・伸びてる。

なんだかいつの間にか伸びていて、朝、火村の背中に傷を見つけたりするのだ。

あとで、あとで、と思っているから忘れるんだよな。コーヒーが出来るまでに切ってしまおう。


あれ?爪きり・・・・どこやった?

自分の家なのに、もうすかっり火村メイドにカスタマイズされている。

爪きりひとつ、居場所がわからないなんて。
でも、火村は熟読中のようだし。家主が爪きりの場所を尋ねるのも、気が引けるし、当たりをつけて探してみるか・・・。


なんて事を考えながらキッチンからリビングへと足を向けると、それまで分厚い専門書に没頭していたはずの火村が顔も上げずに何か呟いた。


「・・・・・・・」
「は?」

下を向いたままじゃ、何をいうてるのかわからん。
独り言か?


「電話のサイドボード、2段目の引き出し」

なんか、けったいな独り言だな。


あ?引き出し?・・・の、中ってこと?
まさかと思いつつもサイドボードの2段目の引き出しを開けてみる。

「・・・・・あった」

きちんと整理された引き出しの中に、果たして爪切りはあった。
いつの間にか仕切りでわかりやすくまとめられた引き出しに。
本当にアリスの気がつかないうちに細部にわたって管理されているようだ。


キッチン然り。リビング然り。

まあ、ここに引っ越してきた時にはすでに火村に頼りっぱなしだったので、当然といえば当然か。
もちろん、アリスには越してきてから自分で片付けた記憶などない。

しかし、今考えるべき問題はそんなことではない。火村はアリスがキッチンへ立ってから一度も顔を上げることをしなかった、という点。なのに、アリスが爪きりの場所を探していることもその場所もまさに、絶妙のタイミングで口にしたのだから。
爪切りを手にアリスはソファの男を盗み見る。やっぱり、熱心に読書をしているようにしか見えない。目線の先は確かに本を捕らえて規則的に上下しているし、なによりその人差し指が唇を軽くなぞるように添えられている。

「・・・そんなに見つめてどうした?アリス」
「!!」

エスパーだったのか、火村英生。知らなかった。

「アリス、俺はいたって普通の人間」

どこが。完全に心を読んでる。宇宙人か。

「・・・なんでわかるん?」


どうやら会話が始まったので休憩にするつもりらしい。
読んでいた専門書を閉じると大きく身体を動かして煙草に手を伸ばした。

「さあ、なんでか。なんとなく」

それじゃわからん。超能力、のほうが納得できそう。
白髪交じりの頭をくしゃくしゃと掻き揚げながら、目の前の能力者は大きく煙を吐き出した。

「ほら、ちょっと前にはやったCMがあったろ?お茶の」
「CM?お茶の?おーい、って呼ぶ?」
「それ」

それ、ってなんだよ。
おーいって呼ぶとお茶が出てくる、みたいな感じのCMだったような・・・・。

「それがなんなんや?」

あ、その冷ややかな目はなんや。どうせ俺は察しが悪いよ。

『おい』
『はい、あなた。お茶』

頼むからその顔で小芝居はやめてくれ。

「・・・・ん?」
「アリスの考えていること位、言葉にしてなくてもわかるさ」

ああ、まただ。この感じ。

「それじゃ、まるで夫婦みたいや・・・」
「違うのか?アリス」


きっとみっともないくらい顔があかいに違いない。
くやしいかな、さらっと言い放った宇宙人はにやにやしながら近づいてくる。

「俺はそう思っているんだが、違うのか?」


「アリス?」

ああ、そうだ。
こんなに愛に満たされている。
不思議でくすぐったい。

でも。

ひどく、心地よい。

ああ、愛されている・・・・幸せなのだ。

Author by emi