「借りが生じて、あとあと大変か・・・」
我ながら借りとはうまく言ったものだ、と光彦は思う。
轟には何のことやらさっぱり伝わらなかったであろう。
正確には借りではなく、負い目。
それも、光彦が勝手に感じているだけなのだが。
調べて欲しいことがある、と陽一郎に電話をした際に、聞こえてきた声が決して機嫌のいいものではなかったのが少し気になってはいた。
帰宅する頃には結果が出ているだろう、と言ってくれたのでご帰館を今か今かと待ちわびているけれど、いつだって朝からそれこそ晩まで働きづめの兄の事だ。帰ってくるとしても午前様だろうな、とは思っていたけれど、光彦はずいぶんまえからそわそわと行ったり来たりを繰り返していた。
そうして時間が刻々と過ぎて行くのを待っていたその時。外に車が停まる音とドアの開閉の音が聞こえて慌てて玄関まで出迎えにいく。
「おかえりなさい、兄さん」
「おかえりなさいませ」
いくら帰りが遅かろうと出迎えがない筈もなく、そこには光彦以外の人間も居る。そこへわざわざ出迎えに来たというのがわかると何かと面倒なのであくまでも「ついで」の体で声をかけると陽一郎がすれ違いざまに
着替えをするから10分後に書斎へ、と囁いていった。
ついでのつもりで階下へ降りて来た事もあり、その間リビングで時間を潰すことにする。
あ〜、この時間が長いんだよなぁ。
その逢瀬を待つ間の時間。まるで時が足踏みをしているかのようにゆっくりと進んでいくのが光彦には溜まらない。いつだって今か今かと時計と睨み合いをしながらそわそわしているのだ。それを悟られないよう気を配り何気ない風を装ってはみるものの、果たしてうまくいっているかどうかわからない。なぜなら、不思議そうな顔をして皆が見ている気がするからだ。
もっともそれはあくまでも光彦の気にし過ぎなのであって、皆が見ているのは実際のところ「ああ、また何かやらかして注意でもされるのだろう」くらいにしか思っていないのだが。
ややあってから意を決して足を書斎へと向けドアの前に立った。ひとつ息を吐いて目を瞑る。
通いなれた書斎のはずなのに、ノックをする手がいつも震えてしまうのはなぜだろう。
待ち遠しかった筈なのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
そんな矛盾した思いを抱えながら軽く戸を叩いた。
「・・・兄さん、光彦です・・・」
「ああ、入りなさい」
和服姿へと着替えデスクに向かう陽一郎は、疲れも見せずに書類に目を通しているようだ。
そのタフさ加減にいつもながら感心してしまう。
暫くは事件の話をしていたが、その話はここまでというように
陽一郎が立ち上がった。ああやっぱりお疲れなんだな、そう思って今夜は早々に部屋へ戻ろうと踵を返したところで
急に伸びてきた陽一郎の腕に引かれて後ろから抱きすくめられる。
「っ・・・・!」
「光彦・・・・キミは」
後ろから首筋へと掛かる陽一郎の吐息が光彦を刺激して。
それはまるで魔法のように光彦の身体から力を徐々に削いでいく。
「にいさ・・・・ん?」
「君は事件の事でしか、私に電話を掛けてこないな・・・?」
ふっと耳朶に直接囁かれて膝から力が抜けていくのを必死に耐える。
「っ、だって・・・・」
「だって、なんだい?」
後ろから抱きしめたままの光彦の顎を陽一郎の掌が捕らえ、
薄く開かれた唇を撫ぜるように指が触る感覚に思わず吐息が漏れる。
「んっ・・・・、ぁだって・・・・」
「いつでも声を聴いていたいと思うのは、私だけか?光彦・・・」
すっと腰を支えている左の掌が下腹を掠める動きに身体を支えていることが限界だった。
腕を前につくような形でしゃがみこんでしまった光彦を
後ろから抱きついたままの陽一郎が攻める。
「ぁあっ・・・・、そん、な・・・こと・・・」
「おまけに・・・、遠路を辿って一緒に捜査をしている刑事が居るそうだな」
いつの間にか唇を撫ぜていた指は咥内を掻き回すように動き、
するりと上着を交して弄っていた左手は直接肌を這い回る。
「聞けば私と同じくらいの敏腕刑事らしいな、どうやって陥落したのかな・・・?」
「ふっ・・・・、ぁん、っ・・・・」
耳元には熱い兄の囁きを感じて背から這い上がってくる快感を隠すことが出来なかった。
「君は私を振り回したいのかな・・・?」
「ヒぁっ・・・・・、ぁあ・・ちが、ぅあ・・・・」
すでに溢れ出した唾液は陽一郎の指を濡らし、
肌を撫ぜる左手で胸の突起を強く摘まれてあられもない声が上がる。
「ぁ・・・、にいさぁ・・・」
「光彦、言い訳は躰でしてもらおうか・・・」
言うなり陽一郎は光彦の耳を甘噛みし、摘んでいる蕾を指の腹で擦るようにして擦る。
その耐え難い快感から思わず腰を揺らめかせたのを見咎めた陽一郎は
咥内を弄っていた指を引き抜くと冷たいとも言える口調で光彦に告げた。
「おや、こんなに濡れてしまったね。困った口だ。
これでは服を脱がしてやれない・・・。そうだな。光彦、自分で脱いでご覧」
「え・・・・?あっ・・・なに・・・」
依然として左腕は胸を弄ったままで、光彦の身体を少し起こすと
耳朶へと催促するようにさあ、脱いでと囁かれる。
「・・・できるね?」
「ふぅ・・・・あ、んっ」
刺激を受けて開放をせがむ光彦は逡巡した後、沸きあがる快感に逆らえるはずもなく
力の入らない手を懸命に使ってパジャマを下ろして下肢を晒す。
「・・・いい子だ、光彦」
「ああっ・・・、はぁ・・・・ん」
片足にパジャマと下着を留めたまま、上着をたくし上げられ下肢を晒して
後ろから容赦なく攻められて堪らなく下腹の奥が疼き、
先端を先走りで濡らして頭を擡げた光彦は更なる刺激を求めて震える。
「もっ・・・・、にいさん・・・・」
この身を焼き尽くすような快感を与えているのは確かに陽一郎のはずなのに。
どうか、助けてと懇願している。
与えられる快感から助けて欲しいと全身で訴える。
気が狂ってしまうくらいの感覚に溺れる。
ああ、浅ましいわが身をどうかその熱い楔で戒めて。
Author by emi