●不思議な感覚とリアリティ
「パソコン上で熱帯魚を育てるソフトがあって、ちゃんと育てないと死んでしまってそれっきり」という話をへえ〜っと思いながら友人から聞いたのは、たぶん3〜4年前のことだったと思います。
今では珍しくないそのソフトを作った人は、この小説を読んで作ったんじゃないかしらん?と思うくらい、現在のバーチャル・ペットの特徴と市場を10年以上前(1991年刊行)にきっちり描いていて興味深い。SF小説の未来エピソードが現実になっているみたいなこそばゆい感じがしました。
でも、話の重要な部分は"現代人の孤独 が癒しとしてバーチャルなイメージ像を求める"というような安易な結論を乗り越して、さりげない形で「目の前にあって大切な事、目に見えないけど大切なもの」を伝えてくれているような気がします。
不思議な感覚とリアリティのあるお話で、ついついと引っ張られて一気に読んでしまいました。
内容:「グラフィックデザイナーの僕は、猫の手や耳・しっぽなどをコンピュータの画像で作る依頼を受ける。 それらは依頼主のプログラマーによってコンピュータの中で飼う「電子猫」となり売り出され、爆発的なヒットとなるが・・・。」というような、裏表紙の紹介文の内容がひとしきり過ぎてからがまた絶好調に面白い!(バラシすぎ?) |
●ヘンな話、だけど妙に切ない
「ある日突然名前が無くなる」という不条理小説なら読んだことがあるけど、生まれたときから名前が無くて、本人もそれを肯定して生きている、というのは初めて読んだ。
この青年の母親がまたふるっている。
子供が欲しいけど男とは関りたくないという気持ちは分かる。
でもその方法が凄すぎる。そんなばかな、と思うけど、知らぬ間にに納得させられている。
あとから冷静に考えるとヘンな話だわ、と思いつつ、読んでるときは引き込まれてすぐに読み通してしまった。
ラストは「電子猫・・・」よりも分かり易かった。
自分もくじらの腹の中で消化液にまみれている1人だなと思う。