●飄々おじさんの風流
遊園地だと思ってのんびり歩いていたら知らぬ間に迷路に、更にはお化け屋敷に入ってしまっていた。
百鬼園先生食いしんぼねえ。かわいいわねえ。などとのんきなことを言っていられる最初のほうはよかったが、借金の話あたりから読むのがつらくなっていた。
貧乏で暗い話はひとつも無いのだけれど、全然平気で借金して、しまいには文章を書くより借金の無心にまわるほうが性にあっているなんて言うし、言っていること自体は面白いけど共感できないのでつらいのだった。これは私に、お金を貸してもどらなかった経験があるからかもしれない。
しかし何だかんだ言っても全体としては面白かった。お金を貸すほうの人間がどういうわけか百鬼園先生のペースにのせられてお金を出してしまったり、帽子をとられてしまったりするのはホントに不思議。ずうずうしいにもほどがあるけど憎めない。授業もやる気があるのか無いのか。生徒のペースに乗せられて試験するのを忘れたりする。こんな先生が学校にいたらさぞかし面白いだろう。ただし担任や受験科目の先生であっては困る。職場の上司や近所のおじさんとしても大歓迎。でも夫には絶対なって欲しくない。
川上弘美の解説も面白かった。考えてみるとちょっと文章が似ているような。まるさんが以前川上弘美の事を「とぼけたおかしみ」と言っていましたが、まさにそんな感じ。無駄な言葉の無い味のある文章で、飄々としたとぼけたおじさんの風流が味わえました。
<例によって～私的ベストヒット語録メモ>
・何しろご馳走の始まるのを待つ間の時間くらい楽しみなものはない。しかしそれが、あんまり長く続くと、段段いらいらして来て、少し腹が立ち、しまいには眠たくなってしまう。「まだ始まりませんか」と私が云った。しかし招待された客のうち、来ているのは、私だけであった。
・本を読むのが段々面倒くさくなったから、なるべく読まないようにする。読書と云う事を、大変立派な事のように考えていたけれど、一字ずつ字を拾って、行を追って、頁をめくって行くのは、他人のおしゃべりを、自分の目で聞いている様なもので、うるさい。目はそんなものを見るための物ではなさそうな気がする。
・人の書いたものを読まない様にして、自分が人に読ませる原稿を書いているなども、因果な話である。人間の手は、字を書くのに使うものではなさそうな気がする。
・お正月から日記をつけ始めた。(中略)
「スンダ事ニ用ハナシ。モウ今日限リ止メル也」と書いて、今年の日記はお仕舞にした。・顔と云うものは、もともと自分の所有には相違ないけれども、背中と同じく、自分で見ることは出来ないものである。(中略)
誤って自分は幾度か自分の顔に髭をを立てたり、落としたりして、他人に迷惑を及ぼした。・百鬼園先生は、運命の如く遅刻した。
・人間が空を翔けるのは、善い事であるか、善くない事であるか解らないけれど、悪いことなら猶更おもしろそうである。