『南極のペンギン』 高倉健/集英社
スウ(花日和vol.15)これは素直にとってもよかった本です。
さりげない旅行記ともとれるし、絵をじっくり眺めるだけでもいいのです。
唐仁原教久さんの絵はさっぱりと鮮やかだけど深い色のすばらしいものです。主に、高倉健さんが世界各地で出会った人々の思い出について綴っていて、自分のことはほとんど書いていません。
南極や北極で死にかけた話なんかをあっさりと語っていますが、「こんな危険なめにあった!」と騒ぎたてたいのではなく、助けてくれたガイドさん、無事を喜んでくれた基地の人々のあたたかさや生き方を穏やかに伝えてくれます。けっこう観察好きな方らしく、ペンギンの人間に似た個性に気づき、”命って、似ているのかなー”と思ったり、いくら誘っても食事を一緒にしてくれないポルトガル人の運転手さん(エマニエルさん)をみて、自分のペースでゆっくり食事を楽しんでいることに気づき、”お金で買うことのできない品性が、エマニエルさんの姿にはただよっていた”と結びます。そういう風に思えるまなざしが、すごく素敵だなあと思いました。
でもやっぱり一番目頭が熱くなったのは、健さんのお母さんの話でした。
お母さんが亡くなった時、『あ、うん』の撮影のために1週間遅れでお骨と対面した健さんは
「きゅうに、むしょうに、おかあさんと別れたくなくなって、骨をバリバリかじってしまった」そうです。
体の弱い少年だった自分をずっと看病してくれた、映画のポスターだけでアカギレに気づいて手紙をよこしたお母さん。
でも、会うと子供扱いするので喧嘩ばかりしてしまったお母さん・・。もう、あんな口調でぼくに話しかけてくれるひとはいない。
人生には深いよろこびがある。骨になってもなお、別れたくないと思える、愛するひとに出会えるよろこびだ。
人生には深い悲しみもある。そんな愛するひととも、いつかかならず別れなければならないことだ。『鉄道員-ぽっぽや-』で子供や妻の死に目に会えなかった仕事一筋の男を演じたときの彼は、どんな気持ちだったでしょう。私も両親と離れて暮らしているので、余計感情移入してしまいました。