妊娠・出産に関する本

「仕事もしたい、赤ちゃんもほしい−新聞記者の出産と育児の日記−」井上志津/草思社

スウ (2004.11)
●人としての営みを考える

私と年齢がほとんど同じ時に出産した人でもあり、いろいろ共感するところが多かった。
何故ニッポンは少子化が止まらないのかよく分かる本でもある。
新聞記者で映画評担当だった著者が、育児休暇をとって出産、会社に復帰した頃までの日記をまとめたもので、淡々とした語り口が読みやすかった。
単なる事務職を退職して平凡な専業主婦をやっている私から見ると、女性記者なんてすごい、そしてちゃんと育児休暇をとって働き続けるなんてエライ!と思ってしまうけれど、この人は自分がけしてたいそうな志しを持って仕事しているわけでもないと言うし、立派に子供を育てているわけでもなく、こんなに可愛い子を預けてまで何故仕事しなくてはならないのだろうと自問自答する、正直な、ごく普通の人で好感がもてた。
その中で、少子化問題を叫びながらどこかズレている日本の制度や社会の認識などにいちいちブチあたる。この人はまだ恵まれているほうだけど、やっぱり日本は女性が安心して仕事を続けながら子供を持つという社会では無いことが実感されて悲しくなってしまう。
でも、この著者は妊娠したときは「あーあ、これで自由がなくなる」と思ったけれど、子供を産んで後悔したことは一度もない、というのがとても励まされた。
30も過ぎて今まで散々自分のやりたいような生活を送って来た人(私)は、子供という存在は大きなプレッシャーなのだ。

最後に、この人が記者として自分を振り返るのが印象的だった。

子を持つまでの私は観念論ばかり言って、頭でっかちだったとつくづく思う。本当は人の営みについて何一つ、分かってなどいなかったのに何でも分かった気になっていた。これみよがしでなく黙々と子供を慈しみ育てている多くの人の思いを、見過ごしてきたようにも思う。

何でも自分が経験してみないと分からないけれど、私も妊娠して初めて実感した事考えた事がすごく多い。とても尊い経験だと思う。



「赤ちゃんが来た」石坂 啓/朝日新聞社

これは用意したものが絵付きで描いてあっていいなと思って借りてきた本。
マンガ家なので一般的な出産・育児とは少し違うけれど、軽く読めて面白かった。
一番印象に残っているのは、陣痛のとんでもない痛みと戦いながらコンクリート詰め殺人で殺された女の子の事を思い出すくだり。

彼女を死なせた男のコたちは、自分がどれほどの大罪を犯したのかわかってないんだろうな。
性を卑しめるという行為は、自分自身の生命を卑しめる行為のように、このときの私には思えた。女のカラダというもは生命がくぐってくるものなのだ、もっと大きな力が宿るものなのだ。あの女のコにもそれが備わっていたのだ・・・。
だれもが女の生殖器をくぐって生まれてきたのだとしたら、それを卑しめるような行為は絶対にしちゃいけない。天に向かってツバするようなものだ。自分自身を卑しめてることに、ほかならないだろう。



「踊る妊婦」福島直子/ベネッセコーポレーション

この人も私と近い年齢で産んだ方。親戚に「早く子供つくれ」とせかされて逆ギレするところから始まる。産みたくても出来ない人は沢山いて、私もそうだったから気持ちがとてもよく分かった。逆ギレは、しないけど。
正直文章が幼くて読みづらいところもあったけど、自分の気持ちを素直に表現するためにわざとしてるのだろうなあと良いほうに解釈した。フリーのライターで、小説家を目指していたこともあるそうだが本になったのはコレが初めてとの事。妊娠中からコツコツ書き溜めていたものが日の目をみたわけで、文章の印象よりしっかりした努力家、がんばり屋さんだなあと思う。

陣痛が長引いて結局帝王切開になってやっと生まれた、というところは我知らず涙ぐんでしまった。やっぱりこんなに苦労して生まれて来るんだなあと感慨深い。 保育器に入っても何とか親の愛を必死に伝えようとするところも印象的だった。
子育てはけっこう上手く楽しんでやっているようで、でもたまにイライラして手をあげてしまったりというのは「仕事もしたい、赤ちゃんもほしい」でも出てきたこと。肯定するわけじゃないけど誰でもあることなんだよなあと実感する。

それにしても、この人はけっこう思い込みや憧れが激しくて空回りしているところが目立つ。人が挨拶程度に言う事にもいちいち目くじらをたてすぎだ。でもこの時期の女性はデリケートなものだし、経験も無いのにハンパな知識でいろいろ言う人も多いから、言うほうもちょっと気をつけるべきだよな、と思った。


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