テーマの小部屋 >> 恋愛もの

『シンプルな情熱』アニー・エルノー/堀茂樹訳/早川書房

きな(花日和vol.14より)
●こんなの恋じゃない?
 これは、ある男に恋した、ひとりのもう若くはない女の記録です。50代で、成人したふたりの息子を持ち、現在(当時)はひとりで暮らしている彼女は、ある時ひとりの男と出会います。彼は東欧のある国から外交関係の仕事でフランスに滞在しており、本国には妻子がいる、彼女よりも10歳以上年下の男です。
エルノーと彼は、彼女の自宅でいわゆる「午後の逢引き」の時間を持ちます。約1年。これは、その間彼女がどんな思いで 一人の時を過ごしたかを淡々と、しかも赤裸々に綴ったものです。
いつかかるか分からない彼からの電話を待つ。いままでは気にも留めなかった雑誌の星占いに一喜一憂する。感傷的にすぎると思っていた、甘い歌詞の歌が心に染みる。まったく唐突に彼の「声」や「感触」を思い出して、ひとり赤面してしまう・・・。やがて来る、恋の無残な結末。それをも彼女は淡々と綴っていきます。
エルノーは、これはいわゆるロマンスではない、「激しくて単純で肉体的な情熱」だったと語っており、その潔さも 私はとても好きです。
あとがきには、この作品を巡るフランス文学界の反応にについても触れられており、これも興味深いです。(主にベテランの男性書評家は酷評し、一方女性は熱狂的に支持した、と。)お読みになって「こんなの恋じゃない!」と思うか「これもまたひとつの恋」と思うか。みなさまにちょっと聞いてみたくてオススメしてみました。


俵 万智 「チョコレート革命」/河出書房新社 
         「あなたと読む恋の歌百首」/朝日新聞社

まる(花日和Vol.3より)
短歌の形式は、五七五七七 季語はいりません。
その三十一文字の中に、世界が凝縮されているように感じて、最近私は少しハマッています。

まず、「あなたと読む恋の歌百首」は、朝日新聞の日曜版に連載されていたものですが、いろんな歌人の恋の歌を選び、俵 万智が文章をつけています。その文章が非常にいいんですね。

歌の解釈にとどまらず、俵 万智自身の恋愛観・人生観をもとにして語られていて、一首の歌を深く読み込んでゆく喜び、イメージを無限に広げてゆける喜びが味わえます。

いろんな歌があって、その恋の段階もさまざまなので、どれを選ぼうか迷いますが、次のものを読んでみて下さい。
「君の眼に 見いられるとき私は こまかき水の粒子に還る」

好きな人から見つめられるときの、何かに包まれるようなやすらぎと、女性としての緊張と、くすぐったいような恥ずかしさと、そして限りない嬉しさと・・・。さまざまな感覚がからだを駆け抜け、作者は感じた。今、自分は水の粒子に還っていくようだと。
 水の粒子、とはどんな感じだろうか。透明、無垢、純粋の三語を私はまず思い浮かべた。恋は、人の心をそのように美しくしてくれるもの(時にそうでないこともあるけれど)。若い女性の初々しい感覚がまぶしい。(後略)

この文章は続きがいいんですよ。見つけたら、ちょっと目を通してみてください。

2冊目の、「チョコレート革命」は俵 万智の歌集です。不倫を歌って話題になりましたが、本人はフィクションだと言っています。これも選ぶのに迷います。きっと共感する歌は読む人によって違うだろうと思うので。

年下の男に 「おまえ」と呼ばれいて ぬるきミルクのような幸せ
水蜜桃の 汁吸うごとく愛されて 前世も我は女と思う
さりげなく 家族のことは省かれて 語られてゆく君の一日
祈るとき 人は必ず目を閉じて 何もなかったように立ち去る
男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす
君とゆく 京都思えば京の字が 今宵やさしく溶けていくなり




スウ(2002/6/29)
こちらは平成10年5月に掲載したものです。なつかしか。まるさんの今のハマリものはなんでしょーね。
写真はつい先日撮ったもの(上のは夫撮影)で、本とは関係ないです。ちょっと雰囲気があってるかなーと。(ムリヤリ?)
この短歌、私は一番目と二番目と最後のがとくに好きですわ。


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