デニス・レヘイン

『闇よ、我が手を取りたまえ』『愛しき者はすべて去り行く』
『雨に祈りを』 デニス・レヘイン/角川文庫

スウ(花日和vol.13より)
●鮮やかな余韻とリアル感
私立探偵パトリック&アンジーのハード・ボイルドミステリーシリーズ。3冊続けて読んで、読み方に慣れてキャラクターの個性に親しむにつれ、どんどん面白くなっていった。              
まず、一節ごとに鮮やかな余韻がある所がいい。その時の気分や雰囲気、物事の核心をひとことでスパッと言い表す感じで、これが慣れてくるとけっこう「お、また来た」と波待ちサーファーの様なわくわく気分になってくる。
もちろん文章表現だけじゃなく、筋書きがとても凝っていて面白い。私は事件の謎解きというものにほとんど興味を持てないほうなのだけれど、読み進むごとに謎が謎を呼ぶ感じに翻弄されてしまった。そして、ここで展開する暴力・猟奇殺人・幼児虐待・ストーカー等は、いまどきの日本でも聞き覚えがある事ばかり。ノンフィクションのようなリアルさで、一切が作り事として客観的にみる事を許さない感じがあった。

”日夜ひどいことが起きている。自分のバスも遅れている”
というのは、日常ひどいニュースを聞かずには済まない今の世の中の気分をよく表している気がした。
物語として一番心に残ったのはロストチルドレンを軸に展開する『愛しき者はすべて去り行く』だった。子供が姿を消した後どうなるか、のパターンがこんなにあるとは思わなんだ。
そして、終わり方がなんとも言えない葛藤に満ちている。山本有三の『真実一路』を思い出してしまった。“事実と真実は違う”と。ほんとうの親子関係というものについて考えさせられる。

『闇よ我が手を取りたまえ』では、殺人嗜好症の人間が何を思って人を殺すのかという部分に説得力を感じてしまった。
”自分が強くなった、神になったような気がして気持ちがよくなる”みたいな事だ。ただ「異常」という認識以外のものは無かった所へ、人間はそんな風になり得るものなのかもしれないという感じを起こさせた。
『雨に祈りを』では、まさかええっそんなナニー!とぐるぐる回されどおしでまさに息もつかせぬ展開が面白すぎた。獲物を殺すより「死んだほうがましだ」と思う程に陥れる、というのが私にとっては新鮮で、恐ろしかった。
欲を言えば主人公のパトリックがもっと陥れられて欲しかったけれど、名脇役ブッバ・ロゴウスキーの活躍が目立ちユカイ痛快。(自宅に地雷がしかけてあるんだよ〜♪) 

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