桐野夏生

『天使に見捨てられた夜』桐野夏生/講談社

スウ(2005/3/2)

●妊娠している立場で考えたら

うーんそういうオチか、という感じ。やっぱりそうだったのかと思いつつ別にがっかりもしない。
前作「顔に降りかかる雨」よりスピード感は無いけれど、適当に区切れてどこから読んでも面白いというものだった。 けっこう簡単に男に振り回されているのがちょっとイライラしたけれど、パズルをひとつひとつ集めてそれを完成図に当てはめていく感じは面白かった。出来上がってみると単純だけれど、その過程が流れに乗って進むのが読みやすく引っ張られて読んだ。ちょっと「サイコ」を思い出したりもした。(あらすじとは関係なし)

===以下ネタバレと脱線===

若き日の過ちで産み棄てた子供というのは、そんなにも憎いものなのだろうか。
完璧な人生が崩れていく恐怖と相手の裏切りの中では妊娠中に胎児を憎みそれを増幅させてもおかしくはないかもしれない。今妊娠している立場で考えると、栄養に気をつけるなんて無かったとしても、日に日に不自由になっていく身体と体調が、「この子のせいだ」と憎しみの対象になるのは分かる気がする。本当は自分のせいなんだけど。
「子供ってね、自分で育てているからこそ、大人になってとんでもない人間になっても耐えられるのよ、子供の頃の記憶があるからなのよ。」でも大きくなって趣味も頭も悪い女が突然あなたの娘ですって来たら耐えられないという。そうなのだろうか。

自分はまだ子供がいないから実感としては分からないけれど、「自分で育てているから愛情が持てる」という意味で考えれば分かる気はする。それと、産んですぐ手放したとしても、妊娠した状況によって愛情の持ち方は違うのだろう。
こんな事を言ってはなんだけど、自分は普通に結婚した両親のもとに生まれ、愛情をもって育てられて良かったことだ、と改めて思う。 


『ダーク』桐野夏生/講談社

スウ (2004.2.2)

●ヤな奴ばっかり出てくる話

『グロテスク』も『残虐記』も感想が書けないくらい面白くかつ脱力する重さがあったので、こちらも精神的に参るような話かなと思っていたけれど、そうではなくて客観的に娯楽作品として楽しめた。
登場人物がすべて負の感情に支配された嫌な奴ばっかりで、ひとりも共感できる人がいない。それが読んでいて辛いというよりもここまでやな感じだと小気味いい。
物語が、主人公ミロからの視点だけではなくすべての主な登場人物から少しずつ語られ進むので、共感はしなくてもその人物がどういう立場やものの考え方をするのか非常に分かり易くなる所がいいのだと思う。だいたいが暗くて暴力的な話の割には、展開が激しいので飽きずに一気に読めて面白かった。途中でミロが愛によって乙女ちっくにみえてしまうところも、笑っちゃうなあ単純だなあこの人、という感じで楽しかった。まだまだ甘いなあとか。
しかしこの話は前に4作あったらしく、知らずに最後から読み始めてしまった私のほうが迂闊であった。

○以下掲示板(きなさん)より

『ダーク』はミロ・シリーズの5作目なんです。
『顔に降りかかる雨』『天使に見捨てられた夜』が1作目と2作目。
フツーにハードボイルドサスペンスミステリー(長!)って感じです。
第3作が『水の眠り 灰の夢』、これはミロの義父・村野善三が主人公。
で、短編集『ローズガーデン』が4作目。この表題作でミロは変わります。
そして、よりパワーアップされて『ダーク』に。
『ダーク』の後で前の話を読むと、ミロは名前と設定が同じだけの別人かいな、と思ってしまうかも^^;
あー、でもこれは順に読んできたほうが もっとショック、ってのもあるかも。
ミロだけでなく、友部も善三もみんな別人のよう…(涙)<善三ファンだったのに。あう。

あう。詳しく教えて頂きありがとうございました。


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