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『ヘルター・スケルター』岡崎京子、 『悲鳴をあげる身体』鷲田清一

きな(2003/7月/花日和14号より)
●わたしのからだはどこへいく?
自分の体型が変わってきたのを、はっきり意識したのは30代に突入してしばらくした頃。つまり約10年前。お腹のラインが丸くなったことと、ウエストからお尻にかけてが「なんか四角くなってきた・・・」だった。その時は仕方が無いよね、と思い、けれど段々に変わっていく体型を直視するのが辛くなり、そうこうするうちに、ここ3年程どどどっと体重が増え、身体の厚みが倍になり・・・私はいま、自分の身体の感覚を上手く掴めないでいる。

『ヘルター・スケルター』は、80年代半ばから90年代にかけてコミック界を引っ張り、その感覚がその後の多くのまんが作家に影響を与えた(たとえば安野モヨコ)、岡崎京子の幻の長編。何故「まぼろし」なのかというと、岡崎は96年に交通事故で重態となり、その後現在まで長いリハビリの中にあるからだ。単行本にまとまる時には、作品に必ず手を入れていた彼女のそれまでのやり方に従って、ずっと単行本化されなかった『へルター〜』が、この4月、ついに単行本になってしまった。それが、リハビリの進展を表しているのか、それとも逆に限界を感じてしまったからなのかは分からない。
分かるのは、この95年から96年にかけて描かれ、第9章が終わったところで作者の事故のために中断された(でも完結しているようでもある)この作品が、いま読んでも私には傑作だということ。

主人公のりりこはアイドル。モデルとしてグラビアを飾るりりこのファッションのみならず、その一挙手一投足が女の子たちの注目の的。けれど彼女には秘密があった。
彼女は「このこはねぇ もとのままのもんは骨と目ん玉と爪と髪と耳とアソコぐらいなもんでね。あとは全部つくりもんなのさ。」という全身整形美女だったのだ。しかも「すごい無理に無理をしてこしらえた」ために、りりこの身体は反乱を起こし定期的に徹底的なメンテナンスを繰り返さなければ、崩れていってしまうのだ。物語は、このりりこを取り巻く人々の人間模様と、りりこに手術を施した医者の裏の顔(美容のために売買される胎児の臓器)を捜査する過程でりりこに注目していく刑事とを軸に進んでいく。けれど主眼はりりこ---美しくありたいと思い、一度手にした美を手放すまいとやっきになり、けれどその美が、いつか指の隙間からこぼれるように消えていってしまうことに気づいた---りりこの「戦い」にある。

自慢にもならないけれど、私は美人ではない。美人だったこともない。その私が、加齢という自然現象にともなう変化に、これほど戸惑ってしまうのは、我ながら意外だった。「コレハ ワタシジャナイ」と、鏡を見る度にしんどくてたまらないのだ。
どうして私は、いまの自分の体型を受け入れられないのだろう?もともと大した体型でもないのに。でも、こうなって気が付いた。私は自分の細いウエストがとても好きで自慢だったんだ・・・。それがあれば、きれいじゃない顔も肌も(十代からずっとニキビ体質)「差し引きゼロ」になる、と思い込めるくらいに。どんなに足が太くても、お尻が大きくても「でも、これが私だもの♪」と開き直れるくらいに。

「差し引きゼロ」「開き直る」・・・誰に?答えは分かっている。「私自身に」だ。
誰に聞かれるわけでもないのに、これで世間も許してくれるよね、私が女として存在するのを・・・そう思っていたのだ。どうして私はそんなふうに思ってしまったのだろう?どうしてそんなに追い詰められてしまったのだろう?


鷲田清一(わしだきよかず)の『悲鳴をあげる身体』は、それについて考えることを教えてくれた。回答はないのだけれど、このことについてゆっくりと考えを巡らすことは、決して無駄ではないのだよ、と。

でも・・・。分かっちゃいるけど何とやら、で。やっぱり声が聞こえてくるのだ。
「努力が足りない」って。「ごめんなさい。意志が弱くて」と、私は私に謝っている。あ〜あ・・・・。

(岡崎さんの回復を、心からお祈りしています。吉本ばななさんがおっしゃっていたように、「最終的には」「生きていてさえくれれば、私はいいの」と思いますが。それでもいつか、再びペンを取れますように、と。彼女の「声」が聞きたいです。)

『ヘルター・スケルター』 岡崎京子著:祥伝社:03年初版
『悲鳴をあげる身体』 鷲田清一著:PHP新書:99年初版

●スウ(2003/7/24)
かなり、共感しました。じわじわと崩れていく身体に、どう向き合えばいいのか、答えは無いけれど・・・。
『ヘルタースケルター』を、私も読みました。りりこって奴ぁ、ほんとに憎たらしい性格だけど、自分が「うそもの」であるがゆえ、世の中と上面だけでしか折り合えない姿がなんとも言えず痛ましかったです。
「みなさんはとってもあきっぽい」と、一般大衆の冷たさや「持っていない人」の弱さをシュールに語るところも印象的でした。
あの後、りりこはどんな境地(心境)に渡っていったのでしょう。現実を蹴散らして、図太く生きていて欲しい、と思いました。


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