ジム・トンプソン

「ポップ1280」ジム・トンプスン/三川基好 訳/扶桑社

スウ (2004/8/25)
●救世主だと奴は言う

読んでびっくりの悪党保安官が主人公。
最初はこの男相当ぼんやりなの?頭弱いふりしてるの?などとつかみきれずにつまらなかったけれど、平気で突発的に人殺しをするので度肝を抜かれた。それも最初は行き当たりばったりの殺しだと思っていたのが、実は計算づくの行動で最後は自分の都合のいいようにまわりを丸め込んでしまう。
不倫のうえに二股、保安官選挙では相手候補を巧みに陥れる。すべてにおいてそんな調子で、けっして頭がいいように見えないのに結局はバカのふりして人心を操っていく。実際はそんなバカにうまく行くことはあるまいと思いながらも、人口(ポップ)1280人の田舎で、堕落した人間の巣窟のような町だから、と納得してしまうし、それを巧みに利用して生きていく所がまた面白いのだった。

そうは言ってもこの男、すべてをあらかじめ完璧に計画している器用な人間でもない。結婚に失敗した顛末も冗談みたいなものだった。玉乗りみたいなギリギリの危うさのなかで、いきあたりばったりとろくでもないハッタリでどこまでうまく泳ぎきるのか?が見ものでなんとも言えず引き込まれてしまった。

謎かけのような、風刺のような言葉も折々に出てきてうーんと唸ってしまう。とっても下品で黒々とした内容なのだけど最後まで軽快に読ませるのがすごい。
ただ、まだまだ続くかと思った所で急に終わったのでびっくりした。この人は最後やっぱり殺されたのかしらんと思うのはヤボなのだろうか。


掲示板の書き込みより〜

●やまざさん(2004/08/28)
「ポップ1280」面白かったですか? 面白かったなら、良かったです。
自分としては、トンプスンの作品は、神様というかキリスト教社会への矛盾というか、疑問みたいなのを作品中よく書いているような気がしました。
突然、主人公が神の心理みたいなものに気付いてしまう、けれど端から見たらイカれたようにしか見えない。
こんなに、神様と密接している主人公と社会なのに?、みたいな感じで。
他の作品でも、割とこんな感じの部分よく感じるんですよね。
ちなみに、他の作品で好きなのだと「アフターダーク」が好きです。
基本的にバッドエンドしかない作家だと思うんですけど(笑い)、この作品は、確かにそうだけど何か救われるというか、いい話というか、少し泣かせるんですよねー。
主人公と、ヒロイン(ファム・ファタル?)の関係が何というか・・・。
暇があったら是非どうぞ。

●スウ(2004/08/28)
面白かったですよ〜。最初はちょっととっつき難かったのですが、 どんどん面白くなっちゃって参りました。
> 神様というかキリスト教社会への矛盾というか、疑問みたいなのを作品中よく書いているような
そうですね〜。私もそれは思いました。その事を声高にストレートに批判するわけじゃないのにあからさまで、深く突き刺すところが秀逸だなと。
しかしながら私としては、ストーリーのほうを追うのに夢中になってしまい、ああたぶんそういうことを言いたいんだろうな、と思ってもあまりひっかかりなく読み飛ばしてしまう感じでした(^^;ゞ
自分がキリスト教じゃないからでしょうか。どこか他人事にみてしまうのかもしれません。
社会の矛盾とか、他人事ではないんですけどね。
ほかの作品もいくつか読んでみればまた深く感じるかもしれません。


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