スパン
各種スピンドルを設計する際に、軸1本に軸受1ヶというわけにはいかない。だから必ず軸受間距離(スパン)を決める必要が生ずる。危険速度を計算したり、軸径の何倍とかいって経験則で決まったり、することが多いようだ。
工作機械の専門書には軸受のたわみ量と軸自身の曲がり量から生ずる、オーバーハングした軸端における変位量が最少になるような、軸受間距離を見出すことが出来る計算式がある。
軸受商社のWebサイトにも同様の式が掲載されている。MC用スピンドルなので、軸が中空になっているが、サイトの下端にある計算式がそうだ。
サイトの中ほどに、軸受のアキシャル剛性の表がある。転がり軸受は、予圧を与えることで、剛性が増すと同時に、線形性になって計算しやすくなる。表でH、M、Lとあるのは予圧量の違いであり、同じ軸受でも剛性値が変わる。ラジアル剛性値に換算して、計算するとよい。
式は転がり軸受に限らずに、剛性が非線形で大変だが、流体軸受やすべり軸受にも適用可能だ。
余談だが、この商社のサイトには、スピンドルの精度を向上させるのに欠かせない記述がある。
ただ、この式は軸受間部分の「軸径は一定」の条件で計算せざるを得ない。
計算にFEMを使用すると、より正確な結果を得やすいが、昔は専用ソフトだったから、そんなに手軽に使えなかった。だから、上述のような計算は手計算で行ったものだ。
スピンドルに限らず、式に乗らない形状のときは、形状を単純化してでも計算は欠かせなかった。
比較的恵まれた環境で育ったエンジニアに多いようだが、FEMなどのCAEを使い慣れると、そのソフトが無いと計算が出来ないと言って、パニックになってしまうものがいる。
設計の基礎である計算式はわずかな種類しか習わないが、便利なものに慣れてしまうと、応用能力が低下するということだろうか。それとも、先述のように、形状を単純化して計算する事に、我慢ならなくなってしまうのだろうか。
一方で、FEMの専門家などは、計算の原理を知らないままで、ソフトを使用することに危惧を抱いているようだ。メッシュの切り方や様々な条件設定を誤った場合の怖さを承知しているからだろう。そして、より高精度な計算を志向しているからだろう。
私などは、その程度のレベルなのだが、CADに付属するFEMなどのCAEは、手計算の延長のような感覚で使用しているから、ケースバイケースで使い分けているし、計算精度にさほど大きな期待をしているわけでもない。だからFEM専門家の危惧は、残念だがピンと来ない。それは、設計屋が解析を出来るに越したことは無いが、餅屋は餅屋として、必要が生じれば解析の専門家に頼むつもりだからだ。 (2009/8/16)
戻る
Home
|