リジッドカップリング

 昔、長いボールネジにサーボモータを結合した構造の機械を設計した事があった。試運転の段階になって、ボールネジが振動した。初めての事で、お手上げだった。振動の専門家の助けを借りて、制振ダンパを取付けて振動は緩和したが解決できなかった。
 その時、修士卒で入社したばかりのMくんが、解析プログラムを作って、PLCのサーボ指令にリップルがある事を見つけた。当時はアナログ指令で、性能が十分でなかったようだ。PLCは他メーカーのものに交換した。修士ってこんなに優秀なのかと、舌を巻いた記憶がある。

 PLCは仕方がないが、メカ的な対策に手を出せなかったのが悔しかった。PLCは解決しても、制振ダンパは大きな錘を付ける事になるから、加速性能の足かせになった。
この機械では、制振ダンパはボールネジ側に付けたが、その後別の機械を設計する際は、モータ軸側に錘を付けた方がよいとモータメーカーからアドバイスを受けた事もあった。
 モータ軸とボールネジの接合はバックラッシュレスで高剛性なフレキシブルカップリングだったが、それでも剛性が不足していたようだ。もし当時、リジッドカップリングに変更する発想があったら、うまく解決できたかなと思う。
 リジッドカップリングは、ミスアライメントを認識しないで安易に使用される事が多く、精密駆動には論外という認識だった。サーボモータのメーカーにリジッドカップリングの使用を相談したら、どんな返事だったろう。

 今回リジッドカップリングの使用条件を問い合せたら、「心出し精度を限りなく0に近いレベルまで出す必要がある。 」との事で、否定される事はなかった。リジッドカップリング特有の性能である、低イナーシャと高剛性、そして完璧に組付けられた時に生まれるスムーズなトルク伝達性能を看過する事が出来なくなったようだ。

 限りなく0に近いというのは、どんなレベルだろうか。
サーボモータメーカーが推奨するのは、「偏心と偏角が許容されるフレキシブルカップリングを使用して、振れは0.03mm以内で組立てる」事だ。
リジッドカップリングの場合は、どんなオーダーなのだろうか。

 ボールネジ側の軸受はアンギュラー玉軸受を予圧して使用するのが普通だから、ラジアルすき間は皆無だろう。一方サーボモータは大抵、深溝玉軸受を使用するから若干のラジアルすき間が期待できる。例えば内径20〜30mmの軸受で標準的なラジアルすき間(CN)は0.005〜0.020mmである。振れは少なくともこれ以内に収める必要がある。但しこれは偏心の検討で、偏角も同時に0近くにするような調整は容易でない。
 偏角のみが許容されるフレキシブルカップリングがあって、実際はこのシングル板バネタイプがフレキシブルカップリングの中で剛性が高いので、多く用いられていると思う。サーボモータは軸先端に一定の荷重が許容されているから、若干のたわみも期待できる。だから、たわみによる傾きを含む偏角は許容してもらい、振れも0.02mm以内程度で組立てるやり方だ。

 しかし、リジッドカップリングは偏心も偏角も許容されない。
リジッドカップリングの性能を引き出すためには、1台1台、ピックテスタで偏心と偏角を確認しながら芯出しして、組立てるしかない。限りなく0を狙う場合だ。ピックテスタの最小目盛である、ミクロンオーダーを狙うしかない。
 設計時に十分な配慮が必要だろう。
設計時に十分は配慮とは、むやみに加工精度を厳しくする事ではない。測定や微調整をやりやすくする配慮の事だ。

 精度よく組立てられたリジッドカップリングの機械は、過酷な条件ほど、フレキシブルカップリングの機械にはない、格段の運動性能を示すという。  (2010/7/19)


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