幾何公差

 公差とは、設計の際に意図された形状や寸法に対して、どの程度の誤差を許容できるかという範囲を示すもので、寸法公差と幾何公差がある。
寸法公差の方は、ある寸法値に対して、いくら許容するかであり、幾何公差は形状・姿勢・位置及び振れに関する公差である。

 1990年代の冷戦崩壊後、西欧から東欧に部品加工を発注する機会が増えて、十分な打合せもないまま、図面送付のみの発注で、形状トラブルが多発した。寸法公差主体の図面では、設計意図の表現は限界がある事が認識されて、欧州主導で幾何公差は、重要視されるようになったという。

 私の場合、特に精度を要する部品の設計には、寸法公差だけでは十分に設計意図を表現できないので、幾何公差も使用していた。但し、あくまで寸法公差を補完する目的だった。
 幾何公差の中に輪郭度という下向き半円形の記号がある。形状の輪郭誤差を規制するためのものだ。JISの挿絵も曲面ばかりだったから、この公差は曲面の形状を規制するためのものと思っていた。又、曲面を設計する機会もなかったので使用した事がなかった。
しかしある時、矩形の部品に対して輪郭度が使用されている図面を見た時は、目から鱗が落ちる思いだった。
 輪郭度はそれ単独で、形状・姿勢・位置の誤差を規制できる。この輪郭度を使用すれば、±の寸法公差や他の幾何公差の代用が可能なため、図面はかなり簡単になる気がする。
又、JIS B0021では±の公差しか規定されていないが、ASME Y14.41 2003では両側が異なる公差を設定できるという。それが使えれば、適用範囲がもっと広がるかもしれない。

 先日、図面で寸法公差をH公差(片側公差)とJs公差(両側公差)で描く事について、加工上どんな違いがあるかという論争を目にした。質問者は違いがあると認識したようだが、きわめて日本的な議論だなぁと思う。もし要求精度が厳しい場合、慎重に切込むので、大抵穴は小さめに、軸は大きめに仕上がるものだ。
 日本では設計意図を表すための寸法を、キチンと記載するという気風がある。私もただ描いてあれば良いというようなレベルの図面はいやな方で、整然と分かり易く描く事にこだわっていた。但し、設計意図にこだわると図面が複雑化する傾向は否めない。
 しかし先日、設計のアウトソーシングを海外に求めている企業の話を聴いて、その考えに揺らぎがでてきた。その企業では初期段階として、国内でモデリングされた形状を図面化させようとしているわけだが、日本人が描くような複雑な図面は無理なようで、幾何公差を主体とした図面にならざるを得ないという。又他にも簡易図面化や3D図面化が欠かせないそうだ。3D図面は斜めから視た図形ではなく、2D図面と同様に正面視や側面視に寸法を入れるようだ。

 国内においても、モデリングに時間を費やした上に、さらに図面化に時間をとられているのが現状だ。図面の設計意図を表す方法も見直していく必要があるようだ。輪郭度に何か大きな可能性があるように思う。寸法公差よりも幾何公差を主体とした図面にトライしてみたいと思っている。 (2008/3/17)

2008/6/16追記
 寸法公差よりも幾何公差を主体とした図面を志向するものにとって、実に タイムリーな企画が始まった。これまで3ヶ月読ませてもらったが、自分でも曖昧だったところが分かり、参考になった。
ただ、この厳密さを完全に理解して作図しても、製造側と整合性を持たせるのに、かなりの努力が必要かなと感じる。


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