嵌合(かんごう)

 先日学内で、電車の車輪は車軸にどうやって固定されているかという事が話題になった。「JRのOBから焼嵌めをしていると聞いた事が有る。」との情報があって、Webで調べてみた。
SLの車輪を焼嵌めとの記述を見つけた。 車輪を焼嵌めしていたといっても、昔の車輪は2重構造で、タイヤと称する外周部と内輪と称するハブから成り立っていた。記述はこの外周部とハブの結合に関するものだ。又実際はどうだかわからないが焼嵌めだとの記事もあった。しかし他に車輪と軸の焼き嵌めに関するものは見つける事ができなかった。

 キーワードを車輪と焼嵌めから、車輪と圧入に換えて検索してみたら、多くの情報を得る事ができた。 大きなプレスを使用したり、油圧で穴を拡げながら圧入しているとの記述を見つけた。
 焼嵌めが理想的なような気もするが、実際には圧入が採用されている。
薄肉のリングを加熱すると径が拡がる事は容易に想像できる。しかし車輪のように大きな円盤の中央に明いた小さな軸穴が、実際に加熱で十分拡張するのだろうかという疑問を持っている。均一に加熱する事は容易でない。加熱で得られる締め代では電車として必要な強度を確保できないとも考えられる。又焼き嵌めにこだわりがあるのは、大容量のプレスを手に入れることが難しかった貧しい時代の名残かもしれない。
 圧入は、ロードセル等により圧入力を検知する事で、嵌合品質の管理をし易いし、能率も良い。私自身も圧入工程を使用した多くの自動組立機やプレスを設計してきた。
 車輪や車軸は多くの人命を預かる部品だけに、嵌合面のフレッチングを警戒して、非破壊検査も研究されているなど、品質には細心の注意が払われている。

 一方焼き嵌めだがつい、馬車の車輪に焼いた鉄製のタガを嵌めるのを連想してしまう。しかし工業的には精密スピンドル等、精度を気にする軸への軸受などの組込みや、圧入が困難な形状の場合に行われている。又火炎は温度管理が難しく、酸化皮膜の発生が避けられないので、間接加熱にしか使用されない。天ぷらのように穴側を200℃位の油に浸漬したり、高周波誘導加熱(IHヒーターと同じ原理)により加熱し、冷めないうちに軸側に挿入する方法が一般的だ。特に高周波誘導加熱は焼き嵌めや調理だけでなく、焼き入れ、焼き鈍し、乾燥など多くの工業用加熱に用いられている。
 焼嵌めとは反対に冷し嵌めという方法もある。軸側を冷す事で収縮により、穴側との間にスキマをつくって嵌合する方法である。これも精密組立用だ。軸側を冷す場合、液体窒素やドライアイスに浸漬する。

 昨年「-196℃」というチューハイが発売された時、初期のCMは液体の中を果物が漂っている映像だった。これをみてピンときた。-196℃とは液体窒素の沸点である。果物は液体窒素でフリーズドライされた後、粉砕してアルコールと混ぜてチューハイが作られると理解した。全く知らなかった訳ではないが、酒とは発酵によって造られるとの思いもあるので、具体的に工程を連想させられてちょっと興ざめだ。その後、これに対抗するように、「果汁そのもの発酵のお酒」が発売された。両方を飲み比べてみた。私は前者の方が口に合う。
 熱い話しが最後は冷たい話になってしまった。 (2006/4/14)


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