ホッピング

 日本では1957年ごろにホッピングが大流行した。私はまだ幼かったから流行には乗れなかったが、数年後にホッピングマシンを友達の家で見つけてやってみた。ばねの力でジャンプして遊ぶ。バランスを取るのがなかなか難しかったのを覚えている。
 昔のホッピングマシンはコイルばね駆動だったが、現代のものはエア駆動だという。単動のエアシリンダを遊具にしたようなものだ。

 超絶 凄(すご)ワザ!「ホッピング世界記録を目指せ!」というテレビ番組を見た。 「世界記録に挑戦!用いるのはホッピング。子どもの遊びと侮るなかれ。今やアメリカを中心に世界大会が開かれる最先端スポーツだ。ハイジャンプの世界記録はなんと3mを優に越す。超絶記録を可能とする動力は「空気圧」。現在開発中の介護負担を減らすパワーアシストスーツや、さらに空気で動く自動車まで。あらゆる分野から期待が寄せられる究極のエコエネルギーだ。日本のものづくり技術の粋を結集、究極のホッピング開発に挑む!」のだという。

 競技も行われていて、走り高跳びのようにしてバーを越えるのだが、10 feet 6 inches(3.2m)が世界記録だという。

 番組では元チャンピオンを復活させる為に、日本のシールメーカーとシリンダメーカーが協力してホッピングマシンを開発して提供しようというものだった。
 先ずは、シリンダ内をポンプで予圧を掛けて反発力を高めようという試みだった。これは元チャンピオンの岩のように固いという意見でご破算となった。着地時の衝撃が大きいのだろう。使用者の体格に合わせた器具で反発力のアップが必要だ。
 大学の先生の計算に寄れば元チャンピオンの体格(70kg)では高さ3mが限度だが、あと2cmシリンダを縮小させれられば20cmの記録アップが可能だろうという。
反発力を生みやすい重い体重が有利だが、一方でシリンダが伸びきる寸前にも高い推力を発揮するホッピングマシンが望まれる。

 そこで、シリンダ摺動抵抗の低減が試みられた。既存品はOリングを使用しているという。Oリングは摺動抵抗が大きいのはよく知られたことで普通はあまり使用しない。シールメーカーもそれを承知のようでU形パッキンを試した。但し、シリンダ内の圧力は2MPaにも達するという。これは通常の2倍以上の値だ。U形パッキン自体が変形したようで、摺動抵抗は低減どころか倍増した。そこでシールの外周部をテフロンにした。テフロンリングを型に嵌め込んでゴムを充填して製作する。効果はてきめんで、摺動抵抗は大幅に低減した。
 私の疑問だが、これはテフロンの低摩擦よりも、テフロンのリングによる膨らみ抑制効果が大きいのではないだろうか。それに空圧用のU形パッキンでは限界を超えていただろうが、高圧で使用可能な油圧用を使えば変形は抑制できたのではないだろうか。シリンダ内にはグリースが塗布されると思うが、それでは不都合だろうか。何より、本来接触しない場所にテフロンを巻くのは対処療法的だ。いっそスリッパーシールを使用する選択もあったのではないだろうか。
テフロンのシールというと磨滅が心配だと思っていた。最高摺動速度も半端ではないだろう。改めて調べてみると、テフロンに充填剤が添加されると性能が改善されるようだ。

 一方、シリンダメーカーはシリンダ内面の性能アップを目指した。既存品の内径のバラツキは0.4mmにも達するという。これは面粗さに相当する数字で、空圧機器としてのシリンダでは有り得ないオーダーだろう。0.07mm以内に修正された。
 摺動抵抗の削減により、外力によりシリンダ内のエアを圧縮する力が増して、縮小するストロークが増加した。このためロッドを60mm長くしたが、それだけ踏みこめるという事だろうか。他にもロッドカバーとロッドの隙間の改善があった。ピストンは若干長く変更されたようだが、私には理由が分からない。

 これを元チャンピオンに試してもらったのだが、さほど高くない2.4mのバーに引っ掛けてしまった。記録を狙ってバーを越える際は体からホッピングマシンを離してしまうだろうが、余裕でそのままで越えようとしたのでロッドが60mm長くなった分感覚がつかめずに引っ掛けたように見えた。

 ここまでは前半で8/22の放送分だ。道具に慣れれば世界記録も可能と、後半の展開を予想したが、NHKのHPには靴メーカーの名前も出ている。靴の衝撃吸収性能を上げて更なる高みを目指すのだろうかと思いながら、1週間待った。

 8/29の放送は予測通りとはならなかった。元チャンピオンは2.4mをなめてかかったから失敗したと、私は感じたが開発の方向はそうならなかった。60mmのロッド延長は撤回された。岩のような硬さの予圧が復活して、代わりに足の衝撃をやわらげる靴が開発された。
 再度のチャレンジでは、元チャンピオンはホッピングマシンを水平に傾けてロッドの長さは無関係なフォームで飛んでいた。コンダクターは誰なのだろうか。判断を間違うと、すべてが元の木阿弥になってしまう。
 結果は推して知るべしだが、これぞまさに「蛇足」というものだった。付き合わされた全てのメーカーには気の毒な事だが。 (2015/8/29)

2015/9/3追記
 あまりの事態に結果は推して知るべし書いてしまった。それでは説明不足と思い追記した。
失敗の仕方が悪すぎた。予圧型のホッピングマシンを渡された元チャンピオンは2.4mから試技を始めたが初回は失敗した。元チャンピオンは新しい道具に対して練習する間も与えられずにぶっつけ本番なのだろうか。これで世界記録を狙えというのは無理な話だろう。
 世界記録の3.225mへのトライは初回は惜しかったが、2回目は予圧を忘れて飛んで足を痛め、更に2回のトライも成功できなかった。
 靴の衝撃吸収性能を上げるという事は、衝撃の反力を使って飛び上がるわけだから、飛び上がる為の力を削ぐと言う事だ。予圧型を使えないならば他の方法を模索すべきだろう。ロッドを長くしたくなければ(ストロークを長くしたくなければ)同じ仕事量をこなすためにはシリンダ径を増やす方法がある。2インチ(50mm)程に見えるシリンダだが、専門メーカーがやるのだからもっと最適な径の選択も可能だろう。
 それに元チャンピオンにも疑問がある。世界チャンピオンは飛ぶ際に道具を体から離している。飛ぶ事とは別に高いバーを越えるための工夫だ。そんな工夫はやるつもりはないのだろうか。


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