アブト式

 アプト式という言葉は小学生の頃から知っていた。鉄道に興味があれば、絵本に載っているいるからすぐに覚えるだろう。しかし、少し勘違いがあった。ピニオンとラックが付いて急こう配を上る事が出来る鉄道と思っていたが、ラックが1本のものはアプト式とは言わないという。2本又は3本のラックがあるものをアプト式というそうだ。昔、ABTさんが発明して特許を取った方式だという。よって、アプトではなくアブトが正しい。

 その昔帰郷の際は、信越線経由だったので、碓氷峠越えで昔(小学生の頃まで)アブト式だった線路を粘着駆動補助機関車に牽引されて通った。ついでに補助機関車連結の為に停車した横川駅で釜飯もよく買ったものだ。
 すっかりラック式鉄道など過去のものと思っていたが、今も全盛の土地を訪ねてきた。ゴルナーグラート鉄道ユングフラウ鉄道などだ。前者の方は2本ラック後者は1本ラックだ。ガイドにその違いを訊いて初めて、上述の通り間違いが分かった。ついでに大井川鉄道は3本ラックであり、現在はどの方式も改善されて使用されているという。

 「現在はどの方式も改善されて使用されている」と言う事に引っ掛かりがあったので、帰って調べてみた。
 現代のインボリュート歯車を知る者にとって、1本ラックでどうしていけないのだろうかという疑問が起きる。2本や3本にすると、位相差を正確に管理しなければならないし、歯幅も狭くなってしまい強度や剛性が低下する。アブト式の利点を感じる事ができない。

 調べてみると、「アプト式は、動力車が蒸気機関車・蒸気動車だった時代に開発されたが、蒸気動力車は動輪そのものがピストンの往復運動を回転運動に変えるクランクの役を果たしている関係から、動軸の衝動が大きく、このためピニオンがラックレールから外れることのないよう対策する必要があった。しかし、近年に入って動力車が電気機関車・電車になり、またベアリングのコロがり軸受け(ローラーベアリング、ボールベアリング)化とその改良もあって、動軸の衝動は特に対策しなくてもよい範囲に収まるようになったため、シンプルで低コストのこれらの形式(単純型ラックレール)がうみだされた。」という。
 これで納得した。但しゴルナーグラート鉄道は、当初から電化されているという。過渡期だったのだろう。架線も2本(上述写真参照)で3相モータ駆動だ。ちなみに乗り心地は、双方の違いは実感できないが独特の振動はある。歯車のかみ合い率や歯車剛性の影響があるのだろう。

 旅だが、6日間連続のハイキングだった。何れも展望台まで乗り物で上がって、下りが主のハイキングコースを、景色を眺めながら歩くわけだからそれほど過酷ではなかった。ツアーには70代や80代の方も参加されていた。自分も10年、20年後も斯くありたいと思った次第だ。
 天候にも恵まれて、マッターホルンはリッフェルベルクから、スネガー展望台(ライゼー)から、ツェルマットから、クラインマッターホルンから、ゲンミ峠などから眺めることができた。そして、アイガーやユングフラウはグリンデルワルドから、スフィンクス展望台から、クライネシャイディックから、フィルストから眺めることができた。又、サースフェーでも楽しめた
 今年は雪解けが遅く、アルプへの放牧も遅れていて、8月に入ってもアルプは花盛りだった。牛に食べられて、チーズになる前に花も堪能できた。 (2013/8/10)


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