選を受けたその他の歌一覧

袴田朱夏言の葉の床

数学セミナー 数学短歌の時間

題「対称」

心臓が右にないからその胸に斜めに顔をうずめさせてね

題「証明」

君こそが私が私であることの証明である余白は要らぬ

自由題

対称の真円なる輪折り祟り終わる難縁、死のうよ 強いたたいしようのしんえんなるわおりたたりおわるなんえんしのうよしいた

自由題

数学も短歌も紙とペンだけで成せるものなり最小遊戯

短歌研究 うたう★クラブ

許すとは許されることゆらゆらと優等生が揺れる夕凪

(加藤治郎様のコーチングのもとでの最終稿)

タイムラインわたしが消費されていく…消費?わたしはフラスコである

「誰しもが自死を一度は考える」そう言う君はなぜしたり顔

(横山未来子様のコーチングのもとでの最終稿)

長雨の繭が午睡をゆるすので夜をまあるく背骨で包む

うたらば

題「和」

感情の総和をゼロにするためにポテトチップス飲むように食む

題「信」

信じない自由もあると勧誘の少女は神をかばんにしまう

題「種」

「おとうさんピタゴラザウルスつくってよ」NHKが新種を生めり

題「外」

点Pが用紙の外の春風にさらわれるよう補助線を引け

題「青春」

初めて買ったメンズノンノの置き場所に困る 夕食まであと二分

題「指」二首

子が指を銃のかたちにして遊ぶずっと遊びでありますように

君が突き立てた中指もぎ取って家族に晒す覚悟があるかい

題「欲」

ほしいのはあの子だけれど無理 せめていいね!がほしい花いちもんめ

題「雪」

絵筆から陰影だけを受け取って雪原になる画用紙の白

題「歌」

ひとつひとつ生きた証を光らせて歌を詠むとは散骨である

題「駅」

降りるべき駅を逃した 降りるべき駅はわたしを逃がしてくれた

題「次」

疑わず「次へ進む」をクリックし平和な落とし穴ならいいや

題「分」

数年来ずうっと棚に上げてきた自分よごめんもう降ろせない

題「平」

ほおづえの平衡点でゆらゆらとうたた寝になる春の力学

題「星」

秋の夜にドロップキック座とつける我ひとり見る星の並びに

題「戦」

空母とふ名であればこそ子を戦に送る心の苦しからずや

令和36歌仙

題「百」

百合根なら塩でからんと炒めればおいしいわよと劉さんが言う

きりんねこ短歌合評会

おとうとが生まれた夜の長男は自分が泥になる夢を見る

ほっぺたをはんぶんこするやりかたはくっつけること おもしろいねえ

やわらかい芯があなたにあることのだんだん消えてゆく朝のみち

ほぼあっているけどあとはわたしにもわからないから声でさがして

脱ぎ捨ててきた靴くらいには気にかけてほしい、森にはわたしの湿り

たんたか短歌

題「昼」

小遣いは昼食込みで三万の財布にたまるレシートすが

題「愛」

だからこそ愛するんだろひたすらにのび太がだめなほうの世紀を

題「皆」

「みんなもう、おにいちゃんやな、きょう受験?へえ」と聞こえて車内明るし

題「安」

一〇〇〇グラム未満で生まれた児のことを貼り紙に見てよくない安堵

題「光」

はつなつのバレエスタジオひかりには手足がなくてかわいそうだね

題「手」

子のうしろ自転車支える手を放しひとつひとつの一つが終わる

題「圧」

れたての自重を知らぬ足に書く「ユリコベビー」の筆圧確か

題「星」

もう主語をなくした星で波だけが生きるのだろう青い夕暮れ

題「祖」

やさしさもやさしくゆずる祖父だったことをやさしく言うのだ父は

題「花」

花の名をスズランとしたその人のこころの鈴の音のあったこと

題「動物」

これは不労所得だろうか子どもから蝉の抜け殻たくさんもらう

題「色」

うすバナナ色のことばで卒乳を妻はよくよく児と話し合う

詩の街ゆざわ

階段を上がればひかりあなただとわかるかたちの影が手を振る

ダ・ヴィンチ 短歌ください

課長のじゃ別にないけど係長が課長の窓と呼ぶ窓がある

題「尻尾」

サイゴンのテールスープは牛だとは限らないけどたぶん牛だった

短歌同人『異国』公募

題「言語」

聴き取れたときに異国の風となり我に吹き込む "Is that all?"

まな板杯

まな板杯スピンオフ コースター杯 題「飲」

ぷはあには名前がないんだね ぷはあ、おまえに会うための生ビール

題「食」

袋から出さずに割ったサブレーがわたしの中できれいに飛ぶよ

和歌の浦短歌賞

題「和歌の浦」

波音をくぐりぬければ和歌浦にふたりがふたりだった春の日

短歌で景色標本

題「長い夜」

読み切った詩が長い夜わたしに死に、した悪酔いが流した月見よよみきつたしがながいよるわたしにしにしたわるよいがながしたつきみよ

恋愛短歌同好会

雲泥の泥のほうですふわふわといなくなったりしません 好きです

全日本短歌大会

生前と死後の境をぱんと打つ夏の終わりをふらりゆく蚊の

現代短歌新聞 読者歌壇

みどり児の爪食い込んでカルシウム不足はないと二の腕が知る

わたしより不幸な人に会うときのわたしの顔をするなわたしよ

いく筋のひかりを払いふくらんだ川面がついに白鷺となる

六歳が五人あつまり老木はよいしょと抜けてやったのだろう

二の腕はあなたのひかりビリジアンのカットソーからこぼれて笑う

声ひとつ出さないままに乗客をやり終える人ばかりですごい

八月の銀河の底に手を入れて黒き田螺を子は引き出せり

年収の差になる前のおまえとのなんの差だったおまえの涙

朝霧の露をひとしく纏いきてダンプトラックいよいよ黒し

いっせいに稲穂傾げてああ海が越後平野にはみ出してゆく

カーテンに夜をまかせてこわがってふたりして見る雷きれい

ああ隠し通路ばかりだ先斗町秋のあなたと月をうしなう

円安の坂をころがり落ちてくる外貨がちゃがちゃ京都をまわす

はじめてのまぼろしなるや食みて児のわらえり初夏のソフトクリーム

蹴り上げてしぶきになった海のまた海に戻ってゆくまでが夏

液晶のむこうに風が吹いていて帽子はピクセル未満になった