定食(刺身)
2017.02.19
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さて、2017年一発目となる日本海食堂来訪。昨夜の雪はすっかり溶け、上空には抜ける様な青空が広が
っています。外れかけた屋根の雨樋からは絶え間なく雪融け水が流れ落ち、早くも冬の終わりが近い気がして
きます。
1140、一人目の客として開店早々の日本海食堂に突入。最近は目玉焼きやうどん等の軽量級メニューが
続きましたが、本日のお目当ては久しぶりの大物定食(刺身)であります。古めかしいドライブインである日
本海食堂の中でもやや異質なメニューではありますが、そもそも昔は長距離トラッカーの憩いの場だったこの
日本海食堂。遠い所からトラックを転がして来たものの、ゆっくり富山の魚を楽しむ時間もない・・・そんな
トラッカー達の要望に応えたメニューだったのでしょう。
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またこの日本海食堂、以前は寿司コーナーも併設していたので、魚の扱いに関してはそこらの食堂の比では
ないはず。残念ながら今は寿司コーナーは畳んでしまった様ですが、団体さん相手の特別メニューとしてお刺
身盛り合わせが出ているところを何度も見ているので、期待できそうですよ。
ちなみにこの日本海食堂の刺身定食ですが、正面ショーケース内に1~2鉢のお刺身があり、一品ものとし
て出れば刺身定食は終了、刺身定食が出れば一品もののお刺身も終了・・・という非常に合理的な方式になっ
ている模様です。どうしてもロスが多くなる個人経営の食堂、材料の無駄を抑えながらコストを下げ、少しで
もお客さんが食事を楽しめるように・・・というご主人さんの工夫ですね。
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という訳で、本日のお刺身は開店早々に私が頂いてしまいます(笑)。もっとも昼の営業が終わったあと、
夜用に新たなお刺身が準備されるのかもしれませんが。
そのお刺身ですが、海の幸に恵まれた富山らしく季節によって様々なお刺身がショーケースに入ります。私
が見た限りでも、締めサバやよこわ、ブリ、さす(クロカワカジキ)、マグロなど多種多様。ちなみに本日シ
ョーケース内に控えているのは、ブリの出世ひとつ前であるがんど。一般的にはハマチやワラサ等と呼ばれま
すが、富山ではこづくら→ふくらぎ→がんど→ブリという出世順であります。
そのがんど、流石に10㎏クラスの特上ブリほどの脂のノリはありませんが、それでも富山湾の天然もの、
濃厚で爽やかな味わいは決して他の魚に見劣りしません。
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ちなみにこのがんど、最近はがんどぶりという名前で売られている事が多いですが、私が小さい頃はぶりは
ぶり、がんどはがんどだった気がしますが・・・。いつの間にこんな呼ばれ方になったんだろう。
とは言え、がんどはがんどで美味しい魚ですからね。まだブリじゃない・・・というだけでがっかりされた
り下に見られるのは、地元で魚にかかわる人にとっては残念な気分でしょう。少々紛らわしく奇手奇策ではあ
りますが、その美味しさを知ってもらうにはまず名前で注目を引いて、実際に食べてもらってなんぼ・・・と
いう考え方には頷けます。
その一方で、地元の料理人の方に言わせれば
「やっぱりブリはブリですよ!私ら8㎏以下はブリなんて呼びたくないですからね(笑)」
との事なんですから、ことブリに関する富山の料理人の気合とプライドにはすごいものがあります。
余計な語りが長くなってしまいましたが、日本海食堂の刺身定食です。それにしても、刺身ってのがなんだ
か不思議な響きだなあ。私も一応大阪人の端くれなので、刺身ではなく『お造り』というのが普通なんですよ
ね。とは言え、最近は大阪でも刺身という呼び方が普通に浸透しつつありますし、つくづく言葉は生き物です。
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そんな事を考えながら熱いお茶をすすっていると、やってきました刺身定食!正面には先ほどのがんどのお
刺身がどっかと鎮座し、その周囲をご飯、漬物、味噌汁、フライものが固めています。この日本海食堂の最高
価格帯に君臨するに相応しい、実に豪華な面々。がんどの鋭い切り口は実に美しく、滑らかそうな脂がキラキ
ラに輝いています。
まずは小皿に醤油を注ぎ、たっぷりのワサビを溶いて、と。ちなみにワサビの使い方ですが、ブリやがんど、
マグロ中トロ等の脂の多い魚の時は、最初からたっぷりと醤油に溶かすのが私のやり方。逆にヒラメやカレイ、
キスなどの淡白な味わいの魚の場合は、ギリギリまで少ない量のワサビを醤油皿の端っこにおいて、ワサビと
醤油の織り成す微妙なコントラストを楽しみながら頂くのですが、このやり方だとお刺身盛り合わせの時に非
常に困ってしまうんですよね。
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濃厚な脂とたっぷりワサビが入った醤油で繊細な白身魚を頂くのはなんだかとても残念な気がしますし、白
身用のワサビを控えたすっきり醤油では脂の乗りきった魚には太刀打ちできません。あちらを立てればこちら
が立たず。そもそもそれぞれに個性的な味わいが揃うお刺身盛り合わせを、一つのワサビ醤油で食べる方に無
理があるのでは・・・。
ならワサビちょっぴり醤油で最初に淡白な白身系を攻め、然る後にワサビをたっぷり溶かした醤油で脂の強
いお刺身を頂けばいいのですが、それはそれであまりに順序や原則に捉われ過ぎている気がします。
また、しっかり脂ののった青魚の場合は青ネギ小口切り&醤油で行きたいですし、真鯛の平造りはワサビ醤
油でよくても腹身の削ぎ切りは穂紫蘇&醤油で頂きたい。そこに新鮮なキモがついたカワハギなんかが入って
きたら・・・あああああもうどうすればいいのやら。
鍋物の薬味入れにある、小皿が2つ3つ繋がったお皿があれば助かるのですが、お店にそれを持ち込むのも
少し気が引けます。かといって小皿を何枚も出してもらうのも、自分の薄っぺらいコダワリをひけらかしてい
るみたいでちょっとなあ。
重ねる事が出来る模型用の金属製の小さな塗料皿を持ち込む事も考えましたが、それはあまりに見た目が美
しくなさすぎる。っていうか、そもそもこんなことを書き散らしている時点で、薄っぺらいコダワリをひけら
かしているのと同じだよなあ・・・うーん・・・。
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またまた話が脱線してしまいました。今回は極めて潔いがんど一本勝負なので、安心して最初からわさびた
っぷり醤油を作ります。という訳で、まずは一口。
おおお、この分厚い旨味!しっかり脂がのっているのに少しも下品ではない、高貴な豊饒さを感じさせる味
わいだなあ。厚めの切り方はがんどの旨味を一切逃がすことなく、冷たい脂も室温の醤油にほんのり溶かされ
て実になまめかしい味わいになっています。
この冬の富山湾は上物のブリが豊漁で、私もお刺身に塩焼きに照り焼きに味噌漬けに・・・と、お手軽価格
で十分に堪能させてもらいましたが、がんどはがんどでやっぱり美味しい魚だなあ。立て続けに3切れぐらい
食べてしまいました。
おっと、がんどに夢中になるあまり、フライものを忘れていましたよ。小皿に高く盛られているのはエビフ
ライ、イカリング、厚焼き玉子。さらに茹でたブロッコリーとキャベツ、ニンジン、キュウリ、ポテトサラダ、
あとトマト。この品目の多さが日本海食堂だなあ。揚げたてフライに寄り添ったトマトがやや温かくなってい
ますが、これはこれで味わいです。小さな小皿に役者たちがてんこ盛りになっている様子は、なんだか開演前
の楽屋にいる旅役者一座みたいで、雑然とした高揚感に満ちているのがいい感じ。
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主役を張るフライ2品にはケチャップとウスターソースを混ぜたと思われるソースと、あとマヨネーズが添
えられていました。名脇役の卵焼きは関東風の甘い味つけで、これはお酒にも合いそうだなあ。
ん?待てよ?もしかしてこの刺身定食って、ビールと熱燗があってこそ本来の輝きを見せてくれるんじゃな
いでしょうか?まずビールで熱々のフライと卵焼きを頂き、その後は熱燗でがんどのお刺身を頂く・・・なん
だこりゃ、まさしく大人のお子様ランチではありませんか(笑)!
そうなると、がんどのお刺身の食べ方についても一考を要する気がします。まず2切れ3切れのがんどをワ
サビ醤油でヅケにしておいて、その間に熱々のフライでビールを頂く。そして熱燗でがんどお刺身を美味しく
頂き、最後は熱々のご飯にがんどヅケを乗せて・・・。
いや待てよ、思い切ってポットの熱いお茶を注ぎ、がんどヅケ茶漬けという手もありますね。いやいやいや
ちょっと待て、さっと作ったがんどヅケをすぐにご飯に埋め込んで、しばらく蒸す様になじませるのもアリで
しょう。一見洗い物が増えるだけに思えるこのどんぶりのフタには、こういう楽しみ方もあるんだよ・・・と
いうご主人のメッセージが込められているのでは?あああああ、もう一体俺はどうすればいいんだ!
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半ばパニックになりかけた私の頭を、北陸独特の塩気の強いシンプルな味噌汁が優しくクールダウンしてく
れる様。しゃりしゃりと香気高い白ネギ君と滑らかなお豆腐君が、
「ちょっと落ち着け、好きなように食べればいいんだ、日本海食堂も刺身定食も逃げないから(笑)」
と言ってくれている様な気がします。
豊かな漁場を誇る富山湾。季節によって美味しい魚は様々で、その食べ方や楽しみ方も千差万別です。うー
ん、こうなったら春夏秋冬、それぞれに違った顔を見せるであろう刺身定食を食べてみないと・・・。
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2014年の年末から始まった日本海食堂全メニュー制覇の道のりも、気がつけばもう2/3までやってき
ました。当初は一品でも多く一日でも早く・・・と鼻息荒く通い詰めたものの、いつの間にか折り返し地点を
過ぎていたと思うと、ちょっと寂しい気がしますね。
コーヒーやコーラは日本海食堂独自の味ではないでしょうし、単品の肉いためと野菜いためは定食と同内容
なので、あえてもう一度単品で食べる必要はないでしょう。となると残るメニューは、テーブル上のPOPメ
ニューにあるモツうどんを含めて15品。おっと、季節もののざるそばと冷やし中華も入れると17品か。順
調にいけば、来年中にはゴールできるでしょうか。
となると、そろそろ締めに向かっての食べる順番を考えておきたいところ。最後はぐっと盛り上げながら、
そして可能な限り美しい着地を決めたい・・・そんな事を考えつつ、日本海食堂を後にしました。
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