かつ定食
さて、残すところ2品となった日本海食堂全品制覇チャレンジ、今回は最後の大物と言うべきかつ定食です。
肉いため定食、定食(刺身)と並んで日本海食堂最高価格帯に聳え立つかつ定食。準決勝とは言え、質量とも
に事実上の決勝戦と言っていいメニューであります。
1130、まだ開店前の日本海食堂に到着。3月の北陸の空気はまだ冷たく、目の前の立山連峰は真っ白。
春はまだ先だなあ・・・と感慨にふけっていると、すぐにおばちゃんが玄関を開けに来ました。明けのお客は
私一人か。超大物との直接対決に相応しい、身の引き締まる様な一対一のオープニングです。
「かつ定食、お願いします」
と注文した後は、本日のおすすめ黒板を確認してからショーケース内の一品ものに目を走らせます。おっ、
今日は刺身が3皿もありますね。はちめの煮つけも美味しそうな色してるなあ・・・あれ?ショーケースの上
に天ぷらがありますよ?
かぼちゃ、茄子、さつまいも、ピーマン、レンコンかな?よく考えたら日本海食堂で天ぷらを見るのは初め
てな気がします。店主さんの新機軸でしょうか。普段なら迷うことなく注文するところですが、流石にこの年
齢になってかつ定食のサイドメニューに天ぷらをつけるのはちょっとキツすぎる・・・。
とは言え、次来た時もあるとは限りません。やはり今食べておくべきか?でも、カロリー的にはかつ定食だ
けでいっぱいいっぱいだろうなあ。やはり今日のところは天ぷらは諦めるか。ぐぬぬ、貴重なチャンスだった
のに・・・。
ポットのお茶を入れ、いつもの席につきます。天井が高い日本海食堂特有の、開店直後のひんやりした空気。
湿ったホコリのニオイ。石油ストーブのニオイ。テーブル上のPOPスタンドには、創業当時と思われる日本
海食堂の古い写真が飾られてあります。怪しいレトログッズが溢れかえっている今の日本海食堂とはずいぶん
違うなあ(笑)。
日曜昼だというのにお客さんの出足が遅く、今日は私一人きりの日本海食堂。深く静かなひとときを味わっ
ていると、お、来ました来ました。私のかつ定食が。
到着したかつ定食を見てまず驚いたのが、普通に大きなトンカツが出て来た事。いや、それで普通なんです
けど、メニュー表記が『とんかつ定食』じゃなくて『かつ定食』だから、こちらの裏をかいていろんな揚げも
のの盛り合わせ的な定食を予想していたんですよね。まさか裏の裏をかいて、一枚物の大きなとんかつが来る
とは思いませんでした。第一球目を完全に読み間違え、見逃しストライクを取られた気分。
あとこの、大きなとんかつの前に添えられているこれは・・・あ!もしかしてこれ、さっきの天ぷらでは?
しかしまたなんでとんかつの横に天ぷらがいるんだろう。ひょっとしたら店主さん、かつ定食を注文したあと
新商品の天ぷらに目が釘付けになっていた私の事を、厨房の奥の方で見ていたのかな?
「ははあ、かつ定食を注文したものの、あとから見つけた天ぷらに心が揺れ動いているな。仕方ない、天ぷ
らおまけしとくか(笑)」
そんな店主さんの、ちょっと乱暴なサービスだったのかも。普通とんかつの付け合わせに天ぷらなんて、ま
ずないでしょうし(笑)。店主さんの計らいに心の中で一礼を捧げつつ、素早くかつ定食の全容を確認。超大
物かつ定食攻略の流れを組み立てます。
別皿にとんかつソースがついていますが、8切れにカットされた大きなとんかつをこれ一色のみで味わうの
は、ちょっともったいない気がするなあ・・・と、ここで目に留まったのがテーブル上の調味料セット。日本
海食堂のメニューは最初からきちんと味が決まった状態で提供されるので、これまであまり使った事のなかっ
た卓上調味料セットですが、今回は彼らの力を借りてこのかつ定食を変幻自在に味わい尽くすとしましょう。
手早く撮影を済ませ、まずは断面を確認。ああ、この端っこのじっとり濡れ光った脂肪部と、みっしり詰ま
った肉の部分がたまらなく美味しそう。厚みもしっかりあるしカラッと揚がったきつね色のコロモもトゲトゲ
で、ソースをたっぷりかけて食べたくなりますね。
という訳で、1切れ目は小皿のとんかつソース&練りカラシという黄金の組み合わせで攻めましょう。香ば
しい衣にまとわりつく甘酸っぱいとんかつソース、緩やかな刺激が鼻に抜けていく練りカラシ・・・。カツレ
ツでもキャトリトでもない、文句のつけようのない伝統的なニッポンのとんかつです。
ただ今回はビールを合わせていないので、このカラシの引き締め感はちょっと余計な気がするなあ。という
訳で、2切れ目はカラシ抜きのとんかつソースのみ。好みはそれぞれですが、うん、私はこっちの方が白ご飯
によく合う気がします。
3切れ目はレモン&塩。おお、レモンのすっきり爽やかテイストの中にも厚切り豚肉特有のどすこい感が生
きていて、これもかなり美味しい。とは言え、脂肪の甘さを引き立てるという意味では、この味つけは最も脂
っぽい端っこの部分で味わうべきでした。これは痛い失策です。
4切れ目はウスターソース&練りカラシ。とんかつソースに比べてスッキリ辛口でシンプルな味わいですが、
爽やかさでは先程のレモン&塩に及ばず、とんかつソース程豊かな味でもない・・・ちょっと中途半端な立ち
位置かなあ。しかし食べる順番を間違えなければ、もっと美味しく頂けたと思います。1番手か2番手あたり
に持ってくるべきだったかも。
しかしそういう意味ではこのかつ定食の食べ方は、一人前の握り寿司をどういう順番で食べるべきか?とい
う問題とも共通するものがありそう。ここまで抑えきれない空腹のままにノープランでぶつかってしまいまし
たが、もう少し冷静に戦略を練った方がよかったか・・・。
とは言え、あまり順番や作法に捉われるのも馬鹿馬鹿しいですし、その価値観を他人に押し付けるのも無粋
極まる話です。目の前にある一人前の寿司・・・いやとんかつを、いかに美味しく楽しく味わい尽くすか。今
の私にはそれが全てです。
閑話休題。目の前のとんかつに話を戻します。5切れ目は大きく趣向を変えて、一味唐辛子のみで頂いてみ
ましょう。これは初めて試す食べ方ですが、うーん・・・意外とパンチ力がないな。シンプルな辛さが豚肉の
甘さを引き出すかと思いきや、唐辛子の個性がコロモの油と豚肉の脂に完全に取り込まれています。
辛さそのものはきちんと感じられるので、これは単に組み合わせが私の好みではなかったというだけの話でし
ょう。
ここでいったん流れを変えるべく、付け合わせの生野菜に寄り道。定番の千切りキャベツにレタス、トマト、
キュウリ、スライスオニオン、あと冷たいポテトサラダが嬉しいなあ。先程からおっさん殺油地獄にあってい
た私の舌が、すっきり洗い流される感じです。
さらにここで嬉しいおまけ、天ぷらいってみましょう。かぼちゃ、さつまいも、茄子の3品ですが、これは
たまらない顔ぶれですね。まさに天ぷらになるために生まれて来たとしか思えない野菜達です。天つゆはない
ので醤油で頂きますが、うん、この醤油で食べる天ぷらというのもなかなか味わい深いものがあります。日本
酒に合わせるならみりんの甘さを塩で締めた天つゆが欲しいところですが、醤油をかけた天ぷらは不思議と白
ご飯によく合います。
さてとんかつに戻ります。6切れ目は醤油だけで、7切れ目は塩と胡椒で頂いたのちに、最後の8切れ目は
これまで食べた中で一番気に入った方法で頂く事に。そうですねえ・・・どれも美味しかったですが、やっぱ
りレモン&塩かな。程よいさっぱり感も、最後を締め括るには相応しいでしょう。
陶然と食べつくしてしまった至福のひと時でしたが、メインのとんかつ以外にも触れておかねばなりますま
い。味噌汁は豆腐とわかめ、白ネギ、えのきという大人し目の組み合わせ。膨大な旨味を誇るとんかつを支え
るには、これ位シンプルな方が合いますね。
小鉢はヒラタケとセリの和え物。強い甘みと胡麻の風味がよろしく、ややクドめの味つけも全体の中でいい
アクセントになっています。
お漬物は黄色いたくあんと、あと何故かほうれん草のおひたしが。この色使いは、北陸の春の訪れを待ちわ
びる店主さんの心映えでしょう。
それにしても、怒濤のとんかつ大行進だっただけに白ご飯の量が絶対的に足らず、終盤は苦戦を余儀なくさ
れました。最後にこの黄色いたくあんをお茶漬けでさらさらと流し込めたら、素晴らしく充実した締めになっ
たと思いますが、とんかつ5切れ目あたりで既に残り白ご飯が底をつき、最後は生野菜達の力を借りながら何
とかゴールにたどり着いた始末。
まあご飯をお代わりすれば済む話ですが、私も大概おっさんなので、その辺は自動ブレーキがかかってしま
いました。全く悲しい話です(笑)。日本海食堂のかつ定食のご飯おかわりは、やはり若者だけに許された特
権なのかもしれません。私はあまりに遅すぎた・・・。
と、最後は我ながら辛気臭い終わり方になってしまいましたが、それでもこの超充実かつ定食を平らげた満
足感は筆舌に尽くしがたいものがありました。舌が、歯が、喉が、そして胃袋が歓喜の唄声をあげている様。
次にこのかつ定食を食べるのはいつの日になるのか分かりませんが、事前の味つけの組み立てをしっかりとシ
ミュレーションして、最高の食べ方で臨みたいものです。
そういう意味では、まだまだ私はこのかつ定食を完璧に食べきったとは言えませんね。まったく奥が深いぜ、
日本海食堂・・・。
という訳で、日本海食堂全品制覇チャレンジもいよいよ次回でフィナーレです。深い満足感とさらなる覚悟
を胸に秘め、早春の日本海食堂を後にしました。
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