冷やし中華・ゴーヤーチャンプルー
2017.08.19
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お昼前に一ヶ月ぶりの日本海食堂に到着。途中で局所的な豪雨に見舞われましたが、水橋堅田上空は抜ける
様な青空。まさに冷やし中華日和と言わざるを得ません。
具はあくまでもシンプルに、焼き豚と薄焼き卵、あと刻みきゅうりのみ。しっかりと酸味の効いた甘辛醤油
だれをかけ回した細めの縮れ麺、皿の縁に添えられたひとすくいの練りカラシ・・・今日みたいな暑い日は、
そんなストイックな冷やし中華をつつっと頂くに限ります。
しばらく待って開店した日本海食堂。ちなみに正面のメニュー看板に冷やし中華の文字はなく、『冷やし中
華始めました』の告知もなし。でも、前回来訪時に地元っぽい人が注文していた『冷やし3つ』ってのは、絶
対冷やし中華だよなあ。念の為おばちゃんに尋ねてみると、ちゃんと季節メニューとして存在するとの事。よ
かったよかった。
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あともう一品欲しい所ですが、これが意外と難しい。焼き魚、煮魚、冷奴、おひたし、漬物・・・どれも冷
やし中華に合う様な合わない様な。トコロテンは論外だし・・・よし、これ、ゴーヤーチャンプルーいっとき
ましょう。北陸で食べるゴーヤーチャンプルーというのも変な感じですが、まあ夏ですからね。
湯呑に冷たいお茶を入れ、いつもの席に。背後の座敷席では巨大なクーラーがヴヴヴヴヴヴと鳴り響き、古
くさいブラウン管テレビからは高校野球中継が。そして私の横にあるラジオからはお昼時のヌルいトーク番組
が流れています。うるさいのに不思議な静けさを感じさせる、これが夏の終わりの日本海食堂の雰囲気。
なんというか、海の底に沈んだ難破船の中でひっそり営業している食堂みたいなイメージです。窓の外は8
月の夏の陽射しですが、頭上には何十m何百mもの冷たい海水が覆っている感じ。
そんな空想にひたっていると、冷やし中華が到着・・・って、んん~?んんんん~?これ、私が思ってた冷
やし中華と違う・・・。まるでちょっと高めのファミリー花火セットみたいな一品であります。
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それにしてもものすごい具の数と量だなあ。ざっと見たところもやし、チャーシュー、トマト、カイワレ、
紅ショウガ、メンマ、きゅうり、レタス、刻みキャベツ、あとカットされた厚焼き卵まで乗っています。一瞥
しただけでは全容の把握は困難。これだけ確認するのにガラス鉢をくるくると一回転させないといけない、超
3次元的などか盛りっぷりです。
しかもよく見ると、左半分には甘辛酸っぱい醤油だれ風の茶色いスープが、右半分にはゴマダレ風のスープ
がかかっています。その上山盛りになった具全体にマヨネーズがかけ回してあり、こんな質量ともに圧倒的な
冷やし中華を見たのは初めて。どうやら私、日本海食堂の冷やし中華を舐めていた様です。
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それにしても、どこから突き崩して行けばいいのか迷いますね。もはやK2レベルの超難関独立峰。取りつ
き口を求めて何度も何度も器をくるくる回しては頭をひねり、辛うじて見つけたカロリー的に最も弱そうなも
やしとトマトの隙間に、最初のアックス・・・もとい割り箸の先端を突き入れます。
ずるりと引き出した中華麺を、まずはひと口・・・うぐぐ、麺はけっこう太くかなりの硬茹で。冷やし中華
特有の涼しさを演出しようとして、あえて細麺を持ってくるようなヤワな店ではないのです。
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その後は腰まで埋まる雪原をラッセルするが如くわしわしと食べ進んで行きますが、なんというか・・・非
常に暑苦しい冷やし中華ですね。もちろん麺も具もスープも器もきちんと冷やしてあるのですが、これでもか
これでもかと押し寄せてくる具の物量。もともと十分な太さがあるのにあえて硬めに茹で上げた、一口分を何
回も何回も何回も噛む必要のある中華麺・・・はっきり言ってかなりの体力を消耗します。進めど進めど全く
高度を稼げないこの無力感・・・。
今日は暑いから、昼は冷やし中華でもつるつるっと・・・なんて軽く考えていたら強烈なカウンターパンチ
を喰らう、ベテランクライマーですら容易に寄せ付けない超難関冷やし中華であります。
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それにしても、全10種に及ぶ強烈な具のラインナップ。これっていわゆるトッピング全盛りって奴ですね。
そうそう、小さい頃はこういうのをやってみたかったんだよなあ。いつから私は、こんな無邪気な強欲さを失
ってしまったんだろう・・・。
「おいK、お前が小さい頃に憧れていたのはこういう冷やし中華だろ?まさか忘れちまったのか?」
と、冷やし中華が私に語りかけてくる様です(はい皆さん、いつもの病気が始まりました)。冷やし中華の
具は焼き豚と薄焼き卵、あと刻みきゅうりがあればそれで十分。茹でエビ?蒸し鶏?中華クラゲ?そんなのは
邪道!シンプルでベーシックなのが一番!なんて分かった様な気になっていたさっきまでの自分が、じわじわ
と恥ずかしく思えてきます。
「お前、しばらく見ないうちに随分つまんない大人になっちまったな・・・」
ああ、今、きっと俺はこの冷やし中華に落胆されている・・・。ちょっとショックな気持ちですが、苦笑い
と一緒にじんわりと沸き上がる、この何とも言えない懐かしい嬉しさ・・・こんなささやかで単純で純粋な夢
を、俺はいつの間に諦めてしまっていたんだろう。そうだ、この夏休みは、思い切っておっさんである事の自
覚を投げ捨てて、小さい頃の自分に戻ってみるべきではないでしょうか。
具体的に言うと麦わら帽子にランニングシャツと半ズボンを着用し、虫かごをたすき掛けにして虫捕り網を
持ち、アイスキャンディーを食べながら山の裏手のお寺でセミ獲りを・・・いや、それはどう考えても立派な
不審者だな。
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ともすれば迷走しがちな思考を元に戻しつつ、ゴーヤーチャンプルーに取り掛かります。薄切りになったゴ
ーヤーには豚バラ肉と焼き豆腐が絡まり、甘辛醤油味で炒め煮にしたゴーヤーチャンプルーは本場のそれとは
明らかに違いますが、これはこれで独自解釈に成功しているというか、美味しい一品になっていますね。豚バ
ラ肉の脂肪とコク、焼豆腐のふわりと優しい甘味、そしてゴーヤーの程よい苦みが甘辛醤油で見事に纏められ
ています。これは白ご飯が欲しくなるなあ。
本場の味とは明らかに異なるものの、守破離の末に自分流を確立し、見事独り立ちを果たした富山県日本海
食堂のゴーヤーチャンプルーとして、高く評価したい一品でありました。
冷やし中華800円、ゴーヤーチャンプルー350円の計1150円を払って日本海食堂を出ます。来た時
よりもさらに陽射しの強さを増した空には、大きな白い雲が浮かんでいます。そうか、お前がこの冷やし中華
を食べさせたかったんだな・・・。
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日々押し寄せてくるやるせない現実にくたびれ果て、いつの間にか夢を追う事を忘れてしまった全国のおっ
さん達は、今すぐ日本海食堂に来てあの冷やし中華を食べるべきでしょう。たとえひと時だけでも、俺達は取
り戻さねばならない。陰毛がなかったあの頃の自分を・・・。
ちょっと嬉しい苦笑い。ただこの一言に尽きる、日本海食堂の冷やし中華でありました。
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