牛どんぶり・大根葉おひたし

2017.09.30


       前回以来、約一ヶ月ぶりの日本海食堂。9月の末にしては暑いものの、空はすっかりらしくなってきまし
      た。さて、今日は何にしようかな。まだ食べていない残りメニューの中から、偏りが出ない様に丼ものを消化
      したいところですが、昨日は魚だったし今朝は早くから釣りで動き回っていたので、ここは肉っ気が欲しいと
      ころ。よし、牛どんぶりに決定です。
       あと、ショーケースの中からもう一品。魚や豆腐の煮ものでは甘辛醤油味が重なりますし、メインの牛どん
      ぶりを引き立てる意味でもあまりボリュームのあるものは避けるべき・・・よしこれ、菜っ葉のおひたし行っ
      ときましょう。いつものおばちゃんに力強く注文を告げ、冷たいお茶を入れていつもの席につきます。
       私の後から入って来た若い男は、おばちゃんに短く注文を告げたあと一直線に本棚に向かい、漫画の単行本
      を抜き出して席に座って読み始めました。この特殊極まる食堂の雰囲気を全く気に留めていないところが、い
      かにも長年通い慣れた日本海食堂のプロっぽい雰囲気。若いのになかなかやりますね。

       その後も観光客っぽいお客さんが入ってきたりで、今日は開店早々忙しそう。早めに来てよかったな・・・
      と思っていると、さっそく牛どんぶり&菜っ葉のおひたしがやってきました。
       こんもりと盛られた牛肉の頂上には一つまみの紅ショウガがあしらわれ、シンプル&トラディショナルな見
      た目
。前回の冷やし中華ではいきなりの先制パンチを食らってしまいましたが、今日は無難なオープニング
      な。少し安堵しつつ、まずは牛肉からいってみましょう。
       ほほう、なるほどこう来たか・・・。見た目通りの正統派、優等生的な味わいであります。北陸の醤油らし
      い甘味の効いた醤油味を予想していましたが、むしろ醤油のすっきりした塩辛さが勝っているのが意外。ほど
      良いところで煮込みをとどめている牛肉には十分な噛み締め味があり、なかなかいい塩梅です。柔らかくなる
      まで煮込んだ牛丼もあれはあれで美味しいものですが、このカミカミするうちにじんわりと舌の上に広がる
      肉のシブい旨味・・・
思わず頬が緩んでしまいます。

       続いてつゆのしみ込んだご飯を一口。見た目通りにあっさりと軽い味わいですが、それだけに旨味どっしり
      の牛肉とのコントラスト
が楽しめます。さっと煮る事で旨味を牛肉に閉じ込めるか、しっかり煮込んでつゆに
      旨味を引き出すか
・・・どちらも一長一短ですが、店主さんが一番美味しいと感じた牛丼は前者だったのでし
      ょう。
       それにしてもこの牛どんぶり、見た目以上に牛肉のボリュームがありますね。白ご飯とのバランスを考える
      と、断然牛肉の方が勝っています。これはお肉たっぷりだぜイエーイ!と受け取るべきか、トータルバランス
      に難あり
と評価すべきか・・・ちょっと悩むところだなあ。
       この牛どんぶりの最も美味しい食べ方は、まず牛肉の3/5ビールかお銚子で楽しんで、ほどよくいい気
      分になったところで残りの牛肉2/5をつゆのしみたご飯味噌汁漬物の力を借りながら頂く・・・これが
      私的にベストな戦術でしょうね。

       その味噌汁を頂いてみましょう。富山独特の塩味の強いさらりとした味噌を使っていて、具はワカメえの
      き
青ネギみょうが。牛どんぶりの旨味が分厚いだけに、これぐらいライトな味噌汁がちょうどよく合いま
      す。
       漬物はきゅうりの浅漬けですが、皮の部分をしましま模様に剥いてあるのが、なんだかウリ坊みたいでカワ
      イイ
なあ(笑)。お年寄りでも食べやすい様に固い皮を削りつつ、漬け時間を早めてきゅうりの爽やかな持ち
      味
を残す巧みな工夫。

       そして一品ものの菜っ葉のおひたし。出汁に僅かな薄口しょうゆを効かせた味つけで、これもあっさり上品
      な味わい。これは・・・大根の間引き菜かな?細切れに入っている白いものは、熟していない大根を刻んだも
      のでしょうか。
       その正体をおばちゃんに聞いてみたかったですが、さっきから忙しそうで声をかけるのが躊躇われます。ま
      あいいか、またいつかこれがショーケースに並んでいたら、その時に尋ねてみましょう。これもまた日本海食
      堂に通う楽しみの一つです。
       いやあ、シンプルで力強い、実に美味しい牛どんぶりでした。予想外にごくごく普通の内容だったので、若
      干個性の見極めが難しくはありましたが(笑)、ある意味万人にお勧めしやすい一品と言えますね。この味が
      ダメという人は、米と醤油、味噌で育った日本人の中にはいないと思いますし。

       日本海食堂全品制覇レポをやっていると、閲覧者の方から『お勧めはなんですか?』と聞かれる事がありま
      す。その人の性別年齢嗜好、その時の季節感を勘案しつつ、ソムリエよろしくお勧めの一品をお伝えして
      いますが、これがなかなか難しい。
       いかにも食べそうな若い男性なら迫力満点の肉いため定食がお勧めですし、寒い時期なら鍋焼きうどん
      目そば
で温まってもらいたい。女性にはヘルシーな塩ラーメン野菜いため定食が良さそうですし、元気なお
      っさんならオムライスでレトロな懐かしさを共有したいところ。夏なら遊び心満点の冷やし中華がいいだろう
      なあ。
       小食な人にはいかにも北陸らしい甘い醤油味の煮ものを中心にご飯豚汁漬けものを合わせる伝統的定食
      屋スタイルがベストですし、お酒も楽しみたい人なら迷わず刺身定食一択!あれはまさに大人のお子様ランチ
      だ・・・。
       しかし、時としてそのどれにも当てはまらない場合があるんですよね。そんな時に自信をもってお勧めでき
      るのは、個性は薄くともオーソドックスで高い実力を誇るこの牛どんぶりになりそう。

       そういう意味でこの牛どんぶりは、埋まりそうでなかなか埋まらない隙間できっちり手堅い仕事を見せてく
      れる、実に頼れる存在だと言えます。こういうシブい仕事をこなしてくれるいぶし銀がいるからこそ、他のメ
      ニューはそれぞれの方向に先鋭化して個性を発揮することができるのでしょう。全メニューは、牛どんぶり君
      に敬礼!

       そんな牛どんぶり君の仕事人っぷりに深い感銘を受けながら、日本海食堂を後にしました。




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