五目そば・卵焼き
2015.12.05
1130、今年最後となる日本海食堂に到着。どんより曇った空と冷たい風が、富山県の冬を感じさせます。
玄関の前には準備中の看板があったので、なんとなく店の裏手の駐車場を歩いていると、厨房の窓ガラス越
しにご主人と目があってしまいました。ご主人は『どうぞ表に回ってください』という手振り。あちゃあ、急がせる
つもりはなかったのですが、悪いことしたかな・・・と玄関に向かうと、いつものおばちゃんが鍵を開けて迎えて
くれました。
開店直後のしんとした店内には、冷え込んだ空気と灯油ストーブの匂いが満ちています。さて、今日は何を
食べようかな。五目そばは最初から決めていましたが、あと一品。麺類だから、煮物は相性良くないなあ・・・
よし、これ、卵焼き。これも前から気になっていたんですよね。よその味の卵焼きって久しぶりですし。
セルフサービスのお茶を入れて、いつもの席に。ああ、このお茶の熱さがご馳走になる季節だなあ・・・と思
っていたら、おばちゃんがわざわざお茶を持ってきてくれました。お礼を言って、二つとも頂きます。
開店直後で人気の少ない、静かな静かな日本海食堂。はじめて来たのは、昨年のちょうど今頃でしたっけ。
あれからもう一年か・・・毎年のことながら、あっという間だったなあ。
ふとテーブルに置かれたPOPスタンドが目に入りました。『気がつけば 昭和が終わってから 22年が過ぎ
ていた』か。ああ、ほんとそんな感じ。ここにいると、つくづくそう思います。時代の流れに逆行しているのか取
り残されているのかよくわからない日本海食堂ですが、この店にはこの店にしかない時間がゆっくりと流れて
いる様。
そんな事を考えていると、お、来ました来ました、五目そば&卵焼き。湯気もうもうの五目そばは、とろみの
あるスープにたっぷりの野菜を乗せていて、これはなんとも美味しそう。濃い色合いのスープも、いかにも北
陸の醤油らしくていいですね。まずはスープを一口すすってみましょう。
ほほう、見た目の濃い醤油色とは裏腹に、意外とさらっとした優しい味わいですね。とは言えただ薄い訳で
なく、山盛りに入れられた野菜の深い味わいを感じさせるどっしりとしたさっぱり加減。色とりどりの具は非常
に種類が多く、これは五目どころじゃありません。ざっと見たところタケノコ、ほうれんそう、ニンジン、春菊、メ
ンマ、白ネギ、白菜、しいたけ。さらに茹でたブロッコリーまで参戦し、刻み白ネギもあしらわれています。
スープはとろみのおかげで熱さ十分。胃袋に入った途端にエンジンに火が入った感じですね。和の味付け
のなかにも微かに中華っぽいゴマ油の香りを感じますが、これは味付けメンマによるものかな。
それにしても、このスープはタマラナイものがあります。若い人はもう少し脂っ気のコクが欲しいところかもし
れませんが、おっさんになるとこういう味がしみじみ効いてくるんですよね(笑)。そういえばご主人は私とほぼ
同年代かな?自分が本当に美味しいと思うものを追求する姿勢には、共感を憶えます。
おっと、あまりに正面で堂々としていたので、チャーシューの存在を見落としてしまいました。とろとろになる
まで煮込まれた豚バラ肉の分厚く濃い甘辛味が、さっぱりスープと好対照。ズシンと響く様な脂肪の味わいと、
ゆるぎない大地を思わせる野菜の旨み。堪りませんね。
おっと、チャーシューの下から卵が出てきましたよ。アツアツのスープで煮込まれた卵は、白身ぷりぷり&黄
身とろとろという素晴らしい火の通り加減。箸で割ると黄身がとろけ出て、スープの味わいをより一層豊かにし
ています。
さらにその下から伏兵の様に出てきたのが、紅白ぐるぐるかまぼこ。おお、やっぱりこれがあると富山らしさ
が引き立ちますね!なんというか、年始の挨拶で訪れた庭付き木造平屋建ての上司の自宅、通された和室
にてお節料理を振舞われていたら、障子の蔭から艶やかな晴れ着を着た小さな姉妹が怖々こちらを覗いて
いたみたい。二人とも内気なのに見た事ないお客さんに興味津々というか、恥ずかしがり屋なのに好奇心が
抑えられない感じが実に微笑ましいなあ。
「ほら、こっちに来てちゃんと挨拶しなさい!」
とお父さんに言われて、真っ赤になっています(笑)。
と言うか、上司の家に年始の挨拶とか、今はもう聞いたことすらない話ですね。私自身そんな真似は一度も
した事がありませんし、原作のサザエさんでしか見た事のない風習です。なのにそんなイメージがはっきり思
い浮かんだというのが実に不思議ですが、これもやはり昭和の底にたまった沈殿物の様な、この日本海食堂
ならでは、か・・・。
この五目そばを別の場所で食べても、こんなイメージは湧いてこなかっただろうなあ。この場所で食べてこそ
真価を発揮する味であり、この土地と決して切り離すことのできない味・・・。そんな体験を求めて、私はこれか
らも370km離れた日本海食堂にやって来るのでしょう。
おっと、卵焼きの存在を忘れるところ。せっかくおばちゃんが温めてくれたのに、すっかり冷めてしまいまし
たが、ほほう、このあからさまな砂糖の甘さ・・・関西とはまるで異なった食文化ですねえ。しかしこれはこれで
イケますよ。自分の味とはまるで違う美味しい卵焼き、なんだか嬉しくなってしまいます。
そうですね、いつの日かここ日本海食堂の全メニューを制覇したら、ご飯とみそ汁、お漬物、あとこの卵焼き
に納豆という日本食の基本と言える組み合わせで、一人しみじみお祝いをしたいものです。8000m級の山々
全てに登頂を果たした登山家が、幼い頃におじいちゃんに手を引かれながら初めて登った故郷の低山に、も
う一度登ってみる感じ。ああ、それ、いいかもしれないな・・・。
いやあご馳走様でした。美味しかったなあ。次に来るのは年明けですね。おばちゃんにまた来ますと声をか
けつつ、五目そば800円と卵焼き300円の計1100円による至福のひとときを過ごした日本海食堂をあとに
しました。
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