水中処分母船YDT04一般公開in宇野港
2019.05.26
岡山県宇野港で行われた、水中処分母船YDT04の一般公開に参加してきました。水中処分母船とは、海
中に敷設された機雷や発見された不発弾の処理にあたるEOD(Explosive Ordnance Disposal diver、水中
処分員)の輸送、作業支援を行うためのフネで、役割としては掃海艇に似ていますね。
ただ、さまざまな掃海具や無人潜水艇を搭載している掃海艇とは違い、あくまで水中処分員の作業支援に特
化しており、その為船内には減圧症対策の再圧チェンバーを搭載。ダイバーの為の船という、非常に専門性の
高い支援船であります。
当日は早朝に大阪市内を出発し、山陽道をひた走って岡山県玉野市の宇野港に到着したのは0730。7年
前のたまの港フェスティバルで護衛艦せんだいを見に来た時の大混雑のイメージが残っていたので、ちょっと
早く来すぎたかな・・・と思いながらコインパーキングに車を預けて埠頭へと向かいます。今日は人気も殆ど
なく涼しい海風が吹き渡る宇野港ですが、なんなんだろうこのプコタン料理って・・・。
しばらく歩くと、おお、埠頭の向こうに水中処分母船YDT04が見えてきました!しかし思ったよりも人
がいないなあ。まだ1時間以上前とは言え、YDT04の周囲には2~3人ぐらいしかいません。なんだか拍
子抜けだなあ。時刻は0750、とりあえず人が少ないうちに撮影を済ませてしまいましょう。
ぱっと見は掃海艇に似ていますが、前甲板に20mm機関砲がありませんし、随分あっさりした見た目のY
DT04。掃海艇に比べて艦橋の横幅がないので、その分スッキリ背が高く見えますね。
艦橋の後方にはエッジが立った四角い煙突があり、その後ろにはクレーンが。そしてその左右両側にはゴム
ボートが一隻ずつ並んでいます。後甲板はそれなりの広さがありますが、ここも特に何も搭載されていないの
で、スカスカした印象。まるで艤装途中の掃海艇を見ているみたい。
特徴的なのは、艦尾左側に設置された昇降機。これは他の艦艇には見られない装備品ですね。EODや物資
の揚げ降ろしに使われるそうです。ここで
「揚げ旗、5分前!」
の艦内放送が流れ、隊員さん達が後部甲板に整列開始。あ、そうか、0800からの自衛艦旗掲揚があるん
でしたね。当直海曹が折り畳んだ自衛艦旗を旗竿のロープに括り付け、艇長が出てきたところで整列した隊員
さん達は一斉に敬礼。新しい一日が始まる身の引き締まる瞬間ですが、なんとなくみんなのんびりした雰囲気
なのは、昨夜の上陸を満喫したあとの空気でしょうか。
ふと見ると、陸海空と制服もばらばらな地本職員達も、自衛艦旗に正対して気をつけ。そんな中でも朝の散
歩でやってきたわんこだけは意味が分からないのか、地面にべったりと顎を伸ばしてくつろいでいます(笑)。
厳粛な雰囲気とのコントラストが効いていて、なんか笑ってしまいました。
「10秒前!」
の号令とともにラッパが鳴り響き、しばらくして国歌君が代のメロディとともに自衛艦旗・・・ではなく国
旗がしずしずと掲げられました。あれ?自衛艦旗じゃなくて国旗が掲げられるの?
「ぱぱっぱぱー」
「なおれ!」
の号令を合図に、なんとなくほっとした空気が埠頭全体に漂います。それにしても、撮影している人は私を
含めても7~8人しかいないんですね。中には明らかにマニアではないたまたま自転車で通りかかった人や、
釣りの人も混じってるし。本当に拍子抜けするぐらいに人が少ないイベントです。
甲板には当直士官がやってきて、整列した隊員達を前に何か話し始めました。この後の一般公開に関する注
意事項の確認でしょうか。
さて、あとは一般公開開始の0900まで何もありません。ふとみると埠頭の横が公園になっていて、埋め
立て時に余ったのか小さな築山が出来ています。芝生の具合も良さそうなので、ここで寝転がって一休み。
5月の朝の穏やかな陽射し、ゆったりと吹き抜ける心地いい海風・・・ああ、こんな海は久しぶりな気がす
るなあ。普段海に来るのって海自イベントと釣りの時ぐらいですし、その両方ともテンションが上がるのでの
んびり気分じゃないんだよなあ。こんなに緩やかな雰囲気の海自イベントって、いつ以来だろう。ここで
「広報役員、制服に着替え!」
との艦内放送が。時計を見ると0830ですが、相変わらず埠頭にはほとんど人がいません。ちゃんと地本
HPに告知があったのに。水中処分母船という地味な船なので人気がなかったのかなあ。
そして一般公開3分前になっても、誰も舷門前に並ばないのには本当に驚きました。6~7人がその辺にぱ
らぱらといるだけなので、そもそも並ぶ意味もありません。むしろ準備の隊員さんの数の方が多い位です。あ
まりの不人気ぶりに、YDT04の乗組員の人達ががっかりしてなければいいのですが・・・。
そして0900、一人の隊員さんが前に出てきて
「それでは、一般公開を開始します」
ぱらぱらと舷門に集まる人達。うーん、なんかホッとするなあ、この緩い雰囲気。十何年前にタイムスリッ
プした様です(笑)。さて、私も乗艦させていただきましょう。
後甲板にはロープワークの写真が展示してありましたが、竹竿とロープを使った体験結索は無し。見学に来
た子供と交流するチャンスだったのにもったいない気がしましたが、そもそも水中処分母船は定員僅か15名。
EODを足しても恐らく30人に満たない人員でしょうから、艇内各部署に説明係と安全係を配置すると、結
索体験に割ける人手がなかったのかも。
ここで私の後ろにいた人が、航海中のF作業(釣り)について隊員さんに質問。ああっ、それ私が質問しよ
うと思ってたのに(笑)。という訳で聞き耳を立てていると、質問された隊員さん曰く
「いやあ、普段はまずやりませんねえ(笑)。長期航海などで乗員のストレスが溜まって来た時に、気晴ら
しとしてやる事もあるみたいですけど(笑)」
との事。そもそも長期航海するタイプの船ではないですからねえ、水中処分母船って。釣り好きな隊員さん
もいるでしょうけど、休みの時に釣り場に出かけてのんびり釣りたい、というのが実際のところでしょう。
後甲板から見ると、船の正中線とも言うべき中央部にクレーンが配置してありました。この位置にあるのは
結構珍しい気がしますが、小さな船体だけに重いクレーンは中央部に配置する方が安定するんでしょうね。
その後は船外機付きゴムボートの脇を通って、右舷の舷側通路へ。なんというか、随分シンプルな造りだな
あ。通路の幅もかなり狭く、洋上で手すりを外すと歩くのがちょっと怖そう。
そこから少し歩くと、もう前甲板。掃海艇に装備されている20mm機関砲がないせいで、狭いながらもす
っきりした前甲板です。
艦首の小さな揚錨機の後方には波除けの衝立がありますが、これだけ小さなフネだとちょっと海が荒れたら
普通に甲板に波が被るんだろうなあ。
その後はラッタルを上がり、艦橋後部の旗甲板へ。そこから羅針儀と双眼鏡が立ち並ぶ狭いウイングを抜け
て、艦橋前の通路へ出ます。EODによる処理作業を見守るための場所ですが、足元が狭く背後の艦橋にはオ
ーバーハングがかかっているため、なんだか後ろから押されてつんのめっているみたいな落ち着かなさ。
艦橋内に入ってみると、掃海艇同様に周囲を窓に囲まれた設計なので、狭いながらもとても明るく開放的な
雰囲気。広いのに狭苦しく感じる護衛艦とは、比べ物にならない気分の良さがありますね。そのぶん陽射しが
モロに差し込むので真夏の暑さがキツそうです。冷房かけても効果は薄いんだろうなあ。
ここで目に止まったのが、艦橋右後方に置いてある海図台。あれ?護衛艦や掃海艇によくある机じゃなくて、
潜水艦みたいに海図台そのものがどーんと置いてあるんですね。そう簡単に外れたり動いたりするようなもの
ではありませんが、相当な重さがありそうなので海が荒れた時はちょっと怖そう。
その後は艦橋内のラッタルを下って、一層下の甲板へ。おお、科員食堂も公開されていますよ。ここもこぢ
んまりとしたスペースですが、小さな社員寮の食堂みたいで、それだけに家族的なまとまりが生まれそう。護
衛艦でも大型のものになると100~200人は乗っていますし、自然と同じ職域の人間が固まって席に座る
為、中には乗艦以来一度も会話した事のない人も珍しくないと聞いた事がありますが、このフネではそんな事
はないんだろうなあ。当直中の隊員と幹部を除くと、この食堂で食事をとる人間は恐らく10名いるかどうか。
まるで小さな会社の社員寮・・・というよりも、部活の合宿を毎日やってる雰囲気が近いかもしれません。
ビニールシートがかかったテーブルの上には事故防止啓発ポスターや健康相談など、いろんな掲示物が挟み
込まれていますが、奥のテーブルの上には内閣総理大臣や防衛大臣、事務官、政務官、幕僚長の写真がありま
した。うーん・・・自分の組織のトップの顔ぶれを知っておくのは確かに大事ですが、正直お食事時に見たい
顔ではない様な気が・・・(笑)。まあ上に喫食トレーを乗せれば見えなくなるので、問題ないか(笑)。
別のテーブルの上には、見学者が一言コメントを書き込むことが出来る乗艦記念ノートが置いてありました
が、すぐ隣にいる説明係の隊員さんに見られているみたいで、ちょっと書き込みづらく感じる人もいるのでは。
乗艦記念ノートは、説明係から少し離れた場所に置くのがいいと思います。
また、ノートを閉じた状態で置いてあるのも気になります。常に開いた状態にして、先に書き込んだ人のコ
メントを呼び水として見せるようにすれば、次の人も書き込みやすいでしょう。『何か書いてね♪』という親
しみやすい隊員さんお手製の紹介POPなんかがあれば、なおいいと思いました。
このあたりの見学者を迎える姿勢についてまだまだ踏み込みが浅いのは、普段あまり一般公開される機会の
ない水中処分母船らしい不器用さでしょうか。最近は護衛艦の一般公開に参加しても、隊員さんの方も昔に比
べて随分一般見学者慣れしてきたなあ・・・と思う事がありますが、それだけにこのYDT04の微妙に行き
届かないながらもフレンドリーな雰囲気は、この時代にあってある意味微笑ましく感じられますね。
ここで説明係のEODの人に少しお話を伺ってみました。どうやらEODは常にこのフネにいる訳ではなく、
任務や訓練の内容に応じてその都度必要なEODが送り込まれるとの事。その為、普段は海上よりも陸にいる
事が多いそうです。護衛艦でいえば、飛行科の人達みたいな立ち位置でしょうか。
とは言え、呉にいるEODが乗り込むのはこのYDT04だけですし、乗組員も船も勝手知ったる仲。狭い
フネの中では食堂も居住区も同じなので、お互いの距離は近いんだろうなあ。このあたりも、小さいフネなら
ではの居心地の良さなのかもしれません。
あと気になったのですが、普段EODは陸にいる方が多いという事は、久しぶりに船に乗り込むとやっぱり
船酔いに悩まされたりするんでしょうか?
「いやあ、さすがに普通の人よりは船に慣れてますんで(笑)、大丈夫ですよ(笑)」
との事でした。
おお、隣の士官室も公開されていますよ。しかし内部はかなり狭苦しく、席も5人分しかありません。ミサ
イル艇といい勝負だな、これは。おまけに室内には小銃保管庫だの金庫だのがすし詰めで、天井の低さも相ま
ってかなりの圧迫感。引き出しやキャビネットの殆どに南京錠やダイヤル錠がついているのも、独特の息苦し
さの一因だと思われますが、これはまあ仕方ないか。
士官室から出てきた時、科員食堂の方から
「今日の昼飯なに?おっ、カレー!?やっりー♪」
という先程の説明係のEODの人の、とても嬉しそうな声が聞こえてきました(笑)。カレーは何日続いて
も美味しいですからねえ。厳しい訓練と選抜を経て鍛え上げられる筋金入りのEODと言えども、子供みたい
に声が弾んでしまうのは仕方あるまい・・・(笑)。
それにしても、日曜なのにお昼はカレーなのか。おそらく一般公開の準備に給養員も駆り出されたので、あ
らかじめ作り置きが効く上に乗組員から人気の高いカレーが、金曜に引き続いて再登場となったんでしょう。
最後はEOD支援室。この船の主役とも言うべきEODが潜水前のミーティングを行ったり、潜水機材の手
入れを行う場所だそうです。広い区画の中央には大きな作業台があり、なんだか畳屋さんの店先に似てるなあ。
その作業台の上にはEOD達の日常の訓練風景が写真で紹介されていましたが、なんなんだろうこのダーテ
ィハリー潜水器ってのは。
「はい、これはいくつかある潜水機材の中でも最も気密度の高い潜水方式で、化学薬品等から潜水員を完全
に守れるようになってます」
と、説明係のEODの人。なるほど、いわば宇宙服に近いレベルの潜水服なんですね。C.イーストウッド
とは関係ないみたいでした。
最後は再び後甲板へ。隊員さんに艦尾の昇降機についてお話を伺ってみました。
「EOD以外にも、搭載されたゴムボートやいろんな物資をフネに積み込むのに使います。以前災害派遣に
参加した時は、救助犬もこの昇降機を使って乗せたんですけど、乗り慣れないのか救助犬が怯えてしまいまし
て(笑)。取扱員の人が必死になだめて、なんとか乗せる事が出来ました(笑)」
との事。動かす時はそれなりに作動音や振動があるだろうし、怖かったんだろうなあ、わんこ(笑)。
以上で水中処分戦YDT04の見学は終了。小さなフネだけに、がらがらに空いていたのは有難かったです
ね。とは言え、あまり人がいないのもそれはそれで寂しい気が。護衛艦の様な華はありませんが、乗組員とフ
ネとの距離が近いというか、なかなか興味深い一般公開でした。
その後はすぐ近くにあるJR宇野駅へ。終着駅独特の雰囲気を味わいに行ったのですが、なんとここで『た
まの自衛艦カレーひびき風』なるレトルトカレーを発見!うわあ、こんなものまであったのか・・・。しかし
またなんで玉野?と思いましたが、どうやらすぐ近くにある三井造船(株)玉野事業所にて建造された音響測
定艦ひびきのカレーを、レトルトで再現した模様です。
もっとも、ひびき『風』とあるので、呉や舞鶴の海自カレーに比べると再現度は低いと思われますが、こん
なローカルなカレーを買い逃したら次はいつ手に入るかわからないので、迷わず2つ購入。いやあ、岡山まで
来た甲斐があったなあ。実にいいお土産(食べるのは私ですが)が手に入った水中処分母船YDT04一般公
開でありました。
トップページに戻る
イベントレポート目次に戻る
|