松本駐屯地創設67周年記念行事
2017.04.15
長野県松本市で行われた、松本駐屯地創設67周年記念行事に行ってきました。松本には第13普通科連隊
を中核とし、第306施設隊や第2普通科直接支援小隊、第102施設直接支援大隊第1直接支援隊、駐屯地
業務隊、会計、通信、警務、長野地方連絡本部の各部隊が駐屯し、1998年に開催された長野オリンピック
における多大な協力の他に、昨年発生した熊本大震災や御嶽山の噴火災害、県防災ヘリの墜落事故、栃木県の
雪崩事故等の災害派遣にも参加した、まさに地元長野県の防衛防災の要と言える働きをしています。
またここ松本所在の部隊ですが、薬師岳、槍ヶ岳、奥穂高、八ヶ岳、駒ケ岳といった急峻な山岳地帯に囲ま
れた特殊な土地柄ゆえに、国内唯一の山岳部隊として名を馳せている事でも有名。高山病もなんのその、特に
松本で行われる山岳レンジャー教育訓練は全国でも指折りの過酷さを誇り、精強の名に恥じない気合いの入り
まくった駐屯地であります。
当日は深夜に大阪を出発し、名神、中央道、長野道を経由して0745に松本着。臨時駐車場に車を乗り入
れますが、この時間から既に17℃と予想外に暖かいのが意外。今回は上着を忘れるという大ポカをやらかし
たのでちょっと不安でしたが、この気温なら大丈夫かな?しかし細かい準備は完璧なのに、よりによって上着
を忘れるあたりが私らしいなあ・・・と自分でも呆れつつ、しばらく歩いて駐屯地正門に到着です。
しばらくすると、長野県警のワンボックス車がやってきました。警備の応援に駆け付けたらしく、係の隊員
さんと和やかに打ち合わせ開始。続いて松本広域消防局からの消防車も到着です。先の熊本大震災からちょう
ど1年が経つので、防災訓練展示があるのかな?と思っていましたが、なぜか駐屯地内には入らず正門前に待
機したまま。ん?中に入らないの?
その後は開門までしばらく時間を潰しますが、このまま晴れてくれたらという願いも空しく徐々に黒雲が頭
上を覆い始め、気温も急に下がってきました。かなり怪しい空模様の中、0900に開門。初めての松本駐屯
地に足を踏み入れますが、早くも開門ダッシュで走り始める人が続出。焦る気持ちは分かりますが、駐屯地で
隊員さんが走らないでって言ったら走っちゃダメですよ。
ものすごく広い松本駐屯地を歩いて歩いて、ようやく式典会場に到着。松本の訓練展示は右から左に展開す
るそうですが、これまたものすごく横に長い訓練場です。元が滑走路かなにかだったのかな?
松本駐屯地のご当地部隊は、なんといっても第13普通科連隊。やはり中盤から終盤にかけての普通科の敵
陣地への突撃が、訓練展示の大きな見どころです。という訳で左側観閲スタンドの右寄り、中央来賓席に近い
上段に拠点を築きました。無難なポジショニングですが、初めての駐屯地でまんべんなく色々見るならこんな
もんでしょう。
時刻は0910。部隊の入場は0932からなので、あと20分少々しかありません。それまでにトイレと
売店、あと屋台を攻略したいですが、往復の移動時間を考えると全部回るのは無理っぽいなあ。混雑は覚悟の
上で、売店は午後からに回しましょう。
という訳で先にトイレを済ませて屋台広場に移動しますが、うわっ、何だこりゃ。幅の広い十字路の周囲に、
無数の屋台が集まっています。いったい何十軒あるんだろう。ちょっとした航空祭レベルの屋台規模です。
目を回しそうになりつつまずは屋台の把握に努めますが、ダメだ、これを全部見て回ってたら、部隊の入場
が始まってしまいます。とりあえず目に入るだけでも佐世保バーガー、焼きそば、フライドポテト、フランク
フルト、唐揚げ、串焼き、ステーキ、たこ焼き、クレープ、ホルモン焼き・・・。しかも同内容の屋台がいく
つもあるし、もう何が何やら。
うーん、松本駐屯地、予想をはるかに超える規模の記念行事だったみたいです。山奥でささやかに開催され
る地元色の強いのほほんとしたイベントを予想していたのですが、これは全くの正反対。屋台も外部業者ばか
りで、隊員さんの屋台が一つもありませんし。
さて、時間に余裕がない事ですし、とりあえずこの空腹は何とかしないと。屋台の数と種類のあまりの多さ
に目が回りそうですが、最も地方色が強そうな信州B級グルメ『山賊焼』に決定です。
よくわからないまま買った山賊焼ですが、鶏もも肉を一枚まるごと揚げたものでした。からりと揚がって香
ばしい匂いが漂う鶏肉はたまらなく美味しそうですが、これが40をとうに越えた私の朝食とは・・・(笑)。
残念ながらゆっくり食べている時間もなく、急いで式典会場へと戻ります。
会場に戻ると、ほんの20分ほどの間に随分と人が増えていました。よかった、まだ部隊は入場していませ
んね。確保した拠点に落ち着いて、さっそく揚げたて熱々の山賊焼にかぶりつきますが、ほほう、強烈なボリ
ューム感にも関わらずサクサクの軽い揚げ上がりで、甘辛醤油味の下味もいい塩梅。めちゃくちゃ美しいです
よ。隊員さんの屋台ではなかったのは残念でしたが、これは素人屋台では出せない味。これで飲むビールは死
ぬほど美味そうだなあ・・・。
熱々の山賊焼きに夢中になっていると、音楽隊を先頭に部隊の入場が始まりました。慌てて油でべたべたに
なった手を拭い、カメラを構えます。2017年初の駐屯地創設記念行事、やっぱり高揚感がありますね。
いかにも普通科らしい各中隊の真っ赤な隊旗が鮮やかですが、胸元のマフラーは迷彩柄なのか。式典として
はやや華のない装いですが、これはこれでいかにも山岳部隊らしい雰囲気があって悪くないかも。
朝から吹いていた風はいつの間にか収まりましたが、お陰で駐屯地上空を覆った黒雲に動く気配がなく、陽
射しを遮られて寒いなあ。とは言え、この雲が流される風だとそれはそれで寒そうで、今日はどうあっても寒
さから逃れられない運命の模様。
おっ、よく見ると、各部隊の先頭に居る隊員さんの胸元には9mm機関拳銃が。地元第3師団ではあまり目
にする機会がない装備品なので、新鮮だなあ。これも空中機動性を高めた第12旅団らしい個性でしょうか。
その後は整列した各部隊の紹介が行われました。まずは第12音楽隊(相馬原)及び松本駐屯地音楽クラブ
による合同音楽隊。戦闘服姿の音楽隊はよく見ますが、制帽ではなく鉄帽着用なのは珍しいなあ。
続いては、松本名物山岳レンジャーの教育訓練を担当するレンジャー小隊。カラビナのついた黒いザイルを
肩掛けにし、ブッシュハットを被っているのが独特の雰囲気。この人達、レンジャー教育中の隊員ではなく全
員教官なんですね。部隊ではどれだけ恐れられている存在なんだろう。
さらに第13普通科連隊の本部管理中隊ならびに第1〜3中隊。各部隊の担当警備地域と指揮官の名前、出
身地が紹介されるたびに、満員の観閲スタンドからは拍手が送られます。
鮮やかな青の隊旗とともに紹介されたのは、第13普通科連隊自衛官候補生教育隊。ここ松本駐屯地に行て
われる3ヶ月間の前期教育を修了したのちに2等陸士として第一歩を踏み出す、自衛官のタマゴ達です。今月
5日に着隊したばかりですが、今日の為にひたすら整列、行進の訓練に明け暮れたんだろうなあ。
本人達も大変だったでしょうけど、僅か一週間余りで先輩達に引けを取らない所作を叩きこまないといけな
かった班長達も、相当な苦労であった事は想像に難くありません。観閲スタンドからはとりわけ大きな拍手が
送られましたが、ご家族の皆さんが最初の晴れ姿を見守りに来ていたんでしょう。様々な葛藤を乗り越え本当
に誇れる仕事に就いた彼らを、当S.A.Sも全力で応援したいと思います。
その後は第306施設隊、東部方面後方支援隊第102施設直接支援大隊第1直接支援隊、第12後方支援
隊第2整備中隊第2普通科直接支援小隊、即応予備自衛官で構成される第48普通科連隊第2中隊(相馬原)
が紹介を受け、各々の隊旗がきりりと掲げられました。
続いて各部隊指揮官が入場し、本式典の観閲部隊指揮官を務める第13普通科連隊副連隊長竹野2等陸佐が
入場。部隊は観閲部隊指揮官に敬礼。まずは連隊長からの感謝状贈呈者の紹介が行われました。
そして本式典の執行者である第13普通科連隊長兼ねて駐屯地司令岩原傑一等陸佐が入場、登壇。松本駐屯
地創設67周年記念行事の開会が宣言されました。部隊は執行者に敬礼。
さらに国旗が入場。部隊は着剣、参加者も起立。国歌君が代が厳かに演奏される中、部隊の捧げ銃(ささげ
つつ)に迎えられて国旗が登壇します。
執行者による部隊巡閲、式辞、来賓祝辞、来賓紹介と式典は粛々と進行。相変わらず気温が低く寒くて仕方
ありませんが、朝イチからハイカロリーな揚げものを平らげたのはあれはあれで正解だったのか(笑)。
来賓祝辞の途中から、ヘリパッドにいたCH−47輸送ヘリがエンジン始動。甲高い音を立てつつ、排気口
から太い陽炎をゆらめかせています。
そして祝電が披露される中、CH−47の巨大なブレードがゆっくりと回転開始。すぐにバタバタと大きな
音をたて始め、まるで眠っていた巨人が目を覚ましたかのよう。
「観閲行進の、態勢を取れー!」
の号令一下、部隊は整然と退場。おお、桜の木の向こうからAH−1S対戦車ヘリコブラとUH−60多用
途ヘリが離陸し始めました。先行する2機を見送ったあと、CH−47輸送ヘリもゆっくりと離陸開始。巨大
な機体を軽々と翻し、東の空へと飛び去って行きました。
最後に退場した音楽隊が行進の先頭につき、いよいよ観閲行進開始。まずは第12音楽隊と松本駐屯地音楽
クラブの合同音楽隊が、行進曲『大空』を演奏しながら入場です。壇上の執行者に切れる様な敬礼を見せた第
12音楽隊長は、ぐるりと回って観閲スタンド正面に音楽隊を誘導します。
車両行進の先頭を切るのは、長野県旗を掲げたパジェロ。その後は『抜刀隊』の調べに乗って、観閲部隊指
揮官を乗せたパジェロ、指揮通信車、軽装甲機動車が前進。観閲スタンドからは拍手が送られます。
徒歩行進の先頭を切るのは、松本駐屯地の誇る山岳レンジャー教育訓練隊の教官達。その背中を追う様にし
て、今月入隊したばかりの自衛官候補生達が大きな拍手を浴びながらやって来ました。
つい先月まで娑婆にいた普通の青年とは思えない位にかっちりとまとまった行進を見せていますが、班長さ
ん達はとりあえず一安心・・・といったところかな?それとも、いやあまだまだ・・・と渋い表情でしょうか。
しかし、そう遠くないうちにこの中から選抜されたごく少数の隊員が、目の前にいるレンジャーの教官達か
ら極限の試練を科される事になるのでしょう。そう考えると、この行進の順序は納得ですね。
再び車両行進。第13普連第1中隊からのパジェロと軽装甲機動車です。ルーフ上にいる隊員さんが01式
軽対戦車誘導弾を構えていますが、通常なら付けたままの黒い保護材を外した状態なのが印象的。日を追う毎
にキナ臭さを増していく朝鮮半島情勢を見据え、あらゆる事態に即応する心構えを表している・・・というの
は、あながち考え過ぎでもない気がします。
同じく第13普連第1中隊からは、81mm迫撃砲L16を搭載した迫撃砲小隊の高機動車、110mm個
人携帯対戦車誘導弾を搭載した小銃小隊の高機動車、野外炊具1号(改)を牽引した3.5トンダンプが続き、
以下第2中隊、第3中隊からも同編成の車両行進が続きます。
続いてやって来たのは、第13普連本部管理中隊からのパジェロ、情報小隊の偵察オート、軽装甲機動車、
重迫撃砲小隊の120mm迫撃砲RTを牽引した高機動車、荷台に幌を被せた高機動車、中距離多目的誘導弾、
通信車、野外炊具1号を牽引したトラック、小型ショベルドーザを搭載したトラック、そして救急車。
さらに第301施設隊のパジェロ、幌つきの7トントラック、特大型ダンプ、グレーダ、92式地雷原処理
車。 第102施設直接支援大隊第1直接支援隊からはパジェロ。あと荷台に四角いコンテナを搭載したパジ
ェロもやって来ましたが、何なんだろうアレ。発煙装置に少し似ていますが、灯油を売って回るトラックみた
いにも見えますね(笑)。
第12後方支援隊第2整備中隊第2普通科直接支援小隊からはシェルターを搭載したトラック、重レッカ。
即応予備自衛官で構成される第48普通科連隊第2中隊(相馬原)からはパジェロと高機動車。同じく相馬原
の第12偵察隊からの87式偵察警戒車、宇都宮の第12特科隊からの155mmFH−70榴弾砲を牽引し
た7トントラック、最後は相馬原の第12高射特科中隊からの93式近距離地対空誘導弾と81式短距離地対
空誘導弾が締めて、車両行進は終了です。
そして航空観閲部隊がやって来ました。第4対戦車ヘリコプター隊からのAH−1S対戦車ヘリコブラ、第
12飛行隊のUH−6多用途ヘリ、第1輸送ヘリコプター隊のCH−47輸送ヘリの3機編成。
威風堂々の観閲行進のあとは、第12音楽隊と松本駐屯地音楽クラブによる合同音楽演奏が始まりました。
一曲目は長野県歌である『信濃の国』ですが、いかにも陸自の音楽隊らしくマーチ風にアレンジしてあるのが
面白いなあ。
普通に原曲を演奏するだけなら、二つの音楽隊がそれぞれ別個に練習してからその場ですり合わせる事も可
能ですが、独自にアレンジした曲を短いすり合わせ時間できっちり仕上げて聴かせるというのは、相当難しい
気がします。凄いな合同音楽隊。
二曲目は『サーベルと拍車』。アメリカのマーチ王J.P.スーザによる作曲です。騎兵隊がラッパを鳴ら
しながら進軍する様子を表現した曲で、管楽器を中心としたいかにも陸自の音楽隊らしい演奏に、大きな拍手
が送られました。
その音楽隊と入れ替わる様にして、3本の巨大な幟が入って来ました。どうやら空自入間基地『修武太鼓』、
滝ヶ原駐屯地『雲海太鼓』、松本駐屯地『アルプス太鼓』による3部隊合同和太鼓演奏が披露されるとの事。
へー、空自の太鼓が混ざるのは珍しいなあ。
ちなみに入間基地の修武太鼓は自衛隊の太鼓同好会の中でもかなりの強豪らしく、近年はイギリスやオース
トラリアの航空ショーにも招かれ、現地で力強い和太鼓演奏を披露したとの事。
観閲スタンド前には大小様々な和太鼓が運び込まれ、さすがにかなりの陣容ですね。まずは黒雲をバックに
幽玄な尺八の音色が鳴り響き、遠雷が近づく様に徐々に重なっていく勇壮な和太鼓の響き。おおお、なんかす
ごいぞ。和太鼓演奏と言うよりも隊員さんと太鼓のガチの殴り合いみたい。見ているだけでこちらも力が入り
ますが、これは相当な運動量だろうなあ。私だったら一曲持たずにバテてしまいそう・・・。
課業終了後も駐屯地に残って太鼓叩くぐらいなら、ぱっと外に出た方がストレス解消になるんでは?と思っ
ていましたが、これはちょっと私もやってみたいな・・・と考えを改めさせられる魅力をビンビンに感じます。
みんなで力いっぱい練習した後のビールは、さぞかし美味いだろうなあ。大きな拍手を浴びて、3部隊合同の
和太鼓演奏は退場。パチパチパチ。
さてこの後は、いよいよ戦闘訓練展示です。開始に先立って注意事項の説明が行われましたが、ん?外の道
路で、何やら騒いでいる人達が・・・?どうやら市民活動家の方々が抗議に来ている様ですが、会場を埋めた
人達の間に『失笑の連帯感』とでも言うべき空気が漂ったのにはちょっと笑ってしまいました。年齢も性別も
出身地も異なる沢山の人達の心を一つにするとか、正直ちょっと見習いたいなあ(笑)。
そういえば朝から警察車両や消防車が正門前に待機していましたが、もしかしてこの人達の為だったのかな
あ。警察はともかく消防車のおもてなしを受けるとか、普通に暮らしていたらなかなか無い事ですが・・・。
改めて戦闘訓練展示の説明が始まりました。会場向かって右側の黄色の台から陸自の中隊が前進し、敵部隊
に占領された左側の赤の台の奪還を図るというシナリオです。その際、目の前にある白の台が戦略上重要な拠
点となるらしく、大きな見せ場になる模様。かなり適当でしたが、このポジショニングで正解だった模様です。
観閲スタンド前にはジャンプ台が運び込まれ、4名の隊員さんが状況開始ラッパを高らかに吹鳴。まずは中
隊長から各隊に対し、赤の台から白の台にかけての偵察命令が下ります。第12ヘリコプター隊からはUH−
60多用途ヘリ、第12偵察隊からは87式偵察警戒車が出撃。第13普通科連隊情報小隊からも偵察オート
が4両前進し、目の前で次々とジャンプを決めて見せます。
低く垂れこめた黒雲が独特の雰囲気を盛り上げる中、情報小隊の偵察オートは敵陣深くまで侵入。縦横無尽
に走り回りつつ、情報収集を開始します。フロントを大きく沈めながら急停車した87式偵察警戒車からは、
双眼鏡を持った車長が顔をのぞかせて周辺地域を警戒中。
偵察オートの片側にぶら下がった走行や、立ち上がって小銃を射撃しながらの走行、高いジャンプ等を見せ
つけた情報小隊は、地面のコブを遮蔽物にして偵察オートを横倒しにし、敵陣地に向けて威力偵察を実施。返
って来た反撃の規模から、敵陣地の大まかな形状や配置、保有火器の種類、員数等の情報を収集します。
偵察を終えた情報小隊は、中隊に航空攻撃を要請。ただちにAH−1S対戦車ヘリコブラに攻撃命令が下り
ます。
「こちらコブラ!赤の台一帯への攻撃を開始する!」
低空から侵入してきたコブラは軽々と身を翻しつつ、敵陣地の戦車や装甲車に対して攻撃開始。おお、機首
下部にある20mm機関砲がグリグリ動いてます。
コブラが大暴れしている間に、87式偵察警戒車の援護を受けながら情報小隊は撤収開始。観閲スタンド前
ではノリノリのウイリーも披露していますが、これも普段出来るだけ目立たないようにしている反動なんだろ
うなあ(笑)。
「中隊長、こちらコブラ!赤の台一帯の制圧完了!」
「こちら中隊長、了解!」
AH−1S対戦車ヘリコブラと入れ替わる様にして、今度はレンジャーの先行班を乗せたUH−60多用途
ヘリがやってきました。開け放されたカーゴドアからは4本のロープが投げ降ろされ、4名のレンジャー隊員
が速やかに降下開始。見事に着地を決めて見せたあとは、すぐに遮蔽物になる地形を選んで潜伏します。戦略
上重要拠点となる白の台を確保すべく、匍匐前進を開始。
「中隊長、こちら先行班!これより攻撃陣地を確保する!」
先行班を無事降下させたUH−60多用途ヘリは、87式偵察警戒車の援護を受けながら前線から離脱。
「中隊長、こちら先行班!攻撃陣地、確保!只今より先遣小隊の侵入を誘導、援護する!」
白の台にとりついた先行班が敵陣地に銃撃を浴びせる中、CH−47輸送ヘリが白の台に先遣小隊を送り込
むべく上空に飛来してきました。
地形と木立を巧みに利用しつつ、CH−47輸送ヘリは高度をぎりぎりまで下げてホバリング。投げ降ろさ
れた2本のファストロープ伝いに、普通科隊員が次々と降下開始。
地上12〜3mから短時間で多くの隊員を降ろす事が出来るエクストラクションロープですが、カラビナや
エイト環を使わずに握力と半長靴の摩擦だけで降下速度を調節する為、そのスピーディーさと引き換えに大変
な危険を伴う降下方法です。完全武装時で体重プラス2〜30kg、しかも最もスピードが出る地面の直前は
着地準備の為に両足は使えないので、自分の握力だけが頼り。きっと凄い鍛え方なんだろうなあ。
蛇口から流れる水の様にあっという間に降りて来た先遣小隊は、すぐに散開。手近な地形の遮蔽物に飛び込
む様にして、レンジャーの先行班と合流しながら白の台を固めていきます。敵部隊からは激しい銃撃が浴びせ
られ、白の台にとりついた先遣小隊は陣地を守るべく必死に反撃。
「中隊長、こちら先遣小隊!現在敵の攻撃を受け、交戦中!」
中隊長は先遣小隊を支援すべく、火力戦闘部隊に援護射撃を下命します。
「火力戦闘部隊、こちら中隊長!速やかに陣形を敷き、先遣小隊を火力支援せよ!」
81mm迫撃砲L16や120mm迫撃砲RTを牽引したパジェロ、高機動車が次々と展開し、後方では敵
航空部隊の侵入に備えて81式短距離地対空誘導弾や96式近距離地対空誘導弾が展開。おお、中距離多目的
誘導弾も突っ込んできましたよ。さらにその後方では、155mmFH−70榴弾砲が砲身を旋回させて発射
準備を進めています。
その間も敵陣地からの攻撃は止む事なく、白の台にとりついた先遣小隊は危険に晒され続けています。射撃
準備を進める隊員一人の動作が僅かに遅れただけで全体の連携に大きな遅れが生まれ、それだけ先遣小隊の命
を危うくさせます。
コンマ1秒でも早く、しかし確実に。『早く!早く!』という先遣小隊の叫び声が聞こえて来そうな中、マ
シーンの様な動きで迫撃砲を組み上げ地対空誘導弾の発射準備を整える隊員さん達は、まるでフルオーケスト
ラの様。そしていよいよ火力戦闘部隊の射撃準備が完了しました。
「特科、こちら地上偵察班!射撃要求!」
すぐに敵陣地に対しての距離、方位角等の射撃データが次々と読み上げられます。
「こちら特科、射撃命令!目標、敵装甲車!射撃準備完了!」
「こちら中隊長!中隊は火力戦闘部隊の射撃支援のもと、赤の台を攻撃、敵部隊を撃破する!」
「射撃用意、撃て!」
響き渡る轟音とともに、砲口から巨大な火球を噴き上げる155mmFH−70榴弾砲。
「弾ちゃーく、今!」
敵陣地の周辺からはもうもうと 白煙が噴き上がり、敵部隊の反撃が弱まった隙をついて、普通科隊員を乗せ
た軽装甲機動車小隊が一気に前進。ルーフ上からMINIMIを撃ちまくり、先遣小隊が死守している白の台
まで突っ込んできました。
両者の戦闘がさらに激しさを増す中、白の台にとりついてた先遣小隊の一人が砲弾の破片を受けて負傷。す
ぐに3名の隊員が駆けつけて1人が援護射撃、2人が負傷した隊員を後方の安全な場所まで引きずって行きま
す。
救助の隊員はすかさず負傷個所を心臓よりも高い位置に持ち上げ、止血処理を開始。負傷者後送を支援すべ
く、155mmFH−70榴弾砲が再び射撃開始。81mm迫撃砲L16も一分間に30発の最大発射速度で
敵陣地に攻撃を浴びせ続けます。
後方からやってきた軽装甲機動車で負傷者が搬送されていく中、普通科隊員を乗せた軽装甲機動車小隊は突
撃準備を完了。
「火力戦闘部隊、こちら中隊長!突撃準備射撃を開始せよ!」
「こちら火力戦闘部隊、了解!」
再び敵陣地に対しての射撃データが読み上げられ、突撃準備射撃の態勢が整います。
「こちら火力戦闘部隊!突撃準備射撃、最終弾発射10秒前!・・・最終弾、射撃よーい!撃て!」
バン!とあたりの空気を震わせて、155mmFH−70榴弾砲は最終弾を発射。
「最終弾、弾ちゃーく・・・突撃・・・今!進めーっ!」
最終弾の弾着と同時に、軽装甲機動車小隊は一気に突撃開始。不整地を跳ねる様に突き進み、一斉に敵陣地
へとなだれ込んで行きます。87式偵察警戒車も最前線に飛び込んで、敵部隊に占領された赤の台の奪還に成
功しました。
「中隊長、こちらLAV(軽装甲機動車)小隊!突撃成功!赤の台、奪取!」
敗走した敵部隊をさらに追撃すべく中隊長から前進命令が下り、以上で訓練展示は終了。状況終了ラッパが
鳴り響き、会場からは大きな拍手が送られました。いやあ、横長の地形を上手く使い、空中機動旅団としての
個性もしっかりと盛り込んだよく出来た戦闘訓練展示でした。最後まで車両による突撃だったのは意外でした
が、エキストラクションロープからの降下も見れましたし。CH−47は回転翼機の中で一番好きな機体なの
で、余計に得した気分です(笑)。
人波に乗って式典会場を後にしますが、前の人達の頭の海から突き出ているのは、一目でそれとわかる92
式地雷原処理車の発射機。基本的に何かを作る施設科の中にあって、景気よくぶっ壊す気まんまんな車両です。
もっとも、地雷原を爆破して突撃経路を啓開するという意味では、これもモノを作る装備品か・・・。
珍しく発射機内部を公開していましたが、ロケット弾を発射する為のガイドがあるだけの、まったく普通の
四角い筒でした。
テニスコートを利用したちびっこコーナーでは、ストラックアウトや輪投げ等の催し物が用意され、子供達
が夢中になって遊んでいます。地面に並べたペットボトルをゴールキック風に倒すキックボーリングでは、子
供の体力に応じてキック位置を変えるという行き届きっぷり。コートに張られた目印のガムテープのきちきち
とした貼り方も、いかにも自衛隊らしい生真面目さを感じさせました。
装備品展示会場には、比較的新しい装備品である中距離多目的誘導弾が。戦車から舟艇、さらに建物まで多
目的に対処できる誘導弾の何でも屋ですが、車両輸送や空輸、空投まで可能なので、機動性が要求される離島
対処にも使いやすいんだろうなあ。
それにしても、さらっと書いてありますが『空投』ってのは凄い字面です。パラシュートで降ろすとは言え、
軽く4トンはあるんだよなあ・・・。当然何度も何度も耐久試験を行ったんでしょうけど、開発担当者はハラ
ハラし通しだったと思います。
屋台が集まった十字路は人でいっぱいですが、何かもう一品食べたいな・・・よし、牛串焼き行っときまし
ょう。しばらく待って入手した牛串焼きですが、おお、これはなかなかのお味。お世辞にもいい肉とは言えま
せん が、この固い噛み応え、そして自分の歯で肉の塊を串から引き抜く満足感がとてもいい感じです。
おっと、ここは押さえておかないと。松本駐屯地資料館『秀峰館』です。入口前には歩兵第五十聯隊時代の
門柱が姿を変えて移築され、惚れ惚れする様な風格が漂っています。そうか、この門をくぐって、犬神さん家
のスケキヨ君は出征したのか・・・。とは言え、肝心の資料館はプレハブ造りなのがなあ・・・。豪雪地帯の
建物としてはあまりに貧弱なので、建て替えの為の一時的な措置でしょうか。
資料館内部に足を踏み入れると、旧軍時代の資料や装備品、陸上自衛隊として生まれ変わって以降の駐屯地
の歩みとともに、冬季長野オリンピックに全面協力した実績が華々しく展示してありました。
また、国内唯一の山岳部隊を名乗るだけあって本格的な登山にのめり込む隊員さんが多いらしく、有志で参
加したチョモランマ遠征隊が現地から送った連隊長宛の手紙等もありました。富士山頂よりもはるかに高いベ
ースキャンプからスケッチした風景や現地での奮闘の報告、悲しい事故の報告、天候待ちでつかの間の平穏な
時を過ごしている様子などが、生々しい文章の中にも独特の高揚感を伴って伝わって来ます。
隊舎の廊下の掲示板には、糧食班からの給食ニュースが貼りだされてありました。松本の糧食班もあれこれ
手を尽くしているらしく、2種類のメインから好きな方を選べる複数献立や旬の素材を使った季節献立、アン
ケートの結果を反映させた中隊希望献立、目先を変えたB級グルメ献立や新献立、松本オリジナルの駐屯地名
物料理等、隊員さんの舌と胃袋を飽きさせない様に頑張っています。
その中でも特に興味深かったのが、先の太平洋戦争での激戦地の料理を取り入れた戦史献立。他の駐屯地で
は聞いた事のない試みです。ちなみに4月12日(水)に出された戦史献立は、沖縄戦の菊水作戦に関連した
らふてー。これだけ色々と創意工夫を重ねたメニューを出されると、隊員さんも漫然と食べる事は出来ません。
また4月号という事で、新隊員へのメッセージも。一般的な20代男性に必要なエネルギー量よりも900
kcalも多い、一日3200kcalもの食事を出している事が説明されています。
『そんなに食べて太らないか・新隊員の諸君は大丈夫。班長達がたっぷりと鍛えてくれますから』
と、わざわざ文字色を変えて書いてあるところが恐ろしいですね(笑)。これを見た新隊員達は、ちびまる
子ちゃんみたいに片目の横に縦線を入れながら
『もう知ってまーす・・・』
と呟いているに違いありません(笑)。
正門入ってすぐの隊舎の前では、先程の3部隊合同による太鼓演奏が披露されていました。このあとレンジ
ャー訓練展示が行われるそうですが、既に広場の前は人でいっぱい。という訳で、今回はロープ降下を真横か
ら見る位置に入ります。もし隊舎前広場で寸劇的なものが行われるなら、ちょっと見づらいポジショニングと
なりますが、松本の雰囲気から察するにあまり突飛な事はしない気がします。
そして始まったレンジャー訓練展示。ここからでは司会の声がよく聞こえませんが、4階建て隊舎の3階に
たてこもった敵ゲリラに対し、レンジャーが屋上から急襲して制圧する、というシナリオの模様。
まずは3階の窓から敵ゲリラが姿を見せます。すると屋上からロープが投げ降ろされ、先行班が降下開始。
するすると音を立てずに降りてきて、見守る観客達からは低いどよめきがあがります。
いとも簡単そうに地上まで降りて来た2名の先行班は、すぐに散開して所定の位置につき、続いて降りてく
るレンジャーの援護に回ります。
続いて降りて来た2名のレンジャーは、敵ゲリラがたてこもる3階の窓の上まで来たところでくるりと姿勢
を入れ替え、頭を下にした状態で拳銃を構えながら室内を偵察。観客からは小さな悲鳴があがります。いやあ
凄いですね。いくらロープで固定してあるとは言え、想像しただけで目が回りそう。
そして突入班が降りてきて、大きく壁を蹴った反動を利用して一気に室内に突入。バックアップの援護を受
けながら室内のゲリラを掃討し、突入作戦は見事成功。会場からは大きな拍手が送られました。
続いては、山岳地における負傷者の救助。足を怪我して動けなくなった隊員を背負った状態での懸垂降下を
披露しますが、細身の隊員さんでも60kgはあるでしょうに、本当に軽々と降りてくるのが凄いなあ。私の
後ろからその様子を眺めていた若いママさんが、
「えーっ!あれ、人形でしょ?人間な訳ないよね?」
と驚いていますが、背負ってる方も背負われている方も、冗談抜きで生身の隊員さんです。
人一人分の重量を背負ったレンジャーは、まるで事もなげに着地。他のレンジャーが駆け寄って負傷者役を
下ろす手伝いを始めると、ママさんは
「えーっ!?本当に人を背負ってたの!?えーっ!?」
と、小さなお子さんと一緒に目を丸くして驚いていました。うーん、ついフフンと得意げな気分になってし
まいます。もちろん私が危険を冒して負傷者を降ろした訳でも何でもないのですが(笑)。来年はぜひママ友
さん達を誘って、また見に来て欲しいものです。
続いては小銃を真下に構えた姿勢で、屋上から走り降りてくる展示。安全が確保されていない場所に、周囲
を警戒しつつ速やかに降下する時に使われる技術ですが、これも見ているだけで足の裏に冷たい汗をかきそう。
先程のママさんは今度は絶句しています。フフン(だから何故俺が威張る)。
最後は屋上から地上に向けて斜め下りのロープが張られ、カラビナを通したレンジャーが滑り降りてくる展
示。一見して呑気にロープにぶら下がっているだけの楽しげな降下に見えますが、着地寸前の減速は握力だけ
が頼りですし、降下中の姿勢の保持は鍛え上げられた腹筋が必須。その上変則的な姿勢での着地を余儀なくさ
せられる為、強靭な足腰も必要です。楽しそうに見えて相当キツいんだろうなあ。
見事滑り降りて来たレンジャーを追う様にして、屋上からは創立記念日を祝う垂れ幕が降ろされ、大きな拍
手が送られました。最後は整列したレンジャーに対し、改めて拍手。パチパチパチ。
さて、プログラムの催し物はおおむね終了。そろそろ松本駐屯地を後にします。それにしても松本駐屯地、
戦闘訓練展示にしてもレンジャー訓練展示にしても大したものでしたが、松本の隊員さんならではの個性とい
うかニオイみたいなものは、あまり伝わってこなかった創設記念行事だったなあ。
以前遠征した山口駐屯地も似た雰囲気でしたが、開店準備中のカレー屋台の前を何度もウロウロしていた私
に
「お待たせしました!」
とニカッと笑ってカレーを渡してくれた隊員さんや、
「さっきの戦闘訓練展示、実は僕が操縦してたんですよ(笑)」
と得意げだった偵察警戒車の隊員さんは、今でも強く印象に残っています。
また、レンジャー訓練展示の最中ですらなにか一つでも余計な事をやりたがる姫路や福知山の部隊や、創立
記念行事をお客さんよりも積極的に楽しんでいる伊丹の部隊を普段見ている事も、松本のこの雰囲気を珍しく
感じてしまう一因かもしれません。
とは言え、この決して悪い意味ではない松本の薄味は、澄んだ空気と澄んだ水に恵まれたこの土地に根差し
したものと考えれば、これはこれで松本らしさが際立ったイベントだったんでしょう。ん?という事は姫路や
福知山、伊丹のあの濃い人達を松本に転属させると、すっきり爽やかテイストになって帰って来るのかな?う
ーん、その姿が全く想像出来ないのですが・・・(笑)。
こんな小さな島国に、160近くも散らばった陸自の駐屯地。それぞれに驚くほど豊かな個性を持っていま
す。もしかしたら私は、そういうものに魅かれてあちこちの駐屯地を見て歩いてているのかもなあ。
以上、はるばる大阪から遠征して来た甲斐は十分にあった松本駐屯地創設記念行事でした。この後は高速道
路で日本海側に抜け、当S.A.Sの富山補給処と化している日本海食堂に立ち寄ります。さあ今日は何を食
ようかな・・・と心を弾ませながら、長野自動車道をひた走りました。
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