掃海艦あわじ一般公開in阪神基地隊

2017.04.01


       兵庫県の阪神基地隊にて行われた、MSO304掃海艦あわじの一般公開に参加してきました。あわじ
      えやま型掃海艦
の後継として建造された掃海艦で、船体構造材を従来の木製から強化プラスチック製に一新。
      今まで対応しづらかった深々度に敷設された機雷にも対処できる新型掃海具を搭載し、先月の3月16日に就
      役したばかりの
ピカピカの新造艦です。
       横須賀地方隊第1掃海隊に所属となったあわじですが、淡路島津名港への記念すべきお国入りを前に、わ
      が地元阪神基地隊で一般公開が行われるとは願ってもない機会。午前の仕事を華麗に切り上げ、1340に魚
      崎浜埋め立て地にある阪神基地隊に到着です。それにしても阪神基地隊、隊舎の上部通信アンテナが重なっ
      
て、なんだか試験艦あすかの艦橋構造物に見えてしまうのが面白いなあ。

       警衛の隊員さんに挨拶して敷地に入ると、おお!がらんとした広場の向こうに、MSO304掃海艦あわじ
      の姿が!艦橋構造物が前後方向に長くマストも複雑な形状で、艦橋の左右に張り出した通路のテラス状の支柱
      
もよく目立ちます。さすがに掃海艇よりも大きいですね。

       それにしても意外と人の数が少ないなあ。単純に仕事の都合ですが、この時間に来て正解だった様です。そ
      れでは生まれたばかりの掃海艦あわじ、ゆっくりと見せてもらいましょう。
       岸壁から見たあわじですが、まず目立つのがステルスシールドで覆われ自動化された20mm機関砲。その
      一方、木造船ならうっすらと見える乾舷の木材の継ぎ目が、全く見当たりません。やっぱり強化プラスチック
      製の船体なんだなあ・・・。乗組員の敬礼を受けながら、掃海艦あわじに乗艦です。

       前甲板に出てまず目についたのが、青白い舫綱。おおお、これもおろしたてならではの色合い。8の字でボ
      ラードに巻きつけてありますが、いまいちしなやかに巻きついていないところが実に初々しい感じ。これから
      数えきれないほどの出入港作業を経て、しっかりと馴染んだ舫綱になるんでしょう。

       そして前甲板のど真ん中に位置しているのが、ステルスシールド付きの20mm機関砲。レーザー測距儀
      赤外線カメラを組み合わせた電子光学照準器を装備し、従来の目視照準方式よりもずっと正確な射撃が可能
      なりました。
       ちなみにこの機関砲は戦闘目的ではなく、海面に浮上させた水中機雷を爆破処理する為のもの。一応40度
      までの仰角をとる事ができますが、基本的に水上標的にしか使わないそうです。

       艦橋後部に聳え立つマストを見上げると、ん?妙なものがついてますね。黄色とオレンジ色の潜望鏡っぽい
      もの
で、自衛艦の基本色である暗灰色の中でひときわ目立っています。傍にいた隊員さんに訊ねてみると、
       「はい、あれはトランジットっていいまして、洋上に出た小型の船に対して、進行方向を指示して誘導する
      為のものです。小型船から振りかえって見て、黄色とオレンジの二つの棒が重なる進路に進め、という感じで
      使うんです」

       との事。なるほど。確かにソナーや掃海具が水中機雷を発見しても、その近くの海面に水中処分隊を乗せた
      ボートを誘導
するのは難しそうですね。

       あと、ここで以前から疑問に思っていた事を質問。掃海艇掃海艦、単純に排水量による区分ですが、仕事
      内容に大きな違いはあるんですか?
       「基本的に仕事は同じですね。ただ、掃海艦の方が大きいので、遠くの海域まで出かけて長時間掃海作業を
      行う事が出来ます。掃海艇を遠くまで派遣するのに比べると、補給の手間が少なく済むんですよ」

       との事でした。成程。
       前甲板をぐるりと回り、右舷の舷側通路へ。おお、茶封筒の様な消火ホースが実にきれい。まるでおろした
      たてのパンツを履く時の様な清々しさ
を憶えます。これも新造艦ならでは。

       強化プラスチック製のあわじの船体ですが、鋼鉄製とも木製とも違う不思議な感触。なんだか漁船っぽいな
      あ。この強化プラスチック製船体のお陰で、船そのものの重量は同サイズの木造船に比べて3割も軽くなり
      船体寿命も木造の15年から倍の30年に延びました。木造船ならではのメリットもありますが、時代の流れ
      の中にあって避ける事のできない強化プラスチック化だったんでしょう。
       艦中央、煙突のある甲板に出ます。2艘の大きなゴムボートや掃海作業に使用する巨大なフロート、折りた
      たまれたクレーン等が林立しているので、かなり狭苦しく感じます。

       水中処分隊が使用するゴムボートの高速艇も、どこもかしこもピカピカ。キャビテーションで表面がぼろぼ
      ろになっている事が多い船外機のスクリューシュラウドも、顔が写り込みそうな位に光っています。
       続いては艦橋構造物と一体化している格納庫へ。護衛艦のそれとは違ってかなり狭いですが、色んなものが
      展示してありました。まず目に入ったのが、横倒しになった大きなシェーカーみたいな円筒形の物体。これは
      減圧症(潜水病)にかかったダイバーの治療を行う、再圧タンクと呼ばれるもの。

       深々度での長時間の潜水作業により血中に過剰に溶け込んだ窒素が、浮上時の急減圧で気泡化して様々な
      能障害を引き起こし、時には死に至るのが減圧症ですが、このタンク内で患者を再加圧する事で気泡化した窒
      素を再び血中に溶け込ませ、その後ゆっくり時間をかけて減圧を行い、血中から窒素を抜く為の装置です。
       とは言え、あくまでこれは初期治療を行えるにとどまり、その後は陸上の病院に搬送して専門の治療を行う
      事になりますが、患者一人しか入れなかった旧型とは違ってこの新型は衛生員も一緒に乗り込める為、より適
      切な手当て
が行える様になったそうです。

       近年は掃海技術や機器の進歩によって、潜水艦を狙える深々度の機雷まで処分出来る様になりましたが、
      身の水中処分員
にかかる負担は変わらないどころかむしろ増えているんですね。

       その傍らには、水中処分員が使うヘルメットゴーグルフィン等が展示してありましたが、このゴーグル
      の前についている小さな双眼鏡みたいなものはなんだろう。陸自の暗視装置にちょっと似ていますが・・・。
       「はい、これは隣にある円筒形のソナーと一体になった装置で、ソナーで捉えた水中機雷を映像化してこの
      ゴーグルの前の装置に映し、視界の効かない極端に濁った水中でも機雷を視認するためのものです」

       ははあ、見た目通り暗視装置みたいなものだったのか。機雷が敷設されるのは大型船舶が頻繁に通過する水
      路なので、そもそも透明な海域である事の方が少ないんだろうなあ。原理的に真っ暗な夜間でも機雷を確認す
      る事は出来そうですが、わざわざ夜を選んで作業する事はないでしょうね。
       もうひとつ、格納庫で目立っていたのがEMD(自走式機雷処分用弾薬)。これは艦からの有線伝導で水中
      機雷に忍び寄り、搭載された成形炸薬弾頭を起爆させて機雷の爆破処理を行う装置です。

       役割はまさに魚雷のようなものですが、胴体の3か所に360度旋回可能なポッドペラを、そして本体中央
      にはスラスター状のスクリューを1基内蔵していて、水中での微妙な姿勢制御を行うとの事。強い海流に逆ら
      って水中の一点に留まるホバリングも出来るそうです。
       格納庫を出たところに展示してあったのが、水中無人機OZZ-2。先ほどのEMDに似ていますが、こち
      らは本物の魚雷並の大きさ。ただEMDとは違って爆薬は搭載されておらず、サイドスキャンソナーを使って
      水中機雷
やその周辺の海底状況の情報を収集する、無人偵察機の様なものだそうです。

       艦から放たれた後は事前に入力したプログラム通りに航行し、人的操作は不要。全てコンピューターの判断
      で自律行動できる、すごいお利口さんですね。
       「ただ有線伝導方式ではありませんので、万が一故障した場合は海流に乗って行方不明になっちゃう恐れが
      あるんですよね(笑)。普通の人には魚雷にしか見えませんし、漁網にでも引っ掛かったら大変なので『危険
      物ではありません、見つけたら連絡してください』って書いてあるんですよ。まず無い事ですけど(笑)」

       との事。成程、確かにこんなのが網に掛ったら、漁師さんは腰を抜かしそう。みなしごハッチみたいなケツ
      しやがって、まったく人騒がせな奴であります(笑)。

       甲板の一角には、掃海艇あわじのオリジナルTシャツが吊してありました。水中処分員のウェットスーツ
      イメージしたのか、精悍な黒がカッコイイなあ。胸元には鎧武者が水中機雷を一刀両断しているイラストが描
      かれていますが、これ爆発しちゃうんじゃ・・・(笑)。

       その後はラッタルを上がって艦橋後部の旗甲板へ。うわあ、信号旗がすごく色鮮やか。長年使っているうち
      に雨や潮、紫外線で色褪せてしまうだけに、新品のキラキラ感が際立ちます。きらびやかな信号旗が入った箱
      を見ると、この季節のせいかお花見弁当のお重を連想してしまいました。
       その信号旗が翻るマストは、掃海艇のそれとは違って複雑なラティス形状。さすがにここまで強化プラスチ
      ックにすることは出来ず、磁気を帯びにくいアルミ合金で出来ているとか。

       艦橋はそれなりに広いですが、掃海艇の様に艦橋後部が全面窓になっていないので、護衛艦みたいな狭苦し
      さ
。掃海艇の艦橋の明るさと開放感は、やっぱり独特のものですね。
       それより気になったのが、ブルーの素材で出来た床。踏み込んだ感触がとてもよく、腰や膝への負担が少な
      そう
ですが、なによりもこの色合いがとても目に優しい感じ。長時間艦橋に詰めていても、疲労感が少なく済
      む気がします。隊員さんに訊ねてみると、
       「この床になってから、ワックスがけをしなくて済むようになったんですよ(笑)」
       へー、そんないいところもあるのか。艦が大きくなってもそれに釣り合うほど乗員が増える訳ではなく、む
      しろ一人当たりの作業量は増える一方。そういう意味でも、こういった新機軸はどんどん採用したいところで
      しょう。

       そしてもうひとつ目についたのが、機関制御や操舵装置の前に取り付けられた空色のイス。ごく小さなイス
      ながら折りたたみ式のフットレストもあって、先週見た掃海艇つのしまの固そうな木製のイスに比べて格段に
      座り心地がよさそう。傍にいた隊員さんに訊ねると、
       「ええ、いいイスをつけてもらえました。ちなみにご覧になったそのつのしまのイスですけど、実は私が乗
      っていた時に作ったんですよ(笑)」

       えええええ、まさかの製作者登場(笑)!あの収納スペース付きの木製のイス、隊員さんの手作りだったの
      か・・・。
       「艦橋で長時間舵を握っていると、ほんと眠たくなる時があるんですよ。眠気醒ましのドリンクが欠かせな
      かったんですけど、そんな小物をイスに収納出来たらいいなって思って、自分で作っちゃいました(笑)」

       いやはや、プロの大工さんが作ったのかと思える出来でしたよ!と、隊員さんのDIY精神称賛の言葉
      惜しまない私でしたが、あれ?そういえば前回のレポで、『木製の粗末なイス』って書いた気が・・・(笑)。
       いやいやいやいや、『こんな粗末で固そうなイスで、隊員さん達は日夜頑張っているんだ!』という意図で
      書いたんですけど・・・。今さら削除するのも卑怯な気がするので、敢えてそのままにしておきますが、みん
      な、あわじの艦橋で舵を握ってる隊員さんにこのHPを教えないでくれ(泣)

       閑話休題。あと、このイスについているシートベルトは何の意味があるんですか?やっぱり揺れるから?
       「ああ、これはですね、機雷にやられた時って、艦が真上に突き上げられるんですよ。その時にシートベル
      トで固定されていないと、衝撃で天井に叩きつけられて首が折れるらしいんです。それを防ぐために、このベ
      ルトがつけられました」

       ははあ、成程。太平洋戦争で触雷した艦艇でも、実際にそういう被害があったそうです。特に強化プラスチ
      ック化で軽くなっただけに、余計にその恐れがあるんだろうなあ。機雷処分作業中は、万が一の爆発に備えて
      手の空いてる乗員はすぐに逃げ出せるよう甲板に出ていると聞いた事がありますが、舵や機関を扱う乗員はそ
      ういう訳にはいかないだろうからなあ。

       艦橋右側にあるのが、赤青の艦長席。その左手にあるのがOQQ-10掃海艦ソナーシステムです。下方監
      視装置
水中位置監視装置VDS曳航体等を駆使して、水中にある機雷の位置や距離を割り出します。
       ものすごく大雑把に言えば、このOQQ-10掃海艦ソナーシステムで水中機雷を見つけ出し、水中無人機
      OZZ-2
で機雷とその周囲の改定状況を確認。最後は自走式機雷処分用弾薬EMDを使って安全に爆破処理
      ・・・という流れになるのかな。
       その後は艦橋後部のラッタルを下りて後部甲板へ・・・と思ったら、おお、艦長室も公開していました!
      めて入った掃海艦の艦長室は両袖の机本棚手洗い台寝台、あと専用の狭いシャワールームがあるだけの、
      実に簡素な造り。

       机の前に通信端末がいくつも並んでいたり、机の引き出しの全てに鍵があるのがいかにも艦長室ですが、丸
      窓からは明るい陽光が入り込み、木製の机や寝台の柔らかな雰囲気がとてもいい感じ。作られてまだ間がない
      せいか生活感はありませんが、これが部隊指揮官として選ばれし者のみに許される空間です。
       その後は艦内通路を通って後甲板へ。黄色いケーブルを巻いた巨大なドラムが目立ちますが、これも機雷処
      分具の一つ。水中機雷のある海面上にこの黄色いケーブルを長々と引き流し、そこに強い電流を流す事で金属
      船体とそっくりの磁場
を発生させ、水中機雷に船と誤認させて爆破処理する装置です。もちろん十分安全な距
      離をとってから電流を流すんでしょうけど、それでも相当な衝撃なんだろうなあ。

       以上で、掃海艦あわじの見学は終了。舷門の隊員さんにお礼を言って、ラッタルを下ります。遅い時間だっ
      たお陰で空いてましたし、隊員さんから色々お話を伺う事も出来ました。あと艦長室を見る事が出来たのもラ
      ッキーでしたね。
       艦尾からあわじを撮影しますが、なんなんだろうこの不思議な艦尾。まるで増加装甲を何枚もボルト止めし
      た様な物々しさです。乗組員の人に質問してみたかったのですが、近くにはいませんでした。またいつかの機
      会に取っておくか。
       その後は、こちらも一般公開を行っていたMSC683掃海艇つのしまへ。先週見たばかりですが、せっか
      くですからね。それにしても、今週こんな空いた状態で見る事が出来たなら、無理して先週見なくてもよかっ
      たなあ(笑)。

       先程の掃海艦あわじとは違って、この掃海艇つのしまは木造船。甲板には何枚もの板を張り合わせた跡があ
      り、まるで板張りの武術道場にいる様な緊張感です。これはこれで悪くないですね。

       あと、つのしまにもあったんですね、トランジット。先週はまるで気がつきませんでした。やっぱりもう一
      度乗って正解でした。
       最後は厚生センター内の売店へ。特にこれと言って目を引く糧食ネタはありませんでしたが、お、今日もや
      ってたのか、KOBEカレー食堂。本日出しているのはつのしまカレー。昨年食べたけど、あれ美味しかった
      んだよなあ。でも今晩は私特製海老カツだし、今カレー食べるのは空腹がもったいない・・・泣く泣く諦めま
      した。

       隊舎外の階段通路から、岸壁に佇むつのしまあわじを撮影。掃海艦あわじは明日は淡路島の津名港にお国
      入りを果たし、来賓を招いての記念式典と一般公開を行うそうです。その後は各地に寄港しながら掃海訓練
      励みつつ、母港の横須賀へ帰るのかな?生まれたばかりの掃海艦あわじの安全な航海今後の活躍を祈りなが
      ら、阪神基地隊を後にしました。




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