阪神基地隊KOBEカレー食堂
(掃海艇つのしま風カレー)

2016.07.08


       と言う訳で、KOBEカレー食堂に行ってきました!このKOBEカレー食堂とは、兵庫県東灘区に所在す
      る上自衛隊阪神基地隊にある食堂を金曜日のお昼に一般開放し、近年あちこちで注目を集めつつある海自の
      金曜カレー
を味わってもらおう!という、私にとっては夢の様な企画であります。
       今年4月から始まったこのKOBEカレー食堂ですが、5月の熊本大震災による中断を経てその後再開され
      たものの、今度はなかなか私の都合が合わず、7月になってようやく訪問の運びとなりました。
       当日はJR摂津本山駅から神戸市バス34系統に乗り込み、終点の魚崎車庫前で下車。広大な魚崎浜の埋立
      地をホテホテと歩いて1140に阪神基地隊に到着です。それにしても、平日に来るのってなんか変な感じだ
      なあ。なんとなくモジモジしながら、警衛の隊員さんにあの、カレー食べに来たんですが・・・と伝えると、
       「ああ、はい、それではあちらの受付でご住所とお名前を記入して頂けますか」
       名簿を見ると、ほほう、既に10人近い先客が来ている様です。平日のお昼、しかもこんな埋立地の端の辺
      鄙な場所
とあってさぞかし人も少なかろうと思っていたのですが、意外だなあ。

       まずは隊舎2Fの売店にて、先に料金を支払います。メニューは揚げ物やサラダ、デザート類が充実した
      ラックスプレートが850円
と、カレー単品のノーマルが400円。折角の金曜カレーなので、ここはデラッ
      クスプレート
いっときましょう。
       レシートプラスチック札2枚をレジにて受け取り、すぐ隣のKOBEカレー食堂へ。おお、道場みたいな
      立派な看板
が出ています。阪神基地隊の金曜カレーに対する本気度が伺えますね(笑)。

       ちなみにこのKOBEカレー食堂、普段は基地内の外部委託食堂『居酒屋かんべ』として活躍しており、昼
      は営外居住(基地の外に住居を構えてそこから通勤)の隊員さん向けの食堂として、夜は隊員さん憩いの居酒
      屋
として営業しているとの事。
       となると一般に開放される金曜日は、営外居住の隊員さん達は金曜カレーを食べ損ねる羽目になるんでしょ
      うか?それはちょっと申し訳ないなあ。
       さして広くない店内は、既に10人ほどの先客で賑わっています。まずは適当な場所に席を確保して、配膳
      台の前へ。レシートとプラスチック札一枚をキッチンに渡して、出来上がれば番号が呼ばれて残り1枚のプラ
      スチック札と交換
するシステムです。

       窓の外には神戸の海が広がり、これはいいロケーションだなあ。夕暮れ時は海の向こうに夕日が沈むんでし
      ょうか。天井の空調機にはいかにも港町神戸の夏を思わせるディスプレイが施され、子供会の夏祭りみたい
      ちょっと微笑ましい。岸壁に停泊するいかつい自衛艦とのギャップが面白いですね。
       しばらくして、私の番号が呼ばれました。おおお、浅い凸凹のあるステンレス製メストレー!いかにも海自
      施設内の食堂、という感じです。ちなみに本日提供されるのは掃海艇つのしま風カレー。この『風』というの
      が気になりますが、恐らく掃海艇つのしまから提供された秘伝のレシピをもとにこの食堂で作られた、掃海艇
      つのしまカレーを再現したもの
なのでしょう。

       取り放題の福神漬を乗せ、パック飲料を選んで席に戻ります。はやる心を抑えながら手早く撮影を済ませ、
      さっそくひと口。
       ほほう、なるほど。まず最初に舌に乗ってきたのは、しっかりとした優しく淡い甘味。それもフルーツ由来
      の華やかな甘味ではなく、濃厚なのにさらりとした野菜らしい甘味です。カレー全体の方向性は、まさしく正
      統派中の正統派
。これぞ日本のカレーライス!としか言い様のない正々堂々の味わいです。ここ一番の勝負ど
      ころでストライクゾーンのど真ん中ド直球を投げ込んでくる様な、揺らぎも迷いも感じられない王道っぷり
      がまことに素晴らしい。

       その威風堂々たる味わいを支えている野菜ですが、溶けかかったニンジンの切れ端が僅かに確認できただけ
      で、殆どはカレーの中に溶け込んでいる様です。そのぶん大きな豚肉が目につきますが、これは豚肉の塊とい
      うよりもポークステーキ用の豚肉をカットした風な板状ですね。
       コロコロの塊状に比べて若干スプーンに乗せづらいきらいはあるものの、豚肉特有の緻密でざっくりとした
      食感を残したまま柔らかく煮込まれ、丁寧に味を確かめながら時間をかけて作られた跡が伺えます。

       それにしても主役は豚肉なのに、野菜の旨味が全然負けていないのが凄いなあ。豚肉と野菜が完璧に融合し
      ながらも、決してお互いの個性を殺すことなくそれぞれの方向に尖っている感じ。辛さはあくまで穏やかで、
      豚肉のコクと野菜の太く穏やかな旨味を必要かつ最小限に引き締める程度。
       添えられた揚げ物は、可愛らしいビーフコロッケ鶏のから揚げが2つ。やや冷め加減の揚げ置きですが、
      牛赤身の渋い旨味を吸いこんだ甘いジャガイモはカレーと相性がよく、からりと揚がった鶏唐揚げはムネ肉特
      有の脂の少ないクールな味わい。どちらもカレーにピッタリです。

       ガラス小鉢に盛られた生野菜は、千切りキャベツトマト、あとスイートコーン。涼しげな断面を見せる
      で卵
の黄色も鮮やかで、これもカレーによく合います。

       もう一つの小鉢はフルーツ入りヨーグルト。冷たく甘いヨーグルトの中に、ピーチ、パイン、ぶどう、洋梨
      のシロップ煮
が入っていました。うーん・・・これはちょっと甘過ぎかも。辛いカレーにはぴったりかもしれ
      ませんが、まろやかな甘さのつのしま風カレーにはちょっと被る感じだなあ。
       個人的には加糖ではないプレーンヨーグルトを合わせたいところですが、酒保があるとはいえ陸ほど自由に
      甘いものが手に入らない艦内生活。私が思う以上に、海の上ではこの小さな甘味が結構な御馳走なのかも。

       パック入りのドリンクは、ドールのキウイミックス。他にココア等もありましたが、バランス的には牛乳
      合わせたいところ。そして最後は、デザートのチョコタルト。これもかなり甘いのですが、カレーとの相性が
      いいのか意外とイケますね。下半分はチョコムース、上半分は生チョコ風のソースというなかなか凝った内容
      ですし、このしっとりと冷たい食感も悪くありません。添えられた小さなクッキーはサクサクした食感で、全
      体の中でいいアクセントになっていました。

       それにしても、あとからあとから途切れずにお客さんが入ってきます。回り途中のサラリーマン風、土木
      作業員風、おじいちゃん軍団、小さな子供連れのお父さんやお母さん・・・と、客層は思っていたよりも様々。
       店員さんは食器を片づけたりお客さんに声をかけたりテーブルを拭いたりと、八面六臂の大活躍です。色々
      と質問してみたかったのですが、いま声をかけるのはちょっと悪い気がするなあ。
       余程このカレーに感銘を受けたのか、テイクアウトできないかと質問するお客さんもいました。ほんと美味
      しいカレーだったのでその気持ちはわかりますが、やっぱりこのカレーはこの場所に来て食べて欲しい気がし
      ます。
       いやあ見事なお味でした、掃海艇つのしま風カレー。全体の中で甘味が占める割合がちょっと多かったもの
      の、これは3度の食事しか楽しみのない艦内生活を思うとある意味仕方のない部分だろうなあ。スイーツ好き
      な隊員さんにとっては、それこそ狂喜乱舞の組み合わせでしょうし。

       ただ、サイドを固めるメニューが素晴らしく充実していただけに、肝心のカレーライスの量がやや物足りな
      い
気がしないでもありませんでした。多品目による栄養バランスを考えると確かにこれが正解ですが、カレー
      自体がほんと美味しかっただっただけに、やっぱり主役にはもうちょっと大きな顔をしてもらいたいなあ。
       ちなみに海自艦艇内の食堂は幹部用先任海曹用曹士用の3つに分かれていて、曹士が利用する科員食堂
      はセルフサービス。つまり食べたいだけ盛りつける事が可能なのですが、こんな美味しいカレーを出されたら
      体重は増える一方でしょう(笑)。
       体重の自己管理や普段の運動
を推奨するポスターを食堂に掲示するクセに、こんな美味しいカレーを食べ放
      題形式で提供
するなんて、いちカレー好きとしては随分な意地悪に思えてしまいます(笑)。

       その点、食事のたびに給仕役の隊員が盛りつけてくれる士官室先任海曹室は、最初から決められた量が出
      るぶん気楽
そうですが、それだけに
       「カレーおかわり!」
       の一言をなかなか言い出せず、毎回ため息をつきながら食べ終える人も多いのでは。これが艦に配属となっ
      たばかりの若手実習幹部なら、
       「ほほう、カレーおかわりか(笑)。なかなか勢いがある奴じゃないか、頼もしいぞ」
       と鷹揚に許してもらえそうな気がしますが、それなりの年齢になる艦長分隊長クラスにとってのカレーお
      かわり宣言は、一般人が考える以上にハードルが高い気がします。
       「しかし、うちのカレーはほんと美味しいなあ。もうちょっとでいいからおかわりしたいけど、若い奴等か
      ら『うちの艦長子供かよ(笑)!』って思われるのも、なんかヤダなあ。うーん・・・」

       という内心の激しい葛藤を微塵も表に出さず、涼しい顔で食べ終える艦長。そんな過酷極まる自己管理能力
      錬成プログラム
が、この一皿のカレーに隠されている気がしました。週に一度の金曜カレー。それは隊員さん
      達にとっての大きな楽しみであると同時に、切なさと闘う自己修養、自己練磨のひと時でもあるのでしょう。
       とは言え、このカレーを精魂こめて作り上げた給養員達にしてみれば、「おかわり!」の一言こそが最大級
      の賛辞
なんでしょうね。うーん、大人の世界は難しい・・・。

       ちなみにこれは、何事にもスマートさを第一とする海の人達特有の考え方で、陸と空ではまた違う気がしま
      す。これが陸自の場合なら、
       「ほれほれもっと食え!もっと走れ!」
       と、さらなるカロリー摂取とそれに見合った消費を推奨されそうですし、空自空自
       「うちの司令、いい歳してこないだカレーおかわりしてたんだぜ!」
       「へっ、うちの司令なんか2杯おかわりしてたもんね」
       「ぐぬぬ・・・負けた・・・」

       等と、変な評価の基準になってる気がします。うーん、一皿のカレーを通しても、陸海空それぞれの精神風
      土の違い
が見えて来るんですねえ・・・って、これはあくまでも私の勝手な空想ではありますが(笑)。

       ちなみにこのKOBEカレー食堂、金曜日だけでなく艦艇イベントや掃海艇一般公開のある日曜日にも営業
      を行っている模様(お休みの時もあるので、事前に阪神基地隊HPにて要確認)。こちらの方が利用し易いで
      すが、日曜日に出されるのはカレー単品だけで、デラックスプレートは金曜のみ提供だそうです。
       また、金曜日でも概ね4~50名のお客さんが来店し、結構な賑わいを見せているとか。
       「今日はまだ空いてますね。いい感じに落ち着いた雰囲気ですよ(笑)」
       と、食堂の外にいた職員の方が教えてくれました。
       そしてこのKOBEカレー食堂では、阪神基地隊に所属する5つの部隊それぞれのカレーをほぼ週替わりで
      入れ替えているそうです。本日頂いたのは掃海艇つのしま風カレーでしたが、他に阪神基地隊本部カレー
      良基地分遣隊(和歌山)カレー仮屋磁気測定所(淡路島)カレー掃海艇なおしまカレーというラインナッ
      プを誇っているとの事。うぬぬ、とことん私を喜ばせる様な真似を・・・(笑)。
       さすがにしょっちゅう食べに来る事は難しいですが、これは折を見ては通わざるを得ないじゃないか!とニ
      ヤニヤ笑いながら激怒しつつ、阪神基地隊を後にしました。




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