護衛艦いせ・みょうこう・せとぎり一般公開in伏木港

2016.07.23


       富山県の伏木港にて行われた、護衛艦いせ・みょうこう・せとぎりの一般公開に行って参りました。伏木み
      なとまつりの一環
として毎年この時期に護衛艦の一般公開が行われる伏木港ですが、今年はなんと3隻もの護
      衛艦が入港!
さらに3隻揃って一般公開を行うという大盤振る舞いで、前週の舞鶴地方隊サマーフェスタにも
      和歌山県の護衛艦あきづき一般公開にも参加できなかった私としては、これは見に来るなという方が無理な話
      
であります。
       当日はまだ暗いうちに自宅を出発し、北陸自動車道をすっ飛ばして0825に富山県伏木港万葉埠頭に到着
      しました・・・が、埠頭の入口に差しかかった辺りからもの凄い渋滞が。人家のない場所だからいいようなも
      のの、ここから駐車場まで何百mあるんだよ・・・と呆れながら車列の最後尾につきます。私の後方にもあっ
      という間に車が並び、さすがに護衛艦が3隻も入港するとなると注目度が違うなあ。
       その後しばらくして、急に車列が動き始めました。どうやら駐車場への乗り入れが前倒しになった模様です。
      誘導に従って車を進めて行くと、おお、埠頭のむこうにはDDH182護衛艦いせの巨体が!

       すみやかに駐車場に車を停め、まずは目の前のいせに向かいます。ひゅうが型護衛艦の2番艦、大きさでは
      後発のいずも型に抜かれたとは言え、それでもこの従来の護衛艦離れしたスケールは圧倒的ですね。
       いせの手前には既に乗艦待ちの列が出来ていますが、これだけデカイ艦ですから10人や20人出遅れたと
      ころでどうって事ないでしょう。薄曇りの空が明るくなってくれる事を祈りつつ、心おきなく撮影を済ませて
      から行列の最後尾につきます。
       巨大ないせの艦首部分からは4本のもやい綱が伸びて埠頭に係留されていますが、3000㌧前後のきり型
      やゆき型なら普通に見えるもやい綱も、13950㌧のいせだと絹糸か素麺みたいに見えてとても頼りなさそ
      う。

       お?よく見ると、艦首先端部からの0番もやいだけが蛍光イエローで塗装されています。他は白色なのに、
      どういう使い分けなんでしょう。暗い中のもやい作業でも視認し易い様にかな?でも、それなら白色でも問題
      なさそう
ですが・・・。これは乗艦して隊員さんに質問してみるか。
       埠頭の巨大なガントリークレーンの股間越しに、護衛艦みょうこうとせとぎりが見えました。みょうこう飛
      行甲甲板では乗組員の皆さんが整列していますが、その中に濃紺の防弾ベスト姿の隊員さんが混ざっています。
      あれは立入検査隊の人かな?

       この頃には上空の雲が切れ、空が青さを取り戻し始めました。同時に陽射しも強くなり、この後の暑さが思
      いやられ・・・あ、しまった、日焼け止めを車の中に忘れて来てしまいました。いせを見たあと、一旦車に塗
      りに戻らなきゃ。
       お、いせの甲板でカメラを構えている隊員さんと、望遠レンズ越しに目があってしまいましたよ(笑)。た
      ぶん艦内の広報担当の人でしょうけど、まるで敵対する狙撃手同士がスコープ越しに視線をカチ合わせた様な
      緊張感
が走ります。カメラを構えた隊員さんも、こころなしかニヤリと笑っていた様な気が・・・(笑)。

       そうこうしているうちに、一般公開開始時刻が近づいてきました。艦内からは昇降機が稼動する音が響き、
      最後の作動チェックが行われている模様。
       そして0930、サイドパイプの音色とともに、
       「一般公開、開始」
       の艦内アナウンスが。おお、いよいよです。

       見学者達が続々と艦内に入って行き、行列もじりじりと前に進みます。あれ?海面に浮かんでいるこれは
      イルフェンスですね。ちなみにこの護衛艦いせ、一般公開されるのは本日のみで、明日はみょうこうとせとぎ
      りのみの公開
となるとの事。残念ながら本日は仕事で参加できなかった富山県のSAA水兵さん
       「週明けからの訓練に備えて、補給と乗員の休養を前倒しにしたのでは?」
       と言っていましたが、おそらくその通りの模様です。能登半島沖で大規模な演習を行っている護衛艦隊が、
      わずかな補給の合間を縫って行ってくれた一般公開。上陸のやりくりも大変だったでしょうに、全く有難い事
      であります

       舷門前のテントで手荷物検査を行い、サイドランプを渡って久しぶりの護衛艦いせに乗艦です。特製クリア
      ファイル付きの豪華なパンフレット
を貰いましたが、これは普通にお金を取れるレベルだなあ。

       艦内入って右手、艦首方向には第一昇降機があり、今まさに見学者を満載して飛行甲板に上がっていくとこ
      ろ。高い天井の開口部からL字型に入り込んでいた太陽光がせり上がった昇降機に塞がれ、格納庫内は蛍光灯
      による白々とした灯り
に満たされます。

       先程まで昇降機があった床面は、まるでちょっとしたプールの様な形状になっていますが、昇降機が飛行甲
      板に固定されている時はこの部分の床が格納庫の甲板レベルにまで上昇し、限られた格納庫スペースを有効に
      使える仕組みになっています。

       上を見ると飛行甲板昇降機の間に結構な隙間があるのが分かりますが、これは真夏の太陽光で昇降機その
      ものが膨張したり波浪で船体に僅かな歪みが発生しても、昇降機が余裕を持って稼動出来る様最初からあえて
      作られた隙間
です。
       ちなみに昇降機が飛行甲板に固定されている通常の状態では、昇降機の外周を取り巻いているゴムパッキン
      
を膨らませて隙間を完全に塞ぎ、NBC兵器雨水等が艦内に入り込む事を防いでいるとの事。

       その後は降りてきた昇降機に乗り込んで飛行甲板へ。私がいつも被っている海上自衛隊幹部候補生学校の識
      別帽
が目に入ったのか、昇降機上で安全係を務めていた一等海尉さんがニッと笑いながら
       「いいの被ってますね(笑)!」
       さすが海上自衛官のトラウマを抉ると言われている、迷惑極まりないこの識別帽。反応されたのはこれで何
      度目かな
。最近はヨドバシカメラ梅田店で元海自の店員さんにいきなり声をかけられました(笑)。

       またこの一等海尉さんが面白い人で、
       「急がなくても大丈夫でーす!エレベーターは逃げませーん!」
       「このエレベーターは一回100円!・・・も取りませんのでご安心ください(笑)」

       等と、気さくに見学者に声をかけながら目を配っています。一等海尉と言えば海自の色に染まってそれなり
      の年月
が経っているはずですが、このおっちょこちょ・・・もとい明朗闊達ぶりが実にいい感じ。彼自身の
      の性格
というか、きっと普段から士官室のムードメーカー的な存在なのでしょう。
       ちなみに沢山の見学者を乗せて動いているこの昇降機、これだけで5㌧もの重量があり、最大30㌧もの物
      資を上下させる事が出来る
とか。これを一回往復させるのに、関西電力だったらどれ位の電気料金がかかるん
      だろう・・・とケチくさい事を考えてしまいました。

       今回で4年ぶり2度目となる護衛艦いせですが、以前乗艦した時に比べて甲板のトゲトゲが緩くなったとい
      うか、エッジが甘くなった気がするなあ。前回は就役して間もない時期だったせいか、殺意を感じるレベルの
      トゲトゲしさ
でしたが、その後4年間に及ぶ過酷な運用で肩に入り過ぎた力が程良く抜け、いい塩梅に丸くな
      った
模様です。

       飛行甲板の下部には、横方向に突き出る22本の円柱状のストッパーが。せり上がった昇降機は飛行甲板よ
      りも少し高い位置
で一旦停止し、その後下部に突き出たストッパーの上によいしょと乗る形で、飛行甲板と同
      じ高さまで戻る仕組みになっています。

       ちなみにこの飛行甲板の制御は格納庫と飛行甲板上の2箇所から同時に行われ、どちらか片方だけ操作して
      も動かない仕組み
になっています。万が一の事故を防ぐための安全装置ですね。
       という訳で、飛行甲板へ。おおお、甲板も空も広い!何度乗艦してもひゅうが型のこの開放感は感動的です。
      船の上なのに船な気がしないというか、まるで滑走路に立っている気分。

       20mm高性能機関砲ファランクスが佇立する艦首からは、目の前に停泊している護衛艦みょうこうとせと
      ぎり
を見下ろす事が出来ました。埠頭には乗艦待ちの長蛇の列が出来ていますが、乗艦規制を行っているのか
      甲板上はそれほど混雑していませんね。この時間ならまだ気温も高くは無いので、少々埠頭で待ってでもゆっ
      くり見て回れるほうが断然有難い。

       ここで先程艦首から延びていた黄色いもやい綱の事を、隊員さんに質問してみます。
       「ああ、あれは軽量化係留索っていいまして、従来の白いもやい綱よりも遥かに軽くて丈夫なやつです」
       ははあ、そんなのがあるんですねえ。今後はその新しい係留索に順次入れ替えていくんでしょうか。
       「いえ、それはちょっと分かりませんけど、基本的に大型艦だけに採用されるみたいです。あそこにいるみ
      ょうこうぐらいなら、従来の白い係留索のままじゃないですかねえ」

       へー、そうだったのか。それにしても、いつの間にかこんごう型護衛艦(みょうこうは3番艦)が大型艦扱
      いじゃなくなっている
のが感慨深いなあ。初めての展示訓練で乗せてもらった護衛艦こんごうを見た時は、
      んてデカイ艦なんだろう
と驚いたものですが、あの頃はひゅうが型いずも型もなかったんだよなあ。
       あれから10年後、そのこんごうの倍近い基準排水量を誇る護衛艦に乗艦するとか・・・当時の私に言って
      も信じてくれたかどうか(笑)。

       飛行甲板にはSH-60J哨戒ヘリが展示してあり、沢山の人が群がっています。しかしこのSH-60J、
      
夏場は機内が相当な暑さになると聞いていますが・・・と乗組員の方に質問してみると、
       「一応エアコンがあるにはありますが、あくまでもエアコンもどきですのであんまり効かないですね(笑)。
      それでも僅かながら効きのいい機体はマシですが、中にはまだ新しいのに効きの悪い機体もありまして、それ
      に当たった時はもう・・・(笑)」

       ははあ、操縦席は頭の上までガラス張りの温室状態ですし、キャビンはキャビンで頭の上にジェットエンジ
      ンを二つも積んでる
んですから、いくら冷やしても効かないんだろうなあ。
       「乗り込む時が一番キツくて、ドアを開けた途端に機内にこもった熱の塊がどっとぶつかってくる感じです
      (笑)。冬は冬でこれまた寒いんですが、寒い方がまだマシですかねえ(笑)」

       そんな環境下でこの人達は、一瞬も気を抜けないヘリの操縦を行っているのか・・・本当に御苦労様です。
       「有難うございます(笑)」

       よく見ると、左舷の遥か下方に民間の給油船が横付けしています。この小さな給油船で巨大ないせの燃料タ
      ンクを満たすには、一体何往復しないといけないのやら。お相撲さんが子供用の小さなお茶碗で何杯もお代わ
      りをしているみたいですが・・・
と隣にいた隊員さんに訊ねてみると、
       「いやあ、そんなことないですよ(笑)。燃料タンクが空になってから給油とか、そもそもありえませんし。
      残燃料何%以下になった時点ですみやかに給油する様、定められていますから(笑)」

       なるほど、そりゃそうですね。いつ緊急出動がかかっても対応できる様、訓練後もある程度燃料を残した状
      態で入港
するのが当たり前か。給油するのはあくまで減った分だけ、なんですね。
       それにしても、給油を行っている民間船の船名が『ひまわりGT』って(笑)。のほほんとしているのか
      ごく速い
のか、イメージが混乱します(笑)。

       甲板にはヘリコプター牽引装置も展示してありました。これをSH-60Jの後輪に噛ませて、有線リモコ
      ン
を操作して甲板上を牽引する訳ですね。ヘリとの接合部を見せてもらえましたが、密集した小さな六角形の
      金属棒
が接合部の形状に合わせて喰い込んで、がっちりと固定する仕組みなのが面白い。
       ちなみに動力源はバッテリーですが、いくら車輪がついているとはいえ10㌧を越えるSH-60Jを牽引
      するんですから、相当な力持ちなんだろうなあ。巨大な馬蹄形の殆どをバッテリーが占めているのかも。

       その隣には、同じくヘリコプターの牽引に使用するトーイングトラクタが。こちらはディーゼルエンジンが
      搭載され、海自のSH-60Jだけでなく陸自の大型ヘリも楽々引っ張り回せるとの事。
       「これ、普通免許があれば誰でも運転できますよ。もっともナンバープレートがないので、公道は走れませ
      んけど・・・(笑)」

       と、説明係の隊員さん。ちゃんと方向指示器ブレーキランプもあるんですねえ。
       その隣には2両の消防車が。万が一の事故に備えて、ヘリのフライト中はじっと待機している車両です。
      
化学消火剤の2種類のタンクを搭載し、内部で混合させてからポンプで噴き出す仕組みとか。

       やはり消防車に魅かれる子供は多いのか、沢山の家族連れが入れ替わり立ち替わり記念撮影を行っています
      が、フルフェイスの消防服を着せてもらった子供が車上でピースサインをした時、カメラを構えたお父さんが
       「うちの子か余所の子かわからん・・・」
       と呟いて、その場に和やかな笑いが広がりました。うーん、確かに(笑)

       ここでふと思いついた疑問を、傍にいた隊員さんにぶつけてみます。航海中に、艦内でに刺される事って
      あるんですか?
       「へ?蚊ですか?見たことないですねえ。定期的に艦内の害虫駆除を行っていますし、艦内にはいないと思
      いますよ(笑)」

       との事。なるほどなあ。
       艦橋構造物の後部には艦橋同様に窓が並んだ区画がありますが、あそこはヘリコプターの発着艦を管制する
      区画
ですね。よく見るとエアボス、航空指揮官が座る一画には足元にも窓がついていて、広く視界が効く設計
      になっています。

       別の隊員さんに、以前から気になっていた事を質問。海自艦艇で航海中に時折行われるというF作業(洋上
      での釣り)、このいせでもやるんでしょうか?
       「はあー、この艦では聞いたことないですねえ。やった事ないんじゃないですか?(笑)」
       そりゃそうですよね。なにせ飛行甲板から海面まで、実に17mもの高さがあるんですから。言わば6階建
      てのビルの屋上から釣り糸を垂れる様なもの
で、そんな悲惨な釣り場は聞いた事がありません。釣り好きな隊
      員さんには気の毒ですが、きっとお休みの時に仕事と完全に切り離して釣りを楽しみに行くんでしょう。

       おっ、艦尾VLSのハッチが1つだけ開放されていますよ。よく見るとハッチ内部には穴のあいた樹脂製の
      膜
の様なものがあり、どうやらこのカバーを突き破ってミサイルが射出される様です。傍にいた隊員さんに訊
      ねてみると、
       「はい、つい先日実射訓練を行ったばかりで、せっかくだからそのまま展示してみました(笑)」
       内部は硫黄っぽい色の煤にまみれていますが、発射するとこうなるのか。

       そのVLSの手前には、巨大な黄色いトラッククレーンが。最大25㌧もの吊り下げ能力を誇り、物資の補
      給搬入や防舷物の揚げ降ろし、果てはVLSへの装填まで
を担当する、文字通り『縁の上の力持ち』です。パ
      ッと見は先程のSH-60Jと同じ様な大きさですが、こちらはなん自重28㌧3倍近い重量です。あちら
      
出来る限り軽く、こちらは出来る限り重くした結果なんだろうなあ。

       この頃には陽射しはさらに強くなり、日陰のない飛行甲板は鉄板焼き状態ですが、今日は風があるので意外
      と快適。真っ青な空に真夏の白い雲が浮かび、はためく海軍旗が非常に絵になります
       前後2ヶ所の昇降機はフル稼働状態で、上がってくるたびに沢山の見学者を吐き出しています。飛行甲板の
      人口密度も上がってきましたし、そろそろ格納庫内へ降りるとしますか。

       おおお、格納庫内が涼しい!壁面には沢山の掲示物があり、搭載兵装から航空管制エンジンもやい綱
      種類、さらには調理室内の各種調理機器非常配食金曜カレーの詳細な説明まで充実していて、さながらい
      せ大百科
でした。
       また、格納庫中央部では広報ビデオの上映会が行われていましたが、壁一面の巨大なスクリーンを使用して
      いるので、まるでミニシアターみたいな規模。この一画だけでもゆき型やきり型の飛行甲板ぐらいあるんじゃ
      ないでしょうか。

       という訳で、護衛艦いせの見学は終了。サイドランプから上陸しますが、降りる人よりも乗り込んでくる人
      の方が多いなあ。今日一日でどれ位の人がお伊勢参りに来るのやら。
       その後は人気の少ない艦尾へ。うーん、なんというか・・・実に色気に乏しいお尻です(笑)。羊羹を包丁
      ですぱーんと切った様な、ただの断面ですねこれは。多用途支援艦の色っぽいお尻・・・もとい艦尾を見習っ
      てもらいたいなあ。

       一旦車に戻り、腕や顔、耳、首筋に日焼け止めを塗り込みます。それにしても、改めて見てもデカイ艦だな
      あ、護衛艦いせ。全長で200mない筈ですが、存在感が強烈なので300mぐらいありそう
       何年か前の展示訓練で、このいせと洋上ですれ違った事がありますが、低速でゆっくりと目の前を通過する
      いせの巨体は、さながら横倒しになった高層ビルが静かに流れて行く様な異様な光景でした。

       さて、続いては護衛艦みょうこうせとぎりを見に行こう・・・と思ったら、突然ぶいいいいいんとチェー
      ンソーの様な音が埠頭に響き渡りました。あ、みょうこうの後部ファランクスの操方展示を行っていますね。
      そこにいるだけで人目を集める護衛艦いせに負けるものかと、みょうこうも色々頑張っています。
       それにしても、こうして見るとせとぎりが凄く小さく見えるなあ。せとぎりだって3000㌧近くあります
      し、単艦で停泊しているところを見ればなかなか立派な艦容ですが、いかんせん基準排水量7000㌧を誇る
      みょうこうの隣ではなあ。

       じりじりと焙ってくる太陽と爽やかな海風を浴びているうちに、行列は順調に消化。よく考えたら、せとぎ
      りに乗艦するのは今回が初めて
なんですよね。これで未乗艦のきり型ははまぎりを残すだけになりました。
       という訳で、乗員の皆さんの敬礼を受けながらせとぎりに乗艦。先程までのいせに比べると、嘘みたいに低
      い乾舷です。
       右舷舷側にはチャフランチャーの説明板がありました。チャフの仕組みについては、予備知識のない人には
      なかなか理解しづらいものがありますが、こちらはとても分かりやすい内容になっているのが素晴らしい。今
      まで見たチャフの説明板の中でも一番と言っていい出来でしょう。

       前甲板に出ると、今やその役割をVLSに譲りつつあるアスロック発射機がどんと鎮座していました。いか
      にもアスロックぶっ放すよ!という仰々しさがあってカッコイイのですが、さすがに時代遅れの感が否めない
      のは仕方ないか・・・。
       発射機の前扉は全て開放されていて、多くの人が珍しそうに内部を覗きこんでいます。もしかしたら、これ
      も先程のファランクス同様に操方展示を行っていたのかも。また、アスロックの脇には説明係の隊員さんがい
      ましたが、この人の説明も非常に分かりやすく艦艇見学初心者に優しい内容でした。

       ちなみにこのアスロック発射機、発射後は噴き出す炎で甲板一面が真っ黒焦げになり、その後の手入れが大
      変らしいのですが、噴煙と一緒に大量の金属片も撒き散らすらしく、よく見ると甲板のあちこちに小さなクレ
      ーター状の傷を丁寧に補修したあと
がありました。
       「少し前に実射訓練を行ったんですけど、これ、私が甲板を修理した跡なんですよ(笑)」
       と、説明係の隊員さんはちょっと得意そう。今や時代に取り残されつつあるこの旧式の発射装置が、可愛く
      て仕方ない
のかな?うーん、なんかその気持ちはちょっと共感できるかも。いっその事、ちょっとお高い無農
      薬野菜みたいに『私が直しました』の顔入りラベルを貼ってはどうでしょうか(笑)。

       艦首にそびえ立つ76mm単装速射砲の後ろには、76mm砲弾のダミーが展示してありました。実際に射
      撃した空薬莢も置いてありましたが、先端部が青緑色に腐食しているのがいかにも発射した痕、という感じで
      す。

       艦首部には揚錨装置が並んでいますが、さっきのいせではこの部分が飛行甲板下の室内にあるんだなあ。艦
      の先端部、開放感があって当たり前な場所なので、他の艦からいせやひゅうがに異動して来た第一分隊の隊員
      さんは、慣れるまで相当違和感がありそう

       その後は左舷舷側通路から、隣にいる護衛艦みょうこうへ。よく見るとせとぎり艦橋構造物の後方に、オレ
      ンジ色の大きな水上標的Ⅰ型が縛り付けられていました。射撃標的とは言えこれ一つで結構なお値段なので、
      訓練ではこの標的に当てない様に射撃を行うという非常に矛盾した装備品です。HAL2000みたいに自己
      の在り方に混乱をきたし、航海中に反乱を起こさなければいいのですが(笑)。
       その水上標的には傷一つついておらず、とても砲弾の雨を浴びたとは思えない位にピカピカ。ある意味これ
      は、海上自衛隊の射撃能力の高さを表していると言えます。

       という訳で、久しぶりの護衛艦みょうこうへ。艦橋構造物が舷側に覆いかぶさる形状の通路を抜け、前甲板
      に出ます。すぐ頭上には八角形のSPYレーダーが搭載され、いかにもイージスシステム搭載艦といった面構
      え。従来の回転式レーダーが首をくるくる回して周囲を警戒していたのに対し、こちらは頭部の4隅に4つの
      目
を配置し、瞬きすることなく常に全周を警戒下に置く事ができるスグレモノです。

       艦橋正面にはチャフランチャーの説明板がありました。内容の分かり易さでは先程のせとぎりに一歩譲るも
      のの、IR弾発射の様子チャフロケットの装填シーンなど、なかなか目にする事のない珍しい画像を沢山使
      っているのが興味深い。
       前甲板には、まるで巨大な板チョコを寝かせた様なVLSが。この甲板下にミサイルが格納されていて、
      直に発射
される仕組みです。発射装置は全29セルと微妙に中途半端な数字ですが、これは3セル分を装填用
      クレーンの収納スペース
にあてている為。

       炎を吹き上げながら射出されるスタンダードミサイルや、白煙を噴き上げつつ上昇して行くアスロック等の
      珍しい画像がここでも使用され、みょうこうの説明板は画像の質の良さが特徴ですね。
       VLSの前にそそり立つ54口径127mm速射砲は、流石にでかいなあ。ちょっとした小屋ぐらいの大き
      さ
です。また、砲塔をあえてに向けてくれているのも憎い演出ですね。艦艇一般公開では真正面に向いてい
      る事が殆どなので、こういう珍しい角度で撮影出来るのは有難い。

       ちなみにこの127mm速射砲、FRP製の軽量な砲塔シールドを採用しているにもかかわらず、自重なん
      と40㌧!
殆ど戦車一台分です。なんでこんなに重いのか疑問ですが、砲塔だけでなく甲板下の給弾装置
      定具
を含めての重量なら、これぐらいになってしまうのかも。
       その127mm速射砲の説明板には、右回り45条からなる砲中内の珍しい画像がありました。また、発射
      後の砲身のメンテ
砲弾や装薬を装填する隊員さん達の姿もありましたが、みんなカメラ目線でニコニコ顔
      のが脱力感満点。修学旅行の写真かよ(笑)!写真の通りの明るく風通しのいい気風なんでしょうね、みょう
      こう艦内は。

       甲板には127mm砲弾装薬が展示されていましたが、これも流石にでかいなあ。32kgもあるこんな
      金属の塊を24km先まですっ飛ばす
とか、考えてみれば凄い話です。
       ここで傍にいた隊員さんに、みょうこうの手すりに掲げられていた『毘』の字について質問してみました。
       「はい、このみょうこうの艦名を頂いた妙高山は新潟県にあり、地元の戦国武将上杉謙信が自らを毘沙門天
      (仏教の守護神)の生まれ変わりと称していた事から、それにあやかってこの一文字を掲げてるんです」

       へー、そんな謂われがあったんですね。よく見ると売店の掲示物に鎧兜姿のキャラクターが描かれています
      が、これが上杉謙信か。側女にエロい冗談でも言ってぶん殴られたのか、ほっぺに貼られた湿布が痛々しい
      あ・・・あ、これは湿布じゃなくてSPYレーダーですね(笑)。

       続いては左舷の舷側通路へ。ああ、夏場はこの日陰が有難い。溺者救助訓練で使用される等身大のお人形
      
ボースンチェアに縛り付けられてありましたが、アンパンマンみたいな顔がこれまた脱力感満点。ちなみにこ
      のお人形、過去に在籍した名物先任伍長の名前をつけられる事が多いと聞きますが(海に投げ込む時に楽しい
      から?)、そのせいか概ね鬼の形相が描かれているんですよね。こんな可愛らしい顔は珍しいですが、みょう
      こうの歴代先任伍長さんは穏やかな人が多かった模様です。

       スライディングパッドアイプローブレシーバーといった洋上補給関連の装備品を見て歩いたあとは、艦後
      部の飛行甲板へ。お、三連装短魚雷発射管が、前部扉を全て外した状態で展示しています。内部の少し奥まっ
      たところには短魚雷の黒くて平べったい弾頭部が見えていますが、なんかパイプに入ったアナゴみたいでカワ
      イイなあ。
       発射管側面の点検孔からも魚雷の横っ腹が見えていますが、空気圧で射出する方式だけあって発射管内きち
      きちに収まっています。別の点検孔からは真っ赤に塗られた二重反転プロペラも見えますし、今日はずいぶん
      細かい部分まで見せてくれますね。

       みょうこう後甲板は、ヘリの格納庫が無いぶん広々と開放的。足元には全61セルからなる後部VLSが埋
      設されていて、前甲板のものと合わせて相当な打撃力を誇ります。
       後部ファランクス2基のミサイル誘導レーダーが設置された煙突後方構造物は、艦橋後面のSPYレーダ
      ー
に干渉しない様に左右をグッと絞り込まれています。角を曲面で構成した一時代前の雰囲気を漂わせるこん
      ごう型護衛艦ですが、不思議とあたご型に負けないシャープな印象を受けるのは、この楔型の煙突後部構造物
      のお陰でしょう。

       飛行甲板の一角では、みょうこうの立入検査隊が装備品を展示していました。普通は防弾ベスト鉄帽を並
      べる位ですが、みょうこうではフル装備姿の隊員さん特殊警棒手錠ユマールザイルまで並べて見学者
      に説明していました。
       パンパンに膨らんだ小さなポウチを見せてもらうと、中は医薬品が詰まっていました。堅そうなレトルトパ
      ウチの周囲には沢山の大きな切れ目が入っていて、グローブをはめた状態でも簡単に開封する事が可能。当た
      り前ではありますが、うまく出来てるんだなあ。

       みょうこう艦尾からは、はためく自衛艦旗越しに護衛艦いせを撮影する事が出来ました。今日この艦に乗り
      込んだ殆どの人が撮影するであろう、非常に美しい構図。これは是非当HPのトップ画像に使いたいですが、
      あまりに構図が美味しすぎて逆にトリミングのセンスが問われそうだなあ。
       それにしても護衛艦いせ、つくづく変な形をした船ですね。なぜあの形の船がばたーんと横倒しにならない
      のか、私は不思議でなりません
(子供の疑問かよ)。という事を、たまたま隣にいた隊員さんに告げてみたの
      ですが、その隊員さんはいきなり何を言い出すんだこの人は・・・という表情で、
       「いやまあ、そういう設計になっていますので・・・」
       うーん、そりゃそうなんですけど、あの形の船がなんで横に倒れないのか、不思議なんですよねえ。
       「うーん・・・言われてみれば、確かにそんな気がしてきました・・・」

       最後は舷門でみょうこうのパンフレットを貰い、勇ましい龍の旗に見送られながら隣の護衛艦せとぎりへ移
      動。狭い飛行甲板にはSH-60J哨戒ヘリが展示してあり、飛行服姿の隊員さん達が気さくに説明を行って
      いました。SH-60Jは機体上部のエンジンフードを開放し、僅かな隙間から搭載されたジェットエンジン
      を見せています。
       ちなみにパイロットの人によると、機体右側に搭載されてる赤黄色のMAD魚雷かミサイルの類と誤認し
      てしまう人が多いとの事。正しくは海面上空を曳航して地磁気の乱れを観測し、海面下に潜水艦が潜んでいる
      かどうかを探知する磁気センサーですね。

       同様に、機首部分から突き出ているピトー管機関銃と勘違いしてしまう人も多いとの事。こちらは飛行時
      に管の内外にかかる圧力差から対気速度を計測する、スピードメーターのセンサーみたいなもの。
       ちなみにこのせとぎり、これまでの無事故着艦回数は実に14840回を数え、1990年の就役以来一度
      もヘリコプターの事故を起こしていない
との事。凄いなあ。今朝有料道路の料金所に車を寄せようとして縁石
      でホイールをガリガリやってしまい、料金所のオジサンに慰められた私
にとっては眩しい数字です。

       格納庫の奥の方には、ヘリの整備道具一式をまとめた一角がありました。整理整頓の行きとどいたプロの仕
      事場
、ここがせとぎりの航空機運用の最前線です。
       そういえば、以前これまた私の海上自衛隊幹部候補生学校の識別帽を見て話しかけてきた舞鶴航空基地勤務
      だった元隊員さん
が、今のヘリはコンピューター制御が高度に発達し過ぎて、整備する方は本当に大変でした
      
と言っていた事を思い出しました。
       システムがあまりに複雑化しすぎて、どの部分に不具合があるのかを見つけ出すのにとんでもない時間
      がかかるので、どうにもならない時はパーツをまるごとを新品に交換し、専門の部署に送って故障箇所の割
      り出し
をお願いするとか。
       地上基地ですらそうなんですから、狭い艦内十分とは言えない整備環境さらに十分ではない人手の中、
      パイロットに万全の状態の機体を預けるべく日夜ギリギリまで心身を削って整備に打ちこむ人達の苦労は、ま
      さに並大抵のものではないでしょう。

       そういう事は外からはなかなか見えづらい部分ですし、現場の人達も普段の苦労を殊更ひけらかす真似はし
      ない
でしょう。それだけに、様々な機会を得てそこで見て聞いて触れて感じたいろんな事は、出来る限りこの
      HP上で発表して行きたいものです。
       ・・・と、そんな事を考えながら上陸。舷門で隊員さんからパンフレットを貰いますが、これは非常に嬉し
      い気づかい
です。乗艦前にパンフレットを貰うと、見学中は結構持てあます事が多いんですよね。途中で落と
      して失くす
事もありますし。見学する側の立場に立った実にお見事な計らいだと言えるしょう。これからは見
      学を終えた上陸時にパンフレットを渡す方式が一般的になれば嬉しいなあ。

       最後は埠頭に居並ぶ屋台へ向かい、かき氷で体を内部から冷却します。これからが一番暑くなる時間帯です
      が、埠頭にやってくる人達は途切れる様子がありません。今日明日の二日間、一人でも多くの人が艦に触れ、
      隊員さんに触れ、いろんな事を考えるきっかけになる事
を祈りつつ伏木港を後にしました。




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