魚津埋没林博物館
2015.07.12
富山県魚津市に所在する、魚津埋没林博物館に行って参りました。埋没林?なんじゃそりゃ?という方が
多いと思いますが、1930年代に魚津市の浜辺に大きな港を整備しようとした際、地中から大量の木の根が
出土。調査の結果、2000年前はこの辺り一帯に杉の大森林が広がっていた事が判明し、当時の地球環境
や生態系を研究する上で大変貴重な資料だった為、大規模な施設を建設して保存研究が行われた・・・とい
う経緯があるそうです。
その後埋没林自体が特別天然記念物に指定され、建て替えもあって非常に立派な施設になったのですが、
まあ学術的な事はさておいて、その埋没林の保存展示の方法が筆舌に尽くしがたいほど気持ち悪く、初めて
訪れて以来私はこの博物館が大のお気に入りになってしまったんですよね(笑)。今回はそのキモさをS.A.S
閲覧者の皆様と是が非でも分かち合うべく、久しぶりの来訪となりました。
当日はすぐ近くにある日本海食堂で遅い昼食を摂り、狭い一般道をしばらく走って1500に魚津埋没林博
物館の駐車場に到着。日曜日の遅い時間とあって広い駐車場はがら空きですが、あの気持ち悪さを一人静
かに堪能するには絶好のコンディションです。
地面に掘り込まれた形の入口の脇には大きな池があり、流れ落ちる水がさらさらと涼しげな音を立ててい
ます。まるでこの後に待ち受ける展示物の気色悪さを際立たせようとしている様な、博物館の悪意・・・もとい
お茶目心を感じる設計です。受付にいるお姉さんがとても明るく朗らかで感じがいいのもスイカに塩というか、
この上なく不気味なものを見せる前にあえて美しいものを見せようってハラですね。
さらに目につくのが、館内のあちこちで解説を行っている魚津市のゆるキャラ『ミラたん』。空色のプリンみ
たいで実にカワイイのですが、俺は知ってるんだよ、この先に途轍もなく気色悪いものが待っている事をな!
エロいDVDをできるだけエロく見る為に、視聴前にあえて天龍源一郎や藤原喜明の顔を思い浮かべるよう
なものですね。ミラたんの可愛さには騙されませんよ。
ふと見ると、売店コーナーの一角に、『げんげクッキー』という薄気味悪いお土産を発見。ふふふ、懸命にカ
ワイイもの美しいもので取り繕ってはいますが、我慢できずにこんなところで馬脚をあらわしたか魚津市。魚
は美味いが腹は黒いぜ!ちなみにげんげとは日本海でよく取れる深海魚の一種で、ぬるぬる&ぶゆぶゆな
非常に気持ちの悪い奴。魚津市の、正体見たり埋没林・・・という気分ですが、S.A.Sはそんな魚津市が大好
きであります!
その後は県道の下を潜る形で作られた地下道を通り、海側ににある展示施設へ。その地下道には、新大
陸誕生から原始時代にかけての地球の成り立ちを説明してありましたが、ここだけ見るとごく普通の博物館
みたいです。
展示施設を取り囲む通路を歩き、水中展示館の扉の前に。これまでごく普通だった展示施設が、ここで急
に表情を無くした様な無愛想な雰囲気になり、見にきた人の精神に冷たい不安感とざわめきを誘います。殺
風景な金属製の自動ドアが、まるで霊安室の入り口の様。カメラを三脚にセットして、一呼吸置いてから館
内に足を踏み入れます。
暗い室内に待っていたのは、15m程の長方形のプールに沈んだ、ウネウネと曲がりくねった巨大なスギの
根っこ。うはあ、何度見ても鳥肌が立つ気色悪さです。真っ暗に近い照明の加減も実に素晴らしく、初めて見
た人は『ヒィッ』と小さな悲鳴を上げそうなオゾい雰囲気。水面には波一つ無く、完全無音のこの真っ暗な閉鎖
空間も、その気持ち悪さに拍車をかけている様。
ちなみにこのプールに満ちているのは、地盤から沸き出している冷たい真水。背後にそびえ立つ日本アル
プスから流れ出て来る冷たい地下水のお陰で、地中にあった根っこが2000年もの間全く腐らずにその形を
留めていた事から、展示中の根っこの劣化を防ぐためにこうしてあるとの事。またこの施設ですが、施設を作
ってから埋没林を展示したのではなく、出土した埋没林のコンディションに少しでも変化が出ない様、埋没林
に合わせてその周囲に建物を作ったそうです。それ位しないと、学術研究的に価値のある保存方法にはなら
ないんですねえ。
なるほど、現在の、そして未来の地球環境の変化を読み解く上で、この根っこが非常に貴重な資料である
事は理解できましたが、それでもこのキモさが強烈。誰もいないと分かったら、水中でウネウネと動いていそ
うな知性を感じるというか、これ絶対ただの木の根っこじゃないだろ・・・と疑ってしまう様な何かを感じます。
気の弱い人なら、夢に出てきそう。
なんというか、捕獲した地球外生命体を仮死状態にして研究している政府の極秘施設に潜入した様な気分。
どうせなら、見学者にスパイの格好や白衣の貸し出しとかもやってほしいものですね。ついでに小銃を構えた
警備員のマネキンをあちこちに立たせておけば、もう雰囲気ばっちり。
また、この木の根っこですが、地下に降りてプールの中を真横から見る事も出来ます。窓からのぞいた木
の根っこは、まさに気持ち悪さ倍増。素晴らしい見せ方だと言わざるを得ません。そしてこのプールを取り囲
む形の地下通路そのものも雰囲気満点で、コンクリート打ちっぱなしの無表情な造りがたまりません。
保存の為に地下水の温度を低く保っているせいか、コの字型の通路は異様に寒々しく、ひんやりとした空
気はまるで死体安置所。結露のせいでそこら中がびたびたに濡れいているのも、たまンないものがあるなあ。
冷たく湿った足元から、ざわざわざわざわざわざわざわざわと這い上がってくる何かを感じます。
そしてこの、BGMを一切流していないのも素晴らしい。普通はスピリチュアルっぽいBGMや、シタールの
調べなんかを流してしまいそうなものですが、ヒタヒタという自分の足音、そしてシャッターを切るカメラの作動
音以外は何も聞こえない、暗くて湿った寒々しい地下空間・・・。
水槽内部では時折小さな気泡がポコポコと湧き出ていて、その度にドキッとさせられます。湧水に含まれた
気泡なのか、得体の知れない生命体が吐き出した気泡なのか・・・。
いやー、実に素晴らしかった!この時間とは言え、日曜日なのにここまで閑散としているのはちょっと気が
かりですが、もとより利益を出す為の施設ではないので、こんなもんなんでしょうね。今回もとても気持ち悪く
嫌な気分になれた事に、心からありがとうと言いたい気分です。
続いては、水中展示館の隣にある乾燥展示館へ。出土した根っこを乾燥させて、何らかの処理を施した後
に室内展示してある様ですが、明るく広い室内で見るそれはもうただの根っこでしかありません。先程まで嫌
という程感じた、全身の神経を紙ヤスリで逆撫でして来る様な気色悪さは皆無。
その後は、敷地内の小道をぐるっと回ってドーム館へ。なんというか、巨大なおっぱいみたいなのが何とも
はや。陰湿なグロのあとに、明るく脳天気なエロを演出したのでしょうか。そんな魚津が大好きです!
まるで非合法の地下闘技場の様なスケール感が凄いですが、展示してあるのは出土した木の根っこと、あ
といくつかの説明プレートのみ。うーん、内容の割にハコが立派すぎるというか、これなら逆に、粗末なプレハ
ブ小屋に展示した方が雰囲気出る様な気がしますね。要所要所に配置された手作り感溢れる蜃気楼クイズ
も、そっちの方が似合うなあ。
その後はテーマ館に戻り、展示物を見学。へー、この手の埋没林って、割と日本のあちこちにあるものなん
ですね。主に北陸と関東に散らばっていますが、何故か青森県と島根県に極端に集中しているのが不思議。
今の日本とは全く地形が異なっていたであろう大昔の名残なのか、それとも単に発掘調査が行われていない
埋没林がまだまだ沢山あるのか。
またこの博物館は、蜃気楼関連の展示も充実しています。上杉謙信が魚津で蜃気楼を見たという文献もあ
るそうですが、何しにこんな所まで来たんだろう。それより私的に魚津で蜃気楼と言えば、江戸川乱歩の『押
絵と旅する男』を連想しますね。あの作品とも絡めて欲しかったなあ・・・。もっとも、作品内の主な舞台は汽車
の中でしたが。
がらんとした施設内には、蜃気楼が発生する様子を科学的に再現した蜃気楼再現装置や、密度が異なる
気体や液体の境界面で、真っ直ぐに進む筈のレーザー光線が屈曲してしまう様子を再現した装置もあり、な
かなか面白いなあ。理屈は単純なんでしょうけど、目の前でレーザー光線が曲がる様子は、実に不思議な感
じでした。
2階のハイビジョンホールでは、蜃気楼関連の映像展示が始まっていましたが、あれは以前来た時に見ま
したし、途中から入場するのも憚られたので今回はパス。水族館か気合いの入り過ぎたラブホみたいな真っ
青に塗られた階段通路を上って、屋上の展望台に出ます。目の前には、穏やかに凪いだ富山湾。背後には
雄大な日本アルプスが広がっています。残念ながら蜃気楼は見えませんでしたが、地元に住んでいる人でも
滅多に見れないそうですから、これは仕方ないか。
最後は大きく深呼吸して、海風を胸一杯に吸い込みます。うーん、自分の中の気持ち悪い成分が抜けた頃
に、また見に来たくなるんだろうなあ、魚津埋没林博物館。次回も暗く嫌な気分にさせてくれる事を願いつつ、
大阪に向けて車を走らせました。
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