ハニベ巌窟院

2015.10.10


       石川県小松市に所在する、あのハニベ巌窟院に行ってきました!ハニベ巌窟院とは、寺院の敷地内にあっ
      た昔の石切り場の坑道を利用して作られた仏教系のテーマパークで、内部には特殊な立体造形を使った
      獄極楽一大絵巻
が展開されているという、極めて強烈な物件であります。
       このハニベ巌窟院、知っている人が聞けば誰もが漏れなく半笑いになってしまうという一部では超有名な名
      所で、それだけにへそ曲がりな私はすぐ近くを何度も通りながらも、なんとなく来訪を避けてきた・・・とう経緯
      がありました。
       また、とある事件をきっかけにその独特すぎる彫像類の多くが撤去されてしまい、昔に比べると魅力が減っ
      た
とも言われていた為、今更そんなものを見に行ってもなあ・・・という感じだったんですよね。
       しかし古いもの貴重なものが、ある日突然無くなってしまうという悲しい経験を何度も重ねるにつれ、やはり
      見れるものは見れるうちに見に行かねば!
という結論に至り、遅まきながらも今回来訪の運びとなりました。
       ちなみにハニベとは土でハニワを作る仕事の人を意味し、現代で言えば彫塑家がそれに相当するそうです。
       当日は北陸自動車道をひた走り、小松ICから一般道へ。田んぼが広がる風景を眺めながら梯川沿いを抜
      け、古い住宅が立ち並ぶ道路を進んで行くと・・・あ、アレだ!前方左手に巨大な大仏さんの頭部が見えてき
      ました(笑)!

       正門前の広い駐車場に車を入れると、うーん・・・なんとういか、すごいインパクトです。まるで大仏さんがの
      んびりと温泉につかっているみたいですが、表面のひび割れの補修跡が血管ビキビキに見えて、あまり快適
      そうには見えないなあ。

       ちなみにこのハニベ釈迦牟尼佛、肩まで作ったところで建立資金が底を尽き(笑)、以降は制作がストップし
      たまま
だそうですが、そもそも仏像って、頭の先から順番に作るもんなんでしょうか。下半身から作り上げて行
      くんじゃないの?よくわかりません。
       正門脇には受付があり、ここで拝観料800円を支払って内部に入ります。しかしこの巨大仏像の存在感が
      強烈
ですね。健康サンダルみたいな髪型といい二重アゴといい、威圧感が半端ではありません

       仏像の喉元は頑丈そうな扉がついた小部屋になっていて、なんだかこの仏像を操縦するコックピットに入っ
      て行く様
。内部にはこのハニベ釈迦牟尼佛建立の経緯が記されていて、
       『今を去る三十余年戦禍の跡未だ癒えず国土復興の前途猶遠きを思わせる頃、一代の彫塑家都賀田勇馬
      が丈六の大佛を謹刻し奉り世界万世の平和と戦没者慰霊を記念し大本山ハニベ巌窟院を開洞す』

       との事。へー、出来たのは戦後なんですね。そしてその室内には、夥しい数の緑色の小さな仏様が並んで
      いました。なんというか、その規模に圧倒されます。

       仏像のコックピットから外に出ると、周囲には無数のお地蔵さんが並んでいますが、よく見るとこれ、全部水
      子供養のお地蔵さん
です。そう言えば事前にチェックしたここのHPには、水子供養がどうとか書いてあったな
      あ。

       そしてその隣には、真っ白い馬の彫像が。確か仏陀が白い馬に乗ったとかそんな話を聞いた事があります
      が、素人目にもわかるすごい躍動感。なんだかディズニーアニメみたいだなあ。

       さらにやけに偉そうな彫像もありますが、これは金沢の豪商銭屋五兵衛とか言う人の銅像だそうです。なん
      でも海運業で地元石川県の発展に大きく貢献した、郷土の英雄とか。

       そしてその前にあったのが、山を背にしたもう一つの仏像。先程の血管ビキビキ大仏に比べると、随分と穏
      やかで女性的な雰囲気
にホッとしますが、やけに肩幅が広いというか頭が小さいというか、下半身がデカイ
      いうか。
       おそらく全体の台形に近いラインをより強調する事で、遠近法っぽい錯覚を利用して大きく見せたかった
      かもしれませんが、今時チックな小顔の大仏さんというのは、貫禄というか有難味に欠ける気がします。

       続いて現れたのは3体の訳の分からない彫像。この辺りから、大いなる脱線の予兆の様なものが感じられ
      てきました。白虎舎のダンサーにコールタールを塗りたくったらこうなりそうですが、これも先程の白馬と同様
      にもの凄い躍動感。
       それぞれに体をひねって妙なポーズで固まっていますが、1㎜も動かないのに(当たり前だ)筋繊維の一本
      一本が音を立てて軋んでいる
様な、内部から迸る衝動エネルギーの様なものを感じます。その場から一歩
      も動かない事で、逆に動きを強調している
と言えばいいのかなあ。

       一転して日本らしい詫び寂びを感じさせる大きな池にかかる橋を渡ると、道は山肌に沿った階段へと続いて
      行きます。それにしても、先程から何人かの見学者の姿を見かけますが、見事な位にカップルばっかり。石川
      県ではここがデートコースなのか?
       ディズニーランドのナイトカーニバルに男一人だけで来ている様な、身の置き所のない場違い感を覚えます
      が、目の前にあるのはでかい大仏さん変な彫像ですよ。私とカップル、果たしてどっちが間違っているんだ
      ろう・・・。
       そんな事を考えながら一人で階段を上って行きますが、脇には一段ごとに水子地蔵が立ち並び、歩いて行
      くうちにだんだん暗い気分にさせられます。そして見えてきたのが、ハニベ水子地蔵堂

       このお寺の守備範囲というか担当ジャンル的に、こういうのがあって当然なんでしょうけど、説明板にある
       『縁あって一度お腹に宿した我が子の顔も見ずして葬った罪は、あなたの人生に深く関わっています』
       という下りがなんとも嫌な感じ。流れてしまった幼子や両親には、一言では言い尽くせない色んな事情があっ
      たでしょうに、それを一括りに『罪』と言い切ってしまうのはどうなんだろう。ありもしない罪を押し付けては安く
      ない供養料
を引き出そうとしている風に見えなくもなく、どうにもスッキリしません
       水子供養のお寺に来てそんな事を言うのは筋違いではありますが、何なんだろうこのモヤモヤは・・・と、あ
      まり私らしくない義憤にかられてしまいました。が、よくよく考えてみれば、どの家も子だくさんだった昔は間引
      く
という行為自体が割と普通の事であり、むしろあえてこれ位キツイ言い方をしないと、ただ日々の暮らしに追
      われていた人達が、生まれる事なく亡くなっていった幼い子供の命を顧みる事はなかった
のかも・・・。そうした
      倫理的な教育の場としての役割が、昔のお寺や神社にはあったんでしょうねえ。

       さらに山道を登っていくと、高く組まれた石垣の上にボロボロに傷んだ建物が見えてきました。なんだか廃村
      の集会場
湯治場跡の様ですが、この味わいにはちょっと魅かれるものがあるなあ。後日知ったのですが、
      これはハニベ道場という院主が彫像類を製作する工房でした。うーん、中を見てみたかったなあ。

       坂道を登りきったところにはトイレがあり、その先には隆明殿という建物がありました。それにしてもこの、ま
      るで返り血を全身に浴びた様な彫像はなんなんでしょう。色合いのセンスが怖すぎです。その周囲には、なん
      だか知りませんがうなだれたオジサンライオンの類がありますが、いずれも仏教に関わりの深い動物
      なのでしょう。

       山肌に面したこの広場を右に行けば、阿弥陀堂願皿。左に行けば隆明殿を抜けて洞窟の入り口に通じて
      いる模様。メインは洞窟なので、まずは右手の阿弥陀堂と願皿から行っときましょう。

       立派なコンクリ造りの入り口をくぐると、如何にももと石切り場らしい直線で掘り込まれた大きな空間が広が
      っていました。聖観音像日蓮親鸞の座像が展示してありますが、親鸞が微妙にイラついている風に見える
      
のは、遊び半分でやってきた私のふざけた心を見透かしての事でしょうか。

       ほほう、願皿というのはこれの事か。真っ白い素焼きの小皿2枚100円で、一番叶えて欲しい願い事を書
      いて満願成就の聖函に投げ入れろ、とありました。一番の願い事を叶えてくれるにしては100円という激安価
      格
なのが気になり、なんとなく効果のほどが怪しい気がしますが、折角なので100円玉を入れて、私も何か書
      いてみましょう。

       とはいうものの、いきなり願い事を書けとか言われても、特に思いつきません。まあ、いろんな意味でそこそ
      こ満ち足りた自分
を知るには、いい機会なのかもなあ。とりあえずぱっと思いついた事を書いてみましたが、
      これが俺の願い事か・・・なんかショボい気がしますが、まあ100円ですからね(笑)。

       で、この皿を洞内の一角に投げつける訳ですが、辺り一面に砕け散った皿の破片が散乱していて、これ、
      しろ願い事が叶わなくなるんじゃ・・・
。みんな木っ端微塵になってるし。

       とりあえずシューティングレンジみたいな場所に立ちますが、そんな私を弘法大師阿弥陀如来が見守って
      いて、室内射撃場で訓練を行う自衛官と教官達みたいな光景。どうにも落ち着かない気分で願い事を書いた
      皿を投げると、パキャーンと景気のいい音を立てて、私の願い事は粉々に砕け散ってしまいました。・・・やっ
      ぱりこれ、願い事が叶う気がしないなあ
。やめときゃよかった(泣)。

       私の願い事が目の前で見事砕け散るのを微妙な気分で確認した後は、先程の隆明殿へ行ってみます。そ
      の足元には、子猿を抱きながら私に向かってシャウトしている親猿の彫像が。小さいのに、これもなんか凄い。
      今にも飛びかかって噛みついてくる様な迫力を感じます。

       隆明殿の内部は結構立派で、沢山の観音像インド仏教の美術品、あと地元安宅の関にちなんだ巨大な
      義経像
の原型が展示されてありました。
       また、初代院主である都賀田勇馬氏の来歴も紹介されていましたが、山の中で訳の分からない事をしてい
      た変な人
かと思いきや、数々の展覧会で表彰されたり地元の芸術家に工芸指導を行ったり、日展の審査員
      
に推挙されたりと、芸術分野で大いに名を成したすごい人だった様です。

       さてこの後は、いよいよ洞窟へGO。山肌を大きくくりぬかれた入り口前には、2体の彫像が置かれています
      が、これは金剛力士像でしょうか。小さい頃に遠足で訪れた法隆寺で見た筈ですが、微妙にポーズが違う気
      が・・・。あっちは「ハァーイ!」みたいな、もっとフランクな感じだったと思うのですが。

       内部は洞窟らしいゴツゴツした雰囲気ではなく、いかにも石切り場らしいスクエアな印象。地面もコンクリート
      で整地されていますし、なんか地下鉄の通路にいるみたい。

       最初に見えてきたのは、初代院主の夢の中に出てきた『夢牛』。90年の生涯で全ての夢をかなえ、満足し
      てこの世を去った初代院主にあやかって名付けられたそうで、願いを込めながら投げた小銭が牛ちゃんの上
      にとどまれば、その夢が叶う
と言い伝えられているそうです。
       実際牛ちゃんの周囲には小銭が散らばり、頭頂部には辛うじて引っかかっている10円玉や1円玉がありま
      すが、ゲーム性を巧みに取り入れた高度に洗練された課金システムと言えます。

       奥に進んで行くと、商売繁盛の神様である大黒様が登場。入っていきなり金のニオイぷんぷんなラインナッ
      プに驚きを禁じ得ませんが、大黒様って、確か神社にいるんじゃなかったっけ?もともと七福神インドの神
      様
だったと聞きますが、仏教カテゴリーにも関わっているんでしょうか。

       その先、奥まった所にある広い空間には、仏陀がママのお腹に宿ってからの一代記が、スケールの大きな
      レリーフで展示されてありました。4名の女性にかしずかれながら右手を上げて微笑んでいるのは、生まれて
      いきなり天上天下唯我独尊と言い放ったという、あの有名なワンシーンですね。なかなか高貴な表情で、この
      歳にして既に器の大きさが感じられます。

       そしてその空間の中央部には、同じく蓮華座の上で右手を高く掲げている子供の彫像がありますが、これも
      仏陀誕生の場面なんでしょうか。レリーフの仏陀に比べると随分と小憎たらしい顔というか、授業参観にやっ
      てきた母親の前で見栄を張って分かりもしないのに手を上げたら見事先生に指名されてしまい、固まってしま
      ったアホな小学生
みたいです。

       続いては鬼子母神像。これは有名だから私も知ってますよ。インドではハリティと呼ばれた、子供の生き血
      をすする鬼女
です。しかし、お説教しに来た釈尊が拉致ったハリティの末子の名前がピンカラだとは知りませ
      んでした。もしかしてぴんから兄弟って、ここから名前を取ったんだろうか。

       我が子を拉致られたハリティは気も狂わんばかりにその名を叫びながら町をさまよい、ついには釈尊にワビ
      
をいれてこれまでの悪行三昧を悔い改めたとの事ですが、すごく可哀想な場面にも関わらず、
       「ぴんから!ぴんから!」
       と号泣するハリティを想像する度に宮史郎の顔が脳裏に浮かび、なんだかトホホな気分になってしまいます。

       その隣には、なんか随分と煤けてしまった招き猫が。いや招き猫も、神社とか神道の系列でしたよね。しか
      しその招き猫の隣には、『世にあまた招き猫あれどハニベの招き猫は正統なり』という力強い注意書きがあり、
      そうか、そうなのかと納得させられます。ニセモノ招き猫には注意です。

       ここで唐突に現れたのが阿修羅像。言わずと知れた三面六臂の戦闘神で、色々と禍々しい伝説を纏った
      道の守護神ですが、独特の照明に照らされた地下空間で見る阿修羅像は、なんとも神々しい雰囲気を漂わせ
      ています。気圧される様な気分で撮影すると、合わせた手のひらから緑色の阿修羅ビームが出ていたのには
      驚きました。

       ここから先は、インド彫刻コーナーです。そもそも仏教の源流はインドだし、こういうのがあって当然か・・・と
      思っていましたが、余りに素直に源流を遡り過ぎてエロ度満点。そうか、こういうのを見てウォームアップ
      来ていたんだな、石川県のカップルどもは。ケッ。
       それにしても、人が生きるパワーをエロに見出したインド仏教だけあって、彫像の一つ一つに照れというもの
      がまるでなく、どうにも目のやり場に困ってしまいます。エロフィギュアか君らは

       豊満な肉感腰のくびれを強調するあまり、おっぱいの一つ一つが現実的ではない不自然な曲線を描いて
      いて、エロ本であからさまな整形おっぱいを発見した時の様なとても残念な気分。っていうか、印度産のおっ
      ぱいって普通にこんな感じなのかなあ。国産しか見た事ないから分からないや

       ミトゥナ神の説明書きにありましたが、極端な禁欲苦行極端なエロティシズムの追求が混然一体となって
      いるのが、確かにインドっぽいかも。

       さらにその先には、なんかもうすごい事になっている4名がいます。ここまであからさまというかあけっぴろげ
      だと、もはやエロ度ゼロパーセント。3名の女性をたった1人で相手している男ですが、正直あまり楽しくなさそ
      う
というか、
       「いやね、最初はやっぱりワクワクしてたんですけど、いざやってみたら想像以上に大変っていうか、ぶっち
      ゃけあんまりイイもんじゃないっスよ・・・」

       と言っている様な微妙な表情です。

       説明書きには、インドでは昔から個我と神との合一をもって解脱の極致とする考え方があり、その合一をし
      ばしば男女の性的結合になぞらえて説かれている、とありました。精神の解脱と肉体享楽の極致は一致する
      
との事。うーん、分かる様な分からない様な・・・。とりあえず、これはこの先いろいろと言い訳に使えそうだか
      らメモしておこう・・・。

       さてここから先は、いよいよ皆様お楽しみの地獄コーナー(笑)です。昔の中華料理屋みたいなセンスの
      獄門
という看板の左右には、地獄の定番である牛頭馬頭(ごずめず)がお出迎え。牛頭ちゃんは左手を挙げ
      ていらっしゃいませと言わんばかりですし、馬頭ちゃんは座って揉み手しているみたい。随分とフレンドリーな
      地獄
に、期待が膨らみます。
       「一名様どうぞ~」
       と案内された気分で入った先には、やけに薄暗い水たまりが。ん?よく見ると、水面になんか変なのが浮か
      んでいますよ?フラッシュ撮影してみると、赤青という悲惨な色彩センスの鯉と、あと何だこりゃ。ちょんまげ
      をつけた人面魚みたいなの
が浮かんでいます。顔だけ妙にリアルな造り込みなのが気色悪いですが、仏教
      的に何か関係あるのかな?

       続いて現れたのは、轢き逃げの罪。幸せを呼びそうな黄色いパンツをはいた青鬼が、巨大なトゲトゲ車輪
      を転がして亡者を轢き潰しています。『地獄の車に轢かれて思い知る』とありますが、現世で轢き逃げをする
      とこういう目に合うよ
、という事かなあ。造りの荒々しさが、これまた異様な迫力を醸し出しています。
       それにしても、車輪の下でぐちゃぐちゃにされている亡者の造形が強烈・・・。あと轢き逃げって、車へんに
      楽しい
、って書くんですねいいのかそれで。一つ賢くなりましたが。

       柱に寄りかかっているのは、懸衣嫗(けんいう)。これは三途の川で亡者の衣服をはぎ取る奪衣婆(だつえ
      ば)の事かな?桂文枝にちょっと似ているのが気になります。
       その先にあったのが、鬼の食卓。4名の鬼たちが丸いちゃぶ台を囲み、楽しそうに飲み食いの真っ最中で
      す。ご丁寧にも大皿に盛り付けられたメニューまで明記され、目玉の串刺し耳と舌の甘煮面皮の青づけ
      人血酒、というラインナップ。一品一品が実に精巧に作られていて、ちょっと私もご相伴させて欲しいなあ。さ
      ながら突撃地獄の晩ごはんですが、お前らちゃんと野菜も食えと言いたくなります。

       続いて現れたのが、食物を粗末にした罪で、地獄の鬼にで突かれている亡者。脚を開いてのけぞっ
      ている亡者が微妙にエロティック
というか、喉元のあたりが艶めかしいなあ(笑)。後の方でニヤついている鬼
      もコミカルですし、なんだかこの地獄が目指している方向性が分かってきましたよ。

       その奥に居たのは、調理室に佇む若鬼のコックさん。コックさんってあんた・・・(笑)。ラーメン屋の店主み
      たいに腕組みをしたヘルコックは、舌をペロリと出してお茶目な表情。しかしその背後には切り取られた腕や
      足
生ハムの様に吊るされていて、まな板の上にはお尻が置いてあります。うーん、なんというか、楽しんで
      ますね院主さんは(笑)
。そう言えば、以前ちょっとした事から地獄の調理師という非常に心ない呼び方をされ
      ていた事を思い出しました。

       その隣にあったのは、闘争に明け暮れた罪で三すくみになっているところ。ははあ、ヘビカエルナメクジ
      のアレですね。とは言え目の前にいるのはヘビとカエルだけで、ナメクジの姿が見えませんが・・・とその後方
      に回り込むと、うわっ、いました!地面に突っ伏した亡者の背中に、巨大なナメクジがぺっちょりとのしかかっ
      ています!

       しかしこれ、亡者は微妙に喜んでないか?つま先の伸び具合にいやらしいものを感じますが、かなりマニア
      ックな性癖を持つ亡者
みたいです。お楽しみの最中の様ですから、そっとしておきましょう・・・。

       続いて現れたのは、非常に薄気味の悪い真っ白な男女。男は舌先三寸で、女は色目を使って人をたぶら
      かした罪の結果、こんな事になっているそうです。しかしこれは怖い!この不自然な白が、血の色の禍々しさ
      
を強調していますね。小さな子供が見たら一発トラウマ間違いなしです。

       グロテスクな展示物は止まるところを知らず、今度はヘビ地獄の登場です。しかしこのヘビ地獄、何故この
      人がヘビまみれになっているか
の説明は一切なく、単に見学者の生理的嫌悪感を無暗矢鱈と煽りたいという
      院主さんの悪戯心が見える様。
       さすがにこんな目に合うのは御免ですが、特にヘビが嫌いな訳でもない私としては、うーん、そうかという感
      想しかありません。とにかくキモいものを見せたい一心でこれを作ったとすると、もしかして院主さん自身ヘビ
      が苦手なんでしょうか。だとしたら、ヘビへの嫌悪感で全身サブイボまみれになりながらこの展示物を作った
      のかなあ。もの凄いM魂、いやクリエイター魂を感じます。

       続いて現れた広い空間の奥には青鬼が座っていて、その手前には無数の骸骨が山の様に積まれていまし
      た。なかなか強烈なインパクトですが、青鬼はともかく、この大量の骸骨はどうやって作ったんでしょう。まさか
      一つ一つ岩から削り出したとも思えませんし、どこかの工場に依頼して大量生産してもらったんでしょうか。

       そして端の方には、血の池が。っていうか、血の池の割には水はキレイに澄んでいます。よく見ると血まみ
      れになった人が気持ちよさそうに水浴び
していますが、看板に偽りありと言わざるを得ません。
       しかしこの血の池をフラッシュを使って撮影すると、途端に寒々しくも禍々しい雰囲気が強調されるのです
      から、面白いもんだなあ。

       さらに続くのは、我が子を殺した罪。生んでは喰い、喰っては生むお産の苦しみ・・・との事。先程の水子供
      養云々ではありませんが、こういうのにはちょっと嫌悪感を覚えるなあ。そもそも地獄めぐりの展示なのです
      から、それが狙いなのだと思いますが、この素晴らしくよく出来たハニベ巌窟院ワールドに、笑いと表裏一体
      にならない展示物を置くのは興ざめ
な気がするのですが・・・。

       あ、こっちは十分に笑えますね、乱用の罪(笑)。一物重く足腰立たず、だそうですよ。悟りきった様な表情
      の亡者が、01式軽対戦車誘導弾の様になった○○○○を持って座りこんでいます。足腰立たないなら上に
      乗ってもらえばいいじゃない!
という気がしますが、そういう問題でもないか。

       しかし乱用って、一体何に使ったんだろう・・・。普通に考えて、本来の正しい使用方法ではない間違った使
      い方をした
という事でしょうけど、横断歩道をよろよろと渡っているお年寄りの手を○○○○で引いてあげた
      とか、女の子に絡んでいるチンピラを○○○○でボコボコにやっつけたとか、都知事のセコい政治資金不正
      流用を○○○○で暴いた
とかそういう事か?なんだそれ、正義の人じゃん・・・。

       悪だくみ、と書かれた説明板の向こうには、巨大な蜘蛛とその巣が。なんというか、ここまで来るともう仏教
      関係ありません
。いや、蜘蛛の糸という作品があったっけ。
       そして強烈だったのが、不敬罪。表情の造り込みと全体の荒れ具合が凄まじく、これ焼け焦げた本物の生
      首なんじゃ・・・
と疑ってしまいます。頭部に生えた苔がまるで溶けかけた頭髪の様ですが、これは意図したも
      のなのかなあ。凄すぎるわ、院主さん・・・

       全身にサブイボが立つような鬼気迫る作品群に圧倒されていると、今度は変なのが来ましたよ。六色地蔵
      尊
。白青赤橙緑黒に塗り分けられたお地蔵さん軍団ですが、まるで戦隊ヒーローものみたいで脱力感満点。
      それにしても六色地蔵尊って、随分安直なネーミングだなあ。三色アイスみたいに言うなよ・・・

       ここでいきなり雰囲気が変わって、道元大聖王不動明王の座像が現れました。うーん、地獄門をくぐって
      から立て続けに襲い掛かってくる展示物の、緩急強弱の自在っぷりが素晴らしい。なんかもう、一つ一つの
      作品に振り回されっぱなし
です。

       お次は魚藍観音。この観音様はどん亀の上に立っている事から、戦時中は潜水艦(どん亀)との絡みで
      軍の守護仏
とされたとか。へー、意外なところで海軍と繋がってきましたね。
       そう言えば、よこすか海軍カレー商品化発祥の店として知られる名店の名前が『魚藍亭』でしたが、やっぱ
      りこれに関連して名付けられたんでしょうか。

       続いて現れたのは、全長3mの閻魔大王の座像。あれ、また地獄に戻りましたよ。展開が急すぎて追いつ
      けません。さらに風神雷神天女と続いたあとは、不思議な造形の仏様。なんかこれ、すごく違和感があるな
      あ。説明が一切ないので細かい事は分かりませんが、頭と上半身と下半身がバラバラというか、顔は大仏っ
      つあん
、上半身は普通の人、そして下半身は相撲取りみたいなチグハグさ。

       その後はインド古代寺院の彫刻ミトウナ像で唐突なエロ返りを見せたかと思いきや、法然最澄極楽鳥
      というさっぱり分からない取り合わせが続き、最後は本尊釈迦牟尼佛釈迦十代弟子

       この十代弟子は一人一人に個性の様なものが滲み出ていて、勝手に色々なキャラ設定をつけたくなります
      ね(笑)。よく見ると一人だけ、修行中に突然忘れ物を思い出したうっかり者の弟子がいます。勝手に部屋に
      入って掃除をするおかんがいるのに、エロ本をベッドの下に仕舞い忘れて出てきた事
に今頃気がついたんで
      しょうか。合掌

       その後は真っ暗な通路をとぼとぼと歩き、辿り着いたのは愛染明王。縁結びの御利益があるそうですが、
      いきなり激怒したかのようにピカッと目が光るので驚きました。しかし縁結び担当か・・・。今風に言えば婚活
      ですが、そんな雰囲気の顔じゃないなあ・・・。もうちょっと穏やかになれないものでしょうか。

       そしてトリを務めるのは、壁面に掘り込まれた穴の中に鎮座している大日如来像。如来と言えば、確か仏
      教一家の中では結構なエライさんというか、位階で言えばかなり上の方にいる筈ですが、妙に小さい上に
      ンポールみたいな色で塗装
され、心なしかその表情には無念さが漂っている様。んん~、仏教界にも色々あ
      るんだろうなあ・・・。

       以上でハニベ巌窟院の洞窟巡りは終了です。いやー、なんかもう凄かったですね(笑)。約150mの坑道
      めぐりでしたが、余りに濃いので1500mぐらい歩いた気分。正直大して期待していなかったのですが、予想
      を遥かに上回る強烈さ
でした。

       さて、この後は一旦洞窟の外に出て、山上自然公園にあるという日本一の大涅槃像を見に行きます。照明
      設備は十分に整った洞内でしたが、外に出るとやっぱり空の明るさ緑の匂いにホッとさせられます。山道
      はそれほど荒れておらず歩きやすいですが、山全体が粘土質らしく、昨晩降り続いた雨のせいで足元が滑り
      やすい箇所がいくつかありました

       5分ほど坂を上っていくと、急に開けた場所に出ました。ほほう、これが山上自然公園か。例によって妙な
      彫像
が何の脈絡も無く突っ立っていますが、広場の中央部にあるこれが大涅槃像。うーん、これが日本一な
      のか・・・。正直そんなに大きくないなあ。っていうか、別に大きさ日本一と書いてあった訳ではないですね。
       しかしこの涅槃像、脚はピンと伸ばしているし右手は敬礼してるみたいだし、あまりリラックス出来ていない
      のでは。アイソメトリックトレーニングみたいです。

       それにしても、この風景そのものはなんか圧倒されるものがあります赤茶けた地面には昨夜の大雨で出
      来た濁流の跡が広がり、ぽつぽつと散らばった雑草が何とも寒々しい。曇り空の加減が余計に地面の赤っ
      っぽさを強調
していて、まるでテラフォーミングに成功した火星で発生した大規模洪水の後に、地面を削って
      表れた古代火星文明の遺跡
の様です。先程までの洞窟巡りが現世と反対側の地獄だとすれば、ここはまる
      でSFの世界の様。

       ふと思い出しましたが、小さい頃に風邪をひいて熱にうなされながらぼんやりと見ていたテレビの映画、確
      か『火星年代記』だったと思いますが、あの映画の光景にちょっと似ている気がします。
       自然と銘打ってあるのに、生命感があるのかないのかさっぱり分からない山上自然公園。この先さらに整
      備を進めて行くのか、もうこのまま放置するのか分かりませんが、これはこれで非常に面白い風景なので、
      是非ともこの味を残しておいてほしいものです。

       その後は山の中をぐるっと回って帰路につきます。大きな山を丸ごと一つくりぬく形で掘られた坑道を抜け
      て
、山上から回り込むようにして先程の隆明殿前の広場に辿り着きました。凄いな、山をまるまる一つ使って
      自分の作品世界を作り上げてしまったのか・・・
。芸術家親子二代による、凄まじい表現意欲の結実。いやあ、
      凄い人達がいたもんだなあ。遅まきながらも来てよかったです。
       時刻は16時を回り、見学受付のあった正門は締めきった様で、隣にある建物の中を通って外界に出ます。
      折角なので、売店で何か買って帰ろうかな。

       埴輪を造る人『ハニベ』の名を冠した施設だけあり、焼きもののラインナップが豊富ですね。とは言え大仏
      っつあんがプリントされたハニベ手ぬぐいTシャツステッカー仏像写真集など怪しげなものもちらほら。
      よし、この大仏っつあんステッカーを記念に買って帰りましょう。

       という訳で、ハニベ巌窟院駐車場を出発。いやあ、ほんと凄かったですね、いろんな意味で(笑)。小難しい
      事を考えないで、もっと早く来るべきだったな・・・と後悔しつつ、大阪に戻りました。




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