旧北吸浄水場第一配水池(赤れんが配水池)

2015.10.18



      舞鶴市の主催で行われた、旧北吸浄水場第一配水池(はいすいち)の一般公開に参加してきました。ここ
     は通称赤れんが配水池とも呼ばれ、明治34年(1901)に舞鶴鎮守府が開庁された際に、急激に需要が増
     した飲料水の確保のために造られた浄水施設です。
      それに合わせて与保呂川上流域にも桂貯水池岸谷ダムが建設され、明治から大正にかけての文化的
     時代的特色を色濃く残した貴重な上水道施設として、平成15年にはこれらひとまとめに重要文化財に指定
     されています。


      当日は昼過ぎに舞鶴入りし、赤れんがパーク駐車場に車を預けます。赤れんが配水池まではここから徒歩
     で10分程。国道27号線の歩道橋前から山側に入ると、すぐに道はふた手に分かれます。どうやら左側の上
     り坂に向かえばいいみたいですが、このポスターにあるタイムトラベルコレクションって何だろう。赤れんが配
     水池の一般公開と一緒に、何らかのイベントもやっているみたいですが。


      勾配のきつい坂道を少し歩くと、急に視界がひらけてきました。おお、眼下に東舞鶴湾が一望できます。ジ
     ャパンマリンユナイテッドの埠頭に横付けされているのは、DDG175護衛艦みょうこうDD151護衛艦あさ
     ぎり
、あと一番奥にいるのは、射撃標的艦の塗装が施されたはまゆきか・・・。
      以前はまゆきが沖止めされていた所には、同じく護衛艦としての籍を解かれたしらねの姿があります。主力
     艦が観艦式で華々しい艦隊運動を見せているであろうちょうどこの時、ここ東舞鶴湾に漂っているのは、なん
     とも淋しい雰囲気・・・。

      あ、会場前にも僅かながら駐車スペースはあったんですね。とはいえ十分な数ではありませんので、健康な
     方は赤れんがパーク駐車場に車を止めて、プチ山歩きも合わせて楽しむ事をお勧めします。
      それにしても、なんか妙なテントが並んでいるなあ。机といすを並べて勉強会みたいなものも行われている
     様ですが、プロ市民的なちょっと胡散臭い空気を感じないでもない様な・・・。
      あ、あそこにあるVWの白いバンは・・・たねふねカレー移動販売!おおお、来てたんですね。2年前の舞鶴
     遠征の時に食べて以来ですが、あれ美味しかったんだよなあ。実はここに来る前に、ドライブインダルマで昼
     食を済ませてしまったのですが、折角ですから帰りに食べる事にしましょう。お腹いっぱいなんですけど(笑)。

      敷地内には大きな赤れんが倉庫が二棟あり、山肌に面した奥側が本日一般公開が行われる第一配水池。
     
受付テントに向かうと、係の女性にパンフレット小さなLEDライトを手渡されました。ん?なんか市役所職員
     っぽくない人だなあ。隣のテントではよく分からない手工芸品みたいなものを作っているし、一体何なんだろう
     この人達は。

      とりあえず赤れんが倉庫内へ向かいます。入ってすぐの所には足場が組まれていて、地下に掘り込まれた
     広い空間に赤れんがで出来た巨大な仕切りがつづら折りになっています。まるで巨大立体迷路を上から見
     ているみたい。

      ちなみにこの配水池、縦27.2m、横20.25m、深さは5.6mもあって、予想以上の規模です。配水池内
     を5重のつづら折りにしている導水板ですが、これは配水池全体の水を動かして淀む箇所を作らない様に
     計されたものとか。

      また、赤れんが製なのは内部に並んだ導水板のみで、配水池の内壁は自然石を切りだして石垣状に組み
     上げ、隙間をコンクリートで固めてあります。壁面のあちこちにはバルブの様なものが取り付けられ、頭上は
     沢山の梁に支えられた天井部が見えました。

      足場を降り切ると、5.6mという深さがさらに強く実感できます。凄いなあ、底部から見た地上は、文字通
     り見上げる様な高さ
です。
      降りてすぐの角には、垂直に伸びた錆まみれの配管が。先端は床を一段低くくりぬいた中でL字型になっ
     ていて、これは溜めた真水を鎮守府に送る為の吸水管でしょうか。配水池のメンテナンスを考慮してか、
     を一滴残らず吸いだせる設計
になっているのは、実に律義さを感じさせます。

      それにしてもこの赤レンガ製の導水板、絶妙な照明の加減もあってなんとも幻想的な佇まい。全体の赤茶
     けた色合いが、まるで火星の超古代文明の遺跡にいる様な雰囲気を醸し出しています。
      と、ここで足元を踏み外し、僅かに低くなった段差に踵を落としてしまいました。段差自体は大した事ありま
     せんが、完全に不意打ちだったのでちょっと腰に来た様な・・・(笑)。結果的に何ともありませんでしたが、平
     坦な様に見えて足元は結構悪いみたいですね。

      導水板の角は丸く削り出した自然石で出来ていて、壁面の赤レンガのあちこちがアーチ状になっています。
     装飾的な意味は無いと思いますが、こういう組み方の方が水圧や自重に対する強度が増すのかなあ。床面
     の中央部が僅かに低い溝状になっていて、これも内部の水を完全に抜き取るための設計でしょう。

      それにしてもこの雰囲気。他に例を見ないというか、山の中で朽ちかけている砲台跡とはまた違った迫力
     があります。古代遺跡の城壁跡の様であり、要塞の地下通路の様でもあり、高貴な人を埋葬した巨大な墳
     墓
の様でもあり・・・。
      導水板のつづら折りの根元にあたる部分には、全体を垂直方向に貫く形の小さな蓋のついた水路みたい
     なものがありますが、これも内部の水を撹拌しつつ動かす為の設計なのかなあ。

      それにしても、導水板のあちこちに展示してある作品は何なんでしょう。赤れんが配水池に関する説明では
     なく、現代アート風の子供達の絵画展みたいなものですが、正直これ、無い方がいいと思うなあ・・・。
      ただ単に赤れんが貯水池を公開するだけではなく、もう一歩進んで現代アートとのコラボレーションを目指
     したというか、古いものを土台にして新たな表現を模索してみたのかもしれませんが、単純に赤れんが配水
     池を見に来た私としては、率直に言って余計な事をしてくれたという感想なんですよねえ。

      また、先程からずっと流れているスピリチュアルっぽいBGMもなあ。この空間でこの音楽を提案したい、と
     いう姿勢は理解できますが、こういうのって人それぞれにこの場に相応しい音楽があって、各自脳内での自
     己再生
に任せた方がいい様な気がします。
      ちなにみ当日の私の脳内では式部が流れていたのですが、びよんびよんと鳴り響く奇妙なBGMのお陰で、
     いまいち楽しめませんでした。そもそも別に音楽が無くても、コツコツと響く乾いた靴音だけでも十分な気がす
     るんですよね。


      ただ、これはあくまで今回初めて見に来た私の率直な感想に過ぎず、このBGMや現代アートとのコラボに
     感銘を受けた人も当然いたと思います。
      いっその事、6回に分けて設定された一般公開のうち、3回は何も味付けせずにそのまんまの配水池を見
     せて、残り3回は今回の様な現代アートとのコラボ企画にしてはどうでしょう。
それぞれ好きな方を見てもいい
     ですし、両方見比べるのもいいでしょう。


      配水池自体の雰囲気は他に類を見ない独特のもので、戦争遺跡、産業遺跡の一つとして非常に意義があ
     っただけに、なんというか、うーん・・・といった感想になってしまいました。
      最後は薄いスクリーンに投影された、風にそよぐ大木の映像。この場の雰囲気とは正反対かつ対照的なも
     のを見せて、全体の奥行きに深みを出したかったのかもしれませんが、やっぱりこれも要らないかも・・・

      そんなちょっぴり残念な後味を噛みしめつつ引き返しますが、あ、この、何もない空間に真っ白なテーブル
     が並んでいる光景
は、ちょっと惹かれるものがあるかも。
      赤れんがの高い壁に囲まれた薄暗い通路に散らばった、真っ白いテーブル。これをシュールと言っては安
     直ですが、どこか不吉な空気を漂わせた一枚の絵画の様な凄味を感じます。

      一見して直線的な様で実は微妙に柔らかな凹凸を見せる導水板に対し、どこまでも一直線かつ単調な、無
     表情なテーブル

      薄暗い中、レンガ一つずつに微妙な陰影を見せる導水板に対して、照明が当たる部分と当たらない部分の
     はっきりした境目しかない白いテーブル

      非日常的な空間に置かれた日常的なテーブルが、ここでは極めて異物的に見えてしまう違和感。個とは何
     なのか、全とは何なのか。全に対する個の在り方とは、個に対する全の在り方とは・・・
といった問いかけをし
     ているみたいに感じます。

      なるほどなあ、展示されていた絵画やポエムは正直よく分かりませんでしたが、この何もない白テーブルに
     は、ちょっと胸に残る不思議な後味
がありました・・・とその場にしばらく佇んでいると、係の人がやってきてテ
     ーブルの上に次々と作品を並べ始めました(笑)。ああ、ただ単にまだ展示物がなかった状態だったのか。
     の一人相撲
というか、早とちりだった模様です(笑)。またやっちまったぜ!

      と言う訳で、赤れんが配水池の見学は終了。いやほんと、作品を展示する日としない日に分けるというのは、
     是非御一考頂きたいところです。それが難しければ、せめて作品展示は一角だけにまとめて、何もないその
     ままの部分も残してほしい
ものです。
      昨年の一般公開は日程が合わず、今日のこの日をずっと前から楽しみにしていただけに、芸術作品を見る
     目もないのにやや辛口すぎる感想になったかもしれませんが、この思い切った表現方法そのものを否定して
     いる訳ではありませんので、見に来た人の心の中に何かが残る事を祈ります
      あと、配水池内部に詳しい説明をしてくれる係の人がいなかったのも、やや残念でした。途中で疑問に思っ
     た事を、いろいろ伺ってみたかったのですが。

      最後は赤れんが配水池の外観を見て回ります。山肌に面した日陰の部分は、コケや黒カビでかなり傷んで
     いますね。とは言え、キレイな赤れんが倉庫よりも、私としてはこっちの方が好みかも。
      少し高い場所に作られた巨大なアンドンクラゲみたいなのは、浄化槽か何かかな。相当な重さの水槽部が
     細い支柱の上にあるので、そばを通る時はちょっと緊張してしまいました。ボロボロに朽ち果てた立哨小屋
     みたいなものもありましたが、場所的に不自然ですね。もしかしてトイレか何かだったのかも。

      ちなみに本日一般公開が行われた第一配水池の隣にも同様の赤れんが建築物があり、こちらの内部に
     はコンクリート製の第二配水池があるそうです。ただ、こちらは配水池部分に蓋をする形でが作られ、近
     隣の遺跡から出土した発掘物の倉庫として使われているとか。ただ、内部の配水池自体は保存され、公開
     も可能だそうです。機会があれば、こちらも是非見てみたいなあ。

      さて、この後はお楽しみのたねふねカレーです。ワクワクしながら白いバンに向かうと、ほほう、今日はたね
     ふねカレー
だけでなく、鶏のトマト煮込みというのもあるみたいですよ。前回食べた時はそんなのは無かった
     気がしますが、新商品かな?お腹はあまり減っていませんが、折角だからどちらも食べたいなあ。よし、サイ
     ズは一番小さいカップ入りで、両方食べちゃえ

      小高い丘の上から東舞鶴湾を眺めつつ、海風に吹かれながら食べるたねふねカレーはもう絶品。前回は
     赤れんが倉庫群の敷地内で頂きましたが、この場所だと3割増しぐらいに美味しく感じます。爽やかなトマト
     の酸味
、そして穏やかに鼻に抜けて行くスパイスの風味がたまりません。
      初めて食べる鶏のトマト煮込みですが、トマトの甘酸っぱさと肉質の締まった鶏の旨味が生きていて、これ
     も実に満足のいく味わい。
      店主さんのこだわりが伺える独特の味わいを持ったカレーなので、子供にはこちらの鶏のトマト煮込みの
     方が人気があるみたいですが、ここは敢えて背伸びして、たねふねカレーで新たな味覚の扉を開く子供がい
     てもいい
気がしますね。大人になったらこんなカレーの世界もあるんだよ、というか、伝統的な海軍カレーだ
     けではない、舞鶴の味の奥深さみたいなものも感じて欲しいなあ。

      大満足で食べ終わると、たまたま近くにいた店主さんがカラのカップを回収してくれたので、今回もとても美
     味しかった
と感想を伝えます。ちなみに鶏のトマト煮は結構以前から出しているメニューだったのですが、前
     回無かったのは、たまたま切らしてしまっていたのかも・・・との事。
      舞鶴には年に何度か訪れているので、それに合わせてたねふねカレーの出店場所をチェックしたいところ
     ですが、旅先でたまたま偶然出会えた嬉しさ・・・そんなのが似合う気がしますね、たねふねカレー。
      いやはや、流石にお腹いっぱいです。その後は北吸桟橋に向かいますが、この日は観艦式の留守番艦で
     あるはやぶさ、うみたか、まつゆき、やまゆきしか停泊しておらず、普段の北吸桟橋とは違って閑散とした雰
     囲気。見学終了時間も間近とあってか人も少なく、不思議な気分です。

      とは言え、晴れあがった広い空に浮かんだ白い雲が、舞鶴湾を取り囲んだ緑の山々に濃い影を映しなが
     らゆったりと流れて行く風景が、実に舞鶴らしい。うん、今日はこの風景だけで十分
      その後は売店で缶入りの護衛艦きりしまカレーを見つけたので、試食レポ用に購入です。なんだかんだで
     試食待ちのカレーも溜まってきたなあ。冬場はこっちも消化しないと。

      背後から流れて来る蛍の光に送られるようにして、北吸桟橋を後にします。さてこの後は、マリンボウル裏
     手
にあるという戦争遺跡を見に行きます。地図で確認しただけですが、確かこの辺りに・・・あ、あったあった。
     山肌をくりぬく様にして、防空壕の様なものが残っていますよ。

      それにしても、表面を彩る古びた赤れんががいい感じだなあ。本来は頑丈な鉄の扉があったと思われる部
     分ですが、戦後取り付けられたと思しきチャチな扉が据え付けられています。内部へは流石に入れませんで
     したが、扉上部の金網の破れ目から中は覗けそうですよ。カメラを突っ込んでフラッシュ撮影を試みると、
     んな感じ
になっていました。

      意外な事に奥行きは殆ど無く、防空壕と言うよりも何かの倉庫として使われていた模様です。もしかしたら、
     赤れんが倉庫への引き込み線関連の施設だったのかも。また、内部はカマボコ型の天井部まで 総れんが
     造り
。これは結構珍しいなあ。風通しが悪いせいか、黒カビと苔による浸食が見られますが、床部は舗装さ
     れていない様で、シダ植物が生い茂っていました。日当たりなんて殆どなさそうなのに、不思議だなあ。

      続いては、赤れんが博物館手前にある、官舎山に掘り込まれた防空壕跡へ。こちらはコンクリ造りの物が
     2つ並んでいて、大戦中に魚雷倉庫として使用された赤れんが倉庫の、予備倉庫的な使われ方をしたとか。
     木製の電柱からは電源を引き込んだ跡が見られますが、流石に今は使い物にならないだろうなあ。こちらも
     入り口はブロックと扉で閉鎖されていますが、中を見てみたかったですね。

      その後は山の中に埋もれた海軍第三火薬廠跡を少しだけ見学して、本日の舞鶴歩きは以上で終了。まだ
     気温が高くハチヘビが活発な時期なので、思い切った遺跡探索こそ出来ませんでしたが、舞鶴は年内に
     なんとか時間を作ってもう一度訪れたいので、お楽しみはその時にとっておきましょうか。いや、久しぶりに広
     島の呉江田島あたりも歩いてみたいなあ

      帰りは京都縦貫道ルートか中国道ルートかで少し迷い、思い切って選んだ中国道ルートでものの見事に渋
     滞に巻き込まれはしたものの、満足のいく舞鶴行きでありました。




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