2014.05.31
和歌山港で行われたDE234護衛艦とねの一般公開に参加して来ました。とねはあぶくま型護衛艦の5番
艦で、姉妹艦のDE232護衛艦せんだいとともに呉基地所属の第12護衛隊として、日本沿岸の護りについ
ている艦であります。
一般公開の行われた和歌山港ですが、和歌山市駅から和歌山港駅までの電車の便が非常に少なく、本日も昨
年同様に和歌山市駅から約5qの道のりを徒歩で移動します。朝からの晴天で陽射しがきつかったものの、先
日の20s20q行軍体験に比べればお散歩同然(笑)。あの日以来、自分の中の徒歩移動の基準が随分ズレ
てしまった気がします。
海沿いを走る線路の鉄くさい匂いや生え放題の雑草の湿った香り、河口の干潟の潮くさい香りを感じながら
一時間も歩くと、和歌山港が見えてきました。頭上の電線には沢山のカラスやトンビがとまっていて、足元の
アスファルトは真っ白な糞だらけ。対空警戒を厳にしつつ、とねが入港している西浜第三岸壁に到着です。
埠頭に佇む護衛艦とね。基準排水量2000dは昨今
の汎用護衛艦の中では随分小柄ですが、ステルス性の
ある船体形状やアスロック発射機の採用、居住区の2
段ベッド化等、設計当時の新機軸が一杯詰まった艦で
あります。
現在は経済性、ステルス性、高速性に優れ、より柔
軟な運用が可能な新型多用途護衛艦の建造計画が進め
られていて、それまでの繋ぎとしてあぶくま型護衛艦
にも艦齢延伸予算の計上の話が持ち上がっています。
埠頭には乗艦受付の他に和歌山地本が準備した広報
テントが設置され、戦闘糧食も展示されていました。
ただ、立派な給養設備が整った海自艦艇では陸自ほ
ど喫食の機会がなく、保存期間が長いT型の缶詰しか
積んでいないそうです。
以前お話を伺った護衛艦みょうこうの乗組員の方は、
「陸自の新しい糧食は美味しいらしいですね。一度
食べてみたいです(笑)」
と笑っていましたが、きっと陸自の人は美味いと評
判の海自艦艇の食事の方が羨ましいんでしょうね。
地本テントの隣には自衛隊グッズの売店があり、チ
ャイルドレンジャー五訓なるものが書かれた子供用T
シャツがありました(笑)。
一、早寝早起き、好き嫌いなく食え
二、知らない人の後をついて行くな
三、よく学び、よく遊べ
四、年寄り、小さきものをいたわれ
五、祖父母、親兄弟は神様と思え
・・・だそうです(笑)。防衛幼稚園が設立される日
も近い気がしました。
昨今は何処も凄まじい人混みに翻弄される自衛隊イ
ベントですが、今日の和歌山港は人も少なく実に快適。
和歌山港は車の無い人にはかなり不便・・・という
事情もありますが、それでもやはり、もっともっと多
くの人にイベントに来てもらいたいですね。
という訳で私も護衛艦とねに乗艦。ちなみにこのと
ねですが、昨年の呉地方隊展示訓練の一般公開で見る
事が出来たはずが、直前で別の艦に変更になって見損
ねていたんですよね。今回ようやく乗艦する機会に恵
まれ、感無量であります。
護衛艦とね前甲板。この空き具合に感動です。
艦橋と76o単装速射砲との間には不自然に広いス
ペースがありますが、これは設計段階でここに設置さ
れるはずだった近接防空ミサイルRAMが、未だに装
備されないままになっている名残です。
ここにRAMが搭載されていれば、はつゆき型に負
けない位バランスのとれた優美ななシルエットになる
気がしますが、これはこれで広くて色々使いやすく、
武骨な艦全体がどこか涼しげな印象になっているので
アリかも。
前甲板に聳え立つ76o単装速射砲。小型軽量で使
いやすく、海自艦艇に数多く採用されている火砲です。
丸っこい強化プラスチック製の砲塔が愛嬌を感じさ
せますが、最大で毎分100発もの砲弾を発射する事
が可能。ぱっと見は大人しいのに、一旦怒ると手がつ
けられなくなるタイプだと言えるでしょう。
最大射程16qを誇りますが、隊員さん曰く、
「あくまでも砲弾を飛ばせる距離ですんで・・・。
狙い通りに百発百中出来るのは、8q位ですかねえ」
だそうです。
とねに乗艦してまず驚いたのが、これ。滑り止め加
工が施されたウォークエリアが甲板にありますが、こ
れがものすごくきっちり塗装されていました。
もちろん海自の艦艇でヘロヘロなライン引きなどあ
り得ませんが、その中でもこのきっちり具合はちょっ
と尋常ではない丁寧な仕事。
隊員さんにお話を伺うと、この部分の塗装はドック
の作業員ではなく乗組員達が自らやっているとの事。
ある意味この部分の仕上がり具合に、艦の規律や士気、
意欲、姿勢といったものが見て取れるのかも。
ちなみにこの滑り止め塗装は非常に手間がかかり、
下地作りから砂の配合、あと数度にわたる重ね塗り、
さらに作業に必要な人員のやりくりや作業期間の天候
の先読み等、限られた時間内で完璧に仕上げるにはベ
テラン運用員の采配一つに掛かっているとの事。
なるほど、とねの内に秘めた強力なマンパワーの一
端が垣間見えた気がしますね。
しかしそういうお話を伺うと、このウォークエリア
を私の安物の靴で歩いていいものか、ちょっと悩んで
しまいます(笑)。
もう一つ気になったのが、これ。舷側のクレーンで
すが、滑車の部分が木製なんですね。相当な重量がか
かる所が木製って、強度的に大丈夫なのかなあ。フレ
ームは金属製なのに。
不思議に思ったので隊員さんに質問してみたところ、
「ああ、このクレーンは、海上で接舷した別の船か
ら補給を受ける時に使用するんですよ。当然波のある
日や風が強い時にもやらなきゃならないんですが、そ
うなると作業中に急に艦のバランスが崩れる事もあっ
て、割と危険な作業なんです(下に続く)」
「で、そういった時に大きな事故が起こらない様、
いざという時は力がかかる滑車の部分が先に壊れる事
で、事故を未然に防げる様になってるんです。電気製
品のヒューズみたいなものです(笑)」
なるほど、凄く納得しました。当たり前と言えば当
たり前ですが、よく考えて出来てるんだなあ。
「ちなみにこれ、人力で引っ張らなきゃならないん
ですよ。もう大変です・・・(笑)」
との事でした(笑)。
とね艦橋。さすがにここは人が多いなと思いました
が、単に艦橋が狭いだけです(笑)。
大型艦の艦橋はまだ余裕がありますが、こういった
小型艦艇は必要な物と人がぎゅっと詰まった緊張感が
いい感じ。コックピット、という雰囲気ですね。
とは言え昨年乗艦した最新のあきづき型護衛艦は、
ステルス性能を高めた設計のせいか大型艦なのに艦橋
がやけに狭苦しく、トーチカの内部にいるみたいで緊
張感がありました。
艦橋内に不可解なものを発見。『破壊物件一覧表』
とありますが、装備品を自分たちで破壊するの?
隊員さんに聞いてみると、この艦が敵国に制圧され
たり接収された場合、敵の戦力として再利用できなく
させる為に、投降する前に乗組員の手で機器類を徹底
的に壊してしまう時の役割分担表なのだそうです。各
装備品ごとに破壊担当者と破壊方法が指定され、
『おの又はハンマーで完全に破壊』
『ガソリン等をかけて完全に焼却』
等と書かれてありました。
艦長席の後方にある水上レーダーのディスプレイで
す。艦内各所に配置された見張り員と連絡を取りつつ
海域の船舶の運航状況を逐一チェック。当直士官及び
艦長に報告を行います。
体験航海ではその様子を目にする事が出来ますが、
様々な符丁が独特のイントネーションで飛び交い、護
衛艦の中にいる事を強く実感できます。
ディスプレイへの写り込みによる誤認を防ぐ為、艦
橋の天井は反射しにくい黒で塗装されていますが、古
い艦は従来の白天井のままの事が多いですね。
赤青カバーに包まれた艦長席。艦艇乗組の若手幹部
なら誰もが憧れる、指揮官の聖域であります。
とは言え一般見学者への制限はありませんので、小
さなお子様を連れた親御さんは是非一度座らせてあげ
て下さいね。
ちなみに画像左端にある鉄帽(ヘルメット)は強化
プラスチック製ですが、持ってみると見た目よりもは
るかに重い事に驚かされます。
鉄帽の着用が義務づけられる戦闘配置が長引くと、
肩凝りに悩まされそう・・・。
とねの屋上にあたる、トップや上部指揮所と呼ばれ
る場所。万が一射撃指揮装置が使用できなくなった場
合は、ここに設置された目標指示発信機を操作して直
接武器をコントロールする事が可能です。
極めて見晴らしがよいので、体験航海では真っ先に
埋まってしまう場所でもあります。
私は後甲板を中心に艦内をぐるぐる回遊するパター
ンなので、この場所にあまりこだわりませんが、小さ
な子供にこそ是非見てもらいたい場所なので、航行中
は10分間隔の入れ替え制にして頂きたいですね。
上部指揮所右舷側から見た、ウイングにつながる旗
甲板。とね乗組員の努力の結晶である、美しい滑り止
め塗装にご注目下さい。
中央にある6本の筒状のものは、チャフロケット発
射機。艦に接近してくるミサイルや敵艦船のレーダー
にエラーを起こさせて撹乱する為に、大量のアルミ箔
片をロケットで打ち上げて散布させる装置です。
タコやイカが外敵から逃げる為に吐くスミみたいな
ものでしょうか(笑)。
艦中央部にあるアスロックランチャー。敵潜水艦の
潜む海域の上空まで、魚雷をロケットで打ち上げる装
備品です。
しかし狙った海域に向けていちいち発射機を動さね
ばならず、発射後は丸焦げになった甲板の修復作業に
も多大な手間がかかり、なおかつ被弾時のリスクも高
いため、現在では甲板埋め込み式のVLSによる運用
が主流になっています。
いまや旧式の部類に入る兵器ですが、いい意味でご
ちゃごちゃした味わいがあって、私は好きですね。
舷門付近に仮設された舷門小屋。入港中の艦の玄関
にあたり、隊員さんの出入りのチェックや面会の受付、
郵便物の受け渡し、艦内への連絡等様々な業務の窓口
となります。
夏場は暑くて大変ですが、それよりキツイのは冬場。
鋼鉄製の甲板からの底冷えが半端ではなく、ヒーター
を入れても寒くて寒くて仕方ないそうです。
当直交代までひたすら我慢するしかありませんが、
運がよければ上陸帰りの隊員さんが気を利かせて、ち
ょっとした差し入れをしてくれる事もあるとか。
手前に2つ並んだ円筒は、艦対艦誘導弾ハープーン。
艦を一発で沈める事が出来るミサイルが入っています。
その奥にはヘリの姿勢安定の目安にする水平灯があ
り、基部となるマストの部分だけが黒い塗料で塗られ
ています。これは前方の煙突からの高熱排気が直撃す
る為、特殊な耐熱塗料を使用しているせいだとか。
また、この黒い塗装に関してはもう一つ特別な理由
があるそうですが、説明してくれた隊員さん曰く
「スミマセン、それは言えないんです(笑)」
との事でした。なんなんだろう・・・。
後甲板に佇立する20mm高性能機関砲ファランク
ス。しんがりの守りを一手に引き受けています。
甲板の強度と電源、あと冷却用の水さえあればどこ
にでもポン付けできる使い勝手の良さが売りです。
それにしても、ここに自衛艦旗が掲げられるのは珍
珍いなあ。いっそ真っ白なレーダードーム部も紅白に
塗ってしまいましょう!と、隊員さんに余計な進言を
させて頂きましたが、
「いえ、その、ここに色を塗ると、レーダーがちゃ
んと動かなくなってしまいますので・・・(笑)」
ありそうで意外と見かけない、寄せ書きノート。
『いつもがんばってくれてありがとう』
という拙い字の書き込みには、私まで眼頭が熱くな
る思いです。隊員さんも嬉しかっただろうなあ。
その他自衛官志望のお子さんを持つ親御さんが感想
を書き残したり、へろへろな艦の絵が描いてあったり
と、実に微笑ましく賑やかな内容でした。
また、自由研究に使いたいというお子さんの意見も。
沢山調べて沢山考えてね!あと先生は、変な色眼鏡を
外してちゃんと評価してあげてほしいものです。
大阪府信太山駐屯地の第37普通科連隊から参加の
救急車と指揮通信車、高機動車、軽装甲機動車、偵察
オートが展示してありました。
また、原付で様子を見に来た和歌山県警の警察官は、
地本職員と気さくに挨拶。ここ和歌山は南海トラフ大
地震で凄まじい被害が予想されていますが、現場レベ
ルでのコミュニケーションや連携は、くれぐれも緊密
にして頂きたいものですね。
帰路のあちこちにあった『この場所は海抜○M』と
いう看板を見て、心の底からそう思いました。
さて、以上で2014シーズン序盤戦のイベント参加は終了です。6月中は参加できそうなイベントが少ない
ので大人しくしている予定ですが、海自イベントが集中する7、8月は、積極的に歩き回りたいですね。
それにしても、今年の序盤戦は動きが少なかったなあ。楽しみにしていた遠征計画がことごとくポシャってし
まったのが残念でした・・・が、いま調べて見ると、なんだかんだで昨年と同じぐらい出歩いてますね。近場ば
かりだったので、あまり動き回った実感がなかったのかもしれません。
という訳で、しばらくは戦闘糧食試食レポートと自衛隊用語辞典中心の更新となります。蒸し暑く過ごしづら
い季節になりますが、皆様お体に気をつけてお過ごし下さい。
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