舞鶴地方隊展示訓練2014

2014.07.25



       舞鶴地方隊で行われた展示訓練にて、DDH143護衛艦しらねに乗艦して参りました。これだけ体験航海
      の競争率が高まっている中、自力で乗艦券を確保出来た事自体も驚きですが、それよりも乗せてもらえるのが
      よりによってしらねとは・・・。なんとも言えない気分ですね。
       この護衛艦しらね、1980年の就役後は海上自衛隊の象徴的な存在として長く国防の最前線で体を張り続
      けましたが、来年3月をもってとうとう除籍。観艦式では栄えある観閲艦を務めたり、CICでの大火災では
      危うく廃艦の憂き目
にあいかけたり、これまで本当に色んな事があったしらねですが、伊勢湾マリンフェスタ
      でまる一日乗艦させて貰ったりと私個人的にも色んな思い出がある艦なんですよね。そのしらね最後の展示
      訓練
に立ちあう事が出来たのは、何かの巡り合わせの様な気がします。
       当日は早朝に自宅を出発し、舞鶴西港から少し離れた大君臨時駐車場にて当HP閲覧者の冬月さんと合流。
      シャトルバスで舞鶴西港第3埠頭へ移動します。おおお、本日乗艦させて貰う護衛艦しらねが目の前に!やっ
      ぱり古いDDHは迫力がある
と言うか、独特の雰囲気を纏っていますね。埠頭に停まっている乗用車と比べる
      と、しらねの巨大さが実感できます。

       基準排水量で5200dの艦ですが、7000dクラスのこんごう型やあたご型に負けない位の存在感。い
      かにも一昔前の戦艦っぽい雰囲気がたまらないなあ。
       艦首の51番砲塔の前では、真っ白な夏服に身を包んだ20名ほどの隊員さん達が整列の真っ最中。砲術の
      隊員さん
でしょうか。
       煙突とマストが一体化したマックの基部にある対空レーダーが、くるくると回転しています。まるでこの後
      の展示訓練に備えて、しらねがウォーミングアップを行っている様。

       それにしても、今日の舞鶴のこの暑さは一体何なんでしょう。まだ7時台だというのに、強烈な日差しに炙
      られて立っているだけで汗が吹き出します。これまで数回参加した舞鶴の展示訓練は、朝のうちは半袖だと寒
      い位だったのに・・・。
真っ青に晴れ渡った空は撮影には有難いですが、今日はキツい一日になりそうだなあ。

       その後は受付テントにて、北九州からはるばるやってきた『J‐NAVY World』のHARUNAさん、そして
      青嵐さんと合流。手荷物検査をクリアして乗艦待ちの最後尾につきます。ちょうど始まった自衛艦旗掲揚は少
      し遠い間合いからになりましたが、せっかくなので目の前にいた隊員さん越しに一枚

       そしていよいよ護衛艦しらねに乗艦です。いやー、応募要項が発表されてハガキを出して、当選してからこ
      こまで本当に長かったなあ。まずはどうにかたどり着いた、という感じです。

       とりあえず後甲板の出向作業を見守るべく、格納庫前のロープ際に拠点を築きますが、早くも艦内に降りて
      買い物を済ませて来た青嵐さんに見せてもらったエコバッグには、『1980−2015』との印刷が。うー
      ん、やはりこうして除籍間近という現実を突きつけられると、何とも言えない気分になりますね。展示訓練直
      前の高揚感
この艦に乗れるのはこれが最後という淋しさが、複雑に入り混じります。今日のこの展示訓練は、
      後々振り返ってすごく思い出深いものになるんだろうなあ。

       そうこうしている間にも飛行甲板各所に人員が配置され、出港準備が始まりました。0900をもって舷梯
      
が外され、北吸岸壁からやってきた2隻のタグボートがしらね右舷でスタンバイ。投げ込まれたロープから引
      き出された舫綱を、日焼けした太い腕に白手袋も眩しい隊員さん達が引っ張って行きます。
       途中、経験が浅いらしい隊員さんがもたついているのを見て、先輩隊員が叱責。一つ間違えば大事故に繋が
      りかねない危険な舫作業
です。つい言葉が厳しくなるのも艦や乗組員の安全を思えばこそ。後輩君はめげずに
      頑張れ!

       そして甲板の奥の方では、紅白の旗竿を持った隊員さんがじっと舫作業を監視中。緩んだ舫綱が海中で回転
      するスクリューに巻き込まれない様
、ウイングと連携して機関停止のタイミングを知らせます。
       舫を解かれたしらねを、タグボートがぐいぐいと牽引開始。太い舫綱がギチギチと軋音をあげ、5200d
      のしらねはゆっくりと艦尾を右に振り始めます。
       港内で慎重に回頭したしらねは、機関音を震わせながら徐々に増速して舞鶴西港を出港。号令とともに登舷
      礼
から解かれた隊員さん達は、速やかに甲板片づけに入ります。

       甲板の片づけが終了し、最後尾以外の飛行甲板が開放。左舷艦尾付近にポジションを確保します。さてこ
      の後は一路訓練展示海域を目指すのみ。陽射しの強さは相変わらずですが、頬をなぶる潮風が心地いいなあ。
      これぞ真夏の体験航海、展示訓練の醍醐味であります。

       舞鶴西港の出口では、入れ替わる様に入港してきた練習帆船海王丸が左舷を通過。帆は畳まれた状態ですが、
      真っ白な帆船は実に優美だなあ。船首に集まった乗組員が黄色いヘルメットを振り、しらね乗組員も帽振れ
      応えます。

       右手からは、北吸岸壁から出港して来たDD130護衛艦まつゆきの姿が見えてきました。斜め後方から眺
      めるはつゆき型護衛艦。後部の三段甲板が実に映えますね。

       そして艦尾の方から姿を現したのは、同じく北吸岸壁組のDDG175護衛艦みょうこう。逆光を背にして
      穏やかな内湾を威風堂々進むイージス艦は、一種独特の凄味があるなあ。ゴゴゴゴゴゴゴとい
      う重々しい効果音
が聞こえてくる様。
       陸地と小島の間の狭い水道を縫って航行する巨大なみょうこうは、当たり前ですがみょうこうに乗っていて
      は見る事が出来ません。しらねに乗れたのは色んな意味で本当にラッキーでした。

       まつゆきみょうこうと合流したしらねは、穏やかな若狭湾を快調に進みます。この後は訓練展示開始まで
      の2時間弱、とりあえず避暑がてら艦内を見て歩くとしましょう。格納庫を抜けて左舷通路に出ると、海風の
      塊
が一気に体にぶつかってきます。

       艦橋下部の入り口から一層下の艦内へ。うーん、これが本当に退役間近の艦なのか・・・と疑いたくなるぐ
      らい、どこもかしこもピカピカに清掃が行き届いています。こういうのは海自独特、いや日本人独特の美意識
      なんだろうなあ。
       残念ながら士官室内は非公開でしたが、扉の前のネームプレートを見ると艦長以下しらね幹幹部22名の他
      に、第3護衛隊司令及びその幕僚が7名、さらに医官が1名。総勢30名の大所帯です。
       長期航海でもないのに佐官級の医師が乗艦しているのは、やはり熱中症対策なんでしょうね。水分の補給
      風通しのいい服装や帽子の着用酔い止めの準備体調管理等、乗艦させてもらう側も艦に迷惑をかけない様
      に気をつけたい
ものです。

       機関操縦室兼応急指揮所。ベテラン掌機関士を筆頭とした7名の乗組員が詰めています。新しい艦はここも
      液晶マルチディスプレイが並んでスッキリしていますが、やっぱりこの壁一面を埋めたアナログメーターとス
      イッチ類
が醸し出す古臭くレトロな雰囲気がたまりません。
       操縦盤上部のモニターには、機械室内でエンジンが轟々と炎を吹き上げている様子が映し出されています。
      はるなが消えひえいが消え、今や現存する蒸気タービン艦はこのしらねくらまのみになってしまいました。

       機関操縦室を出たところにある第二ボイラ室の窓には、
       『Welcome No.2 Boiler Room  Thank you Final Year 
      DDH143 SHIRANE』

       というポスターが。ああ、なんかグッとくるなあ。しらね、本当にこれが最後なんだなあ・・・。

       科員食堂は、早くも真夏の暑さを避けて来た人達でいっぱい。壁面には大量の優秀艦表彰のゴールドプレー
      ト
が燦然と輝いていて、しらねがこれまで残してきた栄光の足跡の一端を見る事ができます。片隅には臨時し
      らねグッズ売り場
が作られていて、私もしらねの思い出にロックグラスを購入。
       食堂に隣接した食器洗い室も、臨時売店になっていました。普段お皿を洗う巨大なシンクには氷水が張られ、
      ペットボトル飲料が飛ぶように売れています。背後にはケース入りのペットボトルが山積みになっていますが、
      これもいつまでもつのやら。
       そういえば4年前に伊勢湾マリンフェスタでしらねに乗艦した時は、自販機への商品補充に冷却が全く追い
      つかず、ぬるいコーラを飲んだっけなあ。私も冷たいスポーツドリンクを飲んで、この後の展示訓練に備えま
      す。

       先任海曹室の前を抜けて行くと、左手に飛行甲板に埋め込まれたLSOに続くラッタルが。この天井の向う
      は飛行甲板なんですね。しらねは広大な飛行甲板を有して3機ものヘリコプターを運用できるという世界的に
      見てもユニークな運用思想
のもとに建造された艦なので、こういうのも面白いなあ。
       艦の最後尾にあたるVDS甲板。飛行甲板の真下で直射日光が遮られ、海風が通り抜ける非常に快適な区画
      
です。ここでは万が一の落水者救助の為、潜水員の人達が待機中。

       その後は再び飛行甲板へ。おおう、これぞ夏の展示訓練!冷房の効いた艦内で冷却された肌が、再びチリチ
      リと音を立てて焼かれていく感覚です
。ふと格納庫上の短SAM甲板を見上げると、乗艦者が何人もいますね。
      今日はあそこも開放されているのか。

       という訳で、初めて上がったしらね型の短SAM甲板。意外とスカスカしていて飛行甲板よりも高い位置を
      生かせる格好の見学ポイントですが、最後尾の部分がクローズされているので真後ろの視界がやや制限される
      
んですね。また、いざとなったら涼しい格納庫に逃げ込める飛行甲板とは違い、ここには日陰というものが殆
      どありません
。ここからの見学は体力勝負だなあ。

       またここは後部マストの真下にあたるので、しらね型独特の嘴のように突き出したマック構造がよく見えま
      す。その前方に配置されたCIWSも、真夏の日差しと海風を浴びてのほほんとした佇まい。遠くの水平線を
      眺めながら、これまでの35年間を振り返っている様に見えます。君も35年間、しらねの右舷をずっと守り
      続けて来たんだなあ。
あと半年残ってますが、これまで本当に御苦労さまでした・・・。

       ふと見ると、煙突の壁面に艦内案内図が張りつけられていました。せいぜいトイレの場所程度かと思いきや、
      これが実に細かく記入されてあります。それにしてもこうして見ると、やはりボイラ室と機械室が凄い容積を
      取っている
んですね。
       旧日本海軍の大型艦では艦内容積の半分近くがボイラー室スペースだったと聞いた事がありますが、そうい
      う意味でも日本海軍の戦艦らしさを残した貴重な艦が、また一隻消えて行くんですね。
       後部煙突構造物から坂道とラッタルを経て、艦橋後部の旗甲板へ。この辺りの複雑に入り組んだ有機的な甲
      板配置も、古い艦ならでは。

       艦橋正面の窓からは、真下にそびえ立つアスロック発射機背負い式の52番、51番砲塔、停泊時に国旗
      を掲げる旗竿、そしてはるか前方を行くDD130護衛艦まつゆきの後ろ姿と航跡が一直線に見えました。

       露天艦橋に出て、右舷旗甲板を見下ろします。バケラッタとか言いそうな衛星通信アンテナ信号旗箱、
      形の足場に搭載されたレトロな目標指示機チャフロケット発射機。円形と直線が複雑に入り組んだ、この
      ちゃごちゃ感
が堪りませんね。いいなあ、しらね型。

       その後は前甲板へ。背負い式になった2門の54口径5インチ速射砲手前の51番砲塔側面の扉にはしら
      ね最後の年を記念して、砲術の人達による記念塗装が施されてありました。ガンナーズスピリット、砲術魂か。
      この先違う艦に乗っても、例え海上勤務から外れる事になっても、決して忘れる事はないんだろうなあ。

       我々は神を信じる、我々は全てを追いかける、という日本語訳でいいんでしょうか。これはどうやら、映画
      『BATTLE SHIP』に関連した一節
だそうです。

       とりあえず艦を一回りしたので、飛行甲板に戻ってちょうど始まったラッパ吹奏展示を見学します。司会の
      2曹
を中心に、左肩に曹候補生バッジを輝かせた4名の士長が、ピカピカに磨き抜かれたラッパとその腕前を
      次々に披露してくれました。
       任期制隊員である士から海自の正社員と言うべき曹になるのは、今や競争率が右肩上がりで本当に大変らし
      いですから、この4名は飛びぬけて優秀な若手隊員なんでしょう。しらねはあと半年で現役を引退しますが、
      こうして海上自衛官として大きく羽ばたこうとする若い人材を生む事が出来たのは、しらねが残した大きな功
      績の一つ
だと言えます。
       いかんいかん・・・今日はなんかこう、見るものすべてが感傷的に映ってしまいますね。まあ私もなんだか
      んだでいい加減年を喰った
と言う事でしょうか(笑)。最後は全員揃って行進ラッパを吹き鳴らし、ラッパ吹
      奏展示は以上で終了。

       「えー、以上で展示は終了ですが、ラッパ吹きを一名甲板に残しておきますので、みなさんで弄ってやって
      てください(笑)」

       と、司会の2曹(笑)。その後ラッパ手達は、子供達に囲まれて楽しそうに遊んでいました。
       艦尾に立って、青い海をバックにした自衛艦旗を撮影。甲板に描かれた43の艦番号が真夏の太陽を浴びて
      光り輝いています。しらねがこれまで35年かけて描いてきた、航跡の締めくくりですね。
       さて、時刻はいよいよ1200。水平線の彼方には、海域の警戒にあたっている掃海艇らしき姿が見えます。
       ここで前方を行く護衛艦まつゆきが大きく舵を右に切りました。

       そして左手からはAOE425補給艦ましゅう、4隻の後続艦をひきつれてやってきました。少し大きめ
      なのはAMS4301多用途支援艦ひうち、その後方にはPG828ミサイル艇うみたかPG824ミサイ
      ル艇はやぶさ
、最後尾は海保からの巡視船。いよいよ艦隊合流の開始です。

       先に面舵を切ったまつゆきに続き、しらねも一気に右回頭。ましゅうの鼻先にぴたりとつけて、一直線の単
      縦陣を形成
します。それにしても背後から迫ってくるましゅうの巨大さが凄いですね。さすが海自の誇る補給
      艦。『オラオラ!水でも食糧でも燃料でも、欲しいだけ持って行きやがれ!』とでも言いそうなキップの良さ
      を感じます。

       そして展示訓練の始まりです。まずは自衛艦の敬礼。しらね左舷には白の夏服も眩しい隊員さん達がずらり
      と整列し、登舷礼の準備が整いました。しらねの機関音以外は何も聞こえない、厳粛な空気。

       そして前方から観閲部隊がやってきました。先頭を務めるのは、舞鶴地方隊のトップである総監が乗艦して
      いるDDG175護衛艦みょうこう。左舷を乗艦者で鈴なりにさせて、凪いだ海面に僅かな白波を立てながら
      目の前を通り過ぎて行きます。

       続いては敦賀港から出港して来たDD155護衛艦はまぎり。あさぎり型独特の2本の煙突を挟む2本のマ
      ストが特徴的
です。なんというか、2隻の艦の前半分をニコイチでひっつけたみたい。

       ここでしらねまつゆきに引き続いて舵を大きく左にとり、鋭い180度回頭を披露。前を行くみょうこう
      はまぎりまつゆき、そして後続のましゅうひうちうみたかはやぶさ巡視船が一望できる大パノラマ
      です。空はひたすら広く青く、海は限りなく深い蒼。海面を漂うガスに悩まされた昨年とはうってかわって、
      今年は素晴らしいコンディションに恵まれました。

       先頭からの4隻が一直線になった所で、それまで大人しく航行していた2隻のミサイル艇が一気に速度を上
      げ、白波を蹴立てつつ揃って隊列から離脱。
       「よっしゃ時間だ!いくぜ兄弟!」
       「オウ!」

       とでも言ってそうな悪戯好きっぽい後ろ姿が、ミサイル艇好きには堪りませんね(笑)。いや、船は女性名
      詞
だから兄弟じゃなくて姉妹か。

       続いては航空展示が始まります。舞鶴の第23航空隊から参加のSH−60哨戒ヘリが3機、綺麗な三角形
      を描きながら頭上をパス。

       さらにP−3C対潜哨戒機が1機、うっすらと排気煙をたなびかせながらやってきました。日夜我が国の海
      域の警戒任務
についている、空飛ぶ電子機器の塊です。

       今度は潜水艦の浮上航行。右舷はるか前方で航跡を引いていた潜望鏡が浮上を開始し、その巨体を徐々に海
      面に晒します。総監や招待客が乗艦するみょうこうの真横に合わせて浮上する為、最後尾のしらねからは黒い
      点にしか見えません
が、瀬戸内海で行われる呉の展示訓練では決して見られない光景(瀬戸内海では潜航は禁
      止)なので、これは貴重なひとコマ。浮上した潜水艦は、速度を落としながら艦隊右側を通過していきます。

       その後艦隊は再び大きく左回頭。その中心部ではSH−60哨戒ヘリが低空でホバリングし、吊り下げた
      ープ
から潜水員を海面に降ろしています。

       そして艦尾方向からは先程のミサイル艇コンビが、ウォータージェット推進を生かした高速で急速接近。派
      手な白波を上げながら、一気にしらねを追い抜いて行きました。

       いやー、やっぱりミサイル艇は速いわ・・・と感動していたのもつかの間、元気よく登校したはいいが直後
      に忘れ物を思い出して全力疾走で帰って来たアホな子供
の如く、2隻揃って引き返してきました。
       そしてしらねの真横でくるりとターン。おおお、2隻のミサイル艇を対抗した構図で撮影する事ができまし
      た!
うまく写っているかなあ。潜水艦の浮上シーンは見損ねましたが、これは隊列最後尾の役得ですね(笑)。

       そして先頭のうみたかは赤外線デコイを発射。打ち上げられたデコイは上空で破裂し、大量の燃焼体が白煙
      を引きながら
海面に雨あられと降り注ぎます。ミサイル艇の熱源を追尾して迫ってくる敵ミサイルの電子セン
      サー
を、撒き散らした大量の赤外線で撹乱する・・・という防御兵器です。

       燃焼体は海面を漂いつつも轟々と燃え続け、辺り一面に立ち込める白煙の中に突っ込んでいくミサイル艇の
      カッコよさといったらもう!
やっぱり舞鶴に来てよかった!と思える一瞬ですね。

       上空に飛来したSH−60哨戒ヘリも、同様に赤外線デコイを景気よく撒き散らします。こちらは機体側面
      の発射装置から、下向きにバラバラと燃焼体を射出。かなりの勢いで燃焼しているらしく、ヘリの白い腹が何
      度も何度もオレンジ色に染まっています。

       さらに展示は続きます。後方から高速艇が接近してきて、群青色の新型海自迷彩に身を包んだ隊員さん達が
      一気に追い抜いて行きました。

       ここで各艦は徐々に距離を詰め、みょうこうはまぎりまつゆきが一直線に。これこそ展示訓練ならでは
      の醍醐味ですね。この暑さには参ってしまいそうですが、晴れててよかった!

       そして距離を詰めたしらねが右に舵を取り、単縦陣の隊列から離れながら増速。みょうこう、はまぎり、ま
      つゆきを追い抜きながらの祝砲発射です。艦首方向で「バン」と大きな音が鳴り響いた後、巨大な白煙の塊
      風に乗って流れてきました。後甲板からは発射の様子が見えないので、まるでしらねが被弾したみたいに見え
      る
のが微妙だなあ。さらに先頭のみょうこうに並んだところで、もう一発空包をお見舞いします。

       以上で展示訓練は終了。いやー、今年も楽しめました!航空展示はやや大人しかったものの、天候が全面的
      に味方してくれた
感じでしたね。
       見学者を乗せた4隻のうち、まず護衛艦はまぎりが隊列から離れて敦賀港へ向かいます。この後はしらねも
      舞鶴西港へ帰るだけ。とは言えその間も乗艦者を退屈させない様に、しらねは様々なイベントを用意してくれ
      ています。
とりあえず午前中に見損ねた武器操方展示を見に行きましょう。

       まずはアスロック発射機。プシューンガシューンと地下鉄の扉が開く様な音を立てつつ、巨大な発射機はぐ
      るんぐるんと軽快に旋回。今はVLSによる垂直射出方式がスタンダードなので、このアスロック発射機は他
      の艦に転用される事もなく、このまましらねとともに表舞台から姿を消すのでしょう。波に耐え風に耐え、
      れまでよく頑張ってくれたなあ

       続いては52番砲塔による、5インチ速射砲の操方展示。こちらもその巨体に似合わない素早さでくるくる
      と回転し、長大な砲身をぶんぶん振り回しています。この砲塔は今時珍しい有人砲塔なので、これだけ動き回
      ると中にいる人は酔ってしまいそうだなあ。側にいた砲術の隊員さんに質問してみると、
       「いえ、外が見えないせいか、それほど辛くないですよ。それより、台風の後とかで海面が荒れている時の
      方がかなり来ますね(笑)。一応射撃時はフィンスタビライザーを出して揺れを抑えますが、砲塔の中で戻し
      ちゃう奴もいますし(笑)。まあ半年もすれば、みんな慣れます(笑)」

       出港時の高揚感とは一味違った、祭りの後のけだるい雰囲気が漂う護衛艦しらね。明日も展示訓練は行われ
      ますが、それ以降は乗組員の転出が始まって徐々に人が少なくなり、あとは除籍作業の準備様々な後片付け
      
が残るだけ。しらねの大仕事は、実質この展示訓練が最後みたいなものだそうです。そんな気分が、祭りの終
      わりのしんみりした雰囲気
を一層際立たせている様。

       前から気になっていたのが、艦首甲板にある高さ5センチほどの波除け。これには一体何の意味があるんだ
      ろう。波除けにしては、この高さは物足りなさすぎですが・・・と隊員さんに質問してみると、
       「はい、これですか?これは波除けというより泥除け、砂除けですね。艦首の錨を引き上げた時に、鎖その
      ものをホースの水でジャージャー洗い流すんですけど、その時に甲板に流れ出た泥や砂が後の甲板に広がらな
      い様、ここでせき止めて外に流すんですよ」

       なるほど、すぐに沈殿する泥や砂を食い止めるだけなら、この程度の高さがあれば十分なんですね。やっぱ
      り機能的に出来てるんだなあ
(当たり前だ)。

       少しずつ陽射しが和らいでくる中、しらねはいつの間にか舞鶴湾に差し掛かります。ここからは急に水道が
      狭くなる箇所
が続くので、先頭を行くみょうこうは行き足を落として慎重に航行。すると一隻のプレジャーボ
      ート
が、無謀にもみょうこうに急接近して来ました。あちゃー、やっぱり出たか・・・
       みょうこうは何度も何度も気笛を鳴らし続けますが、マナーどころかルールすら無視のプレジャーボートは、
      みょうこうの進路を遮る様にして執拗に付きまといます。
心底痛い目に会わなければわからないのかと思いま
      すが、そういう訳にはいかないからなあ。

       その後しらねは、北吸岸壁に戻るみょうこうとまつゆきとお別れ。そして無事舞鶴西港に戻ってきました
      舞鶴地方隊展示訓練は以上で終了
です。舞鶴らしからぬ酷暑に苛まれましたが、撮影コンディションはいう事
      なし。まさにしらねラストイヤーを飾るかの様でした。

       上陸後は、南側の広場からしらねを撮影。これまでの感謝の気持ちを込めて何度もシャッターを切ります

       あれ?よく見ると52番砲塔だけが砲身を下げていますね。何だろう・・・と思ったら、砲身の先端から
      長いビニール袋
をかぶせて、砲身内の清掃作業が始まりました。へー、あんな風に内部からクリーニングする
      んですね。初めて見ました。しかし微妙にいやらしいというか、どこかで見た光景な気が・・・(笑)

       最近は小さなよい子も見てくれている当S.A.Sなので、色々と表現方法的に気を使い、いち大人として自
      重している部分
も無きにしも非ずなのですが、今日は暑さで頭が沸いたので率直に言わせて頂きます。正直い
      ってそっくりですよね!
靴下をはいてる所と!
       ・・・とまあそんな話はどうでもいいとして、一時代を築き上げた個性的な艦がまた一隻、姿を消そうとし
      ています。人生の折り返し地点を過ぎた身の上としては、ことさら染み入る気分です。しかしこれまで幾多の
      波乱
を乗り越えて、最後は頼もしい後輩達に国防という重い重いバトンを手渡せたしらね。そう考えるとこれ
      はこれで決して悪くない・・・いや、実に立派な最後だと言える気がします。

       艦尾にはためく自衛艦旗が返納され、晴れて除籍となるその瞬間まで、しらねは護衛艦としての誇りも緊張
      感も決して失う事はないでしょう
。しかし全ての任務から解き放たれたその時、このしらねは一体どんな表情
      を見せるのか

       残念ながら私はその場に居合わせる様な立ち場ではありませんが、その時は是非ともいい顔であってほしい
      ・・・
そんな事を感じた、暑い暑い夏の一日でありました。




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