多用途支援艦えんしゅう一般公開in尾鷲港

2014.07.26



       三重県尾鷲港で行われた、AMS4305多用途支援艦えんしゅうの一般公開に参加して来ました。えんし
      ゅうはひうち型多用途支援艦の5番艦で、護衛艦隊の訓練支援や航行不能となった艦の曳航、その他物資の輸
      送
や船舶火災発生時の消火作業等、様々な面から護衛艦隊の円滑な運用を下支えする何でも屋、隊員さん曰く
      『海自のJAF』であります。
       今朝も早い時間から気温がぐんぐん上昇し、昨日の舞鶴地方隊展示訓練を思わせる陽射しが照りつけます。
      それにしても最近の日焼け止めは凄いなあ。昨日は塗った後に何度も何度もハンカチで汗をぬぐったにもかか
      わらず、腕も顔もちょっと焼けたかなという程度
       ただ、うかつにも胸元を塗り忘れてしまい、そこだけツキノワグマみたいに真っ赤に焼けているのが甚だト
      ホホではありますが、早朝に大阪市内の自宅を出発。近畿自動車道から西名阪自動車道へと乗り継ぎ、恐るべ
      き名阪国道に入ります。
       この名阪国道、一見して高速道路かと思いきや速度制限が60q/hと一般道レベルだったり、きついコーナ
      ーあり急勾配あり
な上に慢性的に交通量も多く、要所要所にあるオービスの配置もなかなか陰湿。さらに通行
      車の運転マナーもいいとは言えず、10qあたりの交通事故数日本一を誇るという極めて走りにくい路線なん
      ですよね。
       料金のかかる高速道路を避けてこちらを走る長距離トラックも多く、今朝もお前らブルーインパルスかよ
      突っ込みを入れたくなる高機動をたくさん見せて頂きました(笑)。
       その後は伊勢自動車道と紀勢自動車道を経由して、0840尾鷲北ICから一般道へ。すぐに尾鷲港に到着
      です。おお、えんしゅうのマストが見えてきました!

       既に一般公開開始10分前ですが、岸壁に停まっている車はまばら。地本職員以外の人気も少なく、夏休み
      の土曜日にしてはかなり空いています。
       後甲板では、30人ほどの隊員さんが整列中。朝の分隊整列の様に見えますが、実はこのえんしゅう、乗員
      はわずか40人
しかいないので、これでほぼ全員なんですよね。その後は一般公開の為の腕章が手渡され、
      任伍長
が確認事項の最終チェック。最後に艦長が登場し、後甲板は引き締まった空気に。

       それにしてもこの多用途支援艦、いつ見ても特殊な形状です。前からだと見上げるような大きさなのに、後
      ろからはとても小さく見えます
。頭でっかちな真鯛の骨みたいと言うか、じっと見ていると距離感覚が狂って
      しまいそう。

       覆いかぶさってくる様な高さの前甲板には、背の高い艦橋大きな煙突が無理矢理押し出された様に配置さ
      れている半面、広い後甲板は岸壁とほぼ同じ高さ。トレーラーのヘッドみたいな、前につんのめりそうなバラ
      ンスの悪さ
が印象的です。

       という訳で、多用途支援艦えんしゅうに乗艦。早朝からラッタル前に行列が出来ている訳でもなく、先を争
      って撮影ポイントに向かう人も皆無。一般公開だという事を忘れさせるあまりに淡々とした日常感の所為か、
      まるで自分がえんしゅうの乗組員になったような気分です。
       ちなみにこの多用途支援艦のラッタル、歩板の角が妙に丸っこい形になっています。慣れないと登りづらい
      事この上なし
ですが、これは空荷の時と物資を搭載している時とで艦の喫水が大きく変わってしまう為、通常
      の平らな歩板では角度が合わずバランスを崩しやすいので、あえてこうなっています。
       
うっかりラッタルを撮影し忘れたので、4年前にえんしゅうに乗艦した時の画像を貼り付けておきますね。
      うーん、これもちょっと分かりにくいかなあ。

       旗竿に国旗がたなびくえんしゅう前甲板。狭い。実に狭いです。なのに岸壁までの高さは結構あり、おまけ
      に甲板のキャンパーがきつくて甲板の両肩が僅かに下がった状態なので、足元の覚束なさがなんとも気持ち悪
      い
。慣れないと立っているだけでも不安感が拭えません。

       ちなみにこの多用途支援艦ですが、故障や座礁で動けなくなった大型艦艇を曳航する為に、かなり高出力な
      エンジン
を搭載しているとの事。基準排水量で13000dを優に超えるひゅうが型護衛艦も、1000dに
      満たないこの艦でぐいぐい引っ張ってしまうそうです。

       「海自にあるフネで、引っ張れないフネはありませんよ!」
       と、説明係の隊員さんもちょっと誇らしげ。なるほど、この小さな体に似合わない大パワーを受け止める為
      に、普通の自衛艦以上に甲板のキャンパー角をとって船体剛性を高めているのでしょう。なんというか、筋肉
      でガチガチに固めた低身長のヘビー級ボクサー
を見ているみたいだなあ。
       また、護衛艦の射撃訓練で使用する曳航標的自走式水上標的を管制する為には、必然的にアイポイントを
      高くとらざるを得ず
、高出力なエンジンを搭載しているが故にそれに見合ったサイズの煙突を乗せる必要もあ
      ります。
       そこに物資輸送に必要な広さの後甲板を確保するとなると、どうしても背の高い艦橋や大きな煙突を前に押
      し出す形になりますね。パッと見で非常にバランスが悪く感じたこの特殊なシルエットも、要求性能をとこと
      んまで追及した結果の設計
なのでしょう。
       昨日舞鶴で乗艦した昔の戦艦の面影を色濃く残していた護衛艦しらねの優美さとは正反対にある、特化した
      機能美の極致
みたいなものなんですね。

       そんな仕事人とも言える多用途支援艦ですが、舷側回りは意外とすっきり。戦う事が本来の役割である護衛
      艦とは違い、日常的に甲板舷側通路を使っての『作業』が主になるので、出来る限りシンプルにまとめてい
      るんでしょうか。どこかのっぺりとした艦橋構造物は、昨今の護衛艦に求められているステルス性に近いもの
      を感じますね。

       ふと見上げると、舷側通路をまたぐフレームの上に2基の救命ボートの樽が取り付けられています。これが
      左右両舷に合わせて4基、さらに内火艇もあるので、40人乗りの艦に100名分の救命装備があるのか。随
      分多い様に思いますが、物資だけではなく人員輸送も行う事を考えると、これ位は余裕を見る必要があるんで
      しょう。
       角の立った今風の煙突の周囲には、水平方向に幾つもの足場の様なものがあります。これはどの艦の煙突に
      もついていますが、何に使うんだろう。以前から疑問だったので側にいた隊員さんに尋ねてみると、
       「ああこれは、仰る通り足場です。ドック入りの時に使うんですけど、まあそういう時はジャングルジムみ
      たいなちゃんとした足場を組みますので、実際はあまり使いませんねえ。あくまで補助的なものです。航海中
      や停泊中に使う事も、まずないですよ」

       との事でした。

       地上1階にあたる1甲板からラッタルを上がり、4階に相当する03甲板へ。旗甲板の後方には、ひうち型
      多用途支援艦4番艦から採用された減揺タンクが搭載されています。船体の揺れに対して一呼吸遅れて動く性
      質のあるタンク内の水の重量
を利用した、洋上で艦の姿勢を安定させる装置です。アンチローリングタンク
      も言いますね。

       タンク内の水だけで25dもあるので、元から高い艦の重心をさらに高くしている印象。もっとも、原理的
      には高い位置にあるほど減揺効果を発揮するので、これもアンバランスな様で理にかなった設計です。
       ちなみに減揺装置のある03甲板ですが、ここだけ一枚板ではなくスノコ状。少しでも艦橋上部を軽量化
      て重心を下げて復元力を確保しようという、苦肉の策なのかな?

       この多用途支援艦には固有の武装はありませんが、4番艦のげんかい以降は搭載火器(拳銃・小銃と同じ)
      扱いとして12.7o機関銃が搭載され、ささやかながらも沿岸や港湾の哨戒任務までこなせるようになりま
      した。
       また露天艦橋にはターレット(放水銃)も装備され、船舶火災等の緊急時には化学消火剤による消火作業も
      可能
になっています。海自の懐事情に優しい、誠にコストパフォーマンスに優れた何でも屋です。
       「私ら海自のJAFですんで(笑)」
       と説明係の隊員さんは笑っていましたが、艦が動かなくなった時に真っ先に駆けつけて助けてくれるのがこ
      の多用途支援艦。こういった何気ない一言プライドの裏返しの照れ隠しが垣間見えるのは、いい感じだなあ。

       えんしゅう右ウイング。やはり艦の大きさの割に高さがあります。洋上での訓練標的の管制作業を考えれば、
      もっと高くてもいい位なんでしょう。また今回はクローズされていましたが、艦橋の前にも通路が伸びていて
      まるで掃海艇みたい
。これも同様に実用第一、機能第一の設計です。

       艦橋内は自衛艦の御多分にもれず、実にシンプルかつ機能的な印象。またこの訓練支援艦は建造コスト低減
      のために民生品の機器類を採用していて、モニターの画面一つとってもどこか垢抜けた雰囲気が漂っています。
      よく見ると操舵装置も舵輪ではなく、W型のハンドルなんですね。ミサイル艇みたいだなあ。

       また4番艦げんかいから新たに採用されたのが、水中通話装置。艦底から下ろした水中マイクを使った音声
      や信号による通信が可能
になった事で、潜水艦への訓練支援がよりスムーズになったそうです。へー、護衛艦
      だけでなく潜水艦相手の訓練支援も出来るとは。ほんと何でも出来る艦ですね。

       艦橋の後方にある区画は、水上標的管制室。左右に広く見晴らしが効き、第二のウイングみたいな感じです。
      室内は薄いグリーンと白で塗装され、目にも優しく開放的な気分。もちろん仕事で使う区画なのでそんな呑気
      な訳がありませんが、科員居住区や食堂よりリラックスできそう。
       ここではバラクーダ(自走式水上標的)を無線誘導で操作して、護衛艦の射撃訓練の支援を行うそうですが、
      モニターやプリンター、ノートPCが置いてあるだけで、操作盤とか誘導装置の類が見当たりません。別にコ
      ントローラーがあって、鉄人28号みたいに(古い)に手持ちで操作できるのかな?

       「ああ、バラクーダはですね、あれ実はマウスの画面クリックだけで動かせちゃうんです(笑)。ほら、こ
      こをこうして、こうするだけです(笑)」

       ええええ、PC画面に出てる小さなバーを動かすだけなんですか!レバーとかスイッチとか、そういうメカ
      っぽいのはのはないんですか?
       「はい、私も最初の教育で知った時は驚きましたよ(笑)。事前にプログラミングしておけば放っておいて
      もその通りに動いて、勝手に帰ってきます(笑)」

       ちなみにそのバラクーダですが、実は36ノット(約65q/h)という意外なほどの足の速さを誇り、高速
      で逃げ回る不審船を想定した訓練でも活躍しているとの事。マスト上部のカメラで砲弾の着水位置もリアルタ
      イムで確認でき、射撃訓練の評価判定もスムーズに行えるそうです。おもちゃみたいな見た目の割に、かなり
      の多機能っぷり

       一層降りた甲板では医務室が公開されていました。区画の真ん中をズドンと貫く円柱が、いかにもフネの中
      だなあ。今回は長期航海ではないので、医師ではなく看護師資格を持った若い隊員さんが一人で乗り込んでい
      ました。ここって艦長室よりも広いですよねと言うと、ん?そう言えば・・・という表情の後、
       「確かにそうですね!よく考えたら、贅沢させてもらってるなあ(笑)」

       通路の壁面には、えんしゅう艦長副長先任伍長の写真が掲示されてありました。艦長は大谷三等海佐
      やっぱり三佐が艦長だと、なんとなく艦内が若々しい雰囲気になる様な気がします。
       当然ながらえんしゅう艦内にも立派な神棚があり、えんしゅう神社として御神酒(中身は水)からから、
      果ては賽銭箱までしつらえてあります。宗教性のない船乗りのゲン担ぎ的な縁起物ですが、出港前には必ず
      海安全
のお祈りをする艦長もいるとか。

      機関操縦室兼応急指揮所。明るい室内には、液晶ディスプレイを使ったシンプルな機器類が配置されています。
     機関室内部は常時7台のカメラによる監視が行われ、機械油の匂い等はまるでありません。

       ちなみに艦内では普通の事ですが、窓というものが全くないので、この狭い室内に入れ替わり立ち替わりで
      詰めていると、今日が何日で昼なのか夜なのか本当に分からなくなりそう。そんな事を隊員さんに話すと、
       「あ、実はこれで昼か夜かは分かるんですよ(笑)」
       と、先程まで機関室内が写っていたモニターのカメラを切り替えて艦外の風景を見せてくれました。

       ちなみにこの多用途支援艦えんしゅう、2009年に除籍となり射撃標的艦として最後の大仕事を果たす事
      となった護衛艦たちかぜを、八丈島南東の訓練海域まで3日かけて曳航した実績があるそうです。国民の目に
      あまり触れる事もなく、ひたすら海上で働き続けたたちかぜの最後を見届けたのが、このえんしゅうだったの
      か・・・。
       一隻で5役6役もこなす働き者のえんしゅうですが、長年最前線で体を張ってきた艦の最後の旅路の手を引
      く
という、そんな切ない仕事もあるんですね。その様子が昨日舞鶴で乗艦した護衛艦しらねと重なって、何と
      も言えない気分になってしまいました。
       次は科員食堂。10人座ればもう満席という、掃海艇よりもはるかに小さな食堂です。狭い室内にはお茶の
      ジャグや冷蔵庫、製氷機、テレビ、でかい飲み物自販機等が置かれ、かなり狭苦しい感じ。

       お、妙な掲示物を発見です。醤油やウスターソース、ドレッシング、ポン酢といった調味料の内蓋は、半分
      残した状態で使用せよ
との事。なんで全部開けないの?と不思議に思ったので、側にいたWAVEの人に尋ね
      ると、
       「はい、これは艦が揺れて瓶が倒れた時に、中身がテーブルにどっとこぼれない様に、内蓋をあえて残して
      おくんです」

       なるほど。揺れる艦内という特殊な場所で食事をとる為には、こんな工夫が必要になるんだなあ。ちなみに
      中濃ソースは粘性が高いので、内蓋は全部取ってもいいそうです。

       最後は後甲板へ。おお、広い!暑い!眩しい!ほんの小一時間程度の艦内見学でもそう感じるんですから、
      何日も何日も艦内に閉じこもりっぱなしの後に上陸する時は、さぞかし解放感を感じるんだろうなあ。

       ほほう、これが噂のひゅうが型護衛艦をもぐんぐん引っ張るというウインチか。そう考えると、なかなか不
      敵な面構え
に見えますね(笑)。

       ちなみにこの多用途支援艦、後甲板の周囲には丸っこい形状の手すりがついています。なんだか遊覧船みた
      いで自衛艦っぽくありませんが、これは艦艇を曳航する際に、舫綱が角に擦れて傷つかない様、あえてこんな
      形にしている
そうです。

       「基本真後ろに一直線にしか引っ張りませんし、舫が左右に振れない様ストッパーもありますから、左右の
      手すりに舫綱がかかる事はまずありませんけどね。でも曳航の際には、こういった甲板上の突起物は念のため
      に全部取り外してしまうんですよ」

       と、隊員さんが指さして教えてくれたのは、荒天時に使用する艦内通風筒の赤いハンドル。へー、これも取
      り外せるのか。確かに舫がひっかかったら大変ですからね。

       甲板の白テントの中ではロープ結索体験が行われ、夏休みの子供達がぎこちない手つきでロープの結び方を
      習っていました。
       あと、多用途支援艦といえばこれ。艦尾のスターンスリップウェイです。水上標的を曳航したり回収する際
      に、舫が甲板の角に擦れて傷まない様に滑らかに設計されているのですが、位置的にも曲線的にも、お尻
      としか言いようが無いなあ。うーん、実になまめかしいというか、ほんのりとしたエロスを感じますね。とき
      めき度ゼロのお尻
を持つひゅうが型やいずも型も、是非見習ってもらいたいものです。

       それにしても、よく考えたら4年前にこのえんしゅうに乗った時も、同じ事を書いた気がするなあ。あれか
      ら全く進歩していない
と解釈すべきか、俺はまだまだ大丈夫だと解釈すべきか、本気で悩みます。
       以上で多用途支援艦えんしゅうの見学は終了。最後は逆光を避けて、尾鷲湾北側にある小さな漁港からえん
      しゅうを撮影です。
       その後は、私のもう一つの大きな趣味である地元スーパー巡り。珍しい地元食材が普通に売っていたりする
      ので、ちょっとした遠征の時は必ずクーラーボックス持参なんですよね(笑)。
       ちなみに本日の収穫は、熊野灘の豊かな海藻をたっぷり食べて育った地物のサザエ。お造り、壺焼き、炊き
      込みご飯・・・高タンパク低脂肪ビタミンB群タウリンを豊富に含み、この2日間の遠征の疲労で低下
      した抵抗力を見事に復活させてくれました。

       さて次回は、富山県で行われる体験航海で伏木港に入港するしらねの姿を見に行って参ります。しらねに関
      しては前回のレポートで書きつくした
感があり、特にこれと言って語れる内容にはならないと思いますが、
      の立山連峰をバックにした美しい富山湾としらね
を撮影出来たらいいなあ・・・と思いながら大阪に向けて車
      を走らせました。
       




トップページに戻る
イベントレポート目次に戻る