2013.04.21
香川県善通寺市に所在する、善通寺駐屯地開設記念行事に参加してきました。当日は第14旅団の創隊
記念行事も兼ねていて、毎年大きな盛り上がりを見せる駐屯地という事もあり、以前から一度遠征してみた
いとずっと機会を伺っていたのでした。
第14旅団は四国4県の防衛警備を担任し、その旅団司令部が置かれた善通寺駐屯地は瀬戸大橋にほ
ど近く、四国と本州との連絡を密にするという意味でも、名実ともに四国の防衛警備の要と言えるでしょう。
ちなみに善通寺駐屯地は、2010年まで2個普通科連隊(第15・第50)が駐屯する巨大駐屯地だったの
ですが、旅団改編に伴って第15普通科連隊は高知県の高知駐屯地に移駐し、旧高知駐屯地にいた第14
施設隊は新設された徳島駐屯地へ移駐。さらに第14化学防護隊が司令部付隊から旅団直属部隊として格
上げされるなど、時代背景と国際情勢に即応すべく大きな変化の真っただ中にある駐屯地であります。
当日は早朝に車中泊先であるPAを出発し、臨時駐車場に到着したのは0800。それにしてもものすごい冷
え込みです。もう5月も目の前だというのに、この歯の根が合わない位の寒さはなんなんだ・・・。とぼやいて
いるうちに正門前に到着です。
開門待ちの人達は20人程でしたが、すぐに行列は増え続け、あっという間に軽く300人を超す規模に。あ
と30分ぐらいかな・・・とぼんやり待っていると、何の予告もなく突然開門。おお、予定の0900よりも早めた模
様ですね。人の波に乗ってホテホテと式典会場に向かい、運よく観閲壇右側一般席最前列に一つだけ空い
ていたイス席を確保。確かここの訓練展示は左←右方向に展開するので、中盤以降は後方から眺める事に
なりますね。会場左端のロープ際から見るという手もありますが、まあ初参加の駐屯地です。あまりあれこれ
欲張らず、オーソドックスなポジショニングでいいかな。
ペットボトルの水を一口飲み、さあ歩き回るとしましょう。朝食を抜いてきたのでお腹も減りました。
上空の低いところまで雲が降りていますが、青空が広がっているし空模様は何とかなりそう。のんびりと流
れていく雲が、すっかり緑の色を濃くした山肌に大きな影を映してています。なんというか、すごく酸素が濃い
感じ。これは地元の我が第3師団にはない雰囲気ですね。強いて似た所を探すとすれば、和歌山駐屯地あ
たりに近い雰囲気です。
駐屯地内には珍しくメロウな音楽が流れていて、日曜朝の穏やかな雰囲気がいいなあ。明け方までの雨に
洗われたのか、駐屯地内の新緑もキラキラ輝いています。
ゆっくりと流れて来る人混みに逆らって正門右側の屋台通りに到着。まだ閑散としていますが、どの屋台も
準備は出来ているらしくあちこちからいい香りが。まずは一通り見て回ります。
美味しそうな焼き鳥を出しているのは、第14戦車中隊。テント前には隊員さんの手製らしき段ボール製の
74式戦車がありました。デフォルメが効いていて可愛らしいのですが、曲線で構成された74の砲塔部分を
段ボールで作るのは難しかったのか、10式なのか90式なのか74式なのかよく分からない出来上がりにな
っています。
巨大な売り場面積を誇る自衛隊グッズコーナーにて、『精鋭の休息』なる怪しいレトルトカレーを発見。自衛
隊オリジナル緑茶『整列休め』と一緒に購入です。
第14偵察隊からは、アイスクリーム・南高梅・カレーの3種混合屋台。晴れ間が広がってきたとはいえ、こ
の気温でアイス販売は苦戦しそう。しかしアイス担当の隊員さんは朝イチからテンション上げまくりで、
「アイスクリームいかがですかー!?自衛隊の味がしまーす!!」
自衛隊の味ってどんなだよ・・・と心の中で突っ込みを入れていると、
「えー、自衛隊の味とはですねえー、まあ一言で言うと、泥臭いっちゅーか・・・」
か、勝手に人の心を読むな!第14偵察隊怖すぎです(笑)。しかし泥臭いアイスって一体・・・。ナマコかカ
ブトエビにでも売るつもりだったんでしょうか。10m離れた所にいる私の心を読む超能力者を擁する第14
偵察隊ですが、ことマーケティングの分野では著しく劣ると言わざるを得ません。これ以上ここにいると脳内
のとんでもないエロ妄想まで暴かれそうな恐怖を感じたので、その場から逃げる様に別の屋台へ。
第14通信中隊からはしんちゃんうどん。第14飛行隊からは鳴門金時と生しいたけ。高知駐屯地からは土
佐小夏と生姜。松山駐屯地からは名物じゃこ天。このあたりは、海の幸にも山の幸にも恵まれた四国らしい
実に豊かなラインナップですね。第323基地通信中隊からは、フランクフルトが出ていました。
まずは体を温めたいので、しんちゃんうどんから行ってみましょう。受領したうどんには紅白のカマボコと青
ネギがあしらわれ、天カスと七味はセルフで入れ放題。さっそく頂いてみます。
おお、美味い!うどんは冷凍モノながらもしっかりと角が立った太うどんで、ぐっと歯を押し返すコシが本場
らしいなあ。ダシっ気の強いつゆは醤油よりも塩味を強調していて、天カスからは桜エビの香りがぷんと立っ
ています。アツアツ補正を差し引いても、実に美味しいしんちゃんうどん。善通寺遠征の一発目としては上々
の滑り出しでした。
続いては第14戦車中隊の焼き鳥へ。おお、この塩味さっぱりの焼き鳥もイケますね。炭火で焙られた香ば
しさが、食べるほどに食欲を刺激してくれます。さらに畳みかける様に松山駐屯地のじゃこ天を。ホットプレー
トで焙られたじゃこ天は程良く脂が抜けていて、意外と塩味が強いのですがこれも瀬戸内海の海の幸!とい
う感じですね。松山駐屯地は毎年秋に伊丹駐屯地で行われる中部方面隊創隊記念行事でも美味しいじゃこ
カツの屋台を展開してくれているのですが、このシンプルなじゃこ天も美味しいなあ。
いやあ、カラだった燃料タンクに一気に給油した感じです。上空は晴れ間が広がり気温も上がって来ました
し、今日はいい記念行事になりそう。
お、通りを挟んで向こう側にも屋台があるんですね。こちらにも高知駐屯地が出店していて、昨年現地で食
べた親鳥鉄板焼きとちゅうにち(うどん出汁に中華そばが入った微妙なシロモノ)を出しています。その他善通
寺駐屯地業務隊からは飲み物販売、そして第15普通科連隊第3中隊からは焼きそばの屋台が。おおおお、
駐屯地焼きそばも久しぶり。まだ準備はできていない様なので、もう一回りしてから挑戦してみましょう。
善通寺駐屯地ラグビー部からはフランクフルト。第110教育大隊からはフライドポテト。第15普通科連隊
第2中隊からは揚げ餃子。さすがに旅団創隊記念行事ともなると、居並ぶ屋台も豪勢な顔ぶれです。
その後しばらくして焼きそばの屋台に戻ると、ちょうど出来たてを鉄板から上げている所でした。ワクワクし
ながら300円払って受領すると、渡されたのは既にパック詰めされた作り置き・・・。うーん。
ほぼ冷めきっている悲しい焼きそばでしたが、ソースの加減も麺への乗りも素晴らしく、豚肉埋蔵量も中国
が目をつけたらえらい事になりそうなぐらいに豊富。キャベツやもやしもシャキシャキで、ニンジンのほっくり甘
い味わいも実にいいアクセントですね。駐屯地焼きそばとしてはかなりハイレベルですが、それだけに冷めて
いるのが勿体ないなあ。次来る時は、ぜひ出来たて熱々のタイミングを見計らって食べてみたいものです。
いやあ、久々に食い散らかしました。屋台通りの向こうでは式典参加部隊の集合が始まっているので、そろ
そろ私も会場に戻ります。
気がつくと先程まで晴れていた空に、少しずつ雲が広がって来ました。風も出てきて気温も一気に下がって、
今日は難しいコンディションだなあ。
その後しばらくして、部隊の入場が始まりました。グラウンドの左右からは続々と式典参加部隊がやって来
ますが、さすが旅団創隊記念行事、隊員さんの胸元を彩るマフラーが色とりどりです。伊丹の方面隊記念行
事や千僧の師団創立記念行事は基本的に隊員さんの後方から見る事が殆どなので、このカラフルさは新鮮
だなあ。
その後各部隊の指揮官が入場し、式典参加部隊の紹介が行われます。会場向かって左側から、第14音楽
隊(善通寺)、第14旅団司令部付隊(善通寺)、第14化学防護隊(善通寺)、第14高射特科中隊(松山)、第14
戦車中隊(日本原)、第14施設隊(徳島)、第14偵察隊(善通寺)、第14特科隊(松山)、第15普通科連隊(善通
寺)、第50普通科連隊(高知)、第14後方支援隊(善通寺)、第14飛行隊(北徳島)、第14通信中隊(善通寺)、
第110教育大隊(善通寺)、第47普通科連隊(善通寺)。
続いて本式典の観閲部隊指揮官を務める、善通寺駐屯地司令兼ねて第14旅団副旅団長である伊集院一
等陸佐が入場。
ここで式典の開始に先立ち、旅団長及び駐屯地司令からの感謝状贈呈者の発表が行われますが、やはり
旅団創隊記念行事だけあって、読み上げられる名前の数が多くなかなか終わりません。
そして祝賀飛行。海上自衛隊小松島基地からのSH−60J哨戒ヘリ×3、そして航空自衛隊西部航空方面
隊司令部支援飛行隊(長い!)からのT−4練習機×2。戦闘機に比べると控えめですが、久々に聞くジェット
機の排気音はやっぱり迫力ありますね。
その後は本式典の観閲官を務める第14旅団長永井昌弘陸将補が入場。観閲官は登壇し、部隊は栄誉礼。
続いて国旗が入場し、式典参加者は起立で迎えます。
さらに観閲官の部隊巡閲が粛々と行われ、観閲官の式辞に移ります。永井陸将補は実に旅団長らしい太く
大きないい声で、本式典参加者への感謝、旅団の歴史、これまで果たして来た役割等を述べて行きます。そ
の後もまあいつも通りのよくある式辞が続くのかと思いきや、少し気になる内容だったので、ここにその部分を
書き起こしてみます。
『さて今日は、南海トラフ巨大地震への対応についてお話します。東日本大震災では、約1万9千名の死者
行方不明者が出ました。ここに投入された陸海空自衛隊の戦力は10万人です。うち陸上自衛隊は7万。南
海トラフ巨大地震では、四国だけで最大8万6千人の死者が出ると言われております。約5倍の被害、そこに
投入される戦力は、5倍の50万人となるでしょうか?そのような戦力はありません。さらに被害地域の広域化
に伴い迅速な戦力集中は困難になり、初動で派遣される戦力は地域所在部隊に限定される事となるでしょう。
5倍の被害に、1/10にも満たない戦力投入。これが、発災直後に予期される世界です。東日本大震災では、
陸海空自衛隊さらには米軍のトモダチ作戦を含め、その活動は高い評価を頂きました。その中にはもちろん、
諸官の女川および石巻での活動も入っています。しかし、南海トラフ巨大地震での災害では、そういう訳には
いきません。一体自衛隊は何をやってるんだ、国民の自衛隊への過大な期待は、その時打ち砕かれる事に
なるでしょう。そのような状況の下で、我々は与えられた戦力の中で、最善を尽くさねばなりません。それは東
日本大震災の状況より、遥かに過酷なものとなるでしょう。国民の失望と不満が渦巻く中にあっても、我々は
四国4県の人々の為に活動しなければなりません。その覚悟を全隊員が固めたうえで、今日からまた新たな
努力を続けて行きましょう』
この中で、近い将来この四国を襲うであろう大災害について、直後の自衛隊の活動は国民から支持される
事はないだろうというくだりが、どうにも気になりました。もちろんそれは現実に起こり得る事だとは思いますが、
今この場に集まっている人達は、自衛隊の献身的な活動に感謝し、郷土の第14旅団を誇りに思い、心から
応援している人達が殆どだと思うのですが・・・。
もちろんそれに甘んじることなく、しっかりと現実を見据えた上で前進して行くのが第14旅団なのだと思いま
すが、それは一般参加者のいない平素の訓示で述べればいいのであり、この忌憚のない式辞に自分たちの
気持ちを否定された様に感じた参加者は、私以外にも居たのでは・・・。
当日はそんなもやもやした気分が晴れなかったのですが、今こうして文章に書き起こしてみると、それだけ
では決してない別の側面が見えて来る様な気がします。
四国の防衛警備を担う旅団長として、本気で次の大災害に対する準備に心を砕いているが故に、そして一
人一人の隊員を我が子同然に思っているが故に、その時に対する覚悟と決意の有無を、敢えて今この場で
目の前にいる隊員達に問いかけているのでしょう。
もちろん自衛隊を今すぐ50万人体制にせよとか、四国にもっと部隊を持ってこいとかいった極論を述べる
つもりはありませんが、身の毛のよだつような被害想定と現実的に手元に集める事の出来る戦力を比較し
た時に、言いたくない事も言わなければならないという心境も、おぼろげながら理解できるような気がします。
そして日常の訓練や東日本大震災で、自分に出来る事と出来ない事を冷静に認識しているこの人達にとっ
て、私達の無邪気極まりない応援と現実離れした過剰な期待は、自分の活動が認められた感慨を通り越し、
むしろ重荷にすらなっているのかもしれません。
与えられた任務に全力であたる、と言葉にするのは簡単ですが、この人達は私達一般国民が想像している
よりも、遥かに重いものを背負っているのでは・・・と、今更ながら考えさせられました。
その後は来賓による祝辞が続きます。先頭を切るのは佐藤正久参議院議員。この人の祝辞は、やはりい
つ聞いても観閲官の式辞みたいですね。地元と国会を忙しく往復する日々を過ごしているんだと思いますが、
正門をくぐって現場の空気を吸うと、佐藤議員にとっての原点であるいち自衛官としての精神が、意識せずと
も表れて来るんでしょう。
大きな拍手が送られた佐藤議員の後にも沢山の国会議員達が祝辞を述べていましたが、佐藤議員の後は
一番祝辞が短かった人が一番大きな拍手を受けていた気がしましたね(笑)。まあ、式典なんて本来こういう
もんですし。
来賓紹介、祝電披露が行われ、式典は終了。続いて行われる観閲行進の準備の間に、ジャパンハーレー
会協力による四国4県の県旗の行進が行われます。サイドカーに座乗した隊員さんが掲げる4枚の旗が次々
とやってきますが、何故ハーレー会。よく分かりませんが、お気に入りの愛媛県旗を見る事が出来てちょっと
嬉しかったですね。どことなく漂う南米のテイストが実にステキで、シェラスコとか食べたくなるなあ。
そして観閲行進が始まります。まずは第14音楽隊が先頭を切って入場し、観閲部隊指揮官を乗せたパジェ
ロが通過。続いて本式典参加部隊の各車両が堂々の行進です。その中で初めて見たのが、なにやらでかい
蒸気釜の様なものを乗せた大型トラック。特科隊の装備品らしいのですが、砲撃用のレーダーか何かかな?
最後は第14戦車中隊からの、74式戦車5両と96式装輪装甲車1両。さすがに最前列で見るともの凄い重
量感に圧倒されますが、この戦車5両を乗せたトレーラーや装甲車が瀬戸大橋を通ると、一体どれ位の通行
料がかかるのやら・・・と、変な事を考えてしまいました。途中の与島PAには降りられないんだろうなあ。
トリを務めるのは第14飛行隊の航空観閲。OH−6D観測ヘリとUH−1J多用途ヘリ2機が、爆音を響かせ
ながら駐屯地上空を通過して行きました。
ここで悲しいお知らせが。この後予定されていた第一空挺団によるパラシュート降下は、天候の都合で中止
になったとの事。うーん、低いところまで雲が降りているので、これは致し方なしですねえ。
以上で観閲行進は終了。続いて格闘訓練展示に移ります。訓練用の模擬小銃を使い、様々な状況に対応
した格闘訓練を次々と披露。防弾ベスト着用とは言え、硬い靴底で蹴り込んだ時は『ドスッ』と鈍い音が響き、
かなり迫力がありました。
その後は第14音楽隊と第14旅団選抜ラッパ隊による合同ラッパドリル。曲目は『雷神』『女々しくて』『アメ
イジング・グレイス』『Sing Sing Sing』の4曲です。このラッパドリルが素晴らしく、第14音楽隊のキビキビ
した演奏に合わせて、戦闘服姿のラッパ手が飛ぶわ跳ねるわ、体を目いっぱい使った実に自衛隊らしいドリ
ルです。
3曲目の『アメイジング・グレイス』では2人のWACが声高らかに歌い上げ、その真っ直ぐに何かを祈るよう
な堂々とした歌声には、音楽の素養が欠片もない私も思わず引き込まれてしまいました。
最後はジャズのリズムに乗って、ラッパ隊と音楽隊、そして観客まで巻き込んで大きな手拍子を打ちながら
の見事な演奏を披露。いやー素晴らしい!見事なエンターティンメント!今まで見たラッパドリルの中では一
番良かったですね。第14旅団すごいなあ。
いよいよ訓練展示の始まりです。会場中央には巨大なカマボコ型天幕が運び込まれ、その左右にはライナ
ープレートを立てた業務用天幕が設置されています。今回は今年3月に新編された第14化学防護隊をメイン
にした訓練展示らしく、まさに時代に即した内容であります。
ちなみに中央のカマボコ天幕は核廃棄物貯蔵施設、その左右の天幕は監視施設という設定。現在この一
帯はテロ組織により占拠されていて、第14普通科連隊第3中隊及び第14飛行隊、第14戦車中隊が連携し
ながら施設の奪還を図る・・・というシナリオだそうです。
ここでアナウンスの紹介を受けながら、訓練展示に参加する車輛が続々と進入。74式戦車は土を巻き上
げつつスラローム走行し、すかさず空包を一発お見舞いします。バンと周囲の空気を震わせる発射音に、
観客席から大きなどよめきが。なにぶん舞台が核廃棄物貯蔵施設なのでシナリオの中に砲撃が組み込み
づらく、とりあえずかけつけ一杯というか祝砲みたいな感覚で撃ってみました!といったところでしょうか(笑)。
せっかく海の向こうから来てくれた74ですし、そのまま帰すのは勿体ないですよね。
さらに00式個人防護装備と化学防護衣に身を包んだ隊員さんがやってきて、装備の紹介が行われます。
なんだかファッションショーみたいだなあ。
そしてテロ集団の声明文が読み上げられ、隊本部からは施設奪還の命令が下されます。まずは空中偵察
の命を受けた第14飛行隊のOH−6D観測ヘリが現場に急行し、テロ組織からの対空射撃を巧みにかわし
つつ上空から周囲の情報を収集。合わせて地上偵察要員を乗せたUH−1J多用途ヘリが低空侵入し、カー
ゴドアから2名の偵察隊員がラペリング降下開始。隊舎屋上に着地した後は、すぐさまロープ伝いに地上に
降りて来ます。
「こちら地上偵察要員。中央防護施設のテロリスト、2〜3名。左右の監視施設においては警戒中のテロリ
ストを確認。なおテロリストは、銃および対戦車火器を携帯している模様!」
「こちら中隊長。当初、小隊は左右の監視施設のテロリストを排除する。各班は体勢を取れ!」
そして戦車の支援を受けながら、軽装甲機動車に乗った小銃小隊が左右から突入開始。激しい銃撃戦が
展開された後、外にいたテロリストは小銃小隊によって排除されました。
左右の監視施設にはそれぞれ4名の隊員が張りつき、うち2名が周囲を警戒、残り2名は片方がバックアッ
プを行いながら監視施設内に突入。内部にいたテロリストを瞬時に制圧します。
続いて中央の核廃棄物貯蔵施設への距離を詰めていきますが、ここで立て籠もったテロリストが化学兵器
を使用。周囲に黄色いガスが立ち込める中、小銃小隊は監視施設や車両の陰に後退し、すかさず防護マス
クを着用。化学兵器に対する防御を行います。
しかし左側の監視施設にいた隊員の一人が、化学兵器を浴びて負傷。瞳孔は散大し全身は痙攣。危険な
状態に陥ります。
すかさず別の隊員が負傷者を車輛の後方まで引きずって行き、応急処置としてアトロピンの注射を実施。
その間に小銃小隊は中央の施設まで前進し、突入態勢を整えます。
「こちら中隊長。中隊は、左右の監視施設より中央の防護施設に再度突入する!突入、開始!」
小銃小隊が施設内になだれ込み、内部で激しい銃撃音が鳴り響いた後、小隊は無事施設の奪還に成功。
そしてここからが、今訓練展示のヤマとなる第14化学防護隊の登場です。
「こちら中隊長。施設奪還、テロリストは確保。第14化学防護隊は、行動を開始せよ!」
現場には2両の化学防護車が進入して来ました。
「こちら小隊長。汚染地域に到着。これより汚染状況の解明、および気象観測及び負傷者の除染を開始す
る!」
化学防護車はただちに周辺の大気の分析を開始し、車外のロボットアームが汚染地域を表す黄色い旗を
地面に突き立てて行きます。合わせて車輛上部には2本のセンサーマストが立ちあがり、周囲の気温や風速、
風向を測定。化学兵器がこの後どの様に拡散して行くかの予測を開始します。
負傷した隊員に対しては除染剤タンクを背負った化学防護隊員による除染作業が行われ、化学剤検知器
を持った隊員がどの化学剤にどれ位汚染されているかの分析を開始。検知器を地面にかざし、慎重に周囲
の調査を行っています。
「こちら小隊長。偵察結果について報告する。化学剤の種類、サリン。汚染範囲、幅15m四方!」
報告を受けた隊本部からは、除染車3型が2両投入されました。車輛の後部から飛び降りて来た化学防護
衣の班長は、車両にいる隊員にテキパキと指示を飛ばします。
隊員は除染車のガンを操って周囲の土壌の除染を行い、すみやかにサリンの無力化を実施。班長はその
後方について、除染された土壌を検知器でくまなくチェック。
「こちら小隊長。除染作業終了。化学剤検知器、反応なし!これより安全化の最終確認を実施する!」
ここで小隊長は部下の一人を指名して、実際に化学防護マスクを外させます。おおお、訓練展示とはいえ、
漂う緊迫感に思わず息を飲んでしまいますね。
指名された隊員は慎重にマスクを外し、フードをめくり上げて深呼吸。実際はこの状態で5分間呼吸を行い、
その後再び10分間マスクを着用し、症状が出なければ全員にマスクを外させるとの事。
「異常なし!ガスなし!状況、終了!」
以上で訓練展示は終了。ホッとした空気の広がった会場からは大きな拍手が送られました。パチパチパチ。
火力的には控えめでしたが、通常とはまた違った意味で緊迫感に満ちた、凄味のある訓練展示でしたね。
特に最終確認の時に、小隊長が自分ではなく部下にマスクを外させる場面は凄く印象に残りました。部下の
命を預かる立場と責任の重さを、実に分かりやすく表現出来ていたと思います。
という訳で会場を離脱。屋台広場は混雑がひどいので、第110教育大隊の隊舎に入ってみます。階段の所
には『戦技BEST5』という掲示物があり、各種目の成績上位者が誇らしげに発表されていました。中でも汗の
記録と称された持続走で首位を独走する333中隊の今西曹長の記録が凄まじく、走行距離は何と4041q!
月平均にして367.4qだというのですから、ほとんど車みたいな感覚です。体脂肪率とか聞いてみたいなあ。
隊員食堂も開放されていたのでちょっと覗いてみましたが、流石に少し前まで2個普通科連隊を抱えていた
駐屯地だけあって、大した広さですね。先月見せてもらった徳島駐屯地のこぢんまりとした食堂とはえらい違
います。
また、厚生センターに入っている乃木うどんには、これまたとんでもない行列が出来ていて、建物の外にま
ではみ出してとぐろを巻いています。ここは地元の讃岐うどんマニアの間でも知る人ぞ知る“針の穴場”らしく、
駐屯地が開放される日はうどんマニアが殺到するとのこと 。
その後は装備品展示を見学。とは言え旅団の創隊記念行事なので、ここならではという装備品はなく伊丹
や海田市と似たようなものですね。装備品そのものよりも、普段見る事の少ない第14旅団の部隊章の方が
興味深かったです。
OH−6D観測ヘリが機体後部のハッチを開放して排気口を丸出しにしていたのは珍しかったのですが、何
となく痔の手術を連想してしまいました。江戸川乱歩的に言えば、さながら『痔獄風景』でしょうか(笑)。
最後は、駐屯地から少し離れた所にある乃木資料館を見学。ここは旧陸軍第11師団司令部庁舎を、その
ままの形で資料館にしているとの事。初代旅団長が乃木大将だった事から、この名が付けられたそうです。
築100年を遥かに超える建物は、成程これが歴史の積み重ねか・・・とため息が出る様な趣のある佇まい
で、気のせいか纏っている空気まで違って感じられます。建物に入って正面にある木製階段も重厚な雰囲気
で、踊り場の大きなステンドグラスからの逆光も、神々しささえ感じられます。
うーん、やっぱりいいなあ、こういう古い建築物って。光も影も他の建築物とは全く質が違うというか。今日は
人が多いですが、いつか人気のない平日に、一人でゆっくり見学してみたいなあ。
結局終始建物の雰囲気に酔っていただけで、肝心の展示物は殆ど見ていなかった気がします。ちょっと勿
体ない事をしたかなあ。
1430、臨時駐車場を出発。いやあ、遠征してきてよかったです。訓練展示は会場中央が舞台となったので、
心配していた程見づらかったという事もなく、むしろベストポジションでした。新しい自衛隊カレーも入手できた
し天候もまずまずでしたし、言う事なしでした。
旅団長の式辞で色々と考えさせられたり、部下の命を預かる指揮官の責任の重さ等、通常の式典以上に
感じる所が多かったのも、今後自衛隊というものを理解する上で大きな収穫になった気がします。
2013シーズン前半戦の滑り出しは徳島&善通寺と、第14旅団を立て続けに回る事が出来ました。やはり
地元を離れると、それはそれでまた今まで見えてこなかった色んなものが見えて来るもんですね。GW明けか
らは各地で海自のイベントが活発になりますし、秋には第10師団や第13旅団の駐屯地創立記念行事も入っ
て来るので楽しみだなあ。今日の様な晴天に恵まれる事を祈りつつ、大阪に向けて車を走らせました。
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