護衛艦ふゆづき命名・進水式    in三井造船玉野事業所

2012.08.22



      岡山県の三井造船玉野事業所で行われた、平成21年度計画2247号護衛艦の進水式に参加してまいりました。
     この護衛艦は19DDと呼ばれたあきづき型護衛艦4番艦で、どういう経緯があったのか、先に起工した3番艦よ
     りも一ヶ月先に進水する運びとなりました。
      あきづき型護衛艦は弾道ミサイル防衛任務にあたるイージス艦の護衛を主任務として建造された艦で、対空・対
     艦・対潜作戦をバランスよく行う事を念頭に置かれた従来の汎用護衛艦に比べ、より防空に重きを置いた運用思
     想が設計に反映されています。
船体のステルス化も一層進化されていて、正にイージス艦を守るためのミニイージ
     ス艦
、と言っても過言ではない実力を持った最新鋭艦であります。
      ちなみに当日は命名式もあわせて行われ、あきづき型護衛艦を見るのも進水式に参加するのも初めての私は、
     参加を決めた時から非常に待ち遠しいイベントでありました。
      当日は早朝に大阪市内の自宅を車で出発し、約3時間で三井造船玉野事業所前にある玉野市総合体育館に到
     着。敷地内の臨時駐車場に車を預けて玉橋門を渡りますが、既に沢山の人達が列を作っています。とりあえず最
     後尾につき、さてここから90分、真夏の太陽に焙られながら開門待ちです。
      朝からの酷暑で何気なく持ってきたうちわはかなり役に立ちましたが、ヒマつぶしのために持ってきた文庫本は
     ージの白さが目に痛く、
早々にかばんの中に仕舞い込みます。そうこうしている間にも私の後方には沢山の人の列
     ができ、今日はかなりの人出になりそう。
      その後もますますソーラレイの様になっていく太陽光線に脳天から焼かれていると、あまりの人の多さのせいか、
     予定よりも少し早めの開門となりました。


      入口すぐ横のテントで、旭日旗国旗を一つずつ貰います。成程、これを進水時にパタパタやる訳ですね。配って
     いるのは三井造船の社員の方の様ですが、このくそ暑いのに式服に身を包んでいるのが気の毒だなあ。
      初めての造船所は、想像していたよりも遥かに広くでかく、あらゆる建物やクレーン類がけた外れに大きくて驚き
     ました。
ブロック工法で作られた船体の切り身があちこちにドンドンドンと置いてあり、さながら巨大な化物クジラの
     解体現場
にいる様な気分。もっともこちらは解体とは真反対で、これから組み上げられるのですが。


      それにしても、東京ドーム何個分なんだろうここ・・・と考えながらロープで区切られた通路をぞろぞろ歩いて行くと、
     あ、見えた!目の前にはあきづき型護衛艦の姿が!


      初めて見るあきづき型は、何だか映像資料で見るよりも遥かに異形の顔つきで、艦橋はおでこに絆創膏を貼った
     モアイ像の様
であります。


      そしてそのボリュームも圧倒的で、成程5000トンクラスの護衛艦とはここまでデカイのかと驚かされました。そも
     そも普段は、喫水線から上しか見た事なんですよね、護衛艦って。巨大な船台の上に乗せられた護衛艦が、こんな
     にも迫力に満ちたものだったとは・・・。
      だいたいあきづき型の5000トンって、はるな型やしらね型のDDHと殆ど変らないんですよね。いつの間にやら、
     汎用DDもえらい排水量になったものです。


      そうしている間にも、後ろからはどんどん見学者がやってきます。さて、とにかく落ち着く場所を決めなければ。
     台の右舷側が一般見学スペース
になっていて、ハシゴ型の通路のどこから見ても構わない様です。
      うーん、どこがいいんだろう。なにぶん進水式は初めてなので、勝手が分かりません。式典自体は艦首の方で行
     われる様ですが、今日のメインはやっぱり船台ごと海に滑り降りて行く護衛艦ですよねえ・・・となると、あまり後の方
     に陣取るのはよくないなあ。少し迷って、艦橋真下やや前方の最前列に場所を確保。
      さて、これで拠点は確保です。ここから式典開始まで90分以上ありますが、まずは色々見て歩きましょう。
      艦尾の方に向かうと、巨大な2枚の舵スクリューのシャフトがむき出しになっていました。おおお、舵ってデカイ!
     水面上に見えている部分だけでも、軽く4畳半位ありそうです。これが海中でぐわっと動いて、5000トンの護衛艦の
     進路を変えるのか・・・。


      シャフトの先端は丸い円盤になっていて、スクリューはこの段階では取り付けられていない様です。一般的な進水
     式は普通にこうなんでしょうか?やはり軍籍にあるフネなので、スクリュー形状は大っぴらに見せる事は出来ない
     かもしれませんが。
      白い布のようなもので包まれたシャフトは、優に一抱えぐらいはありそうな太さで、とにかくありとあらゆるものがデ
     カイのが感動的
です。


      玉橋門の方からは人の波がぞくぞくと押し寄せ、みんな艦を見上げて驚きながら歩いているので危ない事この上
     なしです。ここで造船所の作業員の方に、ちょっとお話を伺ってみました。
      この造船所ではほぼ毎月の様に大小様々なフネの進水式があり、そのたびに沢山の見学者が訪れるとの事。た
     だ今日の人出はかなり多い部類らしく、
      「やっぱりこれは、特別なフネなんですよねえ・・・」
      その言い方が、この船をここまで仕上げた自分の仕事に満足している様な口ぶりで、ちょっとカッコよかったのが
     印象的。そりゃ感慨深いでしょうねえ。いいなあ、こんな仕事って。


       その他にも聞きたい事は沢山あったのですが、いかんせん配置されている作業員の人達の数が少なく、皆さん
      場内整理で忙しそうなので、なかなかお話を聞けないままでした。もっと説明係の人の数を増やして欲しい気がし
      ますが、まあこの人達の本来の仕事ではありませんしねえ。
       改めて見てもモアイ像の様なあきづき型の艦橋。艦首にはハルナンバー118が鮮やかにペイントされ、錆一つ
      ない錨のむこうには巨大なくす玉、そしてシャンパンが設置されています。これぞ進水式!という感じですね。


      紅白の鯨幕に飾られた前甲板には作業員の人達がいて、みんな笑顔なのか逆光の中に白い歯がこぼれて見え
     ます。これまで1年以上かけて作り上げて来た我が子の様なこの艦が、いよいよ海に乗り出す記念すべき日。嬉し
     い様な寂しい様な、複雑な気分なんだろうなあ。
      ふと見ると、艦首のバルバスバウもまだついていません。へー、スクリューどころかこんな所も出来ていない状態
     で進水させるんですね。普通の商船とは違ってこの部分に特殊な水中ソナーを組み込むので、ここから先は艤装
     段階で仕上げるのでしょう。


      よく見ると、救命ボートの樽内火艇も取り付けられていません。本当に、ドンガラだけの状態なんだなあ。
      喫水下の腹の部分には、巨大なビルジキールが見えています。これも実物を目にするのは初めてです。イラスト
     や模型では見た事がありますが、やっぱり本当についているんですね。


      艦尾に描かれている筈の艦名を見ようと思いましたが、うーん、見えない・・・。無粋なマネとは思いますが、なんて
     いう艦名なんでしょう。私が初めて一般公開で見学した、きくづきだったら嬉しいんですけど。
      さて、ウロウロ出来る場所は限られている上に、見学通路の人混みもいよいよすごい事になって来ました。今日は
     動き回りながら撮影しようかと思っていましたが、ちょっと無理っぽいなあ。後は拠点に戻って、式典開始をじっと待
     としますか。
      式典会場内では真っ白な常装第一種夏服に身を包んだ士長が、カメラで撮影して回っています。この晴れがまし
     い場に相応しい、実に凛とした佇まい
。カッコイイなあ。


      それにしても、進水式に相応し過ぎるぐらいに気持ちのいい青空です。出来れば秋辺りにやってくれればもうちょ
     っと過ごし易かったのですが(笑)、まあこの酷暑もイベントの味わいのうちでしょう。汗を拭いたハンカチが見る間
     に乾いて行くのを見て、そう思いました。
      ここで本日の進水式を祝う様に、艦橋の後方から一筋の飛行機雲が。ああ、キレイだなあ。暑いけど・・・。


      時刻はいつの間にやら1200を回り、昼食のカレーパンをぱくついているうちに音楽隊の演奏が始まりました。そし
     て空調の効いた待合室で待機していたであろう涼しげな顔をした来賓の人達が、目の前の赤じゅうたんの上を軽や
     かに歩いて式典会場に入って行きます。いいなあ、一度でいいからあんな所で見てみたいなあ。
      こちらは朝から炎天下汗まみれで待ち続け、通路の脇にぎゅうぎゅうにひしめき合っているので、まるでマハラジャ
     を眺めるインドの道端の乞食の様な、悲惨な身分格差
を味わえました。バクシーシ!
      マハ・・・いや来賓の人達の入場が終わった所で、音楽隊は宇宙戦艦ヤマトを演奏開始。おおお、いよいよです!
      朝から延々待ち続けて3時間、ようやく式典が始まりました。今いる場所からはひな壇の様子は見えませんし、放
     送によるアナウンスもいまひとつよく聞こえません。しかし船台付近では作業員の人達がてきぱきと安全装置を解除
     
していて、どうやら式典もそこそこにまもなく進水が始まる模様です。
      ここで艦首のハルナンバーの上に設置された紅白の鯨幕がばっと取り払われ、『ふゆづき』という艦名が披露され
     ました。満員の見学者で埋まった場内からは、大きなどよめきと拍手が送られます。なるほど、艦名を隠すためにあ
     そこに幕を張っていたんですね。こうして護衛艦の誕生の場に立ち会えた事は、いち自衛隊ファンとしてこの上無く
     光栄な事です。


      続いて設置されたシャンパンが艦首に叩きつけられ、くす玉が割られます。前甲板からも鮮やかな紙テープが大
     量に降り注ぎ、色とりどりの風船が空に舞い上がります。


      そして名前を頂いたばかりの護衛艦ふゆづきは沢山の人達が見守る中、滝の様なテープを引っ張りながらゴガー
     と轟音を立て、あっという間に海へと滑りこんで行きました。


      おおお、これはすごい迫力ですね!上空ではポンポンと花火が上げられ、沢山の国旗と旭日旗がはためく場内は
     お祝い一色。うーん、これが進水式か!


      船台から海に飛び込んだふゆづきは、初めての海水の感触を確かめるようにしばらくその場にとどまった後、タグ
     ボートの支援を受けながらゆっくりと動き始めました。この後はこの造船所内の艤装岸壁に移動して、いよいよ護衛
     艦としての形を整えるべく艤装作業に移る
のでしょう。


      それにしても、大阪からここまで3時間、炎天下の待機に3時間を要したにもかかわらず、肝心の式典は10分ぐら
     いとは(笑)。
折角なんですから、もうちょっともったいぶってくれてもよかった様な気がするなあ。まあこれだけの暑さ
     ですから、早く終わらせてくれた方が有り難い人も多いでしょうね。
      初めての進水式参加でしたが、実に感動的な素晴らしいイベントでありました。この護衛艦ふゆづきに乗れる日が
     今から楽しみですが、はたしていつになる事やら・・・。


      その後は人の波に乗って、玉橋門へ戻ります。通路のあちこちには作業員の人達がいて、
      「お疲れさまでした、暑かったでしょう」
      と、ニコニコ顔で来場者に話しかけていました。普段は厳しい職人の顔で危険な作業をこなしているであろう人達
     ですが、今日は今までの苦労が一気に報われた日です。自然と笑顔になるのは当然なのでしょう。
      最後は玉橋門の前で、進水記念の絵葉書を頂きました。そう言えば、進水式ではこれが来場者に振舞われるん
     でしたね。青い海を力強く進むふゆづきの勇壮な姿が鮮やかに描かれ、今日一日の記念としては最高の一枚とな
     りました。


      この後ふゆづきは艤装作業に移り、選抜された乗組員と共に厳しい習熟訓練装備認定試験を乗り越えて、
     れて平成26年3月より実任務につく事となります。

      ちなみにこのふゆづきという艦名は二代目で、先代は太平洋戦争当時に戦艦大和と共に沖縄特攻に向かい、戦
     後まで生き延びた駆逐艦
であります。『宇宙戦艦ヤマト』でも、ヤマトと共に出撃して生還した艦がふゆづきで、そう
     いう意味ではこれからますます緊張の度合いが増していく東アジアの海域にあって、この日本が生き延びるべく名
     づけられるに相応しい艦名
とも言えます。
      ・・・まあこの辺りはほとんど、当HPでお世話になっているSAA水兵さんからの受け売りなんですが(笑)。私がそ
     んな詳しい事を知ってるわけがありません。

      生まれたばかりの護衛艦ふゆづき、これから幾多の試練を乗り越えつつ、一日も早く護衛艦隊の戦力としてその
     力を発揮できる様、頑張って欲しいですね。
護衛艦ふゆづき、並びに乗組員の皆様の今後の御健康と御安航を祈
     りつつ、三井造船玉野事業所を後にしました。




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