呉地方隊展示訓練

2008.07.20


      広島県能美島沖で行われた、呉地方隊展示訓練に行ってまいりました。前日の阪神基地隊でのてんりゅう一般公開に
     て新しく買ったデジカメのシェイクダウンを済ませ、朝一番の新幹線で勇躍広島県に乗り込みます。途中、呉線の快速待ち
     で停車しましたが、開け放された乗車口からは夏の熱気と蝉の声、むわんとした草いきれが冷房の効いた車内に入り込み、
     何と言うか“夏”でした。天気は昨日に引き続いての快晴。車窓から眺める海には波一つなく、これだけで本日の展示訓練
     は半分以上成功したようなものです。
もう雨男を返上してもいいでしょうか。
      0823、JR呉駅到着。会場行きのシャトルバス乗り場には既に行列が出来ています。すぐに大型バスがやってきましたが、
     乗り込む人達は何だかやけにオジイチャンが多いです。旧海軍経験者の方なのか、年代物の海軍の作業帽を被って高揚
     した面持ちの方もチラホラ。
      まずは同乗している隊員さんの自己紹介が始まると、高齢者の方たちからは拍手が沸き起こります。なんだこのオジイ
     チャン達のハイテンションは(笑)。
私も釣られて、思わず手を叩いてしまいました。
      この隊員さんが相当な話し上手で、桟橋へ向かう道から見えるてつのくじら館大和ミュージアム教育隊総監部、は
     たまたIHIのドックなどの説明を、バスガイドさんさながらに披露してくれました。桟橋までのたった10分間と言えども、一般
     のお客さんに少しでも有意義な時間を過ごして貰おう!という気持ちが伝わってきて、そのプロ意識には実に頭が下がる
     思いです。

      そしてバスが桟橋の駐車場に停車すると同時に、図ったようなタイミングでトークが終了。またしても車内から拍手が沸き
     起こりました。私も素直にパチパチ。何か今日はスタートからいい感じです。
      冷房の効いた車内から外に出ると、夏の日差しと白い雲、頬をなでる潮風。展示訓練はこうでなくっちゃ。


      Eバースの手前には、見慣れない大きな艦が停泊しています。艦首がカゴ状になっていて、巨大なクレーンが取り付けて
     ある所を見ると、機雷敷設かなにかの特殊な艦でしょうか。それにしてもデカイなあ。5000dは優にありそうです。
      舷梯のバナーを見ると、ARC−482敷設艦むろとでした。初めて見る艦なのでじっくり撮影したい気もしましたが、乗艦
     受付終了まで時間はあとわずか。手早く全景を撮影し、テントに向かいました。
      先ずは乗艦券を提示して、続いて手荷物検査。さらに金属探知機のテントに向かいますが、ベルトのバックルに反応して
     しまいました。隊員さんが済まなさそうに、
      「ああ、すみません、このタイプのは反応してしまうんですよ」
      ホームセンターで売っているような激安ベルトだったのでちょっと恥ずかしかったのですが、気にせずEバースへの第一歩。


      大方の乗艦者はすでに手続きを終えて艦内に入っているようで、混雑はさほどでもありません。向かって左に訓練支援
     艦くろべ。
その後方には護衛艦せとゆき。右側には護衛艦ひえい。そしてその後方には、本日乗艦させて頂く、むらさめ
     型護衛艦の5番艦、DD−105いなづまの姿が。おお、さすがにデカイな!いなづまとはこれまた勇ましい艦名です。よく
     考えたらむらさめ型で体験航海に出るのは初めてなので、この4隻の中のいなづまに当選したのはラッキーでした。
      乗組員の方の笑顔の敬礼を受けながら、いなづまの鋼鉄の甲板を踏みしめます。
      先ずは舷門から飛行甲板へ。格納庫は夏の日差しを避けて集まった人たちでごった返し、飲み物の売店も出ています。
     いなづま識別帽が欲しいのですが、ここになければ科員食堂か先任海曹室かな?
      左舷を通って前甲板へ。おお、前部VLS!カクカクの艦橋構造物!あさぎり型やはつゆき型も素敵ですが、新しい艦も
     イイですね。


      出港まではまだ時間があるので、艦橋の方へ行ってみましょう。ラッタルを上がると、士官寝室が公開されていました。中
     はさすがに手狭ですが、ベッドは一人用でテレビまで備え付けてあります。小さなソファもあり、洗面台は家庭にあるような
     タイプです。愛想の無いビジネスホテルみたいな感じですが、司令やゲスト用の部屋なのでしょうか。


      艦橋からウイングに出ると、こんごう型程では無いですがそれなりに高さがあり、隣のせとゆきを見下ろす感じです。
      出港作業は後甲板から眺める事に。一旦前甲板に下りると、76o速射砲のハッチが開放されていました。中を覗くと、
     新品同様にピカピカに磨きこまれていました。
      舫い作業で飛行甲板のクローズが始まります。甲板と桟橋で作業前チェックが始まる中、音楽隊が行進してきて目の前
     で整列。丸顔に丸眼鏡の指揮者がタクトをとり、演奏開始です。


      この指揮者の方が実に堂々としていて、私の素人目にも分かる見事な指揮者っぷり。いつの間にか私の後ろに来ていた
     女子高生達からは「カッコイイ!」との声が。いいなあ、ちくしょう(笑)。しかし何で制服の女子高生の集団がいるの?地本
     のリクル−トか何かでしょうか。
      曲目は定番の宇宙戦艦ヤマト。あああ、あまりにもハマりすぎです。最後は軍艦行進曲に見送られるようにして、いなづ
     まは出港。音楽隊の方たちは笑顔の敬礼。ここでも指揮者の方の笑顔が素晴らしかったので、1枚頂きました(扉画像で
     す)。
      タグボートが艦尾についてくるりと回頭させ、いなづまは訓練海域に向けて力強く前進を始めます。甲板では、隊員さん達
     が舫いの後片付けをキビキビと行っています。
      その後飛行甲板は開放され、甲板は一気にのんびりとした雰囲気に。空は高く晴れ上がり、波も揺れも無い、実に快適
     な航海。いなづまは海面を滑るように進みます。
      さて、艦内巡りと行きますか。ラッタルを降りると、そこは空調の効いた涼しい艦内。ああ、快適快適。ひんやりした空気が、
     陽射しに焙られた首筋に心地いい。
      艦齢が比較的若い上に掃除が行きとどいているので、艦内はどこもかしこもピカピカです。通路も光り輝いていて、やけに
     明るく感じるなあ。よく見ると、曹士の方の皮靴も顔が映りそうな程に磨き上げられています。うーん、さすが。


      士官室と先任海曹室はクローズド。トイレの個室の狭さは相変わらずですが、便器をうまく斜めに配置して、対角線を有
     効に活用しているのはフネならではですね。よく見ると温水便座が後付けされていました。
      機関室兼操縦室は人で溢れかえっています。また後で見に来る事にしましょう。
      定番の神棚がありました。賽銭箱があったので近くにいた隊員さんに中身の行方を尋ねます。
      「やっぱり御賽銭は、神社とかに奉納してるんですか?」
      「あー、どうなんでしょうねー。って言うか、入れてる人を見たこと無いですねー」

      科員食堂は、早くも暑さから逃れてきた人達で一杯です。食堂を出た所には、上陸証が頑丈な鍵付きロッカーに入れられ
     ていました。あれ?上陸証って、木製の御札みたいなのじゃなかったっけ?目の前にあるのは、切手をラミネート加工したみ
     たいなシロモノです。近くにいた隊員さんに尋ねると、今はこんな感じになっているとの事。これじゃ失くしそうですね、と言う
     と、身分証に丁度入る大きさになっているそうです。なるほどなあ。
      「ちなみに、これを失くすとやっぱりエライ事になるんですか?」
      「ええ、はい。そりゃあ、もう」


      艦尾のトイレを覗いてみると、アサガオの前には子供用のステップがありました。なんというホスピタリティ。まあ子供用便
     器は無いですからねえ、護衛艦には。紫外線の殺菌灯があったのは今風です。
      機関室兼操縦室では、若手幹部の方が丁寧に説明してくれました。恐らく幹部候補生学校を出たばかりで、雰囲気の堅
     さが印象的。早く艦と人に慣れて、いらない角が取れるといいですね。
      冷房の効いた艦内から前甲板に上がります。うおお、眩しい!暑い!目が眩みそうです。いなづまはいつの間にか、小島
     が浮かぶ海域を縫うように航行していました。海の藍と空の青、雲の白さに木々の緑が混じって、実に美しい瀬戸内の夏の
     風景。2年前はモヤに悩まされましたが、今年は最高のコンディションです。


      後甲板ではラッパ吹奏展示が行われていました。緊張した面持ちの不器用そうな士長が一人、起床ラッパや君が代、食
     事前のラッパなどを披露しています。司会の一等海尉は弁舌滑らかで、身振り手振りを加えながら分かりやすく、笑顔とユ
     ーモアを交えて説明してくれました。ああ、この人、5分間講話とか上手そうだなあ。
      ラッタルの先には自転車が2台括り付けられていました。いなづま1号・2号と書いてあり、きちんと錨と桜のマークが貼っ
     てあります。
芸が細かいなあ。
      その後は隊員さんを捕まえて、いろいろとお話を伺いました。中には逆にこちらがインタビューされてしまうほど話し好き
     な方もいて、
いろんな人がいろんなところからこの艦に集まってきています。
      この頃には太陽がかなり高いところまで来ていて、炎天下の甲板を避けて日陰で想定戦死している乗艦者達が目立ちま
     す。
      時刻は1100。そろそろウイングに出てみます。さすがに人がいっぱいで、いい場所は殆ど押さえられています。ウロウロと
     歩き回り、左ウイング後方の信号旗の手前あたりに空いたスペースを発見。今日はここで展示訓練を見学する事にします。
      潮風に吹かれながらおにぎりをパクついているうちに、左舷前方から艦影が見えてきました。おおすみ型の、特徴的なシ
     ルエットです。愛媛県は松山港から出港してきた輸送艦しもきたでしょう。その横には、潜水艦が見えます。この後の艦隊
     合流に備えて、この海域で待機していたのでしょう。
      呉を出港した4隻はここで面舵を切り、その後方にしもきたが合流。そしていよいよ展示訓練が始まる時間です。


      先ずは航空機による航過飛行。SH−60J哨戒ヘリに続き、T−5初等練習機、TC−90練習機がそれぞれ編隊を組ん
     で頭上をパスして行きます。そしてUS−1Aがやってきました。お気に入りの航空機なのでちょっと感動です。
      前方からやってきた護衛艦せとゆきとすれ違いざま、新田原基地からのF−4ファントムが後方から低空侵入してくるとの
     艦内放送が。慌てて後を確認すると、ゴマ粒ぐらいのファントムっぽい機影が見えた瞬間、あっという間に轟音を立てて目線
     の高さを通過して行きました。
ち、ちびるかと思った…。
      進入してくる時はシャアアアアアアアアア』、通過した瞬間は『ズドオオオオオオオオオオン』
     と言った感じです。ビルの10階ぐらいから、鉄板の上に自動車をたたき落としたような音。凄まじい衝撃波がつきぬけて行
     ったような感覚でした。
      しかし、本当に目の高さだったなあ。せいぜい頭上を通過するぐらいと思っていましたが、こんなギリギリまで下りてくれる
     とは!うーん、凄い!こんなの航空祭でもお目にかかれないでしょう。
      液晶モニターで確認すると、ケロケロファントムのうしろ半分だけがどうにか写っていました。悲惨な画像ですが、これはこ
     れで悪戦苦闘ぶりが伝わってきて面白いなあ。

   


      海上では、護衛艦せとゆきに続いて護衛艦ひえいが姿を現しました。さらに訓練支援艦くろべが来て、その3隻に続くよ
     うにして我がいなづまも180度回頭、反転入列。後方には、いなづまの航跡をトレースするかのように護衛艦あけぼの
     護衛艦やまぎり
が続きます。展示訓練ならではの、すばらしい大パノラマであります。


      ここで単縦陣が形成され、前方からは展示艦艇部隊がやってきました。まずは輸送艦しもきた潜水艦救難艦ちはや
     続き、さらに後方には多用途支援艦ひうち掃海艇まきしま。さらに潜水艦くろしおがやってきます。


      まだまだ続きます。前方からはP−3C哨戒機がフライパス。続いてSH−60Jが、フレアを放出させながらやってきました。
     長々と延びた艦隊に合わせるかのように4発づつ、たぱたぱたぱたぱ、と真っ赤に燃えるフレアをまき散らします。


      さらにLCACがぶおーんと接近。水煙をあげながら、まるでミズスマシのように軽快に海面を滑る様子は何とも楽しげ。
      そして再び艦隊は先頭から順番に180度回頭。ここも見どころではありますが、次の救難飛行艇の離水を低い所から見
     たいので、思い切ってウイング後方の場所を放棄。涼しい艦内を降りて第1甲板の左舷に向かいます。
      目の前では今まさにUS−1Aが離水する所。プロペラの回転が徐々に早くなり、水煙を巻き上げながらゆっくり動いたと
     思った瞬間、あっというまにふわりと離水。鈍重そうな機体を軽々と翻して、実に優雅なテイクオフです。いいなあ、飛行艇
     って。


      ここで単縦陣から2列縦陣に移行です。ドンピシャのタイミングで、まるで定規で引いた線のように見事な2列縦陣が形成
     されました。こういう基礎的な操艦技術は、本当に世界有数のレベルなんでしょうねえ。余所の海軍を知らないので何とも言
     えませんが、素人目にも見事な艦隊運動です。
      その後はふたたびSH−60JLCACが艦隊中央を通過し、海保の巡視艇とヘリが続いて展示訓練終了です。


      何だかんだで1Lの水分を摂りましたが、喉はカラカラに乾いています。格納庫内のいなづま特設酒保にて三ツ矢サイダ
     ーのレモンを購入。ああ、美味い!夏の太陽に焙られた体には天上の美味です。カロリーを気にせずに甘い物を飲むのは
     本当に久しぶりなのですが(ああ、オッサン臭い…)、やっぱり体に悪いものは美味いですね(笑)。
      ここで艦隊は解かれ、朝それぞれが出港した港に戻って行きます。輸送艦しもきたも、その巨体を松山港に向けて去って
     行きました。うーん、これで呉からは2度出港しているので、次は松山から応募して見ようかなあ。温泉もあるし、酒も魚も
     最高ですし。
      いなづまは徐々に小島の多い海域に差し掛かり、行きかう漁船も増えてきました。艦橋内のレーダー監視員は、ウイング
     とCICの間に入って目の回るような忙しさ。それでもテキパキと情報を整理している姿が実にプロっぽくてカッコイイですね。


      その後はウイングから前甲板の武器操方展示を見学。涼しい艦橋に戻ると、副長席には護衛隊群司令の方がいらっしゃ
     いました。そのそばには幕僚らしき二等海尉さんがかしこまっていますが、艦橋全体の雰囲気は緊張感を漂わせつつもリラ
     ックス
したもので、この辺りはトップの人柄が反映されているのでしょうか。時折群司令と会話をしている艦長さんも、穏やか
     そうな人でしたし。
      幾つもの小島を抜けると、大きなクレーンの目立つ沢山のドックと穏やかな山波に沿った街が見えてきました。いよいよ
     呉に入港です。7時間前に出発したEバースが少しずつ大きくなり、音楽隊の方たちが暑い中演奏で迎えてくれます。曲は
     『踊るポンポコリン』。うーん、どういう選曲なんだ(笑)。
      そして今日1日お世話になった護衛艦いなづまとお別れです。乗員の皆様ならびに呉地方隊の皆様、有難うございました。
     
お陰様で今年も実に楽しい展示訓練でした。
      埠頭では、海将の肩章をつけた人を先頭に、総監部の方々がずらりと整列して
      「本日はありがとうございました!」
      これ、全員が帰るまでやるのでしょうか。お世話になったのはこちらの方なんですが…。いやはや恐縮です。本当に。
      そしてシャトルバス乗り場の長蛇の列に並びますが、ピストン輸送の観光バスが呉市内の渋滞に捕まっているらしく、出発
     したまま戻ってきません。炎天下の疲れもあり、中には電車の時刻が迫っているのかイライラした人も。
      ここで気を利かせたのか、音楽隊が三度登場。長いバス待ち時間の気を紛らわせるために、楽しい演奏を披露してくれま
     した。途端に雰囲気が和むんですから、音楽と言うのは偉大なものです。演奏終了後には、パチパチと拍手が。


      すると、朝出港時に黄色い嬌声をあげていた女子高生たちが音楽隊に駆け寄り、握手をしたり記念撮影を始めました。
     ああ、実にいい光景を見せて貰いました。しかし元気ですね、みんな。私はもうヘロヘロです。

      帰りの新幹線では、缶ビールを飲みつつ液晶モニターで画像を眺めます。ああ、展示訓練の最後はこれですね。キンキン
     に冷えたビールが、熱を持った内臓にじわっと沁みて行きます。
来年もこんな素晴らしい展示訓練が見れたらいいなあ。あ、
     来年は観艦式でした。当選するかなあ…。一通り見終わった所で、コテンと寝てしまいました。

 


      今回の扉画像の使用に当たり、呉音楽隊の指揮者ご本人様からの許可を頂いております。突然の申し出にもかかわら
     ず、快く了承して頂きました事を感謝いたします。また、海上幕僚監部広報室様にも迅速に対応して頂きました。この場に
     て篤く御礼申し上げます。お陰様で、楽しかった夏の日の思い出をとてもいい形で残す事が出来ました。
     




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