呉地方隊展示訓練

2007.08.05



      今回の呉地方隊展示訓練は、兵庫県は淡路島沖にて行われました。関西在住だと大規模なイベントは遠征ばかりにな
     ってしまうので、この滅多にないチャンスで乗艦券を入手できたのは幸運でした。
      乗艦場所である天保山埠頭までは、自宅から地下鉄で一本と言う非常にラクチンな移動です。前日までの台風も何処へ
     やら、むしろ暑さの心配をしないといけない位の好天となりました。
      三月に練習艦隊を見に来て以来の五か月ぶりの天保山埠頭。海遊館天保山ハーバーランドへ遊びに行くと思しき沢
     山の家族連れが、大きくそびえ立つ護衛艦隊を目にして驚いているのが何故か痛快だなあ。


      既に乗艦受付けは始まっています。早朝とは言え8月に入ったばかりの強い日差しに、隊員さんの真っ白な制服が眩しい
     なあ。いやあ、こないだの舞鶴とはえらい違いです。人出が多いのか、警備にあたる警察の方も沢山来ています。
      私もいそいそと乗艦受付けに向かい、定番の手荷物チェックと金属探知機を通過。今回は念入りに、帽子の中まで検査
     されました。
こういうのは厳し過ぎるぐらいがいいですね。最後は艦名と乗艦番号が印刷されたIDカードみたいなのを胸に
     着けて乗艦準備完了。
      時刻は0800。急いで自衛隊旗掲揚の撮影に向かいます。君が代に合わせて、護衛艦の艦尾から自衛隊旗が上がって
     行きます。
埠頭で忙しげに働いている隊員さん達も、一様に敬礼。バックの空は晴れ上がっていて、海風になびく日章旗が
     実にイイ感じ。今日はなんだか幸先がいいような気がしますね。


      埠頭にはDDH−142ひえい、DD−158うみぎり、TV−3515やまぎり、TV−3516あさぎりの4隻が。本日乗艦させて
     頂く護衛艦うみぎりはつい先日の阪神基地隊キッズサマーフェスタで見たのですが、体験航海は初めてです。
      ひえいの後甲板を通ってうみぎりに乗艦。舷門でもらったパンフレットを見ると、艦隊運動の構成が予想以上に複雑でした。
     思わず唸ってしまうと、それを聞いた親切そうな隊員さんが
      「どうかされましたか?」
      「あ、いえ、思ったよりも複雑な艦隊運動なんですねえ」
      「はい、今日は左側にいた方が、いろいろ見れますよ」


      先ずは阪神基地隊で買えなかったうみぎり識別帽を入手せねば。格納庫の売店は飲み物だけだったので、脇にあるラッ
     タルから艦内へ向かいます。そして先任海曹室にてうみぎり識別帽をゲット!この三週間で、さざなみ・みょうこう・うみぎり
     と、立て続けに識別帽コレクションが増えてホクホクです。
      改めて先任海曹室を眺めると、卓上に置かれたポットや飲み物などの日用品が、実に生活感溢れる雰囲気を醸し出して
     います。何か最近、武器やヘリなんかよりも、こういう艦内生活が偲ばれる所に魅力を感じるなあ。
      甲板に出てみると、隣のひえいが5000dのボリュームで圧倒してきます。ひえいの艦橋越しに天保山ハーバーランドの巨
     大観覧車が回っていて、何度見ても変な組み合わせだなあ。護衛艦と観覧車と私です。


      再び艦内へ。狭い通路を歩いて行くと、第一洗身室の扉に『主席幕僚入浴中』とのプラカードが吊るしてありました。幕僚
     が今の時間に風呂に入っているとは思えないので、誰かがイタズラでひっくり返したのでしょうか。
      科員食堂の一角には『自由投稿箱』と書かれた目安箱がありました。ともすれば風通しの悪くなりがちな狭い組織ですか
     ら、こういう工夫はあった方がいいのでしょう。
      酒保の前には取扱商品一覧がありましたが、この艦もタバコばかり充実していました。
      ウイングから艦橋へ上がります。うーん、いいなあ、この狭さ。あさぎり型やはつゆき型はこれだから堪りません。最新鋭
     の大きな艦もかっこいいですが、こういう小さな艦(いや、十分デカイんですが)って好きですね。
      そろそろ出港時刻。左ウイング後方のCIWSの脇に空いたスペースがあったので、ここから出港風景を眺めるとしましょう。
     タグボートが忙しそうに動き回る眼下から後方に視線を移すと、はるか彼方ではおおすみ型輸送艦が出港しています。うわ
     あ、乗れた人が羨ましいなあ。パンフレットで確認すると、LST−4002くにさきでした。
      ここで出港を前にした艦内放送が。本日の乗艦者は170名。乗員と合わせると400人程です。10万dクラスのタンカー
     でも15名程で運用されている
らしいので、本日のうみぎりは恐るべき人口密度。
      うみぎりをひえいからあっという間に引っぺがしたタグボートは、その場で「あらよっと」とばかりに180度ターン。やまぎり
     に向かって行きました。うーん、地味ながら仕事人っぽい動きが非常にカッコイイ。


      しかし今日は見事に晴れ上がっています。前日土曜日の展示訓練が台風の余波で中止になった事を思えば、正に台風
     一過と言っていい晴天。陽射しはきついですが波も無く、海風がとても心地よい。夏の海自イベントはこうでなくっちゃ。
      ふとマストを見上げると、真っ青な空に海将補旗が翻っています。ああ、何かさっきから艦内に漂う固い空気を感じていま
     したが、原因はこれでしょうか。
うみぎりは天保山埠頭を後にして、一路大阪湾は淡路島沖へ向けて出港です。
      武器操方展示が始まるとの艦内放送が流れます。艦首の76o速射砲とアスロック発射機が動くのでしょうが、何か今は
     こうして海を眺めていたいなあ…と思っていたら、いきなりすぐ横のCIWSがぐいんぐいんと動き出してびっくり。ああ、隣に
     いたデカイのを忘れていました(笑)。
すぐ目の前で動くCIWSはさすがに迫力があり、砲身の回転こそありませんでしたが、
     カクカクきゅんきゅん動く様子は実に軽快。艦隊防空の最後の砦です。その調子で頑張ってもらいたいものですね。


      その後はロープ結索展示を見学し、右舷に出ると先に出港していた輸送艦くにさきが見えました。ここで
      「黒、5」
      の艦内放送が入り、にわかに機関の音が高くなります。同時に取り舵を切ったうみぎりは、輸送艦くにさきの左側を通って
     前に出る模様。しかしデカイなあ、くにさき。真横に並ぶとその巨体がより大きく見えます。くにさきの後方にも艦影が見えま
     すが、水蒸気がきつく霞んでいます。
      艦橋に入ると、開け放した窓から海風が吹き込んでいて実に涼しい。先ほどの停泊中とはえらい違いです。傍にいた隊員
     さんに涼しいですねえ、と言うと、
      「今は風上に向かっていますんで。艦の向きが変わると、これが急に暑くなるんですよね」
     との事でした。


      副長席には黄色いカバーが掛かっていて、そこに座っている方は隊司令の模様です。その隣に控えている一等海尉さん
     は、司令付きの若手幕僚の方でしょうか。
      司令の目の前の窓には、展示訓練での艦隊運動が描かれた透明なフィルムが貼ってあり、まるでHUDみたいです。艦隊
     合流から二列縦陣に移行する際は、どうやらうみぎりは右側に入る模様ですが、LCACやSH−60J、US−1Jなどは左側
     艦隊の外を通過するらしく、これはまともに見えそうにありません。うーん、ついてない。左右の艦隊の真ん中を通過してくれ
     ればいいんですが、これは仕方ありませんね。
      ここで艦橋内がにわかに忙しくなり始め、左舷の航海科員からひっきりなしに数字の報告が入ってきました。どうやら展示
     訓練に関係の無い潜水艦がたまたま近くを通るらしく、しばらくすると左舷前方から潜水艦が見えてきました。舞鶴や呉で
     見たようなしずしずとした航行では無く、派手に水蒸気を噴き上ています。


      おやしお型の特徴的なマストに艦番号600が白くくっきりと描かれている所を見ると、公試運転中の最新鋭艦でしょうか。
     これは嬉しいサプライズです。艦内放送によると、艦名はSS−598もちしおとの事。
      ここで隊司令が艦内に下りて行きました。海士の、
      「司令、降りられます!」
      の一声で、艦橋にいた隊員全員が一斉に敬礼です。
      そうこうしているうちに、時刻は1130。展示訓練開始を前にして、甲板のあちこちでお弁当を広げる家族連れが目立ちま
     す。私も炎天下の上部指揮所で昼食。陽射しはきついですが、見晴らしは最高だし海風が実に快適です。コンビニのおに
     ぎりが五割増しで美味しく感じますね。


      そしていよいよ展示訓練開始。水分塩分ともにしっかり摂ったので、体調集中力ともに万全です。
      まずは単縦陣から左右に分かれての180度回頭。後続のやまぎりも凪いだ海面を切り裂くような面舵一杯を見せ、その
     後からは輸送艦、訓練支援艦、潜水艦、掃海艇、と、実に多種多様な陣容がきっちりかっちりの艦隊運動で続きます。
      続いて自衛艦敬礼が行われ、その後は水平線上の淡路島をバックにして十隻以上の艦からなる複雑な艦隊運動が繰り
     広げられました。LCACが猛スピードで突っ込んできて、お約束のドーナッツターンを披露。あまりに派手すぎて、水煙で隠
     れたLCACが見えません。


      艦隊はさらに一斉に左に回頭したり再び二列縦陣に移行してそこから180度回頭したり、複雑かつ高度な艦隊運動を一
     つのズレもなくカチカチと決めて行きます。これだけの数の、これだけの図体の艦を自由自在に操るとは!素人目にも、練
     度の高さが伺えます。瀬戸内海は航海保安海域なので空包射撃も潜水艦の浮上潜航も出来ませんが、それならそれで凄
     いものを見せてやれ!
という、呉地方隊の心意気を感じます。


      訓練海域を縦横無尽に動き回った後は再び二列縦陣に隊列を組み直し、今度は輸送艦くにさきでの艦載ヘリ発着艦。し
     かしこれも艦隊左列でのオペレーションなので、折角のヘリははるか彼方。さらにLCACの高速航行やヘリの低空侵入も左
     列外側での展示なので、右列のいるうみぎりからはまともに見えず。とほほ。艦隊左列ならバッチリ見えただろうに、ここまで
     来ながらついてない…。


      最後は参加艦艇が横一線に並んでの、堂々たる航行。うーん、実に壮観です。その後隊列は解かれ、それぞれ出港して
     きた港に向かって散って行きます。わがうみぎりも、天保山埠頭を目指します。ホームスピードなのか、うみぎりはやけに速
     度をあげて進んでいます。波一つない凪の海なので殆ど揺れませんが、やっぱり護衛艦はこれ位のスピードを出した方が気
     分いいですね。艦首から広がる白い波が、群青色の海原に広がって行きます。


      水平線の向こうに陸地が見えてくると、行きかう船の数がどんどん増えてきました。艦橋とウイングは凄く忙しそう。レーダ
     ーに張り付いた隊員は、矢継ぎ早にCICと連絡を取っています。ウイングからは、次々と交錯する船の針路、距離が入って
     きます。独特の符牒とイントネーションでの通信のやり取りは実にプロっぽく、艦に張りつめた緊張が伝わってくるよう。
      艦長さんはどっしりとイスに身をまかせて全体を見渡していましたが、入港前になるとやおら立ち上がって操艦の指揮を取
     ります。すかさず当直士官が
      「艦長、操艦されます!」
      舵と速度に細かな修正を繰り返し、うみぎりは無事天保山埠頭に接岸。予定よりも1時間早く、展示訓練は終了しました。
      久しぶりの好天に恵まれ、大いに展示訓練を楽しむ事が出来ました。そしてその後しばらく、日焼けの痛みと痒みに悩ま
     される事となりました。


      ちなみに大阪からの出港場所となった天保山ですが、標高4.5mの日本一小さな山です。頂上にはちゃんと三角点を持
     ち、山岳会まであります。さらに驚くべき事に、天保山山岳会には山岳救助隊があり、遭難者が出た際には迅速な救助活
     動が行われる
との事(笑)。新田次郎氏が聞いたら本気で怒りそうなセンスです。頂上はそれなりに空気が薄いらしいので、
     皆様も大阪にお越しの際は十分な装備を用意した上で登山される事をお勧めします。    




トップページに戻る
イベントレポート目次に戻る