呉・江田島海自見学ツアー

2005.02.20


      今回は、呉・江田島周辺の海上自衛隊施設を中心にうろついてみました。朝一番の新幹線で、早朝の広島駅に到着で
     す。これがもう寒いのなんのって、雪でも降り始めそうな冷え込みです。
      宇品港に移動した頃には気温も少しは上がってきましたが、空気の硬質な冷たさは2月そのもの。とは言え、晴れ上がっ
     て澄んだ高い空、千切れ雲、穏やかに凪いだ瀬戸内海、緑に覆われた小さな島々。実にいい風景です。
      この辺りは、太平洋戦争当時は巨大な軍港だったそうです。今の目の前の風景は間違いなく2005年の風景ですが、60
     年前のこの場所はいったいどんな風景だったのでしょう。
意外と、全然変わって無かったりするかもしれません。ちょうど当
     時『終戦のローレライ』を読んでいた頃だったので、そんな事を何となく考えていました。

      実は江田島には3年ほど前に一度訪れているのですが、その時は呉から能美島まで1時間半かけて車を走らせて来たの
     でした。後になって宇品港から船で江田島に入る方が遥かに早かったと気付いたのですが、今思えばあれはあれで正解
     でした。穏やかな瀬戸内海の風景を眺めながらのドライブは、時間と手間の無駄を無駄と感じていては決して味わえない、
     そんな貴重な思い出であります。


      宇品港からは20分少々で江田島の小用港に到着。そこからタクシーで、江田島海軍兵学校にある海上自衛隊第一術科
     学校に向かいます。時間ぎりぎりに飛び込み、正門の警衛所にいた一等海士さんの案内を受けて、風格のある待合室へ。

      待合室は味わいのある木造隊舎で、年代物の大きな石油ストーブが見事に溶け込んでいます。これが最新式の温風フ
     ァンヒーターだったりすると台無しでしょう。正面には各種制服を着込んだマネキンがずらりと並んでいます。
      待合室隣の小部屋は、案内係の人の控室になっていて、いかにも先任伍長が似合いそうなふてぶてしい面構えのベテ
     ランオヤジたちがたむろしています。

      見学者の一人が戦没者の系累の方だったらしく、案内係の人は記念碑に行けるように取り計らっておられました。

      そして定刻通りに本日の案内役の方が現れました。これまた見るからに先任伍長と言った風貌の、ドスの効いた頑丈そ
     うな方です。名前はEさん。海自を定年退職した後はここを第二の職場にしているそうです。いかつい見た目の割にはなか
     なか話し好きで、揉み手をしながら、
      「本日お集まりいただきました皆さんの中に、○○新聞関係者、○○の先生、○○党の方はいらっしゃいませんか?もし
     いらっしゃったら挙手お願いします!ん?今日はいらっしゃいませんね。ああよかった!私もう定年退職しておりますけど、
     たまーに要らん事をぽろっと言ったりしますんでねー。今日は気楽にやらせてもらえそうですわ、はっはっはっはっは!」

      と、のっけからいきなり強烈なツカミです。うーん、一発でファンになってしまいました。よく見ると識別帽はドルフィンマーク
     です。おお、元潜水艦乗組員の方でした

      いつの間にか見学者は70人近くにまで膨れ上がっていて、その大部分が高齢者の団体客。蛍光イエローのパーカーと
     いう私のいでたちが浮きまくっています。
      その後はEさんの案内で、大講堂、幹部候補生学校、第一術科学校、表桟橋、と見て歩くのですが、Eさんが喋る喋る。
     年配の方が多いのに合わせたのか元からそんなキャラなのか、綾小路きみまろチックなギャグをふんだんに織り交ぜなが
     ら、一時も聞き手を退屈させない見事な話術です。私も撮影の手を止めて何度も聞き入って爆笑してしまいました。
      終始にこやかに、要所要所でエロネタも散りばめつつ見学者のハートを鷲掴みにしているEさんですが、『気をつけぇ!』
     の号令実演の時はいきなり現役時代のド迫力を取り戻した勢いで、訳も無く感動してしまいました。いやー、どうもこの方、
     定年退職してから間が無いようで、潮気が全然抜けてないみたいです。

      しかし見事に晴れ上がった空。この敷地内には電柱と言うものがほとんど見当たらないので、余計に空が広く大きく感じ
     られます。風格ある建物も多く、何だか60年前にタイムスリップしたみたいな気がしますね。
      表桟橋の横には、戦艦陸奥の主砲がそのまんま展示されていました。その巨大さには度肝を抜かれます。砲弾重量は
     何と1トン!ただただ圧倒されますが、それでも冬の穏やかな陽射しを浴びて、何だか主砲がのほほんとしている様に見え
     ました。
そうそう、以前横須賀で見学した戦艦三笠もよく似た佇まいでした。

      最後は教育参考館。なんとも言えない厳粛な雰囲気に、脱帽、礼。
      館内には神風特攻隊で散華された方々の遺書などが展示してあり、あちこちで目頭を押さえる人たちが。
      「われわれは、2度とあの悲惨な戦争を繰り返してはならんのです」
      Eさんの言葉が、重く重く心に響きます。
     
      以上で見学終了。見事な案内ぶりを見せて頂いたEさんに、見学者一同から拍手が沸き起こりました。
      解散後は、レクレーションセンターにてお買い物。日曜日と言う事もあって館内に隊員さんの姿も無く、がらんとした館内
     です。しかし相変わらず品揃えが充実しているなあ、ここの売店。識別帽だけでも何種類あるのでしょう。
      定番の海軍カレー、海軍コーヒー、缶詰パンの他にも、広島県の特産品がずらりと並んでいます。観光ついでの見学者
     にも便利ですが、連休で帰省する隊員さんも買っているのでしょうか。

      少し離れた所にはもう一つ売店がありましたが、こちらは隊員さん向けらしく、日用品が充実した大きめのコンビニ、と言
     った感じです。広島市内のグルメ本なんかが沢山ありました。

      その後は呉へと移動。小用港に戻りますが、日曜日の昼下がりとあってかなかなか賑わっています。よくみると三等海士
     
の姿がちらほら。海上自衛隊生徒隊でしたっけ。詰襟と制帽でビシッとしていますが、流石に顔はまだ子供だなあ。休日の
     外出も制服着用なんですね。
      出港してしばらくすると、海岸沿いにはやたらと造船所やドックが目につき始め、一目でそれと分かる暗灰色の護衛艦が
     何隻も見えてきました。とうとう呉です。

      三等海士達に交じって上陸。すれ違いに今来た船に乗り込む海士と敬礼を交していました。この辺りでは日常的な風景
     なのでしょうが、私には新鮮でした。
      そこからバスで潜水隊前まで向かいます。おお、すぐ目の前のSバースには7〜8隻の潜水艦が停泊しています!流石
     にこれだけの数が揃うと凄い迫力、基排で3000dを切っているとは言え、大した存在感です。

      この後は潜水艦教育訓練隊の敷地内にある資料館の見学です。一か月前からの見学申請が必要、という敷居の高い
     場所ですが、潜水艦好きの私としては一度是非見たかった施設です。予約していた1400まではまだ間があるので先に潜
     水艦を見に行く事にします。
      Sバース前は国道が走っていて、それに沿ったアレイからすこじまという遊歩道からは停泊中の潜水艦達が丸見えです。
     バースには最新のおやしお型はるしお型が並んで目刺しになっており、船体の違いが良く分かります。はるしお型はお
     魚の様でちょっとカワイイ感じがしますが、おやしお型はとてもマッチョで強面です。艦首部分の盛り上がり方が何だか力
     こぶみたい。

      しかしここは海風が直撃です。雲も出てきて気温が急に下がり、中々辛い撮影条件。私はカメラを構えると歯を食いしば
     ってぐわっと口をあける癖があり、むき出しの歯がキンキンに冷えて痛いぐらいです。
      ふと振り向くと、道路を挟んで背後には『SUBMARIN』という名のレストランがありました。一階が駐車場で客席は二階。
     朝夕の時間帯には潜水艦の出入港が見えるのでしょうか。すごく入ってみたかったのですが、夜は広島市内でお好み焼
     きを食べる予定なので泣く泣くパスします。

      1400になったので潜水艦教育訓練隊の正門に向かいます。ここからは案内役の一等海曹さんに先導されて敷地内へ。
      隊舎の裏手には小高い裏山が迫っていて、鬱蒼とした雰囲気です。その山肌はコンクリで固められていて、そこに作られ
     た得体の知れない小さな扉がまるで焼場の罐の様でちょっと不気味。
      山の斜面に沿った急勾配の階段を一曹さんの後について上って行くと、四階建ての真っ白い建物に行きあたりました。こ
     こも背後の山の影に隠れるようになっていて、何とも陰気臭い感じです。うーん、秘密の匂いがプンプンだなあ。
      建物の向かいには模擬潜航訓練施設が。いわゆるダイトレというやつでしょうか、ちゃんとおやしお型とふゆしお型に分
     かれているんですねえ。入ってみたいなあ。
      白い建物は普段は人の出入りが無いみたいで、中は真っ暗。階段の上の方から窓の明かりが差していますが、人の気配
     と言うものが全くありません。何年も閉鎖されたままの病院に忍び込んでいるような、何とも尻の座りの悪い感覚です。
      薄暗い通路を進んでいくと、奥の方に潜水艦資料室の表示が出ています。これもまた、何年も使われていない手術室
     前、といった感じです。一曹さんがカギをあけた後に続いて入室。明かりをつけると、思ったよりも明るく広い室内でした。
     外見の強烈な怪しさとは裏腹に、実にきちんとした資料展示室。
      潜水艦の構造や成り立ち、歴史などから始まって、太平洋戦争当時の資料や初期の潜水艦、潜水服や制服を着せたマ
     ネキン、諸外国の現代の潜水艦の資料などなど。
      他にも気蓄機のレバーや潜望鏡、ソナーの部品等、とにかく潜水艦のあらゆる資料や物品が大量に保存されていて、想
     像以上に見ごたえのある内容です。
案内の一曹さんは、一つ一つ丁寧に説明してくれました。
      出来れば半日ぐらいかけてじっくり見て回りたかったのですが、1500からはFバースでの艦艇一般開放があります。一通
     り見学させて頂いたので資料室を後にします。
      一階入り口の脇に、小さなショーケースがありました。室内が薄暗くて良く見えませんが、どうやら潜訓グッズの模様です。
      「すみません、これ潜訓のグッズですよね!売って頂けませんか?」
      「あー、すみません、今日は担当者がいないんですよー」

      その時の私が余程がっくりしていたのか、一曹さんはちょっと待ってて下さい、と言って奥の部屋に入って行き、まるでサ
     ンタさんのように大きなズタ袋を抱えて戻って来られました。え?まさかその中に?と思いつつ覗きこむと、中からは識別帽
     やタイピン、手ぬぐい、携帯ストラップ、タオルなど潜訓グッズが大量に出て来ました。うーん、凄い商品管理もあったもの
     ですが、その時の私の気分はまさにサンタさんにプレゼントを貰う子供のようでした。もっとも、作業服姿のサンタさんでは
     ありましたが(笑)。

      時刻は1455、おお、Fバースでの艦艇一般開放まであと5分です。一曹さんにお礼を言って、さあ急げ!正門では当直の
     警衛の人が笑顔の敬礼で見送ってくれました。

      Fバースまで走る走る。途中米軍弾薬庫の前を通り過ぎます。へー、こんな所にあったのか。
      Fバース到着です。おお、何かでかい艦があります。初めて見る輸送艦おおすみでした。うーん、さすがに8900dは大迫
     力です。そのおおすみの艦尾近くに一般公開の受け付けがありました。見学者は30人ほどで、三班に分かれて本日一般
     公開の練習艦かしまを見学です。
      しかし呉って、停泊している艦のバラエティが豊かで面白いですね。ざっと見ただけでも護衛艦の他に、輸送艦、補給艦、
     訓練支援艦、掃海艇、音響測定艦
と何でもあります。おまけに隣のドックでは、年次修理なのか新造艦なのか、たかなみ
     型護衛艦の姿が見えます。

      そして士長さんの案内で練習艦かしまの艦内へ。かしまは最初から練習艦として作られただけあって、あちこちのスペー
     スがゆったりと取ってあり、護衛艦とはまたちょっと違う雰囲気です。
      飛行甲板には引きこみ式の巨大な天幕まであり、洋上でのセレモニーやパーティーなどで使うそうです。そこから一段高
     くなった左右舷側には、緩やかなスロープが。いわゆる“オランダ坂”ですね。
      かしまの左ウイングからは、前方に停泊しているおおすみが丸見えです。甲板、後部ランプ、15dクレーン、SHIBATA君、
     全てがとにかく巨大です。

      やはり練習艦だけあってか、艦橋内は実に広々とした印象です。窓際のラックには港則法、国際信号書、海上交通安全
     法などの難しそうな教本に混じって、『コミック海上衝突予防法』というのがありました。しかし何でもまんがになっているんで
     すねえ。
      艦内は普通の護衛艦と変わりませんが、一部の通路がまるでホテルみたいな赤絨毯のお洒落空間になっていてびっくり。
     
やはりこのあたりは、海外でVIPを招いたりする艦ならではですね。
      科員食堂の前には、金曜日の昼食メニューが貼ってありました、当然金曜カレーです。ニンジン・ジャガイモ・タマネギ・
     牛肉のオーソドックスなカレーに、レタス・ゆで卵・鰯チーズ焼き・コーンサラダ・牛乳・ネーブルと、ボリュームも栄養のバラ
     ンスも文句なし。いやー、食べてみたいなあ。

      最後は広島市内に戻ってお好み焼き&ビールです。繁華街の一角にあるお好み共和国という、お好み焼き屋が沢山入
     ったビルの中の店で肉そば玉を頂きましたが、めちゃくちゃ美味しかったなあ。
      朝から掛け足気味の見学ツアーでしたが、大いに満足して帰りの新幹線に乗り込みました。



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