護衛艦ゆうぎり体験航海      in和歌山県新宮港

2004.06.06

扉画像は何故かしまかぜ(笑)。ゆうぎりは後ろに隠れています。


      さて、今回が私にとっての初めての体験航海です。前夜から降り続く雨の中、0400に出発。紀伊半島を縦断して、一路
     和歌山県新宮港を目指します。早朝とあって対向車こそ少ないものの、途中の山岳コースでは濃霧に悩まされ、ツール・
     ド・コルスとRACを足して2で割ったようなコンディションの中、約3時間で新宮市内に到着しました。
      本日体験航海が行われる第四埠頭を目指してしばらく進むと、遥か左手に護衛艦らしき暗灰色の艦橋構造物が見えて
     来ました。おおお、来た来た!
      埠頭の入口には『護衛艦』と書かれたカラフルな立て看板が。まるで地方の特産農作物を露地売りしているかのような
     佇まいに激しい脱力感を覚えつつ、
車を埠頭の中に乗り入れます。
      ゲート前はまだ閉鎖されていたので車を降りて、解放された隣の通用門から埠頭の中へ入ってみると、おお!艦首のタ
     ーターランチャー!ブルワーク!艦はDDG-172しまかぜでした。その向こうには、本日乗艦させてもらうDD-157ゆうぎり
     停泊しています。飛行甲板にはSH-60J哨戒ヘリの姿も見え、わくわく感は最高潮であります。

      小雨がパラつく中、さっそく撮影開始。天気が悪いのが残念ですが、鉛色の空の下の護衛艦というのも中々凄味があり、
     これはこれで実にカッコイイ。
      フガフガと鼻息荒く歩き回っていると、しまかぜ艦首の5インチ砲が動き出したのでびっくり。まんが等にありがちな機械
     的な作動音も無く、砲の動きは実にスムーズ。まるで巨人が朝一番のストレッチを始めたようです。

      甲板上では、真っ白な制服に身を包んだ隊員さん達が甲板掃除の真っ最中。その後ゲートが開き、地連の方の誘導に
     従って車を駐車場に移動し、テントにて乗艦手続きに入ります。うーん、ペラペラのピンク色の乗艦券がとてもチープだな
     あ(笑)。


      隣のテントでは、今も世界各地で人道的支援活動に汗を流す隊員さん達の姿がモニターで流れていて、その横にはグッ
     ズ売り場のブースが。記念に潜水艦乗組徽章水上艦乗組徽章のレプリカを購入しました。
      しかし、意外にお年寄りの姿が目立ちます。てっきり2〜40代のマニアや地連の勧誘で来た高校生とかが多いのかと思
     っていましたが、実際には埠頭のあちこちでオジイチャン達がブイブイ言わせています。どうやら旧海軍OBや海自創設期
     の方々の様で、『新宮防衛会』と大書きされたテントがありました。
      先ほどから、ゆうぎりマストのアンテナがくるくると回転しています。時折サイドパイプとともに聞こえてくる「〜用具収め」
     「〜五分前」という艦内放送も聞こえてきて、まさに艦が生きています。やっぱり一般公開とかで停泊しているだけの艦とは
     違うなあ。

      その後は車に戻って朝食を摂っているうちに、不覚にも0800からの自衛隊旗掲揚を見逃したりしながら、0845いよいよ
     乗艦開始です。待ってましたと言わんばかりに受付にワラワラと人が集まり始め、チケットと引き換えにパンフレットを貰っ
     て乗艦です!
      まずはしまかぜの飛行甲板に上がり、そこから隣のゆうぎり右舷に乗り移ります。ゆうぎり乗組員の方々が、舷門で敬礼
     で迎えてくれました。

      そこから後甲板に回り小さく急勾配のラッタルを上がると、目の前にはSH-60Jがデン、と鎮座していました。うーん、こん
     なに近くで見たのは初めてですが、かなりデカイなあ。機体のそばには飛行服姿の隊員さんが背筋をビシッと伸ばして立っ
     ています。傍らには笑顔の三等海佐の方がいて、興味深そうに機体を覗きこむ乗艦者に気さくに話しかけています。
      どうやら機内に乗り込んでもいいらしく、わくわくしながらカーゴドアから中に入ってみました。後部キャビンは色んな機材
     がすし詰めで、とにかく狭い!
一方操縦席は広々として見晴らしも良く、かなり快適。第一印象としてはまったくそのまんま
     ですが、うーん、コックピットだなあ…。
      無数にあるスイッチやヒューズ類の一つ一つがかなり小さいのに比べ、フットペダルはかなりいかつい造りです。シート
     のカバーが擦り切れている所なんか、いかにも乗り回している感じが出ていてカッコイイ。

      そろそろ出港時刻なので、艦橋横の左ウイング後方に陣取ります。艦首と艦尾についたタグボートが、巧みな連携で艦
     をしまかぜから引き離し、その場でゆうぎりをくるりと180度回頭させていました。
      うーん、鮮やかなもんだなあ…と感心していると、いつの間にか隣に来ていた年かさの幹部の方が話しかけて来ました。
      「あのタグボートを借りるのに、幾らかかると思いますか?」
      何でも一日当たりウン百万円という単位らしく、周囲に居た人たちからどよめきが。
      「今日は日曜日ですから、さらに幾らか上乗せしなきゃなりません」
      それじゃあやっぱり夜間割増とかもあるんですかと尋ねると、笑って頷いておられました。
      しかしこの幹部の人、乗組員がキビキビと動き回る中で何の配置についているようにも見えないけど…と思ったら、肩の
     階級章には金筋が四本。と言う事は一等海佐!何と隊司令でした。御見それしました。


      港内に浮かんでいるヨットをやり過ごすためにしばしその場にとどまった後、ゆっくりと速度をあげてゆうぎり出港です。
      艦橋からは測距儀を持った乗組員が出てきて、逐一報告しています。上部指揮所では西郷輝彦をグッと若くしたような、
     いかにもオバサマにモテそうな航海科の海曹がキビキビと手旗信号を送信。うーん、あれで会話が出来るのだから凄い。
      すぐにしまかぜから返信があり、今度はいかにも海に揉まれて生きていると言った風貌の幹部が、双眼鏡を片手にメモ
     を取っています。
      さらに探照灯によるモールス信号。若い士長が操作しますが、何故か点灯せず。スイッチやコンセントをいじっても反応
     は無く、焦った幹部や海曹の方々が何だかんだしているうちにどうにか探照灯は復活し、改めて無電池通信機で何事かを
     通信しながらカシャカシャと操作しています。

      有る程度沖に出た所で艦橋が解放されました。いやあ、今こうして波を蹴立てて航行している護衛艦の中に自分が居る、
     というのが感動的であります。
先ほど声をかけて頂いた司令の方は左側の副長席にいました。しまかぜからの信号を解読
     していたのは当直士官の方らしく、ドスと睨みを効かせながらキビキビと指示を飛ばしています。
      艦橋内での会話で「さげん」という単語があり、傍にいた隊員さんに「ひだりげん」とは言わないのですかと尋ねると、
      「あー、普段は『さげん』ですね。でも。今日みたいに一般の方が乗り込まれている時は、分かりやすく『ひだりげん』って
     言う時もありますよ」

      との事。以前からどちらが正しいのか疑問に思っていたので、お陰でスッキリしました。
      その後はゆうぎり賞授賞式。艦番号にちなみ、本日153番目に乗艦した男の子が艦橋一同の拍手の中、艦長からゆうぎ
     り識別帽を記念品として授与されていました。その後は隊司令の計らいもあり、男の子は艦長席に収まってちょっと緊張し
     た面持ちで記念撮影。いやあ、いい思い出になっただろうなあ。

      その後は艦内に下りていろいろ見て回ります。お、授乳室。言うまでも無くこの体験航海の為だけに作られたのでしょうが、 
     普段は何に使う部屋なんだろう。
      士官寝室の前を通りかかった時にたまたま中から幹部の方が出てきて、室内をちらりと見ることができました。パンツや
     靴下が吊るされていて生活感丸出し。
三段ベッドの科員居住区もそうなんだろうなあ。
      通路の一角には神棚があり、ちゃんと御神酒と賽銭箱がありました。
      あ、トイレだ。幸い誰も入って居なかったので撮影しようと思いましたが、あまりの狭さにフレームに収まりません。まあ、
     撮影した所でただの便器なんですが(笑)
      初めて見た護衛艦のトイレは、普通なら2人分のスペースに強引に便器を三つねじ込んだ感じでした。使用後はバルブ
     を捻って海水で流す、という単純な仕組み。そして個室スペースに至っては本当にミニマム。手書きのコーションが脱力感
     満点
で、思わず笑ってしまいました。

      艦首に近い所には洗面コーナーがあり、形は古いながらもピカピカに磨き上げられています。その先は閉鎖されていまし
     たが、位置的には錨鎖庫かな?
      次は科員食堂です。入り口には各種訓練の表彰や各国海軍艦艇との交換プレートが、艦齢の高いフネらしく溢れんばか
     りに並べられています。その横には曹士一人一人の名札が引っかけてあり、『食事後は黒』とありました。何の事だろう…
     後で誰かに尋ねてみましょう。
      食堂に入ると、いきなりでかいアイスクリームストッカーがありました。艦内のあちこちに貼ってあった『ゆうぎりアイス発売
     中』
とはこの事だったようです。食堂内は結構広いとは言え、6人テーブルが8つあるのみで、食事時は3回転はさせないと
     いけないみたいです。なるほど、一人5分という早飯も頷けるなあ。
      傍にいた先任海曹の方に先程の『食事後は黒』について質問すると、
      「あー、あれは名札の表裏が赤と黒になっていまして、食べ終えた隊員は赤字の名札を裏返して黒字にするんですよ。そ
     うするとあとどれ位おかずが必要か、誰が食べてないか(体調不良)が一目で分かるんです」

      との事。なるほど合理的なシステムです。
      この先任海曹さんは給養員の責任者らしく、しきりに「厨房内も見て頂きたいんですけどねぇ」と残念がっていました。話
     好きでサービス精神も旺盛な方で、裏話なんかも色々と聞かせて頂きました。
      食堂の一角ではゆうぎりグッズの販売が行われていて、ゆうぎり識別帽がかっこよかったので一つ購入。パンフレットに
     は記念スタンプも押しました。
      医務室発見。室内に居た隊員さんにお話を伺うと、普段は看護士が、長期航海になると医師が乗艦するそうです。大き
     な怪我や病気の場合はヘリで陸上移送しますが、虫垂炎程度なら艦内で手術して切除してしまうとの事。結構広いんです
     ね、と言うと、
      「はい、艦長室と同じ位のスペースを使わせてもらってます」
     だそうです。ちなみに室内の雰囲気は、医務室というよりも以前飼い猫を連れて行った動物病院に近いものがありました。
      再び飛行甲板へ。LSOを覗くと、ホームセンターで380円位で売っているような非常に安物のイスがあって涙を誘います。
     ヘリの発着艦をコントロールする責任重大な部署なんですから、もうちょっと上等なイスに座って貰いたいですね。

      艦橋に戻ると、何やら聞き覚えのある音楽が流れているなあ…と思ったら、ウルトラマンのBGMでした。最初はなんじゃ
     こりゃと思いましたが、航行中の護衛艦の艦橋で聴く『ワンダバ(正しくは何て言う曲なんでしょう?)』には正直シビレました。
     この場面でこれ以上の曲は思いつきません(笑)。しかし誰の選曲なんでしょうか。艦長さんだとしたら、士気の上げ方を熟
     知していらっしゃる、としか言いようがありませんね。
      次の曲になると隣にいた男の子が嬉しそうに「あ、ティガの曲!」と言っていたので、どうやらベスト盤のようでした。

      その後ウイングに出て海を眺めていると、突然背後で怒鳴り声が。びっくりして振り返ると、先ほどのいかつい当直士官
     さんが若い海士を一喝していました。見ているこちらまで思わず『気をつけ!』してしまいそうな凄い迫力です。
      その後すっかりしょげて凹んでしまった海士を、海曹達が代わる代わるフォローしていたのが印象的でした。
      「今日はお客さんもいるし司令も乗り込んでるし、間の悪い時にヘマこいたなあ(笑)。まあ、次から気をつけろよ」
      とでも言っていたのでしょうか。

      ウロウロ歩き回って、初めての体験航海を満喫しているうちに時間は過ぎたようで、あっという間に新宮港が近づいてき
     ました。いやあ、面白かったなあ。その後は右ウイングから前甲板の舫い作業を見学。キビキビと統制のとれた動きが、
     実に『海の男!』です。

      そしてスムーズにしまかぜに接舷終了。わずか1時間程度ながら、実に興味深い体験航海でした。どうやら相当な数の
     一般客が乗艦していたらしく、舷門付近には長蛇の列が出来ています。この後は再び甲板掃除を行い、午後の体験航海
     に備えるのでしょうか。ご苦労様です。

      舷門の脇では、同年代と思われる若手の三等海尉と士長が楽しげに会話していました。幹部候補生学校を出たばかり
     らしき三尉さんはまだ線が細く頼りなさげでしたが、士長は既に堂々たる先任海曹体型(笑)。どちらもこれから、長い時間
     をかけて『海の男』としてのキャリアを積んでいくのでしょう。今回お世話になった護衛艦ゆうぎりと乗組員の皆さんの今後
     の健康とご安航を願いつつ、新宮港を後にしました。

 


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